第4話 家族の事情4

「息子の事情 4」


 今日はバイトも休み。朝から晩まで小説執筆に捧げるぜ!


 と昨日の晩には心に決めて眠りについたのだが、今朝、というか目が覚めたら、もうお昼すぎだった。最近バイトで疲れ果てていたので、これはしょうがない。


 とりあえず腹が減ってはなんとやら、なので、母さんに頼んでお昼ごはんを食べさせてもらう。「簡単なので良いよ」と言うと焼きそばとおにぎりと昨日の余りもののおかずが出てきた。


 こんなに食べれられないと思いながらも完食。そう言えば、最近母さんは良くスマホを弄っている。俺がお昼ご飯をかき込んでいる間も、ずっと正面の椅子に座って何かを見ているようだった。


 最近じゃ料理のレシピサイトなんかもあったりするので、きっとそういうのじゃないかな? でも、なんだか時々笑ったり、ちょっと涙ぐんだりしている。食後のお茶を飲んでいる今も「可哀想……」と呟いていた。一体、何の料理を見ているんだろう……?


 部屋に戻ってヨメカケをチェックする。


 うお! 「ぴょこたん」先生、またPV増えてるじゃないか。しかも凄い数のレビューが付いていて、俺のレビューなど既に埋もれてしまっている。


 少し複雑な感情になりつつも、実際に読んでみると、確かに面白い。というかドンドン面白くなってきている。人気も出てくるわけだ。


 気を取り直して、自分の小説を見てみる。今回の作品「鮮血の魔道士〜A ring of fate」は結構自信作だったんだ。何度も何度も推敲を重ねて、自分なりには練り上げたつもり……だったんだけど、掲載以来、全然応援の「ハートマーク」が付かない。


 新着に載る時間帯が悪いのかと思って、色々な時間に変えてみたりしたけれど、それでも「ハートマーク」はもらえない。全然読まれていないわけでもないので、余計に辛い。


 なんとなく重い気分で、PCの画面を見る。おおおおおお! 一個「ハートマーク」が付いているぅ!! それも今まであげた話数全部に一個ずつ付いてるじゃないか!


 誰が付けてくれたのかと確認してみると「まーちゃん」さんという人らしい。全部の「ハートマーク」は「まーちゃん」さんが付けてくれたみたいだ。たくさんの人に付けてほしいけど、まずは一人読者をゲットできたわけで、俺は思わずPCの前でガッツポーツをした。


 待ってて「まーちゃん」さん。次も面白い話書くからな!




「父の事情 4」


 苦節1年。やっと小説が完成した。運命に翻弄された少年と少女の淡い一夏を描いた感動ストーリーだ。タイトルは「真夏の残照」。我ながら良いタイトルを思いついたものだ。


 これはきっと業界に革命をもたらすに違いない。


 そう強く確信し、まずはどこに持ち込むべきかという所で考え込んでしまった。編集業界と言うのは、広いようで狭い。どこの編集部に持ち込んでも、恐らく知った顔の一人や二人と出くわす可能性がある。


 万が一、私の才能に嫉妬した輩に、この大作を潰されるようなことがあってはならない。私はパソコンを使って、なんとか匿名で投稿できないものかと調べてみた。


 だがしかし、やはり持ち込むとなると例え郵送したとしても、どこかで編集者と顔を合わせないといけない。その段階で出版が決まっていれば良いのだが、なかなかそうはいかないだろう。


 公募に出すという手もあったが、生憎今すぐ締切があるものがなかった。気長に待っても良かったのだが、小説を書き終えて私のテンションは上がっていた。今すぐにでも、この作品を誰かに読んでもらいたい!


 そんな時だ。ヨメカケという投稿サイトがあることを知った。ネット上で誰でも投稿でき、誰でもそれを読むことができるらしい。


 素晴らしいじゃないか。


 よく見てみたら、ヨメカケは私のいた会社が運営していた。私のいた頃、こんな話は聞いてなかった。しかしヨメカケのトップページには「祝1周年! 記念コンテスト開催中!!」との記載がある。はて?


 まぁいい。この際それはどうでもいいじゃないか。このコンテストやらに投稿するのだ。大賞は書籍化されるとも書いてある。締切はちょうど2ヶ月後。


 念のため、もう一度推敲をしてからでも十分間に合う。大賞を取ってしまえば、もうこちらのものだ。だれも私の作品の書籍化を止めることなどできやしない。




「娘の事情 4」


 小説にはプロットというものを作ったほうが良いと、ネットの解説サイトに書いてあったのを見て、私はプロット作りに取り掛かった。プロットとは小説の設計図のようなものらしい。


 主人公、登場人物などの設定。その人達の得意なことや、悩み、葛藤なども決めておかなくちゃならない。ストーリーも大切だ。トントン拍子に進んでいくストーリーなど面白くもなんともない。山があって谷があって、起承転結、序破急。問題が起こって、それを主人公たちが創意工夫で乗り越えていかなくてはならない。


 これは結構難しかったな。小説など書いたことがないから、さっぱり分からない。まずは既存の作品を見て研究しようと、なけなしのお小遣いでラノベを何冊か買ってみた。そしてヨメカケに投稿されている小説も読んでみた。


 なるほど。小説の文法っていうのは大切だけれど、ラノベってそれ以上にキャラクターやストーリーが大切なのね、ということが分かった。


 なんとなくコツを掴んだ気がして、プロットを練り直した。2週間ほど掛かったけど、なんとか納得のいくものができあがったので、それを元にして小説を書いてみた。


 1話、2話、3話と書いていって、ある程度貯まったら、また始めから読み返して、修正していく。10話くらいまで書けた辺りで「試してみよう」とヨメカケに投稿してみた。それがちょうど1ヶ月ほど前の話かな。


 自分でヨメカケを読んでいて「初めての作品だから、たくさんは読まれないかな?」という思いはあった。でも同時に「あれだけ研究して作った作品なんだから、もしかしたら結構人気になるかも」という欲も出ていた。


 でも結果は予想外のものだった。ほとんど読んでもらえなかったのだ。




「母の事情 4」


 啓太がお昼ごろに起きてきて「お腹が空いた」っていうので、手っ取り早く焼きそばとおにぎりを作ってあげた。これじゃ足りないかな? と思って、昨日の残り物で悪いけど、野菜の煮物も付けてあげたの。バランスは大切よね。


 啓太がご飯を食べている間に、またヨメカケをこっそり覗いてみたんだけど、やっぱり「鮮血のなんとか」と言う小説には、相変わらず「私のハートマーク」しか付いていないの。


 一生懸命毎日投稿しているのに……‥。思わず「可哀想」と口に出しちゃって、ちょっと慌てちゃった。ま、啓太は気にした様子もなく、のんびりお茶を飲んでいるし、大丈夫だよね。


 頑張って「引き篭もり黒魔道士」さん。私が付いているからね!


 そういう思いをなんとか伝えられないのかと、お友達に相談してみたら「レビュー」っていうのを書けばいいと教えてもらった。既にお友達に……あ……アカント? アカウントだっけ? そういうのを作ってもらっていたので、書き込めば良いだけらしい。


 スマホで文字を打つのは苦手なんだけど「引き篭もり黒魔道士」さんも頑張っているんだから、私も頑張る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る