第2話 ダンジョンで一人地下へと落下する主人公

「今だ皆走れ!!」


孝明が巨大な魔物にスキル『武神連舞』を叩き込んでよろけたと同時に叫ぶ!

クラスの皆は孝明の声と共に階段へと走り出した!


「いやぁー!!孝明!たかあきぃいい!!!」

「あかね!孝明の気持ちを無駄にするな!」

「だって孝明がまだ・・・」


孝明に想いを寄せるあかねが戻ろうとするのを同じクラスメイトの浩二が止める。

それでもあかねは孝明の方へ手を伸ばして泣き叫ぶ。

昨日やっとその想いを伝える事が出来て返事を待っているあかねは浩二を睨みつける。

この地下奥深くへ転送されたのも浩二が欲を出して宝箱に飛びついたのが原因なのだ。


彼等は元々日本の高校生、授業が始まると同時に突然異世界へ転移させられ勇者として崇められた。

転移すると共に特殊な能力『スキル』をその身に宿しこの世界の危機を救う勇者として修行の為このダンジョンへ来ていたのだ。


「孝明ー!!走れー!!!!」


しんがりを勤めていた数名のクラスメイトが階段の手前で振り返り一斉にスキルを発動する!

各々持つ魔法系スキルが七色の光となってスキル硬直で動けない孝明を襲おうとする巨大な魔物に飛んでいく!

着弾と共に爆風で孝明は吹き飛ばされその直後硬直が解ける!


「助かったぜ皆!」


空中で1回転して見事な着地を決めてそのまま駆け出す孝明。

だが数名の同時スキル攻撃でも大したダメージを負っていない巨大な魔物はすぐさま爆煙から飛び出し孝明を追いかける!

階段下の数名はスキル硬直で動けず追撃を行う事が出来ない、悔しい顔を浮かべながら走る孝明を見詰める。

いくら勇者として肉体的にも強化されているとはいえその走る速度程度では後ろから追いかけてくる魔物から逃げる事は不可能であった。

そして、このまま行けば階段の下の連中も階段の途中のクラスメイトも追い付かれて皆殺しにされる。

そう考えた孝明は振り返って再び魔物に向けてスキルを発動する!


「喰らえ!『武神連舞』!!」


縦に振り下ろした軒筋とは別に斬撃が孝明の背中から様々な角度で魔物に襲い掛かり攻撃態勢であった巨大な魔物は切り傷を負ってよろける。

その時であった。


「『風神疾風』」


あかねの直ぐ横から放たれたスキル攻撃がスキル攻撃の硬直で動けない孝明に襲い掛かった!

対象に好きな方向で強風を吹かせるこのスキルは孝明を空高く舞い上げ魔物の後ろ、つまり階段とは反対方向へ吹き飛ばす。

驚きに包まれながらあかねが振り返ると浩二がそこに居た。

スキル硬直で動けなくなっている浩二にあかねの絶望の表情が突き刺さる。

そして、吹き飛ばされた孝明は地面を転がりスキル硬直が解ける。

体を起こして見上げるそこには魔物が立ちはだかっていた。


「グォオオオオオ!!!」


逃がさないと叫ぶように咆哮が上げられ孝明は身を硬直させる。

そこへ横から叩きつけるように魔物の腕が振られ孝明は横の壁に叩きつけられる。

その目にあかねの泣き叫ぶ姿が入り孝明は笑みを浮かべた。


「さよなら・・・あかね・・・」


そして、手にしていた剣を地面に突き立てた!


「『武神連舞』!」


まるで削岩機で地面を掘り進めるように次々と背中から出る斬撃が地面に突き刺さる!

残った力の全てを叩き込んだそのスキルは先程とは比べ物にならない程の数の斬撃が発生し地面が底を抜けた。

本来ならありえない程の破壊力であるがそれでも目の前の魔物には効かなかった事から魔物のステータスが異常だと理解できるだろう。

そして、地面が崩落すると共に孝明も魔物も地面と共にその奥深くへ落下していく。

孝明が最後に聞いたのはあかねの悲鳴であった・・・


「いやぁああああああああ・・・・」













「はぁ・・・はぁ・・・げふっ・・・まさか・・・あの高さから落ちて生きているなんてな・・・」


仰向けで寝転がる孝明、その真下にはあの魔物が横たわっていた。

偶然にもあの魔物が孝明の下になりクッションの役割を果たして孝明は助かったのだ。

それでもあちこちの骨は折れて内臓もかなり損傷していた。

どれくらい気を失っていたのか分からないが勇者の自然治癒の力でなんとか這って動ける位には回復していた。

魔物の体から転げ落ちるように地面に降りた孝明は少しでも魔物から離れようと這って移動する・・・


「こいつもまだ生きてるなんて・・・全く今日は最悪な一日だ・・・」


何とか壁まで辿り着いてゆっくり立ち上がり痛みに耐えながら壁沿いに進む孝明。

ダンジョンから帰ったらあかねに自分の気持ちを伝えて交際を開始する予定だったのにこんな事になった自分の運命を恨みながら進む孝明。

だが悪い事と言うのは続くモノである。


「ま・・・マジかよ・・・」


弱いとはいえ厄介なコウモリの魔物が多数天井に待機して孝明の事を見詰めていた。

孝明の流す血の匂いに興奮しいつ襲い掛かるかタイミングを見計らっているのだ。


「くそ・・・」


折れた左腕をダラリと垂らしながら右手で折れた剣を手にして孝明は壁にもたれながらにらみ返す。

そして、同時に数匹ずつ襲ってくるコウモリの魔物に体を何箇所も噛み千切られながら少しずつその数を減らす孝明。

既に噛み千切られた痛みなのか折れてる痛みなのか分からないまま孝明は戦い続けた。


「お・・・れ・・・は・・・い・・・き・・・る・・・ん・・・だ・・・」


コウモリを全て倒し終えた孝明は既に虫の息であった。

腹部からは内臓が出ており生きているのが不思議な状態である。

そんな孝明は最後の希望として意識を失わず自然治癒で生存できるまで何とか耐えようと意識を失わないように耐え続けていた。

意識を失えばそのまま死んでしまうのが分かっているのだ。

それでもその身に受けている傷は深く大きすぎた。

既に自然治癒が殆ど働いていない事を理解していない彼がここまで耐えれているのはあかねの想いがあったからである。

そんな孝明のぼやける視界に歩いている1人の男の姿が映った。


「はは・・・幻覚・・・とか・・・・もう・・・・・ここまで・・・・・か・・・・・」


そう考えるのも無理は無い、『酒井酒店』と言うエプロンをして帽子を被りながら手に持つ何かを混ぜるその男。

そうである、彼こそ酒井ヒロシであった。」

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