第2話〜招かれざる訪問者〜

白水が見上げると、

そこには巨大な黒い物体が浮かんでいたその物体は徐々に近づいてくる…


迫り来る謎の物体にライヒ帝国、

そして世界は恐怖に包まれる。


「こちらはライヒ艦隊司令本部。」


無線が響く。


「こちらライヒ帝国第三艦隊旗艦ヴォルグルァンツァー艦長 麻布 白水。艦隊司令部如何しました。どうぞ。」


「こちら艦隊司令。郷鷺だ。緊急事態につき今すぐに出港を取りやめてくれ、軍港内で待機してもらう。」


郷鷺 河之宮元帥。

三次戦争の勝利に多大な貢献をしたとして、

艦隊司令部の司令長官に抜擢された、

ライヒ海軍学校出身の一般海兵だ。

郷鷺の声の調子は若干、焦りが見える。


「了解しました。これより、ライヒ軍港に帰投します。」


白水は簡潔に答え艦隊進路を180°転換する


艦隊が錨を下ろし、停泊する時には、

世界各国の国家元首同士の

オンライン回線通話会談が始まっていた。


〜オンライン回線通話会談〜


会談が始まると早々にアメリカン合衆国の大統領エドワード・バニエルが心底理解し兼ねると言わんばかりの顔で


「クラウィッツ。これはどういう事だね?」


と溜息を混ぜつつライヒ帝国総統である私、ケーニッヒ・クラウィッツ総統に問いかける


「…我が国じゃない。バニエル、お前の国の仕業じゃないのか…?秘密組織の航空機とか前にあっただろ」


私は知っている、過去にアメリカンの秘密警察が作り出した航空機が暴走を起こし墜落した事故を…よく分からない飛行物体は基本的にアメリカンが量産しているようなものだ…今回もそんなものだろうと私は深くも考えずバニエルに言う。それに対しバニエルは 何を言っている!という態度で激昂し反論してくる。なんというか疲れるヤツだ。私とバニエルだけならいいが他の国の首相もいるわけで相応の対応をして頂きたい…とは思いつつもこれを言うとさらにキレるに違いない…

あいつゴルフは上手いくせにすぐキレる

研ぎたてのナイフとどっちが切れやすいか…

会談には険悪ムードが漂っている。そのムードを打ち破るように大東亜皇国の酒池 誠英首相は


「まあまあ、落ち着いて考えてみて下さいよあんな巨大なものをどこに隠すんですか…?打ち上げるのにも苦労しますよあんなデカブツ…そもそも、何のために浮かべるんですかね?」


と特にバニエルを宥めるように言う。それを察してか知らずかバニエルは少し落ち着いた様子で話し始める。


「…まあそうだな。それでどうする?あの宇宙船に核ミサイルでもぶち込むか?」


核でもぶち込めば爽快だ。と笑みを浮かべる

それに対し私は少し引き気味に


「辞めてくれお前が言うと冗談にも成らない」


あの国(アメリカン)だと本気でやりかねない…正直言って核ミサイルの1本や2本は直ぐにぶち込むだろう。なんだかんだイチャモンつけて碌でもない爆弾をぶち込む国だ。何をしでかすかわからん。


「アハハ…」


と誠英は苦笑。まあ笑うしかないだろう

どうにもアメリカンの連中はジョークのセンスはないらしい。苦笑の後に誠英は私に尋ねる


「それで、あの宇宙船の事はは何か分かったことはあるの?」


そんな事を聞かれても…と言いそうになったがここは同盟国だ。丁寧に行こう


「何も分かってない。宇宙船の所属はおろか、どんな武装を持っているかも分からない。」


なんというか自らの無能を曝け出すのもどうかとは思うがここで適当な事を言うと後々問題になる。分からないことは分かりませんと正直に言えることこそが重要なのだ


「調査団の派遣も検討しようか…」


とバニエルは呟く。確かにそれはありだ。調査をしてみればなにか交渉の糸口はあるかもしれないと。そう考えたこともあって私が声を出そうと思った瞬間…


「何を言っているんだ!ふざけるな!」


といきなり罵声を飛ばしたのは今まで黙っていたフェテスキン公国(以下フェテス公国)の首相であるフィナンシェル・ロビーンだった。はっきり言ってビッくらポンだ。

フェテス公国は中立派ではあるのだが実際のところは過激な思想を持つ第4勢力とも言える存在である。軍隊など軍事力では劣るが、国民の扇動が上手くいざ戦争となると士気はとてつもなく高い。


「なっ、何だと!」


そう言ったのは誰だろうか。

それとも、その場に居た

中立派を除いた全員の声だろうか


「そんなことしたら、敵意ありと見なされてもおかしくありません!」


「偵察だなんて戦争が始まってからやる事ですよ!共存の方法を模索しましょう!」


「「「そうだ!!」」」


中立派の声が重なる

中立派と言うより穏健派とも言えるだろう


「…ふぅむ…とりあえず我が国があの宇宙船に対して共存或いは撤退の交渉を求める発光を送るとしよう。」


この発言に対し誠英。


「発光?発光信号とは使い古された技術だね

既に廃れたものかと思っていたが、なぜ発光信号を?」


はっきり言って何を言っているか伝えるにも受信してもらえないと意味が無い

であるならば暗闇の中で発光信号を送れば可視できる。私にとってはそれが最善策としんず


「仕方ないだろ。話ができる相手かどうか分からないから大体の相手なら通じる発光信号ぐらいしかない。まあエニグマの暗号で送り付けても問題なさそうな気はするが…」


それを訝しげに聞いていた中立派のアルビノ社会主義人民共和国以下アルビノ共和国)の指導者 リー・ウェンツゥー国家指導顧問が、


「文面はどうするんだ。」


単純なる疑問。文面は重要である

何を伝えるにせよしっかりと整理しなければならない。そしてバニエルはしばらくして文面を読み上げる


「我が惑星に接近中の諸君に告ぐ。

諸君らの目的は何だ?

共存か?

侵略か?

前者である場合は歓迎しよう。

しかし後者である場合は

諦めてお帰りいただきたい。

我々も好んで争い事をしたくない。

諸君らの良い返事を待つ。」


相手を刺激しないような無難な文面だと言えるだろう。面倒事は避けたい。相手が何を持っているのかもわからない。正体不明の脅威がそこにはある。我々は言葉で、指示で国民を護らねばならない。海軍や空軍、陸軍とは違い非暴力的に国民を護らねばならない。何ともどかしいことが…今は会議中と入ってもビールが欲しくなる…今夜はアルトビールでも飲むかな…雑念が多いなこの事態が終わるまでは禁酒の可能性が高いというのに…


「それでいいだろう。送ってくれ直ぐに送信させる。」


打てば響くような返事…とまでは行かないが手間をかけさせないのは非常にいい。仕事は効率的に終わらすことに限る

するとバニエルは声音を暗くして尋ねる


「もし、奴らの目的が侵略だったらどうするつもりだ」


もちろん可能性はある。あんな大きなものを浮かべてる時点でその線は十分ある。


「世界中から軍隊を集め戦う」


もはや民族間の対立など笑止。共通の敵を我々は持つことになる。少なくとも戦闘期間中は我々は地球という国の一国民である。国境を超えて互いに協力し合い共通の敵を討ち滅ぼす同士となる。綺麗事とも言えるがそんなもんだろう。


ウェンツァーは困惑気味な表情で私とバニエルを交互に見つめている(私の方からではわからないが)


「…貴方達は仲が悪かったんじゃないんですか?」


一瞬呆気に取られかけた私とバニエルは同時に言葉を放つ


「地球の危機だというのに、派閥争いなど」


「笑止千万だ!」(クラウィッツ)


「馬鹿馬鹿しい!」(バニエル)


クラウィッツとバニエルの怒声とも

とれる様な声にウェンツゥーは引き気味な顔をしておりさすがに声を張り上げすぎたか?と内心少し反省。


「それならいいのですが。軍を動かす司令に当たる国はどこになるのです?私の国の施設では全ての部隊を管理できるほどの施設はありませんが…」


と聞く。誰もそんな事は考えて

いなかったようだ。

誰からも返事がない。

困ったヤツらだ…

さてどうしたものかと、

クラウィッツは考える。

すると…アメリカン派の

カリムズエラ公国首長

ラッ・エージ・シェーディル国王は


「ならば、それぞれ陸海空軍の指揮はそれぞれ別の国にするのが得策かと考えますが…?」


別々にしてしまえば権力集中は免れるがそれ以前に協力作戦の実行はとても難しくなる


「何故だ?」


と思わず聞き返していた。


「全ての軍が、一つの国の指揮下に入ると、権力集中など様々な問題が引き起こされると考えられます。なのでそれぞれの国に任せるか、各国陸海空軍の司令官が集まり、閣議により指揮するという形が良いかと思います。」


バニエルは少しの間考え口を開く


「そうだなぁ…さすがに各軍一国統合は難しい…しかし閣議指揮はなかなかいいと思う。ある程度の裁量権を与える準閣議長国は定めておくのはいいかもしれないな。しかしまあ…まだ返答はない。結論はそのあとからでも遅くはないだろう。」


そして少し間を置いてバニエルは


「仮にだがやるとすれば…我が国は空軍がいいかな。」


クラウィッツは


「やるとすれば…海軍だな。」


誠英は


「あるとすれば、陸軍指揮ですね。」


シェーディルが三人の言ったことを聞きボヤく。


「結局、指揮は列強になるんだな…」


シェーディルがボヤき終わった、

まさにその瞬間────


クラウィッツが叫ぶ。

その場にいる全員がクラウィッツを凝視する


「奴らの返事が来た。各国のパネルに映像データを送る。」


と言うと、それぞれの国家元首の

見るモニターの隅に、

映像が音声とともに流れる。

その映像が映し出すのは不気味な形

をした生物と思しきもの。


「やあ。御機嫌よう。」


声に感情らしき感情は篭っていない

ように感じる。一種の翻訳ソフト

による、返答なのだろうか。


「返事は直ぐに返すつもりだったが旧式の信号のため、解読するのに時間が掛かってしまったよ。」


異形の生命体は頭を下げる。

感情は持ち合わせているようだ。


「さて勿体ぶってもどうにもならない返答を今直ぐに見せよう。」


返答を見せる…?奇妙なことを言う奴だ…

返答は答えるものでは無いのだろうか?

それとも1種の宇宙ジョークなのだろうか


「侵略か?」


「共存かを…!」


異形の生命体はカタカタと嗤う。

その嗤いに嫌悪感すら覚える。

なんとも気持ち悪い…。

それは返答を聞いた者達の

共通認識であった。


「…さてその答えとは何なのだろうか…あの狂気的な嗤いからして、嫌な予感しかしないが…」


と、クラウィッツは言う。これも

この場にいる全員の共通認識である。


「──神よ。大いなる神よ。」


「我らの救世主アルメニアよ…」


「我が祖国を護り給う…」


「嗚呼、大いなる神 アルメニアよ──」


シェーディルは冷や汗をかきながら自国に伝わる神話に出てくる神の名を唱える が…

その声は、混乱の波に飲まれる

回線通話のノイズによりその小さな声は掻き消されるのであった


儚く。そして誰にも届かずに…。



次回予告

「惨劇」

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