第4話 世界最高の絶望へ・・・

カランカラン・・・


ここはスナック大田、ヒロシの行きつけの酒場である。

真昼間から開いているこの店に入ると店内は薄暗くまだ開店していないのが直ぐに分かる。


「太田君、居るかい?」


酒井ヒロシはいつもの野球帽の様な帽子を取り胸元に当てて姿勢を正す。

少しして慌てているのにどこかゆっくりとした動きで1人の男が現れた。

そして、男は壁際のスイッチを入れて店内を明るくする。


「おおっ酒井さんじゃないですか?!」

「やぁ、また来たよ」


明るくなった店内には壁一面に帽子が掛けられここはいったい何の店なのか疑問を抱くほどである。

カウンター前の椅子に座り帽子を被り直したヒロシはフト気が付く。


「あれ?今日はいつものじゃないんだね?」

「あぁ、陰干し中なんですよ」


勿論それはこの店のマスターである大田の被っている帽子のことである。

彼とヒロシは古い知り合いで俗に言う帽子仲間と言うやつである。


「この時間に来たって事はいつものかい?」

「分かってるねぇ~」


大田の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべヒロシは太田を指差す。

座っているのにまるでジョジョ立ちをしているような姿勢に背中を丸めたヒロシの仕草にフッと笑って大田は準備をする。

取り出したのはシェイカーと呼ばれるスナックでお酒を混ぜる時に使われるやつである。

それに素早い手さばきで次々と粉末状の物が入れられ最後に袋を取り出し中身を注ぎ込む。

慣れた手付きで鮮やかにそれを両手でしっかりと持ってシャカシャカ振り出したその仕草をウットリと見詰めるヒロシ。

一見適当に振っている様にも見える仕草だが大田が行なっているのは、シェイカー内の物を全て均等に混ぜる為に動きに強弱をつけながら角度や手から伝わる温度の変化にも気を使った神業である。

それを理解しているヒロシはその動きに見とれていた。


「相変わらずいい動きしているね」

「酒井さんはやっぱり見えてるんですね」

「当たり前だよ~」


並みの一般人なら見逃すテクニックもヒロシの動体視力であれば簡単に見抜けるのである。

そして、シェイクが終わったシェイカーを透明のカクテルグラスの中へ流し込む大田。

店内に独特の香りが漂いヒロシの口内に唾液があふれ出す。


「はい、お待ち!」

「やっぱこれだよね~」


グラスを受け取ったヒロシは口を大きく開けて一気に口内へ流し込む。

そして、口を閉じてゆっくりと口内でそれを全て味わう。

たった一口で全て口に収まるくらいの量では在るがそれが逆にこのカクテルを最も美味しく味わう量なのだ。


「ん~!!!」


目を閉じてその味をゆっくりと満喫してゆっくりと飲み込むヒロシ。

はぁ~と再度開いた口からゆっくりと息が吐かれ自らの口から上がる香りに再度酔いしける。

そんなヒロシに口直しに小さな更に1粒の何かが出される。

表情が蕩けているヒロシはまるで子供の様にそれを手に取って口の中に入れる。

そして、またまた目を瞑ってそれを口の中でゆっくりと味わう。

至福!まさに至福である!

コロコロとそれが口の中で舌と共に踊り先程のカクテルの味を上書きしていく。

暫し堪能してすっかり満足したヒロシは最後に口直しに出された紅い液体を飲み干す。


「ぷはぁ~~~マジ最高だわ!」

「満足していただいた様で」


嬉しそうに子供の様にはしゃぐヒロシに大田は含み笑いしながら話しかける。

満喫したヒロシは今日の味わったモノの詳細を告げる。


「今日の『デュワカレー』に『深田飴』に『トメェイトジュース』美味しかったよ!」

「良く分かりましたね」


そう、最初に出されたのはかの有名なレトルトのデュワカレー、それに各種調味料と乾燥ラッキョを粉末にしたもの、次に出したのは薬局で買えるのど飴、最後に自販機限定で売っているのに中々見かけないトマトジュースであった。

普段はちゃんとした酒場なのだがヒロシは酒ではなくこれを好んで飲んでいた。

特にカレーは店内に匂いが広がってしまうので他のお客さんの迷惑になってしまうのを避ける為に営業時間外にやって来ていたのだ。

そして、ヒロシがここでカレーを味わうと言う事は・・・


「それで今から行くんですか?」

「あぁ、大田君には詳しく伝えられないけどこれから行って来るよ」

「では次回来た時はこちらの『バーニングカレー』を用意しておきますね」

「マジカー、これは無事に帰ってこないとな」


そんな会話をしてヒロシはカウンターの上に手を翳してそこに金貨を1枚置く。

これは異世界でヒロシが手に入れた異世界通貨の金貨で純金である、日本で売れば間違い無く数十万円はする物だ。

だが異世界ではこれは1万円程の価値しかなくちょっと強い魔物を狩るだけで手に入る。


「美味しかったよ大田君」

「いつもありがとうございます酒井さん」


立ち上がってアホウによって取り出した酒井酒店の前掛けを腰に巻いてヒロシは店を出て行く。

金貨1枚の支払いは高いと思われるかもしれないが酒場で普段扱わない物を提供してくれた上に匂いなどの後始末までしてもらうのでいつも奮発しているのだ。

その為、大田も文句一つ言う事無くヒロシを笑顔で出迎える。

まさにWINWINというやつであった。


「さて、んじゃ行くか!」


スナック大田から出たヒロシはいつもの路地裏の袋小路に入り、壁に得意のアホウ(亜空間連結次元魔法)を使って光の扉を設置する。

そして、そこを潜った場所に立ちヒロシは空を見上げる。

まるで月の様な植物が一切生えていない大地に地平線の上は宇宙が広がるこの世界、空に浮かぶそれを見上げる。

ヒロシが別の世界で倒した大きな魔物達が首からしただけで空中に何体もぶら下がっている。

ヒロシが様々な異世界を旅して巨大な魔物をアホウにより胴体だけ沈めて倒した残りが浮かんでいるのだ。


「よし、まだのようだな」


そう言ってヒロシは地面にレジャーシートの様な物を敷いて枕を置いてそこに寝転がる。

目の前に広がる星空と巨大な魔物の姿だけがヒロシの目に入るその姿勢のまま数時間ヒロシは仮眠を取る。

これもいつもの事でヒロシはソレが来るのを待つのである。












2時間ほどが経過してヒロシは何かを感じ取ったのか目を開いた。

空に浮かぶ魔物の体がまだ残っているのを確認して立ち上がり気配のする方向を見つめる。


「来たな・・・」


最初は小さな黒い点がこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。

それが徐々に大きくなりやがてその姿が現れる!

全身真っ黒で寄生虫の様な物が全身を駆け巡っている巨大な龍である。

そいつはその巨大な口を大きく開いて空に浮かぶ魔物達を一気に喰らった!


「待ちくたびれたぜ、今日こそは狩らせて貰う!」


ヒロシが両手を左右に広げる、すると空中の物凄い数の光の扉が出現しそこから次々と竜が飛び出してくる!

だが全長10メートルはあるヒロシが呼び出した竜達であるが前に立つ真っ黒の巨大な龍のサイズは規格外である。

まるで星よりも巨大なその巨大な龍相手に竜達が一斉に口内にエネルギーを溜めて一斉に放つ!

そう、この竜達はヒロシが様々な異世界で手懐けた各々の世界の最強種であるバハムートである。

一斉に数千のバハムートから放たれるメガフレア!

それが黒い巨大な龍の体に着弾するがまるでそれを動じない黒い巨大な龍はそれを無視してヒロシの方へ顔を向ける。


『小さき強き者よ、我に再度挑むとは面白い。少しは楽しませて貰うとしよう』

「あぁ、今日こそはお前を狩る!覚悟しろデビルバハムート!」


念話でそうヒロシに告げたデビルバハムートは両翼を広げた。

翼だけで星よりも巨大な翼が広げられ近くに在った星に激突しその星の軌道が変わっていく。

それも互いに気にする事無く見合うヒロシとデビルバハムート。

そして、広げた翼に緑の光が流れ込みデビルバハムートの背中が光りだす!

この間も次々とヒロシの出したバハムートはメガフレアで攻撃を繰り返すがまるで効果が無いように思えた。


「くそっこの程度の火力じゃだめか!」

『小さき強き者よ、これに耐えて見せよ!』


そう念話で告げたデビルバハムートの口が広げられヒロシの方を向く!

そして・・・


『ギガフレア!』


デビルバハムートの口から放たれた巨大なビームがヒロシの立つ地上を掠めるように数千のバハムートを飲み込んで放たれる!

そのビームは止まる事無く後方の星々を飲み込んで遥か彼方まで飛んでいく。

この一撃で百以上の星がこの瞬間消滅するのであった・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る