第7話 家族の事情7


「息子の事情 7」


 いつも通りPCの前でキーボードを叩く。今日はなんだか調子が良いようで、文章がドンドン湧き出てくる感じだ。よし、この調子ならいよいよ俺が「底辺作家」を脱するのも、そう遠くないことかもしれない。


 ちょっと息抜き、ということでヨメカケを開いてみた。


 ハートマークは相変わらず「まーちゃん」さんしか付けてくれてな……いや、ちょっと待て待て! 最新話のハートマークが2つになっているじゃないか!


 一体誰が!?


 慌ててハートマークをクリックしてみる。そして目が点になった。


 今をときめく「ぴょこたん」先生だった。しかもコメントまで付けてくれている! 読んでみると「面白いです。続きが気になります」とだけ書かれていて、普通だったら「もうちょっと、どこが面白いとか書いてよ」と思ってしまうところだが、なにせ相手は「ぴょこたん」先生だ。


 驚くのはそれだけじゃない。なんと、小説をブックマークまでしてくれていたのだ!


 PVを確認してみたら、びっくりするくらい増えていた。昨日までコツコツと積み上げてきたPVが、今日になっていきなり倍になっている。


 ヨメカケでは小説をブックマークすると、それが著者のプロフィールの欄に載ることになっている。今まで誰の小説もブックマークしていなかった「ぴょこたん」先生が初めてブックマークした作品。


 それが俺の「鮮血の魔道士〜A ring of fate」なのだ!


 俺は思わずノートPCを掲げて「うおおおお!」と叫んでしまった。これは、もしかしたら遂に俺の時代が来たのではないか? 「ぴょこたん」先生のお陰とは言え、ようやく俺の作品が日の目を見る時が来たのだろうか!?


 俺はノートPCを机の上に置くと、もう一度ヨメカケを見た。「どうせ駄目だろう」と思って諦めていたことがある。トップページを開いてバナーをクリックする。


「ヨメカケ1周年! 記念コンテスト」だ。




「父の事情 7」


 ペンネームを「へっぽこ侍」から「京極院雅也」へと改めた。今のところ深い意味はなく、ただ「カッコイイな」と思っただけなのだが、将来のことを考えると、そうはいかないだろう。後づけでもいいので、また考えておこう。


 ペンネームを変えてから3日。PVは「5」。自分で見た分もカウントされると解説サイトには書いてあったが、もしそれが本当なら、私以外に4人しか見ていないということになる。


 ありえないことだ。


 しかし、その解説サイトにも書いてあったのだが、私のような才能溢れる小説を綴っても、タイミングによっては読まれないこともあるらしい。ヨメカケのようなネットでは、町の本屋とは違い、作品が目に止まらないと決して読まれることがないからだ。


 なるほど、それで全てが説明がつく。確かに私が投稿した時間は、他の小説が盛んに投稿されていた時間帯であり「新着一覧」から私の小説はあっという間に消えてしまった。


 本来なら「連載」という形式を取って、作品を一話ごと上げることにより、新着に載る回数を増やすことで読者を獲得していくようだが、私の「真夏の残照」をそんな細切れ肉のようにすることはできない。


 そこで前から考えていたことを実行することにした。「ヨメカケ1周年! 記念コンテスト」に参加するのだ。




「娘の事情 7」


 「引き篭もり黒魔道士」さんがレビューを書いてくれて以来、私の「ニートの俺が異世界に転生したら、速攻で返品された件」は、驚くほど読まれるようになった。


 日に日に「ハートマーク」は増えていくし、それに伴ってレビューやブックマークの数も増えていった。週間ランキングにも表示されるようになってくると、そのペースが上がって応援のメッセージも毎日のように届くようになってきたのね。


 正直、嬉しさ反面、そんな暇があるなら小説書きたい反面って感じだったけど、それでも読者さんは大切にしないと、という思いでひとつひとつ丁寧に返事を書いた。でも、結構大変なんだよね。


 あれ? なんか隣の部屋でお兄ちゃんが吠えてる。なんか良いことあったのかな? でも少しうるさいよ。


 ちょっと疲れたのでお茶でも飲もうとキッチンに向かうと、ダイニングでお母さんがチラシを広げて、何かを書いてた。「何しているの?」と何の気なしに訊くと、慌てて「なんでもないのよぉ」とチラシを隠していたけど、あれは何だったんだろう?


 部屋に戻って続きを書こうかと思ったけど、なんだか今日は疲れてしまったので、気になっていることだけをチェック。「引き篭もり黒魔道士」さんのページを開くと、PVがなんか凄い増えてる! 一体何があったんだろう? でも「ハートマーク」は相変わらず、私と「まーちゃん」さんだけ。


 ほら、やっぱりあんまり面白くないんだよ。主人公が強すぎて、何かあるとすぐに「邪眼が」っていう展開はもう止めた方が良いと思うんだけどなぁ。でも「引き篭もり黒魔道士」さんは恩人なので、それとこれとは別。


 最新話を一通り目を通してから「ハートマーク」をもう一個だけ付けておいた。ヨメカケのトップページに戻って、デカデカと表示されているバナーをクリックする。


「ヨメカケ1周年! 記念イベント」


 大賞賞金100万円。そして書籍化。こんなチャンスは逃せない。





「母の事情 7」


 ダイニングのテーブルにチラシの裏を広げて、必死で思いついた小説を書いていると、後ろから「何してるの?」と雫がいきなり声を掛けてきて焦ったわ。


 慌てて「なんでもないのよ」と必死でチラシを隠してしまった。別に悪いことをしているわけじゃないんだけど、いきなりだったので、慌てちゃったのよね。


 人の小説を読んでいる時は分からなかったけど、実際に書いてみると小説を書くのって難しいのね。まずは練習、ということで、一話書いてみたんだけど、しばらく置いて読み返してみたら、全然面白くないのよ。


 ごめんね「引き篭もり黒魔道士」さん。あなたの気持ち、今ならよく分かるわ。面白い小説を書くのって簡単じゃないのよね。でも、だからと言って諦めるわけにはいかないの。


 私は結構いい加減だけど、一度やろうと思ったことは絶対に諦めたくないのよね。だから、どんなに大変でも、どんなに時間が掛かっても、やろうと思ったことは絶対にやり遂げたいよの。


 家族のみんなに言ったら笑われちゃうかな……? でも、一生懸命やっている姿を見れば、みんな応援してくれるよね。もうちょっと頑張って書いて、満足のいく小説が書けたら、みんなにも読んでもらおう。


 できれば「引き篭もり黒魔道士」さんや「ぴょこたん」さんにも読んでもらいたいなぁ……Zzzz。

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