第3話 天元突破アレキサンダー

「うぉぉ!スゲェなこれ?!」


とある異世界のダンジョン奥深くに在る地底湖の前にしゃがむ1人の男。

野球帽の様な帽子を被って腰には酒井酒店と言うエプロンをしたその男が手にしているのは筒状の物体であった。


「本当に透明になってるよ・・・スゲェなこれ!」


深夜通販番組『タカネットジャパタ』で裏声で社長が宣伝するインドが生んだ世界最高の携帯型の浄化装置。

なんと泥水からおしっこまで飲める水に浄化してしまうその謳い文句に惹かれて即決で購入したその男こそ『酒井ヒロシ』であった。

彼はこの地底湖の汚染された水を飲める水に出来るのか試す為にこの世界までやって来ていた。


「このくらいで十分だな、後は・・・これだ!」


彼が何も無い空間から取り出したそれは駄菓子の『ぬるぬるねるね』であった。

魔法使い風のお婆さんが「ねればねるほど色が変わって・・・」とCMで言っていたアレである。

それを地底この汚染された水から浄化して作った水で作り出したのだ。


「んじゃ戻りながら作りますかね」


そう独り言を言いながら立ち上がり通路を進むヒロシ。

ねればねるほど色が変わると言われているが一定以上色が変わらないのが気に入らないのか必死に混ぜ続けているヒロシの目に1人の青年が映った。

今にも倒れそうなその青年だが髪の色が黒だと言うことからもしかしたら転移や召喚された学生かもしれないと声を掛ける事にした。


「おぉーい、生きてるか~?」


肩が微妙に動いている事から呼吸はしているが返事を返すほどの元気が残っていないのか青年は手をゆっくりとヒロシの方へ伸ばしてきた。


「ここで会ったのも何かの縁ってやつかな?」


そう言ってヒロシは何も無い空間から薄っすらと緑色をした瓶を取り出して青年の伸ばしていた手に蓋を開けてそれをかけた。

突然冷たい液体が手にかけられて驚いたのか青年は顔を上げてヒロシに声を上げる!


「ちょっ?!冷たいですよ!!」

「あっごめんごめん」

「てっあれっ?」


青年はヒロシに文句を言った直後に自分の体に起こった事に驚きを隠せなかった。

手に液体を掛けられただけなのに体中の傷が全て癒えて体力まで全快しているのだ。


「こっこれって一体・・・」

「これはね、ホラーな7番目の世界で手に入る『回復薬』って物です。これを手にかけるとどんな傷だろうが一瞬で回復するのさ」


ヒロシはそう伝えながら手に持っていたそれを再びねり始める・・・


「そ、それも何かの薬ですか?」

「いや、これは駄菓子だよ」


そう言ってその謎の色をした物体を隣の液体に浸けて持ち上げ口に含む。


「美味い!」


そんなヒロシの様子に唖然としていた青年はハッと我に帰り危険な状態だった自分を助けてくれた事を思い出してお礼を言う。


「さっきは本当に危ないところを助けてもらってありがとうございます。俺は孝明、黄河孝明って言います」

「孝明君か、俺は酒井ヒロシ・・・通りすがりのアホウ使いさ」

「あ・・・アホウですか?」

「おう、俺のアホウは凄いんだぜ」


そんなどうでもいい和やかな会話をしている時であった。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


大きな獣の叫び声が響き渡り孝明は真剣な表情をして振り返る。


「くそっもう起きてきたのか!」

「な、なんだい今のは?!」


ヒロシの言葉に反応を示さず孝明は自分の方へあの魔物が近付いてくるのを感じ取っていた。

折れた剣を握り締めて構える孝明。

そして、そいつは姿を現した!

まるで家の様なサイズの魔物の登場にヒロシはそれを唖然と見上げる。

孝明は何とかヒロシだけでも逃がそうとヒロシに背を向けたまま語りだす。


「ヒロシさん、ここは俺が何とかします。だから逃げて下さい」

「ん~そう言うならお言葉に甘えさせてもらおうかな」


そう言ってもう一口駄菓子を口に運びゆっくりと味わう、まるで逃げる気配を見せないのだ。

だが孝明はヒロシが後ろで駄菓子を味わいながら立ち尽くしているとは思わずに居た。

そして、魔物が動き出した!


「いいぜ、相手になってやるよ!」


孝明が魔物に向けて威圧をしながら折れた剣を振り上げた時であった。

突如魔物の足元に大きな穴が現れたのだ!

踏み出したそこが奈落だったと言うのなら前のめりに落ちていくのが普通だが両足とも同時に下へ落下し始めたために魔物は困惑をしたままその体を下へ落下させる。

その穴が一気に狭まり魔物はまるで地面から生首だけ出したような状態で固定されてしまったのだ。


「な・・・こ、これは・・・」


孝明は目の前で起こったその状況に困惑していた。

だがヒロシは非常に楽しそうな凶悪な笑みを浮かべながら天井を見上げる。

そして、天井にもう一つの穴が開きそこから巨大な城の様な形をした物が落下してきた!

何が何だか分からない孝明はその着地の衝撃に腰を抜かし地面にへたり込む。


「おっと、大丈夫かい?驚かせてごめんね」

「ひ、ヒロシさんがこれを?」

「凄いでしょ、でもこれダンジョン用に小さいほうを呼び出したからそれほど酷いことにはならない筈だから安心してね」

「この巨大ロボットが、ち・・・小さいほう?」

「さぁ、アレキサンダーやっちゃいな!」


ヒロシのその言葉に反応をした様に城の様な巨大なそいつは目の位置に在る窓が光りだした。

そのまま前のめりになり両手と思われる部分を地面についてエネルギーの様な物を収束し始める・・・

そして、続いて窓と言う窓が光を放ちその光が地面から頭部だけを出している魔物へ集中した。


「GYAAAAAAaaaaaa・・・・」


魔物の頭部を中心に光の中に魔方陣が描かれてその魔方陣内の温度が急激に上昇し空気が・・・いや、空間が見えない炎に包まれる。

その中で魔物の断末魔の雄叫びが小さくなりやがて消えていった。


「まぁこんなもんかな?」


ヒロシのそんな何気ない一言が聞こえていないのか唖然としたままの孝明は口を開けたまま振り返る。

そんな孝明にヒロシは扉を出現させて一緒にそこを潜るのであった・・・








「た・・・たかあき・・・たかあき・・・」


ダンジョンの入り口であかねが1人離れて泣いていた。

孝明が犠牲になった為に全員無事にダンジョンから脱出出来たのだ。

しかし、あかねを含む数名は孝明が居なくなった事に絶望していた。


「ごめんね、私がもっと・・・強かったら・・・」

「駄目だよ、あかねは俺が守るんだから」

「えっ?」


あかねが顔を上げるとそこには孝明が立っていた。


「ごめん、心配かけたね」

「う・・・そ・・・」

「ご覧の通りちゃんと2本の足で立って・・・おっと」

「たかあき!たかあきぃいいい!!!」


泣きながら抱きつくあかねを抱きしめ返して孝明は一言「ただいま」とそう告げるのであった・・・









「それじゃ元の世界に帰りたい人はこれを潜ってくれ、ただし元の世界では君達の能力なんかは全て元に戻るから」


ヒロシの出現させたドアを潜れば元の世界に帰れる、そう聞いて嬉々としてドアを潜ろうとする者が大半ではあったがそこに兵士から待ったが掛かる。


「ま、待ってくれ!我々はこの勇者達にあの山の上で眠る魔王が復活した時に対処してもらわないと駄目なんだ」

「はぁ?自分達でやれよそんなの」

「そ、そうしたいのは山々なのだが・・・」

「まぁいいや、孝明!お前あかねちゃんにちゃんと告白したのか?」


孝明はヒロシの言葉で思い出した様にあかねの両肩を掴んで抱きついていたあかねを引き剥がす。

そして、その目を見て真剣に伝える。


「あかね、俺はお前が・・・」

「孝明、私もあなたが・・・」


兵士達の事など全く気にせずに2人は熱い口付けを交わして盛大な拍手が送られる。

うんうんと頷きながらヒロシは兵士に振り返り。


「んじゃあの山に眠る魔王をどうにかしたらいいんだよな?」


そう言ってヒロシの全身から恐ろしいほどの魔力が立ち上がる。

その魔力を感じて孝明は驚愕した。

ダンジョン内であの魔物を倒した時も殆ど魔力を使用していなかったのだ。

そのヒロシがこれほどまで大量の魔力を使ってなにをしようとしているのか・・・


「よっし、それじゃ行くぜ!」


その瞬間誰もが目を疑った。

空に魔方陣の一部が浮かび上がったのだ。

それはこの星全体が巨大な魔方陣として発動しているのだが地上から見えるのはその極一部であった。

そして、空に浮かび上がる透き通ったそれを見て誰もが唖然としていた。

その中で孝明だけがそれがなにかを理解していた。


「アレキ・・・サンダー・・・」


そいつは再び前のめりになり窓と言う窓から光が差し込み山に集中した。

そして、空に数百、いや・・・数千にも感じられるほどの魔方陣が並び山を包み込むようにアレキサンダーと山を繋いだ。

その瞬間この世界の大地は激震に包まれた。

誰もが世界の終わりかと感じる程の衝撃は数分間続きやっと落ち着いたと感じた時に兵士が見たのは・・・


「お、おい・・・山が・・・」


先程まで山が在った場所が谷となり一瞬で全てが蒸発してしまっていたのだ。

しかも兵士が気付いた時には既にこの世界に召喚されていた学生達は全てヒロシの手により元の世界に戻らされていた。

ヒロシは下手したらこの世界が滅んでしまうかもしれないと感じてこの場に居る黒髪の人間だけを全て元の世界へ送っていたのだ。

こうして、魔王が眠ると言われていた山は跡形も無く消え去りヒロシは残っていたぬるぬるねるねの最後の一口を食べながら別の世界へ移動を開始するのであった。

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