月盗人

星 霄華

序章

序章

 それは、春の終わり。春の女神が天へ帰還するのを願い、葉桜に太刀や矢、矛を向ける桜狩りという神事が、多くの神社で厳かかつ華やかに採り行われる時期のことだった。

 広いとは言えない屋敷のある曹司に、六人の若い男女と老女が集まっていた。屋敷の住人である少女と、その女房と、五人の青年たち。それぞれの身なりを見れば、少女はさして身分は高くないものの、五人は高い身分であるのが一目でわかる。

 畳の上に座す少女は、恐れを隠し、御簾を上げたまま青年たちに語りかけた。手をついて頭を垂れ、許しを乞う。

 だが、青年たちは少女を許しはしなかった。何故、と声高に問う。何が不足なのかと。どうか、と願う。膝を立てて彼女に詰め寄るのを見て、見かねた一人が制止しようとしたくらいだ。少女に忠義を尽くす女房と彼がいなければ、青年たちの誰かが少女に触れていただろう。

 いくつもの激しい感情をぶつけられた少女は、女房の腕に縋りながら、五人を見回した。その中で一人とだけ、目が合う。怒りと疑問が渦巻く曹司の中、彼だけが驚きと哀れみと後悔を目に浮かべていた。

 けれど、彼に助けを求めるなんてできるわけがない。拒んだのに助けてほしいなんて、あまりにも虫が良すぎる。自力で、貴公子たちの怒りと疑問を鎮めなければならない。

 だから少女は震える唇で、ならば、と口を開いた。

 もし、それほどこの身を望まれるとおっしゃるのなら――――――――

 どうか、誠の証を私に見せてください――――――――

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