第3話 家族の事情3

「息子の事情 3」


 やっとバイトが終わった。今日は普通の水曜日なのに、なんか凄く忙しかったなぁ。それもこれも、今日は店長が休みだったせいだ。店長がいないと、他のバイトは本当に働かない。


 高校生のバイトなんて、レジ打ちくらいしかしないから、品出しも発注も、全部俺一人でやらなくちゃいけない。本当は人生の先輩として、ガツーンと言わないと駄目なんだろうけど、まぁあれだ。俺にそこまで責任ないし。


 と言うか、言えない自分が情けない。


 ちょっと湿っぽい話になってしまった。ごめん。そう言えば、最近気を付けていることがある。バイトのお金でちょくちょく本を買って研究しているんだけど、その一部には家族に秘密にしておきたい本もあるんだ。


 いや、エッチなやつじゃないぞ。


 ラノベな。別にラノベくらい良いじゃないかと思うかもしれないけど、ほらやっぱ、恥ずかしいから。ウチの家族は、平気で人の部屋に入ってきたりするもんだら、その辺にポンポン置いておくわけにはいかない。


 数ヶ月前に、うっかり机の上にラノベを置きっぱなしでバイトに出かけたら、帰って来た時、キチンと本棚にしまわれていたことがあった。


 恐らく母さん辺りが、部屋の掃除をしようとして、片付けてくれたんだと思うけど、その後何気なく聞いてみたら「んー、今日は部屋入ってないよー」とか言っていた。誤魔化しているのか、本当に知らないのかは分からないけど、これからは気を付けないと。


 今日こそは小説の続きを書きたいけど、あんまりにも疲れているので、ストックを投稿するだけにしておく。明日から本気出す。




「父の事情 3」


 最近、お母さんの様子が変だ。先日も夕食の味噌汁が舌が麻痺するくらい辛かったし、かと思えば、今日の味噌汁は「お湯か?」というくらい薄い。それに変なのは料理だけではない。


 昔っから、まさ……お母さんは特に趣味らしい趣味などもなく、家事に精を出して一家を支えてくれた。金銭的には支えていたのは私だが、実務的にはお母さんが大黒柱なのだ。


 そのお母さんが、最近スマホに夢中になっている。


 1年ほど前にずっと愛用していた携帯電話が故障して、新しくするために一緒に携帯ショップへと行った。買い換える際に、店員がスマホが良いと提案してきて、お母さんは「えー、なんか難しそう」と言っていたが、私も今時ガラケー(と言うと雫が教えてくれた)はないだろうと、言って、渋々ながらスマホを選んだ。


 しかしやっぱり使いこなすことはできないらしく、電話をかけたり受けたりする以外は、ほとんど触っていなかった。そのお母さんが、今は暇さえあれば、スマホをいじっているのだ。


「一体何をやっているんだ……?」


 流石にちょっと心配になってきたが、怖くて聞くことができない。一瞬「浮気じゃないのか?」と脳裏をかすめてしまったからだ。お母さんも、もういい歳だしそんなことはないとは思うが、聞くところによると最近は『熟年離婚』なんてのも流行っているらしい。


 そんなことを考えると、心配になって小説を書くのも集中できなくなってしまう。しかし、これはやらなくてはならないのだ。元編集者として、意地でもやりとげなければ。




「娘の事情 3」


 私のノートパソコンは、お父さんにもらった古いものだけど、これでもネットを見たり、小説を書いたりすることくらいは十分できる。私はラノベショックの翌日から、早速情報収集にかかった。


 小説を投稿すること自体は、そんなに難しいことじゃないらしいの。会員登録をして、投稿するだけ。私は無料のメールアドレスを取って、早速会員登録をした。


 小説はパソコンに入っていた文章を打てるソフトを使う。これに書いて、コピーしたものを投稿するだけね。始めはあまりの簡単さに、そんなに時間は取られないと思っていたけど、実際に小説を書いてみるとその大変さが良く分かった。


 私は同じ年代の子よりも、よく本を読んできたと自分では思っている。だから書き始めた時は「私にもできるはず」と軽く思ったけど、実際にやってみると「一人称で書くのか三人称なのか?」とか「書き始めや序盤はどうやったらいいのか?」とか「主人公などのキャタラクターもしっかり作らないといけない」とか、次々と問題が分かってきた。


 これは正直、今の生活を維持しながら片手間にできるものじゃないと思う。勉強と部活と小説。全てをやるには時間が足りない。それでも1週間くらいは頑張ってみたが、結局何かに支障が出てしまうのが分かったので、私は泣く泣く部活を諦めることにした。


 顧問の先生や部活の仲間に説明するのは難しかった。「小説を書きたい」と素直に言えばよかったんだけど、ちょっと気恥ずかしくって「勉強に集中したいから」という無難な理由を言うことになってしまった。


 それについては、ちょっと後ろめたい気持ちになってしまう。


 でも、これをやらないとウチの家族の未来はないのだ。私は部活を辞めた当日から、必死で小説を書いた。もちろん勉強を怠るわけにはいかないので、スケジュールをしっかり立てて、家に帰ってから晩御飯までは宿題、復習、予習に時間を当てた。


 晩御飯を急いで食べたら、すぐにお風呂に入って、その後は寝るまでずっとパソコンの画面に向かって、小説を書き続けた。登下校はバスなので、その間はメモ帳を常に手に持ち、何かいいアイディアがないものかと考え続けた。


 私は頑張り屋さんなのだ。




「母の事情 3」


 ええっと……どこまで話したかしら? あ、そうそう小説を投稿できるホームページのヨメカケの話だったよね。


 ヨメカケは本当に面白いの。最近はお料理や掃除なんかの家事は怠らないように、できるだけ読む時間を決めているんだけど、それでもついつい気になっちゃって、気がついたらスマホを開いちゃっているのよね。


 ただ義弘さんは、私のそういうの、あんまり好きじゃないみたいで、私がリビングルームでスマホを触っていると、チラチラとこちらを見たりしているのよ。


 ウフフ。なんか可愛いでしょ? でも、やりすぎて嫌われちゃいたくはないから、これからは義弘さんの目の前で使いすぎるのは止めておこうかな。この辺がデキル主婦のちょっとした気遣いってところよね。


 それでヨメカケの話なんだけど、とにかくたくさんの小説があるから、どれを読んで良いのか分からないのよね。ホームページには「ランキング」っていうのがあって、人気になった小説がずらーっと並んでいるんだけど、私はどちらかと言うと、人気のある小説よりも、誰にもあまり読まれていないような小説を読んでみたいの。


 だって、せっかく誰かが一生懸命考えて、必死で書いたのに、ちょっと可哀想じゃない? お友達にそう言ったら「だったら新着あたりから探せばいいよ」って教えてくれた。


 新着っていうのは、新しく投稿された小説が一覧になっているらしいのね。ここを見て「ハートマーク」の数の少ないのが、あまり読まれてない可能性があるんだって。読んで面白かったら、その「ハートマーク」を押してその小説を称えてあげるんだって。


 なるほどね。そう考えると「ハートマーク」の付いていない小説って、なんだか可哀想に思えてくるし、応援したくもなっちゃうわよね。そんなわけで、早速探してみたんだけど、結構たくさんあるのよね。


 できるだけたくさん読んであげたい! と思って、時間が許す限り、色々読んでいったわ。もちろん、読んだ後にはちゃんと「ハートマーク」を付けるのも忘れずに。


 今日読んだ小説は「鮮血の魔道士〜A ring of fate」っていうの。タイトルは良く分からないし、内容も難しくって正直な所、どんな話かと聞かれると困っちゃうんだけど、なんだかセリフがカッコイイのよね。「俺に邪眼の力を開放させるなよ。世界が終わるぜ」なんて痺れるわよね!

 

 ね、ところで邪眼って何なのかしら?

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