第10話 クリスさん、やっておしまいなさい!
「これがこの町の2大勢力ってやつさ」
シエルから別室に案内されたヒロシとクリスはこの町の勢力図を簡単に説明されていた。
相手方のロチと呼ばれる組織は簡単に言うとヤクザというよりもマフィアと言った感じの勢力。
警察すらもその手中に収め既に町は奴等に完全に支配されていた。
対してシエル達の所属するオロと呼ばれる組織はレジスタンスの様なロチのやり方に不満を抱くグループであった。
実質的に力の差は凄まじいのだがオロのグループに居るTOP3が強力な力を持っている為にその勢力は拮抗していたのだ。
「それでどうだい?あんた達、こっちに付く気は無いかい?」
先程の立会いだけでクリスの力を見抜いたシエルは強力な助っ人として勧誘を進めてきた。
だが・・・
「そうか、なら俺達のやるべき事は一つだな。クリスの復讐に手を貸すのが俺の役目だから」
「ヒロシさん?」
「俺達は第3のグループを作ってこの町を支配する!」
仁王立ちで腕を組んで高らかに宣言するヒロシ。
背後で「ドーン!」と言う擬音が発生しそうな佇まいに流石のシエルも唖然と固まる。
「やれやれ、勧誘は失敗だったわけだがそのままお前達に去られてロチに加勢されると面倒なんでここで始末させてもらうよ」
「ナナカセ!待ってくれ!」
部屋の奥にいつの間にか立っていた1人の男が口にして動いた。
シエルがナナカセと呼んだその男は白いズボンに紅いシャツを着た長身白髪の男。
このオロのTOP3の一角を担うナナカセの姿が残像を残して消えた。
数メートルの距離を一瞬で詰めてクリスにボディブローを仕掛けたナナカセであったがクリスはそれをしっかりとガードしていた。
「へぇ、こいつは確かに逸材だ」
驚くべきはその技であろう。
ボディブローを仕掛けたナナカセを追いかけるように遅れて付いてきた残像が逆の腕でクリスの顔目掛けてストレートを放っていたのだ。
本体とは別の動きを見せたその攻撃、それを見てヒロシは嬉しそうに口元を歪める。
ゲームの世界では良く見かける残像に攻撃判定が残っているその技に感動していたのだ。
「そういうアナタは一体何者なんですか?」
その攻撃は発動しなかった。
いや、発動はしていたが人の目には見えない空気の斬撃であった。
地面から見えない小規模の切り裂く竜巻が一瞬で発生しその場に在った物を切り裂く攻撃。
だがそれを余所見をしながら防いだヒロシに驚きの声を漏らしたのは青い修道服を着た神父の様な男であった。
「なっ・・・ゲーニさんの攻撃を防いだ?」
シエルが驚きの声を上げるがヒロシはゲーニと呼ばれる神父の様な男を睨み付ける。
不意打ちで攻撃を仕掛けてきた事に対して怒っているのではない、ゲーニがワザとらしく眼鏡をクイっとしたのが気に入らなかったのだ。
「クリスさん、やっておしまいなさい」
「待て!待ってくれ!」
ヒロシの言葉にクリスは動き出す。
それをシエルが止めようとするが聞く耳を持たずクリスはナナカセに反撃を仕掛ける!
その場で飛び上がり空中で回し蹴りを長身のナナカセに仕掛ける!
だがナナカセは瞬時に屈みその蹴りを避けた。
「それは悪手だねぇ」
ヒロシがそう告げたのを聞いた者は居なかった。
ジャンプして回し蹴りを仕掛ければ屈めば当たらないと言うのは普通に考えれば分かる、そう・・・普通に考えれば。
だがクリスはそのまま空中で旋回を始めたのだ!
ナナカセは反撃を仕掛けようと考えるまもなくそれに巻き込まれ当たってない筈の蹴りを連続で受け部屋の壁に叩きつけられる。
そう・・・ただの飛びまわし蹴りではない、真空竜○旋風蹴だったのだ。
「うそ・・・」
シエルは前髪でその目が見えないがきっと驚きに見開いて居る事だろう。
ナナカセの様子から既に再起不能レベルのダメージを負っているのは直ぐに分かった。
この組織のTOP3の1人が一瞬で再起不能にされたのだ。
そして、もう1人のゲーニに視線を移すがその表情は曇っていた。
「な・・・なんなのですか・・・これは・・・」
クリスとナナカセの戦いに加担するわけでもなくヒロシに攻撃をするわけでもないゲーニ。
それはそうであろう、彼はヒロシによって後ろの壁に押し付けられていたのだ。
彼の前には六角形の紅い物がバリアの様に貼られていたのだ。
ヒロシが生み出したそれを人はこう呼ぶ・・・『ATフィールド』と。
「ほら、クリス次はアイツだ」
ヒロシがそう告げるとゲーニの体を押さえつけていたバリアは解かれた。
飽く迄1対1の戦いをさせようとしているのかヒロシは手を出さず妙な真似はするなとシエルに視線を送る。
ヒロシの言葉に頷いたクリスがゲーニの方を向いた時であった。
「まずは貴方からです!」
クリスの方へ低空姿勢で突っ込んできたゲーニ。
それを撃退しようとクリスが構えた時であった。
「遅いですね!」
風が目視出来るような形で濃縮された空気の様な物がクリスの方へ向かっていたゲーニと入れ替わる!
そしてそれを飛び越すように本体のゲーニはクリスを飛び越えて裏に回る!
天井がそれ程高くない筈にも関わらずクリスの頭上を飛び越えたゲーニは瞬時にクリスの顔面を片手で鷲掴みにして持ち上げる!
そして、クリスの背後に先程の空気の塊が追いついた!
「お別れです!」
直後クリスの体を小型の竜巻が巻き込んだ!
部屋の中が滅茶苦茶になるその攻撃にシエルは部屋の隅で小さく縮こまり頭を守っていた。
そんな暴風が吹き荒れる中、ヒロシは何処から取り出したのか小型のビデオカメラを片手に撮影をする。
「凄まじい攻撃であります!これは彼もピンチなのかぁー?!」
全く風を気にしていない様子で実況を続けるヒロシ。
そのままユーチュブとかに動画投稿するつもりなのだろうが彼はまだ知らない・・・
彼の元居た世界のユーチュブは先月から総再生時間4000時間以上且つチャンネル登録者数が1000人を超えないと広告が付けられなくなっている事を・・・
「まだ動きますか」
全身を切られ血塗れの状態で投げ捨てられたクリスは脱げ掛けた靴を履き直して立ち上がる。
見た目に反して深い傷はそれほど負っていなかったのだろう。
そんなクリスにゲーニは追撃を仕掛ける!
片手を頭上へ上げて叫ぶ!
その手の爪が獣の様に変化してクリスへ突っ込んだ!
「神罰です!」
連続でクリスの体を爪で切り裂くゲーニ!
流れる様な連撃に飛び散る血!血!血!
そして両手をクロスしてクリスの首を締め上げ持ち上げた!
空中でクリスの体から血が吹き出る!
だが、動きを止めたのは失敗であった。
「捕まえた・・・」
ゲーニの両手をしっかりと掴んだクリスはそのまま空中で蹴りを叩き込んだ!
その瞬間ゲーニの体は物凄い勢いで吹き飛んだ!
そのまま壁を突き破り蹴られた部分を粉砕骨折したゲーニはそのまま動かなくなる。
そう、これはクリスがヒロシから渡されていた靴の効果である。
ヒロシから渡されて履いていた靴。
実は横にダイヤルの様な物が付いておりそれを回すことで蹴る力を増大させるアイテム。
そう、真実はいつも一つの名探偵コンナンが愛用するキック力増強シューズであった。
僅かな時間でオロのTOP3の2人を静めたクリス。
「ほら、お疲れさん喰え」
ヒロシから渡された1粒の豆を口にする。
するとすぐさま体の傷が消えて一瞬で怪我が治った。
そう、カリン様手作りの仙豆である。
「あ、あんた達がいくら強くても・・・ロチの奴等相手に2人ではどうにもならないわよ!」
部屋の隅でガタガタ震えるシエルは勇気を振り絞って声に出す。
それはそうだろう、いくら強いと言っても普通なら人数の差がそのまま戦力の差に繋がる。
それはヒロシも理解しているのだろう。
シエルの言葉にクリスはシエルに対して慣れないウインクを決める。
普段やらないからか顔が引き攣っているが気にせずにヒロシはアホウを使って必要な物を取り出した。
「えっと・・・ゴムまりに風呂桶に掃除機のホース・・・玩具の刀、ボタン・・・だったよな?」
一体何が始まるのか意味不明なシエルの前に出されたのはこの世界では異質な謎の物体。
これだけが並べられたら流石の現代日本人でも訳が分からなくなるだろう。
そんな意味不明な物をヒロシは組み立てて形にしていく・・・
そして組み上がったそれはまるで命を吹き込まれたようにカタカタと動き出した。
「我輩は・・・ここは何処ナリ?」
ヒロシが作り出したそれはあの有名な天才『奇天烈臭斎』が生み出した人型決戦兵器。
人造人間『殺すK』であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます