第17話 下着売り場
杉山さんは、ついて来てくれる事になった。
でも、色っぽい下着が飾ってあるところを歩くのは、男性にとって抵抗があるだろうな。
私は、ストッキングのレジを済ませると、洗面所で着替える事にする。
「すいません、着替えてきますので、待っていて下さい」
早く着替えないと、杉山さんが一人で下着売り場に居るのは、いたたまれないだろうな。
「お待たせしました」
ちょっと大人に見てほしいので、黒系のストッキングにしてみた。
こっちの方が、脚が細く見えるというし。
杉山さんは、どう思ってくれているのだろう。
「ストッキングの色を変えてみましたが、どうですか?」
褒めて貰えるといいな。
「あ、ああ、いいと思うよ」
うーん、なんだかリアクション薄い。
「脚が細く見えるらしいんです。見えますか?」
綺麗と言って貰えるかな。
「もともと、美脚だから、問題ないじゃないか」
やったー。
「またまた~、杉山さんって、女心を掴むのが、ほんとに上手ですね」
「これ位で掴めるなら、とっくの昔に結婚しているよ」
「杉山さんって自虐志向ですよね。もう少し、前向きになった方がいいと思います」
人間、前向きに生きましょうよ。
「そうかな、自分ではそう思っていないが…」
「でも、鼻の下を伸ばしていないのは、好感が持てます」
「いや、鼻の下は伸ばしていると思うぞ」
「ええっ、そうですか?そうは見えませんけど」
「オヤジの時点で十分そうだよ」
「また自虐志向になりましたね」
「そうだな。ははは」
「うふふ」
「えっと、どうしようかな」
「ここからだと池袋に行ってみませんか」
「池袋?」
「ええ、水族館があるんです」
ビルの中にある水族館が、リニューアルオープンしたと早紀ちゃんが言っていた。今はデートスポットの定番なんだそうだ。
「そうだな、行ってみようか」
JRで池袋に移動して、水族館のある高いビルを目指す。
「あっ、ここです」
案内板を確認すると水族館はメインの高いビルではなく、その横のビルみたい。
また、入館料は杉山さんが支払ってくれる。
入館すると、いろんな水生生物のパフォーマンスをやっている。
「彩ちゃんは、来た事があるのかい?」
「いえ、初めてです。リニューアルしたと聞いた時から来てみたかったんです」
いろんな生物のパフォーマンスは見ていて面白い。
見ると杉山さんも笑っている。ここに来て良かった。
水族館で楽しんだ私たちは、池袋駅から新宿駅に向かう。
「夕食はどうしようか?」
杉山さんが聞いてきた。
どこかで食べて行こうと言うのだろうが、それだと、彼にまた散財させるようで悪い。
「私が作ります」
「いや、昨日も作って貰ったし、今朝も作って貰ったし、あまり彩ちゃんに負担をかけるのも申し訳ない」
「でも、水族館のお金や昼食の代金を出して貰ったので、それぐらいしないとバチが当たります」
「うーん、どうしようか」
「それに杉山さんは私の料理を美味しいって言ってくれるので、がぜんやる気が出るんです」
「じゃ、お言葉に甘えようかな」
「何か、食べたい物はありますか?」
「彩ちゃんの得意な物でいいよ」
「ちらし寿司が得意なんですけど、時間がかかるので、オムライスにしようかな」
「おっ、いいねぇ。オムライスも久しぶりだな」
「食材もありましたから、特に買って帰るものもないですし」
家に帰ると早速、調理に取り掛かる。
「何か手伝う事はあるかい?」
「いえ、特にないので、座っていて下さい」
そう言ったけど、杉山さんは、私の後ろの方から料理をする様子を伺っている。
「へー、上手いもんだな」
「えへへ、そうですか。また褒められちゃった」
チキンライスを作ろうと思ったけど、鶏肉がなかったので、冷蔵庫の中にあったベーコンで代用する。
ライスの方が出来たら、卵の方に取り掛かる。卵は柔らかいのもあるけど、私は固い方が好きなので、焼いた卵に作ったライスを乗せていく。
こういう時に、ちゃんとお母さんから教わってきて良かったとつくづく思う。
「高橋も彩ちゃんの料理を食べた事があるのかい?」
「父はないです。それとお願いですが、父の事はあまり聞かないで下さい」
父は家に帰って来ないから、私の料理を食べた事はない。
「そうか、悪かった」
「いえ、いいんです」
お父さんとは何かあると思われたのかもしれない。
出来たオムライスをテーブルに並べる。
オムライスだけでなく、味噌汁もちゃんと作った。
「やっぱり、味噌汁があるんだ」
「味噌汁は好きじゃないですか?」
「逆だよ。味噌汁は大好きさ。特に彩ちゃんの作る味噌汁は、本当に美味しいからね」
「えへへ、ありがとうございます」
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