第38話 作者の事情


「作者の事情1」


 コンテストの結果が発表されてからそろそろ3ヶ月が経つのよね。早いものだわ、歳をとるわけね。


 あれから和泉ちゃんと雫は、コンテストの小説を無事完結させて、次回作に取り組んでいるわ。編集さんは「今、掲載しているものを書籍化に」と言ってたそうだけど、ふたりとも私たちに手伝ってもらってたことを素直に言って「今度は自分だけの手で」とお願いしたそうなの。


 そんなに馬鹿正直に言わなくても、と思ったんだけど、ふたりともそう言って聞かないらしいのよね。田中さんの耳にも入ったらしく「何とかして下さいよ」って頼まれちゃったけど、駄目よ、もう貸し借りはなしだからね。


 そうそう、和泉ちゃんもどうやら、お父さんと和解したらしいのよね。コンテストの結果をお父さんに報告して、それに驚いたお父さんが認めてくれたらしいの。


 お父さんがわざわざ家にいらっしゃって「これまで和泉がお世話になったそうで、ありがとうございます。娘がそんなに悩んでいたことを気がついてやれなかったことは、親として恥ずかしい限りです。どうぞ、これからも娘をよろしくお願いします」って丁寧に挨拶されていたわ。


 和泉ちゃんは「娘をよろしく」の辺りでちょっと照れてた。


 和泉ちゃんと言えば、それから毎日のように家に来るようになったのよね。名目上は「雫と小説の打ち合わせがしたいので」って言ってるけど、どうなんだろうね?


 特別賞の受賞を祝って家でパーティをした時に、啓太が「俺も新しい作品を書くことにしたんだ。これからはお前たちのライバルだぞ」って言ってて、私と雫はおかしくて笑ってたんだけど、和泉ちゃんだけは「カッコイイ……」って頬を真っ赤にしてたのよ。


 雫が慌てて「ちょっと止めといた方がいいよ。あれ、ただのフリーターだから」って言ってたのが面白かったかな。


 啓太は宣言通り実際にヨメカケに投稿を再開したんだけど、まぁ……前よりはちょっとだけ面白くなったかな? 雫と和泉ちゃんの小説を読みすぎて、目が肥えてきたのかもしれないけどね。


 私? 私も実は啓太のことを言えないのよ。最近、小説を初めて投稿したの。ツブヤイッターも相変わらず頑張っているから、あんまりたくさんは書けないんだけど、コツコツやっているわ。


 でも、ちょっとだけ自慢すると、もう啓太の小説よりもレビューもハートマークもたくさんもらってるからね。うふふ、これ内緒ね。啓太、傷つくから。


 あぁ、そうだ。ヨメカケと言えば、義弘さん。少し前から公式連載って言うので、ヨメカケに載るようになったのよ。凄いわよね。でも、人気が出なかったら打ち切りなんだって。義弘さんは、最初「どうでもいい」って言ってたけど、やっぱり連載され出したら気になるみたいで、毎日部屋に篭って朝から晩まで小説を書いているわ。


「今はラノベだが、そのうち自分の書きたいものを書く」って言ってたけど、私は義弘さんの書くものだったら、ラノベでも何でも良いと思うんだけどな。それに前の「真夏のなんとか」よりも、ずっと読みやすいし分かりやすいじゃない? 


 こんな感じで、毎日頑張っているのよ。まだまだ大変なことも、苦労することもあるけどね。



 ヨメカケには感謝しているわ。なんとなくだけど、この数ヶ月でうちの家族も、和泉ちゃんもみんなすごく成長できたと思うの。もちろん、今までだって毎日幸せだったわよ。でも、小説も人生も、山あり谷あり、色々なことがあってこそだものね。


 少し長い話になっちゃったけど、ここまで読んでもらってありがとうね。次回作は……うーん、まだ考えてないんだけど、どんなのが良いのかな? ねぇ、読んでみたい話ってある?

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