第9話 エロスと前屈み

「オーマイコーンブ!!!」


初めて食べるピザを口に含んだ瞬間頬に両手を当てて飛び上がるクリス。

部屋に設置された加湿器に水ではなくエリクサーを入れたのは正解だったなと納得しながらクリスが元気になったのを喜ぶヒロシ。


「ま、まるで味の宝石箱やー!!!」


再びピザを口にしたクリスの叫び声が響き渡るのであった。







翌朝・・・


「ひ・・・ヒロシさん、この衣装は?」

「俺の国に伝わる格闘家の衣装ですよ」


ヒロシに用意された衣類を手に取り見た事も無いそれに固まるクリス。

それはそうだろう、クリスの一族は山の中で暮らしていたので衣類は動物の毛皮や布を加工して作った物が基本である。

そんな彼が手にしているのは麦わら帽子に赤いシャツ、青い短パンである。

しかも靴まで藁草履と来たもんだ。


「やっぱり変装して向かわないと何かあった時に不味いからね」


そう言ってヒロシも着替えて出てきた。

白いズボンに腰には紫の帯を巻いて上半身裸で背中に髭の付いたドクロの描かれたマントを羽織っていた。

顔には立派な白い髭を付けて仁王立ちをする。


「グラララララララ!」

「なんですかその笑い方は・・・」

「おい小僧!お前の力を見せてみろ!」


海賊王を目指す少年と世界最強の男はそのまま町へ繰り出すのであった。







「っで?詳しく事情を聞かせてもらおうか?」

「いや、あの・・・コスプレ的な?」

「ふーん、でもね街中で上半身裸ってのはやっぱりご近所の皆さんの迷惑にね」

「は・・・はい・・・」


町に入ってすぐ巡回していた警官に止められ職務質問を受けるヒロシ。

上半身裸はやっぱり不味かったようだ。

どんな相手が襲ってきても無敵のアホウ使いであるヒロシでも国家権力には弱かった。

そんなヒロシを少し離れた所で見詰めるクリス。


(この人に付いていって大丈夫なのか?)


「とりあえず直ぐに着替えるようにな」

「はい、すみませんでした」


道の片隅で渋々着ていた衣装を脱いでいつもの服装に着替えるヒロシ。

やっぱり彼には野球帽みたいな帽子と酒井酒店の前掛けが似合っている。


「ヒロシサン・・・ワタシモキガエテイイデスカ?」

「クリス、なんで片言やねん・・・」


そんなヒロシを白い目で見つめるクリスであった。

そして、クリスも服を着替えて普通の旅人風の衣装に変わった所でヒロシの目つきが変わった。


「よし、それじゃあ行くぞ!」


今の今までふざけていたヒロシの余りの変化に驚くクリスは気を引き締めなおし後を付いて行く。

その向かう先は・・・


「まさか・・・ヒロシさん?!」

「グララッ、おっとフフフ・・・別にふざけてあの格好をしていた訳じゃないのさ」


そう、先程職務質問を行なった警官の跡を着け始めたのだ。

幾ら町の治安を守る為の巡回と言っても、たった一人で路地裏の奥へと向かうその警官に不自然さに流石にクリスも気が付いた。

そして、その警官が一つの建物の中へと入るのを確認しヒロシとクリスも近付く。


「ヒロシさん・・・アイツです!」


声に怒りの篭もった感じで小声で話すクリスの視線の先には全身黒で染まった金髪の男が見張りと話していた。

片手をポケットに突っ込んで話す態度からその身分が見張りの男よりも高いことを表している。

そう、彼こそがクリスの村を襲撃した犯人の1人であった。

その顔を見て怒りに体を震わすクリスにヒロシは少し焦る。

男を一目見ただけでその強さを感じ取ったヒロシはクリスから漏れる殺意にアイツが気付くのを恐れたのだ。


「んんっ?」


直後、ヒロシの予想通り男は視線をこちらへやって近付いてくる。

慌ててヒロシはクリスの背を押して路地の奥へと進む。

だがそこは袋小路であった。


「ヒロシさん、アイツをやらせてくれ!」

「いや、ここでやり合うと他のヤツが来てしまうからな・・・こっちだ!」


そう言ってヒロシはリング状のワッカを取り出す。

一見フラフープにも見えるそれをヒロシは横の壁に貼り付ける。

するとその輪の中が真っ暗になりヒロシはクリスの手を取ってその中へ体を滑り込ませる。


「んん?んん~気のせいか?」

「どうしましたリュージさん?」

「いやな、殺気を感じたんだがなぁ~」


通り抜けられるフープを使って壁を通り抜けて逃げた二人、青いロボットありがとうである。

リュージと呼ばれた全身黒尽くめの男は首を傾げながら周囲を見て回るのであった。







「ふぅ、とりあえずアイツは後回しだな・・・」

「もう何が遭っても驚かないと思ってましたが・・・」

「おぉっ?兄ちゃん達どっから入ったんだ?」

「ここが何処か分かってんのか?こらぁ!」


リュージから逃げる為に壁を抜けて建物の中へ入った2人は複数の男達に包囲されていた。

だが慌てる事無く落ち着いて会話する2人に苛立ちを覚える数名が殴りかかろうとした時であった。

男の拳が届く前にクリスが目にも留まらぬ速さで反撃し殴りかかろうとした体勢のまま崩れる。


「俺・・・こんなに強くなってる?」

「まぁ昨日のレベリングで軽くスライムに苦労する勇者から魔王単独撃破出来るくらいには強くなってる筈だからね」


そんな2人の全く動揺の無い会話を聞いて怖気づく周囲の男達。

ふざけた会話に聞こえなくも無いのだが殴りかかった数名が一瞬で無力化されたのをその目で見ているのだ。


「それでもさっきの黒い金髪男とは互角って所だな」

「マジですか・・・」

「黒い金髪男だって?」


2人の会話内容に声を上げたのは一人の女。

その声に周囲を包囲していた男達は道を開ける。


「シエル姉さん、こいつ等突然現れて・・・」

「みたいだね、この建物に裏口なんて無いんだからね」


そこに歩いてきたのはピンクのミニスカートにピンクの肌着を着た1人の女。

まさにボンキュッボンと言うナイスバディな髪の長い茶髪の女であった。

胸の谷間を強調するためなのかひし形に首の下が開いており谷間が丸見えなその姿に思わず前屈みになるクリス。


「あんた達、リュージの野郎から逃げてきたのかい?」


少し前屈みになっているクリスに合わせたのかシエルと呼ばれた女は同じように前屈みになり問いかける。

姿勢のせいでクリスは更に谷間を直視する事になり更に腰を曲げて前屈みになる。


「ふふふっ可愛いねぇ」


そう言いながら耳に髪の毛を掛ける仕草をするシエル。

不思議な事に前髪が目を隠しておりシエルの目が見えないのだ。

だがシエルからはこちらの事がハッキリと見えているようでその視線をビンビンとヒロシは感じ取っていた。


「ふぅ~ん・・・あんた何者だい?少なくともあんたみたいな不思議な男を見たのは初めてだよ」

「俺もあんたみたいな美人を見たのは(この世界では)初めてだよ」

「ははっお世辞でも嬉しいねぇ~。お前達、この2人はお前達が全員で襲い掛かっても秒殺されるくらい強いからもう止めときな」


シエルのその言葉に騒然とする周囲。


「さて、それじゃあちょっと話でもそっちでしようか・・・と言うかそっちのは大丈夫かい?」


未だ前屈みのままのクリスは今度は立ち上がったシエルのミニスカートの絶対領域が視界に入り真っ直ぐ立ち上がれない状態が続くのであった。

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