第8話 自重を知らない究極のレベリング

森の中ジョギングの様に走るヒロシとクリス。

追われている身でありながら焦る事無く「日課のジョギングです怪しい者じゃないです」と職務質問にも答えそうな雰囲気でいるヒロシに付いて行くクリスは声を掛ける。


「本当・・・なんなんすかヒロシさんは・・・」

「単なる何処にでも居るアホウ使いさ!」


妙にテンションが高いヒロシとともに走るクリスは、森に入るところでヒロシに渡された靴に履物を履き替えていた。


「さて、そろそろ次の段階かな?」


ヒロシが振り返って後ろ向きに走り出したのを見てクリスは身構える。

クリスの復讐に強力すると言うヒロシはこの逃走している間すらもクリスの強化に手を出しているのだ。

なのでこのままここで模擬戦を行なわれてもおかしくない。

走りつつも追いかけてくるというまるで魔列車との戦いの様な状況にヒロシは笑いを堪えながらクリスにアホウで取り出したボールをパスする。


「それを殴り返して!」

「あっはい」


クリスは言われたとおりヒロシに向かってそのボールを殴り返した。

殴ったのはゴムボールの様で軽い感触と共にヒロシに戻るボール。

それをヒロシはアホウで消す。


「よし、それじゃあ今の殴ったのと同じ行動を繰り返して」

「えっ?す、素振りですか?」

「いや、構えて動こうと思うだけで良いよ」


そう言われクリスはヒロシがボールを投げてきたのを想像してそこへ拳を出すイメージをする。


「うん、いいね。それを暫く続けてくれるかな?」

「は、はい・・・」


一体これがなんになるのかと疑問に思いつつもクリスは言われた行為を繰り返し続けた。

この世界では他者をモンスターに限らず人間でも倒す事で経験値を得る事が可能である。

その為、クリスは自身の体がこの数時間で明らかに強化されているのを走りながら実感していた。

事実クリスがジョギングとはいえこのペースでヒロシと走り続けているにも関わらず疲れが一切見られないのがその証拠であった。


そのまま森を突っ切って反対側まで抜けた所でヒロシとクリスは止まった。

森を抜けたそこは丘で太陽が沈もうとしている方向には大きな町が見えている。

ずっと後ろ向きにも関わらず木にぶつかる事無く走りきったヒロシは振り返って町を見下ろし呟く。


「居た、アイツと・・・アイツかな?」


そのヒロシの呟きを聞いてクリスも身を引き締める。

だが自分達を襲撃した相手がとんでもなく強かったのを思い出してその体を恐怖が襲った。

ヒロシから借りたキュースネコカミを装備して戦ったとしても一撃で即死させられたら反撃すらも出来ないのは明白だからだ。

そんなクリスの様子に気が付いたヒロシはクリスに再びボールを投げた。

反射的に繰り返してきた事に体が自然に動きクリスはそのボールを殴り返した。


「よし、大丈夫そうだな。それじゃあ次はこいつだな」


そう言ってヒロシは銀色の円盤型モンスターをアホウで出現させる。

しかし、そいつは動く事無く目を閉じたままその場に鎮座した。


「ではこれを持って」


ヒロシから渡される1個の卵。

もうわけが分からないクリスは考えるのを放棄してヒロシに言われたとおり左手に卵を持って銀色のモンスターを見下ろす。


「後は殴って、倒しても同じ場所を殴り続けてくれたらいいよ」

「意味が分かりませんが分かりましたよ」


そう言ってクリスが右拳を銀色モンスターに叩き込んだ!


ゴゴゴゴゴゴイーン!!


まるで金属を殴りつけたような衝撃が右拳を襲う!

だがその甲斐があったのか目の前の銀色のモンスターは光の粒子に変化して昇天していった。

だがクリスはヒロシに言われた通りそのモンスターが居た場所に再び右拳を叩き込む!


ゴゴゴゴゴゴイーン!!


拳がそこへ当たった瞬間昇天して消えた筈の銀色モンスターが点滅しながら出現し再び光の粒子となって昇天する。

もう意味が分からないと混乱しつつもクリスはその行為を繰り返していた。

ヒロシはクリスが何も考えずにその作業を繰り返しているのに安堵して亜空間から小さなカプセルを取り出し手の中で転がしながらクリスの作業を眺めるのであった・・・





太陽が沈んで真夜中になってクリスが右拳を叩き込んだところでヒロシが声を掛けた。


「そこまで!お疲れさん」

「あっはい、なんだか体の調子が・・・えっ?えぇぇぇぇえええええ?!?!?!?」


クリスが顔を上げて驚きの声を上げる。

その時、クリスの目には世界が滅茶苦茶になっている様に見えていたのだ。

そんなクリスの様子を笑いながらヒロシは手にしていたカプセルの先端にあるスイッチを押す。

そして、それを投げた!


ボンッ!


まるで爆発したように投げられたカプセルからは煙が吹き出て何も無かった場所を包み込む。

そして、その煙が散るとそこに見た事も無い丸い屋根の白い建物が出現していた。

クリスは頭がおかしくなったのかと唖然とそれを見上げていたのだが突然頭を押さえて蹲る。


「おっと急がないとな」


ヒロシは蹲ったままのクリスに肩を貸してその建物の中へ入るのであった。





「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ヒロシさん・・・俺どうなったんですか?」

「ん?バグで混乱してるのと急なレベルアップで体が異常に進化しているだけだから一晩休めば落ち着くよ」


ベットに寝かされたクリスはヒロシの言葉に頷いてそのまま目を閉じる。

そんなクリスの靴やその他の物を回収しヒロシは壁に向かうのであった。





ここで解説をしておこうと思う。


森を駆け抜ける前にヒロシから渡されたその靴こそ『しあわせのくつ』と呼ばれる素敵アイテムであった。

これは歩くだけで1歩ごとに経験値が1入ると言うチートアイテムである。

これを森を抜ける間装備していたクリスは森を抜ける間だけで約2万歩程地面を踏み約2万の経験値を手に入れていた。


そして、道中でヒロシに言われたボールを殴り返すイメージを繰り返す行為。

これは攻撃キャンセルと言うファイナルなファンタジー2で使われた裏技であった。

これによりクリスの攻撃回数が大幅に増加していた。


最後にヒロシが出現させた銀色のモンスター。

それこそが今回の短時間特訓の目玉『バグれメタル』であった。

倒しても倒しても戦闘が終了しない限り限界値まで死んだはずの同じモンスターを繰り返し倒す事が出来る知る人ぞ知るドラゴンなクエスト5で有名なアレである。

1匹倒すことに約1万の経験値が入るのだが倒す為にある一定の強さが必要である。

その必要分をここへ到達するまでに鍛えていたのだ。


更にヒロシが渡した卵、あれは『グロウエッグ』と言う獲得経験値を増加させるアイテムであった。

これによりクリスはこの世界で200年くらい修行するのと同程度のレベルアップを図る事に成功していたのである!

しかし、これには本人から見える背景がバグると言う副作用がある。

下手をすればクリスの精神が飛ぶ可能性もあったのだがその場合はヒロシが何とかするので問題は無い。

まさしく悪魔の所業とも言えるレベリングであった。

そして、この視界がバグるのを回復させるには建物の中に入ると言うのが一番なのだがこんな場所で建物なんてあるわけが無かった。

そこでヒロシが使用した方法は・・・


『ポイポ○カプセル』テーテレーッテテレレレー!


そう、ドラゴンなボールに出てくるカプセルなコーポレーションの大ヒット商品である!

もう好き放題やりたい放題であるが全く自重する気も彼を抑える人間もこの世界には存在しないのであった・・・





壁に近付いたヒロシはそこに付属されていたそれを手に取ってボタンを何度か押す。

暫くして向こうと会話が繋がったのを確認してヒロシは告げる。


「あっすみません、ごろっとバーベキューチキンピザのLサイズ1枚お願いします。あとドリンクに烏龍茶2つ。30分後に店まで取りに行きますんで・・・酒井です。んじゃお願いしまーす」


異世界から宅配ピザを夕飯として注文するヒロシ、宅配ではなく店まで取りに行く事で料金を安く抑えるところまでチャッカリしているヒロシであった。

ヒロシは注文し終わってから寝ているクリスを見る・・・


「頼んじゃったけど・・・ピザ、食べるよな?」


そんな事を呟きながら亜空間から今週のチャン○オンを取り出して読みふけるヒロシ・・・


「やっべ!宮本武蔵やっべぇ!!!バキ勝てるのか?!」


もう好き放題やり過ぎて何処から突っ込めば言いのか分からないヒロシであった。

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