第2話「こちらゲスコン! ~夢と魔法の王国より~」第一話 まなみん様作(現代ドラマ)
ダダ漏れ感想、第二回は、まなみん様の作品です。
「こちらゲスコン! ~夢と魔法の王国より~」(現代ドラマ)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884070145
今回は第一話のみの感想です。(筆者は第二話まで既読です)
ジャンルは登録情報では「現代ドラマ」となっていますが、物語の内容的には、異世界に行ったり戻ったりを繰り返す、ファンタジー性の高い作品です。
初め、ゲスコンて何や? ってなりましたが、作品を読み始めると、すぐ分かるように、ゲスト・コントロールの略称だそうです。夢と魔法の某テーマパークで、お客さんの誘導をしたり、案内をしてくれるスタッフさんの役職名です。
この作品は、その、某テーマパークのスタッフさんが、夢と魔法の異世界にトリップしてしまい、お仕事スキルを使って、異世界の問題を解決していくという、職能ドラマなんです。しかも作者さんは夢と魔法ランドのお仕事経験者さんとのこと。まさに守秘義務ギリギリの職能ドラマです(汗)!
わたくし、筆者はですね、夢と魔法ランドには深い縁があります。自分も子供時代、このテーマパークが大好きでしたが、夫と結婚する前、彼がまだ彼氏だった頃にですね、軽い気持ちで、彼がまだ行ったことがないという某テーマパークに一緒に遊びに行きました。彼は渋々着いてきたんですよ。一回目はね? それがパークにインしたと同時に魔法にかかって、彼の目の中にお星様が……。
以来、二十年くらいになりますが、年一回は基本。ひどいと年三回ぐらい行きます。京都からです。鼠に搾り取られてます。フツーにマニアです。
何度も行きますので、パーク内でいつもお見かけするスタッフの方々のご苦労みたいなのは、何となく察しがつくというものです。この物語は、いつも笑顔でテキパキと人員整理する、あの人達が主役のお話なんだな!? というだけで、何やら胸熱になるんです、筆者は。
しかもわたくし、この作品の第一話を、当の某パーク内で読み始めました。わざとです、もちろん。物語の現場、いわゆる「聖地」へ行って読むとは、なんて贅沢なのでしょうか。
前置きが長くなりましたが、物語の第一話は、ガラスの靴を落としていくお姫様のお話……ではありません。彼女と恋に落ちる予定の、王子のほうの物語です。そして彼を救う異世界から来た勇者として活躍するゲスコン、平澤ありす(25)の物語なのです。
ありすちゃん。頑張ってよく働いている、ごく平凡な中堅ゲスコンです。仕事が好き。夢のある職場。でもこの仕事を一生続けていけるんだろうか? そういう苦悩も胸に秘めている、まだ若い女性です。夢と魔法ランドにもある現実。そう言う対比がリアリティをもって描かれています。
そう言うと、社会派ドラマなのか? という重たい印象を持たれるかもしれませんが、いいえ全然。めちゃめちゃ軽快です。物語は主人公ありすの一人称。明るい語り口で、さくさく進んでいきます。夢と魔法の現場で読むと、ものすごい臨場感があり、今まさにバックヤードのどこかで、ありすが異世界にトリップしてんじゃないかと、ワン◯ンズ・ドリーム観ながら思いました。(当日分の抽選が当たったの。ツイてましたね!)
敢えて難点を挙げるとすれば、私のようなマニア客層には、たまらん臨場感と、裏話感のあるこの作品ですが、もしかしたら、某パークって何? という読者さんには、ちょっと分かりにくい面があったかもしれません。テーマパークやゲスコン業務のリアリティを高める専門用語や、テーマパークあるあるの場面も、もしかすると、私がまざまざと想像できるほどには、目に浮かばない人もいるのかもしれないなという気はしました。描写や解説がもっとあってもいいのかもしれないな、って。
ですが、それをクドクド書くと、この物語の軽快さが失われてしまう気がして、「ま、いっか」と思いました。「皆、知ってるだろ! 某テーマパークだぜ? シンデレラだぜ?」って。その現場に立って、パークのシンボルである、あのお城を見上げる気分で読む作品だと思います。見たことある人は思い出の中の、まだ見ぬ人は空想の中のテーマパークにまず遊びにいって、そしてそこから異世界へ。
物語の中の現実から、異世界へ移る時の演出が秀逸だなと思いました。物理的衝撃、つまりドツかれてトリップする仕様で、すごくコミカルなんですが、主人公ありすはその直前、自分が今の仕事を続けられるのかと真剣に悩んでいます。その悩みに答えるように、彼女は召喚されて、ほんまもんの夢と魔法の物語の世界へと飛んでいってしまうんです。現実にある夢と魔法の国から、夢と魔法が現実である国へ。その対比が面白くて、大好きでした。
私は小説執筆のほうでは長年、ファンタジーが専門です。ファンタジー小説にはいくつかの見どころがありますが、そのひとつがこの、現実と幻想の境目にあたる部分。現実がすうっと消え、読者の目の前に幻想の世界が立ち現れる瞬間です。書き手さんの技量やセンス、物語の主題が現れる場所でもあるので、刮目して見るべきところ。そこが上手けりゃ、その書き手さんは上手いのです。
ゲスコン第1話で、「上手いな」と思ったのも、まずここです。
自分の将来について悩んでいる主人公ありすが異世界に召喚され、そこで出会った人物に言われます。助けろ! お前は救世主だぞ! って。
はあ? だわ。自分の将来もどうしていいか分からない悩める25才女子に、他人を救ってる精神的余裕なんぞねえわ!
いいえ。そうじゃないんです。ファンタジーの王道とはそういうものなんです。自分自身、大きな問題を抱えた主人公が、うわあああって異界に連れていかれて、そこで異界の問題解決に当たることで、同時に自分自身の問題をも解決する。それが「行きて帰りし」正統派のファンタジーの代表的な構造とされています。
ゲスコン、正統派や!?
筆者、びっくりしましたね。某パークでパレード待ちしつつチュロス食いながら読んで。こ……これ正統派や!? ってなりました。
とてもライトで、あっけらかんとした読み口の、笑う所満載のとっつきやすーい作品なんです。それが構造的にはバリバリの王道、正統派だよって思って。ニヤリってなりました。長年のファンタジー読みも唸らせる盤石の構造を持った作品だと思います。
では、勇者ありすよ。この世界を救ってもらおうやないか!
そこで肝心なのが、主人公が解決すべき問題。救うべきものは何かです。それは異世界の問題であると同時に、主人公自身の問題でなければなりません。王道、正統派を貫くのならばです。
そう思いつつ読み進めて、第一話で主人公が解決すべき問題が明らかになったとき、わたくし再びニヤリってなりました。王道ファンタジーの基本構造がしっかり守られていました。「ファンタジーが分かっている人」が書いている小説です。もうこれ大丈夫だわ。絶対に面白いわって、そのあたりで分かるってもんです。
正直、オンノベには書き手さんの巧拙によって品質のバラつきがあるものです。ここまで面白かったのに、途中からグダグダみたいなのも、無いとは言えません。でもこの作品は大丈夫ですよ。
平澤ありすは、自分の職業的なスキルを駆使して、精一杯の努力で、異世界の問題を解決しました。それは、ネタバレかもしれませんが、「王子は王子でいることを要求されて辛い」という、すごく等身大の人間らしい心の問題でした。そこに読者も、すごく感情移入できると思います。
彼は自分が王子であるという運命を受け入れて、青いドレスのお嬢さんと踊ることができるのでしょうか? ありすはそれを、どうやって助け、導いて、彼と彼の世界を救うことになるのでしょうか。そこはネタバレはせず、ぜひご自身で読んで確かめていただきたいです。ありすは他者を救い、それを通じて自分自身も救って、一回り大きな人間に成長して、現実の職場へと戻っていくのです。まさに正統派の勇者の姿と言えます。その主軸により、強い背骨のある物語として成立しています。
他方で、王子とシンデレラが出会うシーンの演出が素晴らしいです。まるで舞台芸術のような、光と影の演出があり、確かにこれは某テーマパークで日々、ショーやパレードを見て働いていた人が書くような小説だと感じました。コミカルで、ドタバタしたりドツき合うたりと、面白おかしい場面も多いんですが、いざという見せ場では、夢のような魔法がかかった、ショーアップされた名場面を見せてもらえます。その一場面を見るためだけでも、読む価値のある第一話でした。
書き手にはそれぞれ、自分にしか書けない物語があると言われていますが、それは自分が歩んできた人生から出てくる物語ということかと、筆者は常々思っています。ゲスコンはまさにそうですね。この作者さんだからこそ書ける、強い独自性のある物語だと感じます。
ところで平澤ありす(25)には、オネエの相方がいます。彼女の新人時代からのトレーナーであり、先輩ゲスコンである、マキちゃん(29)(男性)です。イケメンなんだけど、言葉がオネエなんです。何でオネエやねん!?
オネエだからでしょう。それに深い意味があるのか無いのか、第1話ではまだ分かりませんが、そのキャラクター設定がものすごく魅力のある人物です。ありすは彼のサポートを受け、二人で協力して問題解決にあたるのですが、その関係によってこの作品はバディ小説でもあり、先輩と後輩、あるいは師匠と弟子の物語としても展開していきます。引き出しの多い作品ですね。
ありすとオネエの恋物語としても展開していくのか? とも思ったんですが、作者さんによる作品紹介文には「バトルもラブもありはしない。あるのはひたすら職業技術(ジョブスキル)のみ!」と書いてありました。仕事しかしねえんだ!? オネエめっちゃグイグイ来るんですが、小説のお約束としては、こいつぜったい主人公と最後らへんでデキるんだ、っていう色香がむんむんなんですが、そんなもの無いから! 思わせぶりなだけなんだ!?
それもまた味わいですね。世の中、恋愛が全てじゃないですよ。仕事しろ平澤!
なんかそういう働く女子のハードボイルド小説みたいなんです。すごくいいな。ありす、正社員になれるのかなあ。筆者、ひたむきで可愛いありすが心配で、親戚のおばちゃんみたいになってきました。でも、なれてもなれなくても、好きで働いた時間は、人生の糧になると思います。若い頃に一所懸命にやったことは、大抵は、無駄にはならないもんですから。なんかいいなあ、働くのっていいなあ、若いっていいなあ……ってなる、胸熱な職能ファンタジーでした。
第2話も楽しみです。オネエほんまに彼氏とちゃうの? あなたちょっとオネエに甘えすぎよ? そんな甘えさせてくれる優しい上司ってええなっていう、上司萌えもあるんだ。多いなあ、引き出し。一体いくつあるのでしょうか? ぜひ読んで、ゲスコンまなみん様の、夢と魔法のイリュージョンを面白おかしく体験してみてくださいね。
そんな夢と魔法の入り口は、こちらです。
「こちらゲスコン! ~夢と魔法の王国より~」(現代ドラマ)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884070145
第二話には別立てで、がっつり感想を書きたいと思います。今回はこれまで。最後までお読み下さり、ありがとうございました。
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