第35話


 マリア<タケル殿、あんまりです! 私を置いて行くなんて! 極悪人! 薄情者! 女泣かせ!>


 ・ただ今のお時間を持ちまして、イベントクエスト参加受付を終了とさせて頂きます。

 ・遂にイベントクエスト開幕だ! みんなで力を合わせてヤマト国を守り抜こう! 残り179分。


 運営からのメッセージとマリアさんからのお叱りメッセージが同時に届いた。

 視界にヤマト国とその周辺のマップを表示させ、自分の担当である東門と北門は勿論、西門と南門もマップで確認しながら対応する。

 僕の視界はかなりごちゃごちゃとしているのだが、マップやメッセージは調整して出来る限り透過させてあるので、マップやメッセージの向こう側が見えないという事はない。

 東門と北門を僕が担当したのには理由がある。

 南門は遥か先まで視界が良好で、モンスター達が身を隠す場所がないので、メンバー達が不意打ちをくらう心配がないのだ。

 西門も同様で平野が続いているのだが、城門の一キロメートル程先から湖が広がってる。

 そして東門と北門は厄介な事に、城門を出て百メートルにも満たない場所から広大な森が広がっていて、メンバー達だと目視での確認が遅れる可能性があった。

 まぁ僕の場合はマップ上で敵のアイコンが表示されていれば、目視で標的を捉える事が出来なくても【雷の弾丸ブリッツバレット】で蜂の巣にしてやれば対応出来ると思う。

 いつでも瞬間移動出来るように、南門から城壁の外周をぐるりと反時計回りに、東門、北門へと全力で移動を済ませ、未だ敵の姿は確認出来ないのでもう一度南門へと瞬間移動で戻った。


 「タケルー、何だか凄い言われようだけど、マリアさんに何をしたんだ?」

 「アスモデウスとの連絡役に、西門に置いて来たんだよ」

 「はは、そりゃ可哀相に。マリアさんはアスモデウスを見たの、今回が初めてだろ?」

 「うん。そうだよ――って、どうやらお喋り出来るのもここまでみたいだ。遂にモンスター達が現れたよ」


 僕はヤマト国を中心に半径二キロメートル程の範囲で索敵マップを表示させているんだけど、四つの方角に二ヶ所ずつ、計八ヶ所からモンスター達が大量に湧き出て来た。

 距離は城門から凡そ五百メートルくらいの場所だ!


 「みんな、気を付けて! あっちの方角から大量に……」


 自分が指を差した方向を見て、言葉を失ってしまった。

 南門は視界が開けていて――いや、開けていなくても余裕で確認出来る程巨大なモンスターが四体居る。

 自分の両目の遠近法が馬鹿になってしまったのかと思い、両目をゴシゴシと擦ってみたけど、やっぱりモンスターの大きさは変わらなかった。

 全身薄汚い芥子色からしいろの肌で、粗末な茶色い腰蓑を身に着け、両手に背丈程の長さもある金棒を握り締めた一つ目の巨人が四体、大地を揺らしながらこちらに向かってのっしのっしと歩いて来る。

 

 ……に、二百メートル級って、こんなのアリかよ。


 「はは、……じゃ、みんな頑張って」

 『頑張って、じゃないわよ! あんなのどうやって戦えばいいのよ!』


 やさぐれた顔を近付けて来てREINAが文句を言って来た。


 「アイツ等の足もとにも大量にモンスター達が居るから気を付けて。それとデカいのから仕留めないと、あの金棒で城壁ごと破壊されちゃうから」


 アドバイスを残して僕は自分の担当場所である東門へと瞬間移動で向かった。

 デカさには度肝を抜かれたけど、みんななら何とかなるだろうと思ったからだ。


 「くるみ、大丈夫か?」

 「うん平気。もう慣れたから」


 くるみを背中に背負ったまま移動を繰り返していたので、瞬間移動酔いを心配して聞いてみたけど、どうやら大丈夫みたいだ。

 あのデカさのモンスターが突然視界に現れたって事は、四方向にある計八ヶ所のモンスター達が出現する場所には魔法陣でもあるのだろうか。

 確かめに行ってもいいけど、まずは北門と東門の安全を確保してからだな。 

 東門からも同じく四体の巨大なモンスター、『ギガントオーガ』という名前の奴が確認出来るので、恐らく西門と北門にもそれぞれ四体ずつ出現しているのだろう。

 

 よし、行くぞ!


 右手で【雷の弾丸ブリッツバレット】を連射しつつ、東門からモンスター達目掛けて森の中へと突っ込んだ。

 どうやら僕の【雷の弾丸ブリッツバレット】には、かなりの貫通性能も備わっているみたいで、視界には映らないけど索敵マップで森の奥に表示されている敵のアイコンが次々と消滅して行く。

 目の前の巨木達も次々と刈られては弾け飛び、木片や葉っぱを辺りにまき散らす。

 倒木すらも粉砕し続けると徐々に視界が開け始めた。

 ギガントオーガも足を撃ち抜かれたのか、雄たけびを上げながら前のめりに巨体を倒し、その体で森の木々や足もとに居たモンスター達をも薙ぎ倒す。

 巨体が地に沈んだ衝撃で大地が激しく揺れたのだが、お構いなく【雷の弾丸ブリッツバレット】を連射し続けているとギガントオーガ達は呆気なく力尽きて行った。

 ……何だよ、完全な見掛け倒しだったな。……て、そりゃ【雷の弾丸ブリッツバレット】を倒れた体に二、三十発もぶち込めば大体の奴は倒せるか。

 東門は脅威の排除に成功したので、すぐさま北門へと瞬間移動で向かう。


 北門ではモンスター達が近くまで迫っていたので森には行かず、城門前から【雷の弾丸ブリッツバレット】を連射し一掃する。

 遥か遠方からも続々とギガントオーガが地に沈む音と振動が僕の所まで伝わって来ているので、各自撃破に成功しているのだろう。


 しかし先程からメッセージが引っ切りなしに更新されている。


 シャーロット<020うめおにぎり05さがれ!

 シャーロット<020うめおにぎり01HPかいふく


 中でもこの二つのメッセージがやたらと目に付くのは気のせいだろうか……。 


  

 マリア<タケル殿、このアスモデウスは凄まじい強さですよ! まさしく一騎当千の働き。槍一本でモンスター達を次々と撃破しています!>

 タケル<大魔王直属の四天王の一人らしいからねー。マリアさんは大丈夫?>

 マリア<はい。私は城門脇の植木の中にひっそりと隠れていますので、何も問題ありませんよ>


 マリアさんからの報告では、アスモデウスも期待通りの働きを見せてくれているみたいだな。

 僕とくるみは念の為に、モンスター達の死骸を手分けして魔力石へと封印している。

 メンバー達のMP回復分が足りないかもしれないからだ。

 敵が出現する場所というのは今のところずっと同じで、僕の担当では東門と北門それぞれ城門から五百メートル程離れた場所二ヶ所ずつなのだが、モンスター達もポツポツとしか出現しないので、城門近場のモンスター達の封印はくるみに任せ、僕は少し離れた場所のモンスター達を封印してまわる。

 幸いな事にくるみの『悪魔召喚』と『吸血』のスキルはどんどんとLVアップしているみたいで、アスモデウスを呼び出し続けられる時間もかなり長くなっている。


 くるみ<お兄ちゃん、そろそろ迎えに来て>


 こうやってくるみから連絡が来れば直ちにお迎えに向かい、くるみを背中に背負う。


 「むはっ。……何だかさ、みんなの方は忙しそう、っていうかちょっと楽しそうだよね……」

 「……そうだね。今のところ僕達はただの作業でしかないからね」


 そして……僕達二人は何故か疎外感に苛まれていた。


 「い、今のところモンスター達も少ないし、今回収した魔力石を置きに行くついでに、ちょっとだけ様子を見に行こうか?」

 「うん! 行こう行こう!」


 淋しさのあまり、適当な理由を付けてみんなの所へと向かう事にした。

 ……仕方ないじゃん。メッセージがバンバン入って来るんだよ! 楽しそうなんだよ!





 ……大激戦だった。

 入って来るメッセージや索敵マップで見たモンスター達の数等で苦戦しているのかなー? とは思っていたけど、想像以上に大苦戦だった。

 城壁の傍では芥子色の巨体が四体転がっているので、何とかギガントオーガは撃破出来たみたいだけど、城門はボコボコに凹まされ、城壁の瓦礫があちこちに散乱している。

 ギガントオーガの死骸が邪魔でメンバー達の陣形も大きく乱され、前衛は陣形から孤立しており、ルシファー、梓ちゃんさん、シャーロットの三人はモンスター達の集団に囲まれている。


 何でこんな事になったんだ?


 とにかくシャーロットに話を聞こうと思い、シャーロット達を取り囲んでいる二十数匹のモンスター達を【放電】で瞬殺した。


 「ちょっと、何があったのさ? ヤラレ過ぎじゃない?」


 薙刀を手にルシファーと梓ちゃんを守っていたシャーロットに話し掛けつつ、ギガントオーガの死骸を魔力石へと封印しようと手を伸ばした。


 「タケルはん、あきまへん! そいつ等はそのままにしておくんどす!」


 しかしシャーロットにきつく止められてしまった。


 「何で? 城門の前にこんなデカい死骸があったら邪魔じゃないか」

 「そうどす、邪魔なんどす。でもウチ等が邪魔やて思てるう事は、モンスター達から見ても邪魔なんどす。こない大きい死骸やったらそれだけで新しい城壁の代わりになるんどす」


 へー、成程ねー。やっぱりシャーロットは賢いな! ……でもそういう事なら。


 タケル<みんな、ちょっとギガントオーガの死骸から離れてくれる?>


 くるみを背中から降ろし、メッセージで注意を促してから、前のめりで転がっているギガントオーガの大きな手に近付き、巨大な金棒を握っている指を一本ずつ雷切丸で斬り落として行く。

 ドスン! と金棒が地面に転がった事を確認してから、指のないギガントオーガの手を引っ張り、ボコボコになった城門の位置から西側へ百メートルくらい移動した場所に、城壁に対して体が平行になるように移動させた。

 足や横っ腹を蹴飛ばして真っ直ぐに整え、デカブツは『気をつけ!』の姿勢で仰向けに寝転ばせてある。

 巨大な体を引き摺った事によって、大地は大きく抉られてしまったのだが、まぁそれは仕方ないか。

 同様に残りの三体、城壁に顔から突っ込んでいる奴と、恐らくルシファーにやられたのであろう全身黒焦げの奴、足と腕が片方ずつ失われ顔面が崩壊している奴も、それぞれ手から金棒を離させ、城門から西側に一体、東側に二体、それぞれ城壁前へ平行に並べ、城門前にだけ二百メートル程の間隔が開けられた即席の城壁が、城門から見て左右に約四百メートルずつに亘って完成した。

 そして今度は地面に転がっている金棒を移動させる為に、金棒の大凡の重心となりそうな場所へと向かい、よいしょ! と持ち上げた。

 金棒に付着していた土やモンスターの死骸等がボタボタと地面に落ちながら、巨大な金棒が宙に浮かび上がる。

 長さはギガントオーガの身長とほぼ同じくらいで二百メートル程。そして持ち手の部分は少し細くなっているんだけど、それでも直径で八メートル程はある。

 相手を殴りつける場所には三角の突起が幾重にも連なっているんだけど、こちら側は更に太くて直径十五メートル程もある。

 この金棒が持ち上げられてしまうのだから、自分の身体が怖い。

 ……現実世界リアルでも持ち上げられてしまうんだろうなー。……いや、現実世界リアルだと地面が重さに耐えられないか。

 

 タケル<今度は城門前から暫く離れててー>


 回復部隊の皆に注意を促し、メンバー達が慌てて移動し終わった事を確認すると、金棒を頭上に担いだまま城門前までドスドスと移動する。

 丁度この金棒が入る隙間を開けてギガントオーガの死骸を並べておいたので、巨大な頭が邪魔して閊える事もなく、人ひとり分程の隙間を開けて敷き詰めたギガントオーガ達の間に金棒を降ろすと、ズシン! と大地を揺らしながらも無事に収める事に成功した。


 タケル<ちょっと自分担当の城門の敵を排除して来る。すぐに戻るよ>


 マップで確認していた北門と東門にそれぞれモンスター達が迫っていたので、くるみをシャーロット達のもとに残したまま瞬間移動で持ち場に戻った。

 

 自分の持ち場である東門と北門のモンスター達を【雷の弾丸ブリッツバレット】でサクサクっと片付けている最中、様々な内容のメッセージが飛び交っているのだが、メンバー達のメッセージの内容が酷い。

 僕はみんなの事を思って手助けしたのに、変態だとか常識外れだとか頭がおかしいだとか化け物だとか女泣かせだとか無茶苦茶言われている。酷くない?

 シャーロットが巨大な死骸は城壁の代わりになる! って言うから城壁前に並べてあげたんじゃないか。


 マリア<タケル殿、一体何をやらかしたのですか?>

 タケル<みんなを手伝っただけですよ! みんなが酷いんですよ>


 因みにこのメッセージはマリアさんと個人でやり取りしているので、メンバー達は読んでいない。


 マリア<そうなのですか? それと今の内に私がイスタリアで見て来た事をお話ししておこうと思うのですが大丈夫ですか?>

 タケル<ええ、全然大丈夫ですよ>


 城門前の森は僕の【雷の弾丸ブリッツバレット】によって粗方刈り取られていて、かなり見通しが良くなっている。

 モンスター達もほぼ駆逐し終え、今からシャーロット達のもとへと戻ろうとしていたところだ。


 マリア<軍神オーディン達はギルド組織だった『戦場の女神ヴァルキリーア』を自身のパーティー名にして、三十名程で行動しておりました。そしてイスタリア内中央にある広場にて集結していた大勢のプレイヤー達と、最初は話し合いをしていました>

 タケル<街中での攻撃不可ルールが解除されている事を知らなかったのだろうね>

 マリア<ええ。ヤマト国だけでなく、イスタリアでも解除されていたのには驚きましたよ>


 そこなんだよなー。ヤマト国はイベントクエストがあるからその都合で攻撃不可ルールが解除されている、というのは理解出来るんだけど、何故イスタリアでも攻撃不可ルールが解除されているんだ?


 マリア<距離が遠くて会話の内容までは聞き取れませんでしたが、シュトゥーカ大佐と集結していたプレイヤー達が戦場の女神ヴァルキリーアを取り囲むようにして話し合いを続けており、辺りには険悪なムードが漂っておりました。この時軍神オーディンの手下の一人が不自然にきょろきょろと辺りを見渡していたので、恐らく鑑定スキルを使用していたのだと思います>

 タケル<シュトゥーカ大佐、えーっと諜報機関で働いていた人だったかな? その人達の中に居る救世主スキル持ちを探していたのかな?>

 マリア<恐らくそうだと思います。その後暫くして話し合いが終了し、シュトゥーカ大佐と軍神オーディンは、一旦はお互いがその場を立ち去りました。そして軍神オーディン達は大勢に囲まれながら聖の大神殿へと誘導されて行ったのですが、大神殿へと入る際戦場の女神ヴァルキリーアのメンバーの一人が、取り囲んでいたメンバーの一人へ故意に肩をぶつけたように私には見えました>

 タケル<うわー、嫌な奴だなー。何処の世界にも居るんだなーそんな奴>

 マリア<こういった『プレイヤー相手に故意に体をぶつける』等の武力行為は、通常だと未然に運営側に防がれてしまい、体が動かなくなってしまう物なのです>

 タケル<へー、そうなんだ>


 街中での攻撃なんてやった事なかったし知らなかった。でも未然に防ぐって……運営側のシステムって一体どうなっているんだ?

 体の電気信号を解析でもしているのか、或いは……人の思考の先を行く、って事? 未来予知もそうだけど、雪乃さんはそんな事まで可能にしてしまったのか?


 くるみ<お兄ちゃん、そろそろお迎えー>


 っとと、長居し過ぎた。くるみからメッセージが入ったので、まずは瞬間移動でお迎えに向かおう。

 アスモデウスを帰らせてしまうわけにはいかないからな。


 マリア<全てのプレイヤー達が一瞬だけ戸惑いを見せたものの、軍神オーディンが左右の腰から二本の刀を抜くと、そこから一気に戦闘行為へと発展しました。軍神オーディンは三十名程居たメンバーの半分を神殿内部に残し、転移門を守らせたのです>


 背中にくるみを背負い、改めてシャーロット達の戦況を確認すると、先程とはうって変わり著しく好転していた。

 よしよし、これで暫く大丈夫だな。


 マリア<軍神オーディンは魔法を覚えていないのか、あくまで両手に握った二本の刀のみで戦っていましたが、なかなかの動きでしたよ? まぁタケル殿には遠く及びそうにもありませんでしたが>

 タケル<でも警戒はしておくよ。何があるか分からないからね>

 マリア<そうですね。私はここまでしか偵察出来ていませんが、恐らくシュトゥーカ大佐もやられてしまっている事でしょうし、救世主スキルが軍神オーディンのもとへ大量に集まってしまったのだとすると厄介でしょうね>

 タケル<うん。でもマリアさんが偵察してくれたお陰で色々な事を知る事が出来ましたよ。ありがとうございます>

 マリア<いえいえ、とんでもないですよ。私達もタケル殿には感謝しているのですよ。殿下の事、これからも宜しくお願いします>

 タケル<はい。それは勿論。ではそちらの状況に変わった事があればまた連絡下さい>


 マリアさんとメッセージのやり取りを終えて、足もとに転がっている浩太君に【シャイニングオーラ】を唱える。……はぁ。

 何故浩太君は回復させて貰っていないんだ? と一瞬だけ考えたけど、戦況が好転しているので何となく理解出来てしまい、自然とため息が零れてしまった。


 「タケルはん、その男は回復させたらあきまへん! ウチ等みんなの邪魔ばっかりするんどす!」


 シャーロットが薙刀を構えて浩太君に襲い掛かろうと迫ったので、シャーロットの腰を後ろから両手で抱え上げ、まぁまぁ抑えて抑えてと宥めながら僕の背後に浩太君を隠した。

 

 「ウチは最初、モンスター達をヤマト国側に引き付けて、ルシファーはんの魔法で一気に片を付けようとしたんどす。ほな急にその男が『俺が一番乗りだー!』って叫びもってモンスター達に突っ込んで行ったんどす!」


 未だ僕に腰を抱え上げられたままのシャーロットは、薙刀をブンブンと振り回している。


 「仕方あらへんさかい、急遽源三はん、和葉はん、REINAはんに前線で応戦してろうたんどす。せやけど前線でもチョロチョロとみんなの邪魔ばっかりして全く役に立たへんどころか、吹っ飛ばされてルシファーはんの魔法を放つコースを何度なんべん何度なんべんも遮って邪魔するんどす。お陰でこの有り様どす!」


 怒りの収まらないシャーロットは薙刀での攻撃は諦め、徐に片足のブーツを素早く脱ぎ、振り被って投げ付けると見事浩太君の頭に直撃した。……ナイスコントロール。


 「あだーっ! 違うんだよ、全然ワザとじゃないんだよ!」

 「嘘吐きなはれ! 挙句、何度なんべん回復させてもすぐボコボコにされてくるし、ウチ等の護衛に回ってくれてたMIKOTOはんを前線に向かう途中で蹴り飛ばす始末どす。この男はその辺で転がしておく方がみんなの為どす!」


 更にもう片方のブーツを脱ぎ、浩太君へと投げ付けると今度は顔面を捉えた。……シャーロットはコントロール良いよな。


 「ごふっ! ゴメンって! もう勝手な事はしないから許してよー」

 「……と、『投擲』スキルと『命中』スキルが貰えたどす」


 両手の中に納まっているシャーロットは、新たなスキルが身に付いた事ですっかりと大人しくなってしまったので、ゆっくりと地面に降ろし、投げ付けられ転がっていたブーツを回収して渡してあげた。


 「それで? 何で浩太君は勝手な行動を取ったの?」

 「いやそれがさ、多分山田君がモンスター達を大量に倒したからだと思うんだけど、LVが急にいっぱい上がったんだよ。だから僕でも活躍出来るかなーって思ったんだよ……。でもそのお陰で僕も『物理ダメージ減少』っていうスキルが身に付いたよ」

 「ちゃんとシャーロットの指示を聞かないと駄目だろ? ……でもシャーロットも浩太君も新しいスキルが身に付いて良かったじゃん」


 くるみを背負ったまま話し込んでいると、前線で戦っていた源三、和葉、REINAの三人が笑顔で僕達のもとへと駆け寄って来た。


 「おい聞いてくれよタケル、俺に初めて戦闘スキルが身に付いたんだ! しかも三個だぜ? 三個! 『近接武器』と『物理攻撃』、『大剣』スキルだ。くー、俺も成長してるなー!」


 へ? ホントに?


 『聞いてよタケル君、私の水魔法がLV2に上がったの! しかも聞いて驚かないでよ? 『近接武器』スキルと『物理攻撃』スキル、『剣技』スキルが新しく身に付いたのよー! ラララ―!』


 やさぐれ顔のパンダが美声を放ちながら狂喜乱舞で踊っている姿は、ハッキリ言って怖い。

 ……しかし異常過ぎるだろ、みんな一気にスキルが身に付き過ぎじゃね?


 「師匠、アタシも『近接武器』スキルが貰えたよ? これって――」

 「うん。何かがおかしいね」

 「タケル君、私も大量のスキルが手に入ったよ! 『近接武器』、『近接格闘術』、『回避』、『素早さ上昇』、『攻撃力上昇』、『物理攻撃』のスキルよ。どなっちゃったの?」


 僕の所へと駆け寄って来る際、浩太君を背後から蹴り飛ばした美琴さんはスキル獲得ラッシュだった。

 先程シャーロットが浩太君に蹴り飛ばされたと言っていたので、多分そのお返しだな。


 「私には『魅了』スキルが付いたわよ?」


 源三の背後からひょっこり現れた加奈子さんが教えてくれた。

 ……何故『魅了』? 攻撃はしていないのか? でもこれで何となく分かったぞ。

 後方で待機している回復部隊と、一人LVアップの舞を舞っているルシファーも、僕達のもとへと手招きして呼び寄せた。


 「このイベントクエスト、どうやら隠しボーナスが用意されていたみたいだ。EXPが二倍貰える事は記載されていたけど、みんなのスキル獲得スピードを見る限り、ここにもボーナスが掛かっているみたいなんだ。多分スキルや魔法の熟練度上昇にもボーナスが掛かっていると思う。OPEN OF LIFEではスキルLVの事を明記していないので、イベントクエストの説明には書かれていなかったんだと思うんだ」


 エレーナさんは僕が話した内容を、メッセージを送ってマリアさんに伝えてくれている。


 「だからみんな、普段なかなか身に付かない自分が欲しいスキルを習得するチャンスだよ! 欲しいスキルに因んだ行動を取り続ければGET出来るから頑張って! ……ゴメン、ちょっと北門に行って来るから続きはメッセージで送るよ」


 マップで確認していた北門に何やら素早いモンスターが接近して来たので、くるみを背負ったまま急いで向かった。


 


 北門を背にしてモンスターの姿を確認すると……空を飛んでいる奴が居る。体長五メートル程と大きくはないのだが、鷲と犬を掛け合わせたみたいなモンスターで『グリフォン』という奴だ。


 タケル<みんな、こっちに空を飛んで来るモンスターが現れたから注意して! 城壁城門関係なく上空から侵入されたらアウトだからね!>

  

 まぁ僕の場合は空から来ようが地中を潜って来ようが関係ないんだけど、みんなには一応注意しておいて貰わないといけないからな。

 二匹飛んで来たので、【雷の弾丸ブリッツバレット】で問題なく撃ち落とした。


 マリア<タケル殿、アスモデウス殿からの伝言で、魔力を使っても良いか? と尋ねておられます。如何お伝えしておけば宜しいでしょうか?>


 東門にもグリフォンが二匹迫って来たので、瞬間移動で向かってから狙撃していると、マリアさんからメッセージが届いた。

 マップで確認するとアスモデウスが守る西門にもグリフォンが出現した様子だったので、槍一本だと倒しにくいのだろう。


 タケル<使ってもいいけど、まだまだ先は長いんだから考えて使うように! と伝えて貰えますか?>

 マリア<畏まりました。先程私は恐怖耐性と平常心のスキルを習得しましたよ>


 マリアさんのスキルはアスモデウスと一緒に居る事によって身に付いたんだろうな。

 他のみんなにも恐怖耐性を習得して貰う為に、一度アスモデウスの所に常駐させた方がいいのかな?


 タケル<シャーロット、そっちは大丈夫?>

 シャーロット<勿論どす! ルシファーはんと梓はんが上手い事処理してくれはったどす>

 タケル<回復部隊の人達にも、出来る限り自分がやりたいプレイスタイルでクエストに参加させてあげられるかな? この機会にスキルを習得させてあげたいからさ>

 シャーロット<了解どす。暇を見つけて皆はんには前に出て貰いますえ>


 普段は前線で戦っているけど、回復役が不足しているという理由で今回は後衛にまわってくれている人も居るからな。


 今回のイベントクエストは、今のところ僕達が最初に考えていた通りの展開で進んでいる。

 序盤は少しずつモンスター達が攻めて来てくれているので、メンバー達のLVも順調に上昇している。

 出現するモンスター達の強さはバラバラだけど、LV50以上からとかなり高めの設定だ。

 しかし本来ならこのイベントクエストには、全世界のプレイヤー達が人数制限なしで参加出来た事を考えると、撃破不能なモンスターのLVではないと思う。


 そしてモンスター軍団を陰で指揮している謎のモンスターという奴は今のところ姿を見せていない。

 さっさとこの段階で出て来てくれていれば、サクッと始末出来たのになー。

 上空を飛行して来るモンスターが現れたという事は、少なからず作戦的な事は実行されているのだろうか?

 それとも予めそういう順番でモンスターが攻めて来るという事が決まっていたのかは、今のところ分からない。

 ……あのモンスターが出現して来る魔法陣っぽい場所、あそこから謎のモンスターが潜んでいる場所に向かえないだろうか……。

 相当怪しいのだが、もし魔法陣だったとしてこちら側から飛び込める物なのかどうかも不明だし、実際に飛び込んでみてダンジョンの時みたいに帰って来られなくなる、なんて事になるかもしれないので迂闊な行動はとれないな。

 

 戦況についてアレコレと考えていると、またもや北門側に素早いモンスター達が二匹出現して来た。

 どうせグリフォンだろうと思いつつ瞬間移動で北門に移動すれば、やっぱりグリフォンだった。芸のない作戦だな……。

 この時間帯はグリフォンが攻めて来る時間帯なのか? などと考えながら【雷の弾丸ブリッツバレット】を二発打ち込む。

 ふと気になる事があったので、背中に乗っかって楽しているくるみを降ろし、スキルLVをチェックしてみる。


 ……『吸血』スキル、『悪魔召喚』スキル共にLV7まで上がっているじゃないか!


 元々上昇し易かったくるみの二つのスキルが、イベントクエストのボーナスによって更に上がり易くなっているみたいだぞ!


 「……ちょ、ちょっと、お兄ちゃん?」

 「くるみのスキル、LV7まで上がっているぞ!」

 「ちがっ――後ろ!」

 「? 後ろ?」


 別にマップには何も表示されていな――!!!!


 突如激しい痛みが背後から二度に亘って身体を突き抜け、わけが分からないまま猛スピードで数メートル離れた城門まで吹き飛ばされてしまい、堅固な城門の金属部分を大きく凹ませる勢いで叩き付けられた。

 数千本の刀で全身を串刺しにされる程の凄まじい激痛が身体を駆け巡り、上手く呼吸が出来ない。

 地面にうつ伏せで這いつくばったままで手足は完全に痺れ、自分の意思ではピクリとも動かせない。


 ……この痛みは過去に一度だけ味わった事がある。【雷の弾丸ブリッツバレット】だ。


 今までにOPEN OF LIFE内でくらった事がない程のダメージを負ったのだが、驚異的な回復力のお陰ですぐさま元通り動く事が出来たので、必要はなさそうだけど【シャイニングオーラ】を唱えておく。


 「お、お兄ちゃん、大丈夫?」


 くるみが今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべて駆け寄って来てくれた。

 くるみは上手く躱せたのか、怪我は負っていないみたいだ。


 「うん。もう大丈夫だよ」


 くるみを背後に隠し、【雷の弾丸ブリッツバレット】を放ったモンスターの方へ視線をやる。

 ……いや、【雷の弾丸ブリッツバレット】を使って来るのは、モンスターじゃないな。

 僕の知っている人物、一人しか居ない。



 やってくれるじゃないか。雪乃さん!






 ……と思ったのだけど、あ、あれ? 居ないぞ? 何処に消えたんだ?


 「お兄ちゃん。あたし見てたんだけれど……あのモンスター達に当たったお兄ちゃんの魔法が跳ね返って来たみたいよ?」


 きょろきょろと周囲を見渡し雪乃さんを探していると、くるみが何が起こったのか教えてくれた。

 ……【雷の弾丸ブリッツバレット】が跳ね返って来ただと? どういう事だ?

 今度は僕達の方に向かって来るグリフォンを注意深く見てみる。


 ……何だか薄っすらと光の壁がグリフォンの前方に張ってあるのが見える。

 うん、【リフレクト】だなアレ。

 雪乃さんが魔法を唱えたわけじゃなくて、ただ単に自分が放った【雷の弾丸ブリッツバレット】が二発、魔法を跳ね返す光魔法【リフレクト】で自分に跳ね返って来ただけだったのか……。 

 くるみのスキルLVを見る事に意識が集中し過ぎていて、未来予知を確認していなかったなー。

 どうせグリフォンだしー、と気楽に考えてよく相手を確認もせずに【雷の弾丸ブリッツバレット】を放ってしまっていたな。ふははー!


 ……やってくれるじゃないか。雪乃さん! とか格好付けてセリフを言い放っていた自分がダサすぎる。

 願いが叶うのであれば、今すぐにでも記憶を消去して欲しい……。


 


 タケル<北門に魔法を反射させるリフレクトで守られているグリフォンが出現したよ! 注意して!>


 メンバー達に注意を促し、グリフォンをどうやって倒そうかと考える。

 魔法が効かないのであれば、何か物を投げ付けるか。

 幸い僕の道具袋には要らない物がこれでもか! というくらい収められている。

 しかし道具を投げるのは少々勿体ないので、周囲を見渡し小石拾いを始める。

 ……何だかOPEN OF LIFEの中で石拾いばかりしている気がするのだが、僕のゲームスタイルは本当にこれで良いのだろうか……?

 

 シャーロット<01タケル00たすけて


 色々と疑問を抱いていると、初めて緊急用のメッセージ00HELPが届いた。

 どうしても無理な場合にだけ使うように、とシャーロットには伝えてあるのでピンチなのだろう。

 早速助けに向かう為に地面に落ちていた掌サイズの石を二つグリフォンに向かって投げ付けると、ヤマト国上空に汚い花火が二発上がった。




 「タケルはん、アレどす!」


 シャーロットが指差す上空には、【リフレクト】で守られたグリフォンが三匹、こちらに向かって来ている最中だった。


 「ウチ等では魔法を防がれてしもたら、上空の敵を攻撃する術があらしまへん」


 ……そういやそうだな。このパーティーには弓を使うプレイヤーは居ないし、銃なんて持っているわけないし。かと言って【リフレクト】の効果を打ち消す方法も持っていない。

 空を飛ぶモンスターが【リフレクト】で守られている場合、毎回僕が倒しに来ないといけないのか。……参ったな。


 道具袋から量産品の刀を三本取り出し、こちらに向かって来ているグリフォンに適当に投げ付けてやると、一匹は顔面に刀が突き刺さり即死だったのか墜落し、残りの二匹は犬っぽい胴体部分に刀が刺さり、翼をバタつかせてフラフラと地面に降りて来た。

 後は和葉達に任せておけばいいか。


 「仕方がないから、空を飛ぶモンスター達がリフレクトで守られている場合は僕を呼んでくれる?」

 「……タケルはん、えらいすんまへんどす」

 「シャーロットの所為じゃないんだから気にする事はないよ。僕が事前に準備しておかなかったからいけないんだしさ」


 何やら少し落ち込んだ様子のシャーロットに、気にしなくていいよと頭を撫でてから自分の持ち場へと戻った。




 タケル<マリアさん、そっちは上空のモンスター達に対応出来ているの?>

 マリア<はい。最初アスモデウス殿は土魔法で攻撃されていたのですが、今は私に石拾いをさせ、それを投げ付けております>


 どうやらアスモデウスは魔力の温存の事も考えてくれていて、僕と同じ方法でグリフォンを撃ち落としているみたいだな。


 マリア<ただし先程から何度もそろそろ帰らせて貰えないかと聞いて来るので、無理ですよ、とお答えしています>

 タケル<何か忙しいって言っていたからね。勝手に帰る、なんて事はないと思うけど、一応注意しておいてくれる?>


 今アスモデウスに帰られたらどうしようもないからな。


 ……しかしどうなんだ? 空を飛ぶモンスターに【リフレクト】を掛けて来る。

 僕達には上空の敵への対抗手段が少ない、という事がまるで分っているかのような組み合わせだよな。

 しかも僕の所には二匹ずつしか襲って来なかったのに、シャーロットが指揮する南門には三匹同時に攻めて来たぞ?

 

 これ、何処かで謎のモンスターとやらが僕達の動きを見ているんじゃないか?

 索敵マップで見る限りでは、それらしきモンスターは見当たらないんだけどな……。

 

 マップでおかしなところがないか隅々まで調べていると、モンスター達が今までよりも大量に湧き始めた。

 何事かと思いモンスター達の出所を探ってみると、今までそれぞれの城門がある方角からは二ヶ所からしか出現していなかったモンスター達が、一挙に四ヶ所から現れ始めた。

 しかもかなりの数だ! イベントクエスト開始から間もなく一時間が経過するのだが、一気に勝負を決めに来たのか? ……まだ早くないか?

 先程と同じ失敗を繰り返さない為にも、今回はじっくりとモンスター達を観察する。

 城門前から確認出来る巨体のモンスターが二匹居る。

 ギガントオーガの所謂色違いモンスターなのだが、サイズは半分程しかない。

 全身がシルバーで太陽の光を反射していてピッカピカに輝いている、如何にも硬そうな奴だ。 

 全身がすっぽりと覆える程巨大で分厚そうな盾を左手で構え、防御姿勢を取りながら、右手では金属製の細長いグリップ部分を握り締め、そこから伸びている長い鎖を頭上でブンブンと振り回している。

 鎖の先端部分には、無数の三角の突起が付けられた巨大な鉄球が取り付けられていて、破壊力が大幅に高められている。

 最初から硬そうなモンスターなのに、更に盾でガードを固めるとか反則じゃね?

 しかもコイツにも【リフレクト】が掛かっている。

 この厄介そうなモンスター二匹が前に立ち、その後方で隠れるようにして大量のモンスター達が陣形を組んでいる。


 そして東門にも同じ陣形のモンスター達がマップ上で確認出来るので、これは急がないとかなり不味そうだぞ!

 

 タケル<みんな、僕は暫く自分の持ち場から離れられそうもないよ。頑張って!>

 マリア<タケル殿、アスモデウス殿が歯医者の予約の時間だから帰らせてくれ! と言って来るのですが……>


 メッセージを送り、モンスター達に突撃しようとするとマリアさんからメッセージが届いた。


 タケル<そんなの絶対に嘘だから! 馬鹿な事言ってるんじゃないよ! って怒ってくれる?>


 この忙しい時に何言ってんだ、全く。


 マリア<それが、くるみ殿と話をさせてくれと言って聞かないのですよ>


 ……何なんだよ一体、アスモデウスはそんなにも帰りたいのか?

 

 「くるみ、今から西門に連れて行くからアスモデウスが帰らないように説得してくれる?」

 「……うん、分かった」


 くるみは少し躊躇っている様子なのだが、首筋にかぶり付き血を必要以上に吸い始めた。

 とにかく急がないとメンバー達の守る南門が危ない。

 西門へと瞬間移動で向かい、両手で口を押えているくるみを背中から降ろすと、再び自分の持ち場にとんぼ返りした。

   


 タケル<くるみ、出来ればアスモデウスから何故帰りたいのか理由を聞いてくれる?>

 くるみ<りょーかい! くるみちゃんにお任せあれ>


 モンスター達に向かって突撃しながらメッセージを送ると、頼もしい返事が返って来た。

 ……どうにもアスモデウスの態度が怪しいんだよな。

 アイツが軍団を指揮している謎のモンスターなんじゃないのかとすら思っている。

 だったら話は簡単、アイツを全力でぶっ飛ばせばクエストは勝利したも同然なのだが、ホントのところが分かるまで手は出せないし……。


 二匹の巨大なモンスターは『メタリックシールドオーガ』と見た目そのままの名前なのだが、コイツを正面から叩くのは分が悪い。

 パワーでごり押しすれば何とかなるのかもしれないが、時間が掛かってしまうだろう。

 まずはコイツ等の後ろで陣形を整えている数百匹のモンスター達から始末させて貰おう。

 こんな事もあろうかと、くるみとモンスター達の死骸を魔力石に封印している時に、敵が出現してくる場所の近くまで向かっておいて正解だったな。

 

 ……そういや僕、封印魔法の【聖域サンクチュアリ】とか持っていたけど、あれで魔法陣とか封印出来ないかな?

 北門側と東門側に出現しているモンスター達を殲滅し終えたら、一度試してみようかな?

 

 瞬間移動でモンスター達の陣形の背後へと向かい、雷切丸を鞘から抜いて下段に構える。


 よっしゃー! 行くぞー!


 モンスター達の陣形の中に斬り掛かりながら飛び込んだ。

 この群れの中にも【リフレクト】で守られた奴が半分程混ざっていて、一匹一匹【リフレクト】の掛かっていないモンスター達をチョイスしながら【放電】で始末するよりも、纏めてぶった斬った方が早いと思ったのだ。

 【雷の弾丸ブリッツバレット】だと貫通性能が高過ぎて、モンスター達を突き抜けた魔法が跳ね返されてしまう恐れがあるからな。

 刀一本で敵の陣形に飛び込むとか、気分的には某人気ゲームのシリーズ、◯◯無双の主人公みたいだぞ!


 モンスター達は突然背後から現れた僕に全く対応出来ていないみたいだ。

 両腕にアクティブスキル『部分強化ブースト』を掛け、モンスター達を圧倒的パワーで以って粉砕する。

 ガードされようが束で纏めて飛び掛かって来られようがお構いなしだ。

 一度に囲まれる数は精々三、四匹程度だ。六本腕の怪物と戦うのと大して変わらない。

 まさに千切っては投げ、千切っては投げの大立ち回り。

 そうそう、これだよこれ! こういう事がしたかったんだよ僕は!

 背中に人を背負いながらとか、周りに気付かれないように『隠蔽強化』を掛けてこっそり始末するとか、離れた場所から小石を投げ付けて始末するとかじゃなくてさ!

 ストレスの一切貯まらない、ドカンとド派手な攻撃が、やっぱり最高に気持ちいいよ。

 溜まりに溜まった鬱憤をここで晴らさせて貰う事にしよう!


 僕の周りに居るモンスター達をも巻き込んだ鉄球攻撃を叩き付けてくる、メタリックシールドオーガの姿が未来予知で見えたので、遥か上空から繰り出された巨大な鉄球を利用して、ギリギリまで躱さずに周囲のモンスター達をワザと巻き込んでから、ピッカピカに輝く手首の近くまで瞬間移動で回避した。

 

 フフ、その武器も楽しそうじゃないか! 僕にも貸してくれよ!


 四、五十メートル程ジャンプして飛び上がり、鉄球攻撃を繰り出し未だ腕を伸ばしきったままの巨人の手首を斬り落とす。

 硬そうな手首も僕の手に掛かれば、ふわふわのカステラをカットするくらいに簡単な作業だぜ!

 グリップ部分を握り締めたままの巨人の手首が地面に落下すると、足もとに居たモンスター達を数匹巻き込みつつ土埃を巻き上げる。

 巨人にしてみれば掌二つ分程の長さのグリップでも、僕から見れば十階建てのビルに相当する巨大な武器だ。

 ……モーニングスターって言われている武器だな。一度使ってみたかったんだよなー!

 転がっている手首から武器を取り上げ、グリップ一番下のお尻の部分を真っ直ぐに持ち上げ、天高く聳え立つ塔のように担ぐ。


 「ぅおりゃー!」


 そこからジャイアントスイングの要領で一気に振り回す。

 周囲のモンスター達を一掃する破壊力の鉄球攻撃だ!


 ……っていうイメージだったのだが――


 「どりゃー! うおー! しゃー、しゃ……」


 しかし……掛け声とは裏腹に、何回転振り回しても、ちっとも鉄球部分が回ってくれない。

 鉄球は地面をズルズルと引き摺られ僕のもとへと近付いただけ。

 それどころか巨大な鎖がグリップ部分に絡まり始めた。……何でだ? 何で鉄球部分が回転してくれないんだ?

 周囲のモンスター達からも『何やってんだコイツ?』という視線で見られている気がする……。


 ……ば、馬鹿な事をしていないでさっさと敵を排除しよう。


 モーニングスターのグリップをモンスター達に向かって投げ捨て、手首のない巨人から始末しに掛かる。

 地面を蹴って構えられた巨大な盾の内側へと瞬時に潜り込むと、今度は垂直に飛び上がり盾の持ち手の部分を握っている左手首を斬り落とした。

 巨人から切り離された事により、巨人の身の丈程もある盾が地面に落下して突き刺さり大地を揺らす。

 そして巨大な盾は徐々に倒れ始め、逃げ遅れた大量のモンスター達が次々と下敷きとなり息絶えた。


 くるみ<お兄ちゃん、アスモデウスのおばあちゃんが危篤なんだって。可哀相だし帰してあげようよ>


 棚ぼた的に大量のモンスター達の始末に成功すると、くるみからメッセージが届いた。


 ……


 タケル<さっき歯医者の予約の時間だ! とか言っていたから間違いなく嘘だよそれ! そんなのに騙されるんじゃないよ!>


 ……どうやら頼もしかったのは最初の返事だけだったみたいだ。

 何だかんだでくるみは素直な子だからなー。

   

 

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