第10話 家族の事情10
「息子の事情 10」
母さんの小説……みたいなのを読んでから、俺はもう一度、自分の小説を読み返してみた。
やっぱり俺の小説には「俺」がいなかった。俺の書きたい話は、本当にこんな話だったんだろうか?
カッコイイだけの台詞。個性的であるだけのキャラクター。テンプレそのままのストーリー。
……中身がないじゃないか。
俺は一瞬「もう続きを書くのは止めよう」と思った。「こんな作品はダメだ」と。
それでもまだ少数ながら読んでくれている人のことを思うと、それはできないとも思った。そもそも、今の状態で終わらせて、新しい作品に手を付けても何も変わりはしない。
まずは今の作品の中から変えていけばいいんだ。ちょっとずつでもいい。俺の、俺だけの話にしていけばいい。
そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされて、すぐにドアが開いて母さんが入ってきた。「ノックして」と言ったのは、そういうんじゃないんだけどな。
母さんは例のチラシを、また持っていた。そして「PCの使いかたを教えて」と俺に頼んできたんだ。
「父の事情 10」
そう言えば、現役時代、私が所属していたのは文藝を主とする編集部だったが、確かライトノベルとかというのを扱っている編集部は、世間の「出版不況」などどこ吹く風、というくらい忙しそうだったな。
今にして思えば、あれが「異世界」なるものを扱っていたのだろう。
私は文藝の末席を預かっていた身として、恥ずかしさを覚えている。いや「異世界」を馬鹿にしているんじゃない。小説にしろ、雑誌にしろ、結局は売れるものが正義なのだ。大衆におもねる必要はないが、それでも経済活動としての商業出版は、売れなければ何にもならない。
無論、書く人の中にはそうじゃない人だっているだろう。出版化など望んでおらず、ただ自分の作品を書きたいだけという人もいる。しかし、それでもやはり、作品は誰かに見てもらわないとダメなのだ。
沢山の人に読んでもらって、その結果として報酬が入れば最高だ。しかしもし、そうならないとしても、読んでもらってこそ、作品は完成するのだ。
そう考えて、改めて自分の作品を見直して見ると、これは一体誰に向けて書いたものだったのか分からなくなった。どんな人に読んでもらいたかったんだろう。私は何を伝えたかったんだろう。
今から思い返してみれば、現役時代に担当していた先生方は、いつもと変わらない自分の作風を守りつつ「どうしたら読者に受けるか」というのを懸命に考えていたように思える。
私はそれをやってきたのだろうか?
「娘の事情 10」
朝起きて、洗面所の鏡で顔を見てみたら、すごい酷い顔だった。そりゃそうかもしれない。昨日はあまり寝られなかったからね。
昨日よりはマシになってきたけど、それでもまだ自分の小説を投稿するのが怖くなっているのは変わらない。何度もプロットを読み返してみたけど、やっぱり自分ではあれでいいのだと思う。
でも、読むのは読者さんだ。今ままでのように受け取ってくれるだろうか? まだ読んでいない人にも評価される作品だろうか?
こんなこと考えていてもしょうがないと思いつつも、頭から離れない。今日は日曜日なので、前ならば「よし、一日小説に没頭できる」と気合が入っていたが、今では逆に何かしている方が気が紛れる感じがする。
それでも自分でやると決めたからには、この問題もなんとかしないといけない。
朝ごはんを食べて、もう一度自分の小説を読み返してみる。たくさんのレビューが目に入ってきた。みんな「面白かったです!」とか「続きが気になります」とか好意的なことを書いてくれている。批判的なものは、ほとんどないと言ってもいい。
でもレビューを読んでて気がついた。批判的だったり、内容を指摘するものがないということが、逆に「本当にそうなのだろうか?」という疑心暗鬼になっているのではないだろうか。
人は褒められれば嬉しくなる。でも褒められ続ければ「本当にそうなのか?」と疑ってしまうこともある。今の私がそうだ。
ならばやれることは二つだ。辛辣な意見を言ってくれる人に見てもらうか、それとも一切気にしないか、だ。
「母の事情 10」
家族崩壊の危機。
私はどうしたら、家族みんなが昔みたいに戻れるのか一生懸命考えたのよね。でも一生懸命考えても答えは見つからなかったの。困ったわ。
お友達に相談してみたら「ドラマなら、何か困難な出来事が起こって、それで家族が一致団結していったりするだけどなぁ」と言ってた。
それだ!
そう言えば昔見たテレビドラマにもそういうのあったよね。家族がそれぞれ悩みや問題を抱えてて、それをみんなで解決していくことで、家族の絆が深まっていくのよ。
私はこれしかないと思ったわ。そこで家族が団結できるような問題って、どんなのがあるんだろうか考えてみたのよ。
啓太がバイトすら辞めて本当に引き篭もってしまう……。でも、それ啓太次第だしなぁ。
雫がグレてしまい不良になってしまう。ダメだわ、あの子そんな子じゃないし。
義弘さんが……うーん、義弘さんの問題って言えば、去年会社を辞めちゃったことくらいだけど、それの解決って難しいわよね。再就職?
私はすっかり困ってしまったの。折角解決策が見つかったのに、それを上手く活用する手段が見つからないんだもの。
あ、そうだわ! 私が問題になればいいんじゃない! と言っても、家事を放棄したり、投資にお金をこっそりつぎ込んだり、ご近所とトラブルになってりとか、そういうのは出来ないわ。
私ができると言えば、この今書いている小説。これをヨメカケのコンテストに出すとみんなに言えばいいのよ。家族はみんな反対するわ。そんなの無謀だって。できるわけがないって。
でも、誰かが……そうね啓太辺りが「しょうがないな」と言いながらも手伝ってくれるの。それを見た義弘さんも「それじゃ、俺も」と言って参加してくれるのね。最後は雫。あの子も「お母さんが頑張るんなら、私も手伝うよ」ってちょっと照れながらも言ってくれるの。
ううん、コンテストの結果はどうでもいいの。それよりも過程よ。コンテストに応募する小説をみんなで協力して書いていく過程で、家族みんながひとつにまとまっていくの。
これしかないわ!
早速啓太にパソコンを教えてもらわなきゃ。
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