第8話 家族の事情8


「息子の事情 8」


 ヨメカケのコンテストに参加するのは実に簡単だ。投稿画面から「コンテストに参加する」にチェックを入れるだけ。作業的に言えばたったそれだけ。とても簡単だ。


 ただ、そのチェックを入れるというのは、心の負担の方が大きかった。昨晩、俺はPC画面の前でうーんと唸っていた。チェックを入れればコンテストに参加となる。そうすると、コンテスト参加作品一覧に俺の作品が並ぶことになる。


 コンテスト参加作品は、当然注目を集めることになる。通常の投稿に比べると、読まれる可能性はグッと高くなるはずだ。俺は念のため、今エントリーしている作品を見てみた。


 うっ……なんだ、これはっ! 序盤からグイグイ引き込まれる展開。目の前に浮かんでくるかのような描写。思わず惚れてしまいそうになるほどカッコイイ台詞。


 レベル高っ!!


 最近ちょっとPVが増えたり「ハートマーク」が付いたからと言って、ちょっと調子に乗っていたのかもしれない。こんなところに、俺が参加して良いのだろうか……。


 何度も投稿画面のチェックボックスと、ブラウザの戻るボタンの間をカーソルが行き来した後、俺は一旦間合いを取ることにした。ちょっと冷静になろう。というか、もう夜中の2時かよ。


 あまりの緊張感からか猛烈に喉が渇いて、リビングに行く。何故か明かりが点いていて、テーブルに母さんがうつ伏せになって寝ていた。


「母さん、こんな所で寝てたら風邪引くぞ」


 そう言って起こそうとしたんだけど、全然起きない。しょうがないので、自分の部屋に戻って毛布を持ってくると、背中から掛けてグルグル巻にしておいた。


 ふと、母さんの手元にあるチラシに目が行ったんだ。何か文字が書いてある。買い物メモだろうかと思って読んでみて、俺は驚いた。


 こ、これは小説!? 




「父の事情 8」


 ヨメカケのコンテストに参加するには、投稿画面でチェックを入れるだけで良いと、応募要項には書いてあった。しかし、そんな簡単に参加できるのだろうか? 私は何度も要項を読み返して確認した。


 「慎重すぎ」と言われるかもしれないが、万が一にも間違いがあってはならない。


 コンテストはジャンル毎に別れて行われるとのことだ。そう言えば私の「真夏の残照」は「現代ドラマ」というジャンルにしていた。しかし、私は納得がいっていない。


 「真夏の残照」は現代ドラマなどではないのだ。これは「純文学」と言われるジャンルにこそカテゴリーされるべき作品だ。一体編集部はなぜ「純文学」というジャンルを作ってないのだ? まさか忘れてたというわけでもあるまい。


 それに一体この「異世界」とか言うのは何なのだ? 妙に盛り上がっているようだが、私が現役バリバリでやっていた時に、こんなジャンルがあっただろうか……?


 あぁ、そう言えば若い編集者が、漫画のような表紙を見ながら、絵師がどうのとか言っていたな。「表紙よりも中身が大切だぞ」とアドバイスしてやったら、なんだか可哀想なものを見るような目で見られた……。


 あの時、そう言えば「異世界なんとか」という言葉を聞いたような気がする。


 一体どんな作品なんだと思って、ジャンル一覧を覗いてみた。




「娘の事情 8」


 ヨメカケのコンテストに参加するのは、とても簡単だった。投稿画面でチェックを入れるだけ。というか、もうさっき参加にしてきたんだ。


 私の小説のジャンル「異世界」は、当然競合作品が一番多い。可能性としては、別のジャンルを選んだ方が良かった気がするけど、規定の文字数なんかもあったりして、今から新しい作品を書くのは無理そうだ。


 でも、最近本当に「ハートマーク」やレビューが増えてきた。昨日やっと「週間ランキング」にも載るようになったんだ。まだ1位じゃないけどね。


 コンテストの賞金はあくまでも2次的なもの。目標はあくまでも「書籍化」だ。書籍になるには「大賞」を受賞するか、ジャンル毎に設定されている「編集部による選考」を獲得するしかない。


 もちろん書籍化されたからと言って安泰、というわけじゃない。売れなければすぐに打ち切りされて、大したお金にはならない。でもまぁ、これは今心配してもしょうがない話だね。


 それでもそこは気になる所なので、もちろん事前に調べてある。ラノベとして書籍化されると、印税が大体10%くらい。初版発行部数は出版社やレーベルによって違うらしいけど、1万部くらいが相場だとか。


 ラノベ1冊が600円とすると、おおよそ60万円くらい。初めて計算した時は「あれ? そんなものなの?」と思っちゃったけど、どうやら重版が掛かったり、続編が出ないとなかなか難しいようだ。


 そうならないように、そこまで見据えて今から頑張っていかないと。まずは、もっともっと面白くするために、プロットを練り直していこう。





「母の事情 8」


 昨日はうっかりダイニングで小説を書きながら寝ちゃった。朝、起きてみたら体に毛布が掛かっていたの。あら、誰かが気を利かせてくれたのかしら?


 「もしかしたら、書きかけの小説を見られちゃったかも!?」と思って慌てちゃったけど、チラシの上に覆いかぶさるように寝ていたので、きっと大丈夫よね。セーフセーフ。


 みんなを送り出した後で、改めてチラシを見てみたのね。初めて書いたのよりは良く出来たと思うのよ。「小説は『きゃっかんてき』に見なきゃダメよ」とお友達は言ってたっけ。


 「きゃっかんてき」ってなんだろう……? 義弘さんに聞いてみたら「第三者の目で見ることだ」と言ってたわ。なるほどね。読者目線ってやつね。


 なるべく読者の気持ちになって読もうと思ったけど、これ、なかなか難しいのよね。自分が書いたものだから、どうしても贔屓目に見ちゃう。しょうがないじゃない?


 そうだ! 誰かに見てもらえばいいんじゃない!! 


 お友達に見てもらおうかと思ったけど、でも、ちょっと恥ずかしいなぁ。やっぱり家族の誰かにしよう。義弘さんは最近一日中パソコンとにらめっこで忙しそうだし、うーん、ここはやっぱり一番暇そうな啓太にしよう。


 今日はバイトもないと言っていたから、多分部屋にいるはずよね。



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