第11話 朝食を

 シャワーを浴びながら、いろいろな事が頭の中を通り過ぎる。

 これはアクシデント、それともワザと?

 私の身体、大丈夫よね。お母さんには何と言おう。

 彼はどんな気持ちなのだろう。彼も私の事を愛してくれたらいいな。

 私の事を大事に扱ってくれるかな。

 最初は口付けからなんだろうか?そういえば、私たちまだ口付けもしてなかったっけ。


 鎮まれ、私の心臓。いつかは抱かれるのなら、今、彼に抱かれたい。

 私の傷になったとしても、彼だったら、後悔はしない。

 お願い、だから、私を愛して。


「すいません、お先に頂きました」

 杉山さんに声をかけてみる。

「ドライヤーが洗面所にあるから使ってくれ」

 私は心を落ち着けるように、時間をかけて髪を乾かした。


 髪が乾いた私はリビングに行く。

「今夜は寝室のベッドを使ってくれ。ちょっとオヤジ臭いかもしれないが、シーツとかは予備がクローゼットに入っているから、使って貰ってかまわない」

「分かりました」

 きっと、シャワーを浴びたら、後からベッドに来るのかもしれない。


 翌朝、目が覚めても彼は横にいなかった。

 私はあのまま、眠ってしまったようだ。

 彼は、リビングのカウチにでも眠ったのかもしれない。

 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。昨日干した服はまだ完全に乾いた訳ではないけど、今の状態でも着れない事はないみたい。

 あと、2~3時間もすれば、完全に乾くだろうが、どうしようか。


 リビングからTVの音がする。どうやら、杉山さんも起きたみたい。

 それに続いて、洗面所から水を使う音がする。

 私も起きて、向こうに行こう。

 杉山さんはまだ、怒っているだろうか?


「おはようございます」

 洗面所で、顔を拭いている杉山さんに声をかけた。なるべく、笑顔で接しよう。

「おはよう。眠れたかい?」

「少しだけ」

 まさか、昨日の夜「期待していました」なんて、言える訳がない。


「ちょっと、待ってくれ、直ぐに朝食にするから」

「いえ、私に作らせて下さい。昨日から散々お世話になっているのに、何もしていないなんて、悪いです」

 ほんとにそうだ。全部彼にやって貰う訳にはいかない。

 ここは、私が作ろう。

 私は、手と顔を洗ってキッチンの方に行く。


 食器や食材のある場所は彼が教えてくれた。

 私が食器を並べて、調理をしている姿を杉山さんは見て、びっくりしている。


「ほう、うまいなぁ」

「母にいつお嫁に行っても言い様にって、小さい頃からやらされていたので」


 冷蔵庫にあった食材を使って、ハムエッグ、パン、サラダと味噌汁を作った。

「えっと、パンに味噌汁?」

「ええ、うちでは普通ですけど。何か可笑しいですか?」

 なんか、おかしいかな?


 彼が、味噌汁を啜る。

「美味い!」

「えっ、本当ですか」

「うん、こんな美味い味噌汁初めてだ」

「杉山さんは、お上手です」

 いくら何でも褒め過ぎだわ。

 私も褒められて悪い気はしないけど、そんなにわざとらしく褒めなくてもいいのに。


 杉山さんは、味噌汁に続いて、パンとハムエッグに箸を付けたけど、急に無口になって、食事をし始めた。

 ねえ、私の料理ってどう?聞きたいけど、聞けない。


 朝食が済んだら、また二人で向かい合って座った。

「それで、服が乾いたら、帰って貰いたい」

「もちろんです。私もここに居座る事は、家族が許すとは思いません」

「それで服は乾いただろうか?」

「さっき、確認しましたが、まだでした」

「では外に干してくれ。幸い、今日は天気が良いみたいだから」


 私がベランダを確認すると、服が干せるようになっている。

 私は寝室に干してあった服を持って来て、ベランダのステンレス竿にハンガーごと掛けた。

 さすがに下着までは干せないので、下着は寝室にそのまま干してある。

 私は乾くまで、バスローブで過ごすしかない。

 こんな姿を杉山さんは、どんな気持ちで見ているのだろう。

 もしかしたら、荒々しく、バスローブを剥ぎ取られるのだろうか。

 ううん、それなら夕べ襲われているはずだわ。

 そんなことから、彼は紳士に違いない。

 でも私は、彼に興味を持って貰うようにアピールする。

 彼の顔がちょっと、赤くなった気がする。

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