第29話 計画

「杉山さん、末永くよろしくお願いします」

 やっぱり、言うべきよね。

「ああ、こちらもよろしくお願いします」

 私はそう言った後、杉山さんの腕に自分の腕を絡めた。

「まあ、あなたたち、母親の前で…」

「もう婚約者だからいいの」

「まだです。だから杉山さん、彩の事は大事にして下さい」

「分かりました。大人の男なので、そのあたりは分別をつけます。そうなると私の両親へも報告しないと」

「そうですね、彩も一緒に、ご挨拶に行きなさい」

「はい、名古屋に行かなきゃ」

「あら、杉山さんって名古屋の方?

 そういえば、会社の近くに名古屋飯の『ミラカン』が食べれるお店があったわ。今でもあるのかしら」

 あのお店って、母が勤めている時からあったんだ。

「ええ、今でもあります。昔と変わらない味ですよ」

「そう、また行ってみたいわ。今度二人のデートの時に、私も連れて行って下さいな」

「ええっー、お母さんも来るの?」

「いいじゃない、一人より二人、二人より三人よ」

 そんな理屈ってあるのかしら?


 母が、杉山さんが折角来たのだから、近所でも案内してあげなさいと言うので、私の運転で出かけた。

 ほとんどペーパードライバーなので、運転するのが怖い。

 杉山さんに運転して貰った方が良かったかも。

 杉山さん。顔が強張っているけど、大丈夫かな。

 そのまま、杉山さんを駅まで送ると、杉山さんは電車で帰って行った。


 今度の週末は勝負下着で行こう。

 もしかしたら、杉山さんといい感じになるかもしれない。

 でも、杉山さんは真面目だから、そんな事はしないかもしれない。

 ねぇ、どっちなの。

 私の中にも期待と不安がある。

 私も杉山さんと一緒になりたいけど、なった後に杉山さんが私の身体で満足してくれないんじゃないだろうか。

 いろいろな事が頭を過ぎる。


 土曜日、不安を持って、杉山さんのマンションに向かう。

「朝食が済んだら、私の家に来て貰っていいですか?結納や式の事で母が話しをしたいそうです」

 母が、早くからやっておいた方が良いと言うので、杉山さんにも決めて貰わなければならない事が多い。

 朝食を食べたら二人して駅へ向かうけど、「もう私はこの人の婚約者」だと思うと顔が赤くなって来る。

 電車の中に座ると私は、隣に座った杉山さんの手をそっと握った。

 最寄り駅の豊田駅には、母が車で迎えに来ていた


「すいません、さっさと決めるところは、決めないといけないと思って」

「いえ、男はなかなか気が回りませんから、こういうところはやはり女性でないと」

 式は関係者だけですることにして、媒酌人は本当のお父さんである「加藤会長」が努めるらしい。

 本当のお父さんも、こんな時どんな顔をして引き受けるのだろう。

 キッチンのテーブルの上には、式場のパンフレットが並べられる。

 三人でパンフレットを見るけど、杉山さんはこういうのにあまり興味がないのかな。

 ここでは、式は神前で行い、その後に披露宴でウェディングドレスということにした。

 やっぱり、女子としては、ウェディングドレスは外せない。


「新婚旅行と卒業旅行、一緒でいいわね」

「私、近くでいいわ。台湾とか親日だと言うし、いいかも」

「でも、彩、オーストラリアにも友だちも居るでしょう。そっちの方は?」

「友だちって言っても、小学校の時の友だちだもん。ほとんど連絡もないし、向こうだって、来られたら迷惑かも」

「そうかぁ、それもそうね」

「杉山さん、台湾でどうですか?」

「あ、ああ、いいね」


 南のリゾートで杉山さんにビキニを披露してもいいけど、ちょっと恥ずかしいな。

 それに、もしかしたら、3人になるかもしれないし。

「旦那さんに杉山さんはないわ。あなたも杉山さんになるんでしょう」

「そっかぁ、何と呼べばいいですか?」

「いや、今までのとおり『杉山』でもかまわないが……」

「やっぱり、『あなた』じゃないの」

「嫌だー、お母さん。まだ早いって」


 杉山さんは、夕食まで一緒に居て、母と私の手料理を食べてくれた。

 母も、ここぞどばかりに気合が入っている。

 それが良かったのか、杉山さんは「美味しい」を連発していて、母も喜んでいた。

「それでは、これで帰ります。今日はありがとうごさざいました」

「いえいえ、またいらして下さいね。彩、あなたは今日も泊って来るんでしょう」

「えっ、いいの、お母さん」

「杉山さんを信用してるから」

「うん、じゃ、泊って来る」

 やっぱり、勝負下着よね。だけど、可愛さもないとだめね。

「杉山さん、娘をどうかよろしくお願いします」

「いえ、それはこっちのセリフです。こちらこそよろしくお願いします」

「えへ、お待たせ」

「では、車で駅まで送ります」

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