第33話

 

 さっさとクエスト報告を済ませたかったのに、現在受付には誰も居ない状態なので、僕もバーのマスターに珈琲を注文して、以前REINAが座っていたカウンター端の席に着いた。

 今日この後暫くすれば何人かの冒険者がファストタウンに戻って来る事や、ヤマト国の行商人とも上手く行きそうなので、ファストタウンにはこれから人がドンドン集まって来るんじゃないかな? なんて事をマスターと話していると、ギルド受付の奥の扉から何故か制服に着替えているエリちゃんが戻って来た。


 「キリちゃんは暫く受付業務に就く事が出来なくなってしまいましたので、もし宜しければ私が代わりにご用件をお伺い致します」


 エリちゃんが丁寧にバーのカウンターまで来てくれた。

 ……キリちゃんは一体どうなってしまったのだろうか。

 影のある笑みを浮かべるエリちゃんに安否を尋ねるのが怖かったので、早速二人でギルド受付へと移動してクエスト報告を済ませる事にした。

  


 「まぁ! ダンジョンを攻略されたのですね。凄いじゃないですか! しかもこのダンジョン、かなりの高難易度じゃないですか。……はぁー、タケル様はやっぱり凄い方なんですねー。そうそう、そうでした、えーっと、……これこれ、こちらの羊皮紙に掌をかざして頂けますか?」


 エリちゃんは受付カウンターの後ろに置かれていた棚から、筒状に巻かれた一本の紙を取り出しカウンターの上に置いた。

 ペットボトル程の大きさで所々黄ばみ掛かっているくすんだ白い紙は、中央を硬そうな紐っぽいもので縛ってあるんだけど、その紐のすぐ傍には赤い血文字のような物で『封印』と大きく書かれている。

 エリちゃんに言われた通り、カウンターに置かれた筒状の紙に右手をかざしてみると、『封印』と書かれた赤い文字がフッと消え去り、縛られてあった紐がひとりでにはらりと解けた。


 「こちらの『封印』はダンジョンコアを破壊された方にしか解く事が出来ないのですよ」


 エリちゃんが説明してくれたのと同時に、視界にクエストクリアの文字が表示され、LVも一つ上がった。

 成程、どうやってダンジョンコアを破壊した事を報告すればいいのかと思っていたけど、こんな方法が用意されていたのか。


 その後エリちゃんから他のクエストも進められたのだが、今日はヤマト国に行かなければならないので止めておくよと断っておいた。


 「それでエリちゃん、本当の伝言は何だったの?」

 「……あ、あのですね、もし時間があればお食事でもご一緒にどうかなー、と思っていたのですが、私も急遽業務に戻らないといけなくなりましたし、タケル様もヤマト国に向かわれるとの事なので……」

 「……そ、そうだね、ゴメンね」


 ……ま、まさかご飯の御誘いだったとは。

 エフィルさんが言っていた通り、各地ご当地キャラとの恋愛というのは、恋愛シミュレーションゲームのように、こういうイベント事を繰り返して行けば発展するのだろうな。

 このままエリちゃんルートを攻略して行くのも悪くないけど、今はそれどころではないので今回は止めておこう。

 しかしどうにも気になって仕方がないので、遂にエリちゃんに向かってゆっくりと手を伸ばし、未だにエリちゃんの口もとで絶妙なバランスを取ってユラユラと揺れていたキュウリを手に取り、そのまま僕の口へと運んだ。


 「あ、あああのタケル様、一体どどどどうさ――」

 「いや、お弁当が付いていたからさ。美味しく頂きました。じゃあまた来るよ!」

 「……もう。……きっとですよ?」


 ギルドのカウンターの向こうで、ほっぺをぷっくらと膨らますエリちゃんにバイバイと手を振りながら、瞬間移動で自宅の地下室へと戻った。




 「師匠おかえりー! クエストクリアでまたLVが上がったよー」


 地下室へと戻ると和葉が出迎えてくれたのだが、美琴さんの尻尾を片手で握り、銭湯で肩にタオルでも掛けているみたいに美琴さんを乱暴に担いでいる。

 

 「フフン、この女狐には対戦PKで三発『爆裂拳』をぶち込んでやったわ」

 「ちょっとちょっと! やり過ぎだって!」


 慌てて美琴さんに【シャイニングオーラ】を唱えて回復させてから、足もとに降ろしてあげた。 


 「きー! 悔しい! もう一回、もう一回勝負よ、和葉!」


 起き上がった美琴さんはすぐさまメニュー画面を開き、和葉に向けて対戦PKの挑戦状を送りつけた。

 どうやら美琴さんから和葉に突っ掛かっているみたいだ。


 「アタシは何度でも受けて立つわよ? 四発目をくらわせてあげるわ」

 「和葉も容赦ないね」


 和葉対美琴さんの対戦PKが始まりそうなので距離を取っていると、シャーロット、マリアさん、エレーナさんが僕のもとへと歩み寄って来た。


 「もう、タケルはん。ウチ等もダンジョンに連れてって貰うの、楽しみにしてたんどすえ?」

 「そうだったんだ、ゴメンね。引き返そうとしたら罠に嵌っちゃって帰れなくなっちゃったんだ」

 「それでタケル殿、我々とPOP☆GIRLSのメンバー達は今から一度ログアウト致します」

 「連続接続規制……ですか?」


 マリアさん達やPOP☆GIRLSさん達は、僕達がログインした時には既にゲーム内に居たみたいだし。


 「我々はログイン後練習を再開して、イベントクエスト前にもう一度ログアウトしたいと思います」

 「そうだね、長丁場のクエストになりそうだから、僕達も時間を上手く調整しないといけないな」


 二十一時から三時間耐久クエストだと考えると、十九時くらいには一度ログアウトしておきたいところだな。


 「後でタケルはんをビックリさせてあげるさかい、楽しみに待ってておくれやす」

 「そういやさっきも三人は何か会議みたいな事をしていたよね」


 僕の問い掛けには返事をせず、シャーロット達三人は何やら不敵な笑みを浮かべたままログアウトしていった。

 

 「『爆裂拳』!」


 和葉の大きな声が地下室に響いたので視線を向けると、丁度美琴さんが壁際まで吹っ飛ばされている最中だった。

 幾ら死なないと言っても、友達が吹っ飛ばされる姿を見るのはちょっと辛いよな。


 ……そして友達が木っ端微塵に吹き飛ぶ姿を見るのはもっと辛いな。

 

 木っ端微塵に吹き飛んでしまった美琴さんはオルガン送りとはならず、吹き飛んでしまったはずの体は元通りに戻っていて、地下室の壁際に寝転がっている。

 肉片の一つ一つが淡く白い光の粒となり、やがてその全てがゆっくりと一ヶ所に収束し始め大きな塊へと変化すると、ポン! と軽快な音を立てて光の粒子が跳ねるように弾け、美琴さんの体がその場所に再現されていた。


 「いやー、爽快爽快! 対戦PKだとどんな攻撃でも相手が死なないから気兼ねなくボコボコに出来るよねー」


 和葉は美琴さんでストレス発散でもしているのか?


 「和葉ー、自分ばっかりボコボコにしていないでさ、ちゃんと美琴さんにも稽古付けてあげてよ」


 和葉に向かって声を上げると、和葉が僕の傍へと駆け寄って来た。

 片手を口もとに添えたままチョイチョイっと手招きされたので、和葉に耳を近付ける。


 「師匠あのさ、あの子意外と見どころあるよ? 普段から何か格闘技でもやっているの?」


 小さな声で耳打ちされた。

 うーん、美琴さんは特に何もやっていないと思うんだけど、お兄さんがだから、もしかしたら小さい頃から何かやっていたのかも。

 そう言えばミノタウロスを相手にしている時も、かなり良い動きしていたもんな。

 和葉と話しているこの間に、美琴さんはPOP☆GIRLSのメンバー達全員で【ヒール】を唱えられ、集中的に回復を施されている。


 「和葉は高校柔道の足立三四郎さんって知ってる?」

 「そりゃまぁ有名人だからね。将来のオリンピック金メダル候補だしさ。去年の全国高校柔道選手権も利き足を骨折しながら、決勝戦で判定負けして準優勝していたし……。その人がどうしたの?」


 き、利き足骨折しながら準優勝って……。やっぱり化け物だったのか、あの人。


 「……美琴さんはその足立三四郎さんの妹さんなんだ。だからもしかしたら美琴さんも小さい頃から何か習っていたのかもね」

 「え、うそ! あの足立三四郎さんの、妹……。た、大変! あの人凄いシスコンでも有名人なのに、その妹さんをボコボコにして……」


 和葉は両手で自分の両肩を抱いてプルプルと震え始めた。

 

 「やっぱり和葉でも怖いの?」

 「そりゃ怖いわよ! あんなゴリラで腕毛とか胸毛とか、ありとあらゆる毛がワサー! ってなっている人とか、怖いに決まっているじゃないの!」


 ……そっちの意味で怖かったのか。

 地下室の隅では美琴さんの回復が完了したみたいで、美琴さんは起き上がるとすぐさまこちらに向かって駆けて来た。


 「むぐー! 和葉、もう一回よ!」


 もう一回! と人差し指を突き立てて和葉を睨みつける美琴さんの顔はちょっと怖い。

 

 「……いやー、今日はもうよくない?」

 「何言ってんのよ! さっきは『何度でも受けて立つわよ?』なんて言ってたクセに! 勝ち逃げなんて絶対に許さないわよ!」


 和葉は美琴さんから視線を逸らしながら、送り続けられている対戦PKの挑戦状を、何度も何度も拒否しているのだが、こうなってしまった美琴さんはちょっとやそっとじゃ諦めてくれないぞ?

 傍で見ていると、二人がメニュー画面を只管連打している姿はちょっと可笑しい。


 「ちょっとMIKOTO、そろそろ時間ギリギリだしログアウトするわよ」

 「……すぐにログインしてくるんだから、待ってなさいよ和葉」


 美琴さんは加奈子さんに説得され、他のPOP☆GIRLSのメンバー達と共にログアウトして行った。

 和葉はぐったりした様子で大きなため息を吐いていた。



 地下室に残っているプレイヤーが僕とくるみ、ルシファー、和葉、浩太君の五人になったところで、居残り練習を続けていたガゼッタさんとくるみが僕達のもとへと歩み寄って来た。


 「お兄ちゃん、一曲よ。今日のイベントクエストまでに、何とかギリギリ効果が得られるところまで、一曲だけ頑張る」

 「そうか。いいんじゃない? それで何とかなりそうなの?」

 「お兄ちゃんの作戦だと、あたしがリコーダーを吹いても他の人達には聞こえないじゃない?」

 「……言われてみれば確かに」


 四つの門に別れて行動するし、城壁は一キロメートル四方程の大きさだという事を考えると、とてもじゃないけどリコーダーの音色は届かないな。


 「だからこういう注文オーダーの出し方にしたのよ。……パーティーメンバー全員のMPを、ほんのちょっとだけ回復」


 両手でリコーダーを構え直し、ゆっくりと深呼吸したくるみは、ちょっと変わった注文オーダーを出した。

 成程、効果の範囲をパーティーメンバー全員で一括りにしたんだな?

 これでも効果が得られるのであればいい考えだな。

 くるみは視界に音符が見えているのか、小刻みに体を上下に揺らしリズムを取り始めた。

 ……しかし既にずれ始めているのは気のせいだろうか。 


 ……ボエー『ソー』『ソー』『ラー』『ラー』『ソー』 ……ボェ。……。



 ……演奏は止まってしまった。

 そしてステータスダウンの影響も受けている。

 恐らくではあるが、演奏していた曲名は『きらきら星』だと思うんだけど、一応リコーダーの音は出ていた。

 色んな曲を演奏するのは無理と見て、この『きらきら星』だけを重点的に練習するみたいだな。


 「……タケルさん」

 「ガゼッタさんお疲れ様です。暫く休んで貰って結構ですよ」

 「……では少々自宅で休まさせて頂きます」


 ガゼッタさんは憔悴した様子で項垂れたまま地下室から出て行った。

 足取りもフラフラで絡まり気味だし……、ちょっと可哀相な事しちゃったかな?

 

 浩太君は一人黙々と圧し切り長谷部を眺めたり、素振りしたり、眺めたりを繰り返している。

 どうやらあの巨大な魔力石の効果を吸収して貰った事が余程嬉しかったみたいだな。


 「浩太君は今日何時くらいからログインしているの?」

 「僕? 朝からログインしてカヌット村で会議に出ていて、確かお昼に一度ログアウトして……。多分十八時から十九時の間にはログアウトしないといけないはずだ」


 浩太君は指を折りながらログイン時間を計算しているんだけど、朝からログインしているって事は殆ど寝ていないのかな?

 そういや学校でも殆ど寝ていないって言っていた気がするのだが……。

 

 地下室で特訓を続けていると、エレーナさんがログインして来た。

 スタート位置の設定も済ませてあるので、シャーロット達やPOP☆GIRLSさん達はここ地下室にログインしてくる。


 「Mrタケル、申し訳ありません。殿下はイベントクエスト開始直前までログイン出来なくなりました」


 普段あまり声を出さないエレーナさんの声を聞くと、見た目とのギャップに凄く違和感があるんだけど、ログイン出来ないってどういう事だ?


 「実は不眠状態でログインしている事が国王陛下の耳に届いてしまい、殿下はイベントクエストまでの間、睡眠を取る事になってしまいました。私もこの事を伝える為だけにログインして来ましたので、すぐにログアウトさせて頂きます」

 「僕も不思議に思っていたんだよ。ヨーロッパに居るはずのシャーロット達が、時差があるのに僕達が来る前からログインしていたからさ。でもそういう事ならちゃんと寝ないと駄目だよって、シャーロットに伝えておいてくれる?」

 「畏まりました。それと、我々三人は恐らく【ヒール】にMPを注入する事に成功しましたよ?」

 「本当ですか! 早いですね!」


 シャーロットが楽しみにしていて、と言っていたのはこの事だったんだな。


 「武士道で実施していた検証作業と同じやり方で、効率良く我々三人で検証していたのですよ」

 「だから三人で会議をしながら練習していたんですね」

 「はい。我々はいつもこのようにして来ましたので。皆さんにはまず魔法の使い方に慣れて貰う事の方が先決でしたので、我々だけで検証しておりました」


 やっぱり頭の良い人達は違うなー。


 「ですが、この後皆さんに方法を教える事が出来なくて、とても申しわけなく思っております」

 「僕もこれ以上魔力石を集めに行く事もないし、ここに居るから大丈夫ですよ? ゆっくりと休んで来て下さい」

 「ではお言葉に甘えて。失礼致します」


 軽く頭を下げた後、エレーナさんは笑顔で手を振りながらログアウトして行った。


 「師匠、やっぱり頭が良い人達って凄いね」

 「うん。僕も同じ事考えていたよ。和葉も風魔法にMPの注入してみる?」

 「……そうだね、やってみるよ」


 

 ……



 暫く練習を続けているとPOP☆GIRLSさん達が続々とログインして来た。

 美琴さんがすぐさま和葉に対戦PKを申し込もうとしたけど、まずはMPの注入方法を習得して貰う事にした。

 POP☆GIRLSのみんなはルシファーから教えて貰っていたので、必死に呪文の詠唱を唱えていたんだけど、実は詠唱は関係ないという事が分かり、ホッと胸を撫で下ろしていた。


 流石にこれだけの人数が居ると、上達の早い人、遅い人が出て来る。

 特に上達が早かったのは、ペンギンの着ぐるみ姿の梓ちゃんだ。

 彼女は欲張ったのか、光、火、水、風、土、雷の六つの魔法をヤマト国で覚えて来たみたいだけど、MPの注入方法もすぐさまマスターしてしまったので、今は他のメンバー達に教える側へと回って貰っている。

 そして上達が遅いのは、美琴さんと浩太君だった。


 「山田君、僕にだけ嘘教えてないよね?」

 「そんな事するわけないじゃん!」

 「でもタケル君、魔法唱える時に掌からMPが出てるって言うけれど、何も出てないよ?」

 「いや、出てるんだって。普通だと掌から魔法が飛び出すから、視覚的に邪魔をするんだけど、目を瞑って唱えてみれば感覚が分かり易いでしょ?」


 僕の言葉を聞いて二人が目を閉じる。


 「【ヒール】……さっぱり分からん!」

 「【ヒール】……さっぱり分かんないわよ!」


 ……駄目だこりゃ。先は長そうだ。 



 この後更に練習を続けたんだけど、どうにもこうにもこの二人の魔法が上達しなかったので今回は諦めて貰い、フォーメーション練習、メッセージ画面の編集、役割の分担化など、実戦に向けた練習へと切り替えた。





 「もうすぐ十九時になるから、僕達は一度ログアウトするよ」

 「じゃあ私達もタケル君達に時間を揃える為にログアウトするわ」


 その後も練習を続けていると時間はあっという間に過ぎてしまい、連続接続規制の時間が迫って来たので僕とくるみの二人と一緒に和葉、そして加奈子さん達もログアウトするみたいだ。

 時間がズレていると移動する際や、送り迎えに時間が余計に掛かってしまうからだな。

 ルシファーと浩太君は十五分程前にログアウトを済ませているので、これで緊急イベントクエストに全員が時間を合わせる事が出来たぞ。

 後はログイン後に全員でヤマト国へと向かってイベント参加の受付を済ませるだけだ。




 自室の椅子に座ったままログインしていたので、OOLHGを両手で外し、音を立てないようにそろりと机の上に置いた。

 雪乃さんがベッドで寝ているから……と、視線をベッドに向けると何かがおかしい。

 そしてベッドで寝ているはずの雪乃さんの姿も見当たらない。

 もう帰ったのかなーとか考えつつ、何やら少し違和感のある自分のベッドや布団に触れてみたのだが、違和感の原因が判明した。

 布団がパリパリだったので、サポートチームが洗濯でもしてくれたのかと思ったけど、どうやら布団にベッド、枕までもが全て新品に取り換えられているみたいだ。

 雪乃さんは自分が使ったので新品に交換してくれたのか、それともベッドごと雪乃さんに盗まれてしまったのかは今のところ分からない。

 恐らくサポートチームの手によって、僕の寝床は何処かに持ち去られてしまった。

 マップで雪乃さんの位置を調べてみたのだが、ここから遠く離れた場所、僕が行った事のない場所で数名の人物と集まって何やらウロウロとしている。

 もう仕事に戻っているのかもしれないので、ベッドの行方はまた後で追及する事にしよう。


 ……多分自分の研究室に置いてあるんだろうな。

 雪乃さんがサポートチームに頼んで研究室にベッドを持って来て貰わなかった理由って、まさかこれじゃないだろうか……?

 

 


 「何だか俺が居ない間に、随分と人数が増えているじゃねーか」

 「そうなんだよ。更に後三人、シャーロット、マリアさん、エレーナさんがパーティーメンバーに加わったよ」

 『話しに出ていたM国の王女様達ね? 早く会ってみたいなー』


 十九時を回り、源三とREINAがログインして来たので、現状報告やイベントクエストの内容、作戦などを話し合った。

 その間も源三の背中には加奈子さんがピッタリと寄り添っていたのは言うまでもない。 

 

 少し気になる事があったので、ログインしてからずっと索敵マップを眺めていた。

 シャーロットが言っていた救世主狩りを行っている軍神オーディンの事だ。

 マップで見てみるとアジア組七千人前後が集まっていた場所を離れ、現在オリエンターナへと向かっている最中みたいで、このままのペースだと十五分から二十分の間には到着するものと思われる。

 そしてマップ上ではもう一つ気になる動きが見られる場所がある。

 僕が行った事のある場所ではないので詳しくは分からないけど、ヤマト国から遥か西に行った所にある、プレイヤー達が沢山集まっている場所、源三がヤマト国に居たプレイヤーから聞き出した情報と照らし合わせると、恐らくこの場所がイスタリアだと思うんだけど、この場所に続々とプレイヤー達が集結し始めている。

 シャーロットの話では、元々イスタリアにはヨーロッパ組二千五百人が居て、更にヤマト国に居た元武士道のメンバー達約二千五百人も転移門ゲートを使ってイスタリアへと向かったらしいので、五千人弱は集まれると思うんだけど、マップで確認する限り現在五千人を遥かに超えるプレイヤー達がイスタリアに集まっている。

 通常販売の新しいOOLHGで、新規参入のプレイヤーでも加わったのかとも考えた。

 しかしファストタウンから遥か東にある沢山のプレイヤー達が集結している場所、恐らくここが最後の主要国家アレイクマなんだろうけど、この場所に集結しているプレイヤー達の人数がどんどん減っているみたいなので、どうやらアレイクマにある聖の大神殿から転移門ゲートを使用してイスタリアへと移動しているみたいだ。

 この大人数でイベントクエストに参加するつもりなのか、それともヤマト国へと攻め入る準備なのか、或いは……ないとは思うけど、僕と同レベルの索敵スキル持ちが居て、軍神オーディンの動きを察知し迎え撃つつもりなのか。


 とにかく僕達もヤマト国に向かうとするか。



 先ずは美琴さんと浩太君の武器にオリハルコンコーティングを施して貰う為、ファストタウンの武器防具店を訪れた。


 「モルツさん、もう平気なんですか?」

 「……面目ない、疲れが溜まっていたのか武器を作り終えてすぐにへばってしもうたわい。ワシももう歳かの……」


 余程心にダメージを負ってしまったのか、自慢の髭を撫でながら出迎えてくれたモルツさんの姿には覇気が見られない。 

 しかしそんなモルツさんに、浩太君の圧し切り長谷部と美琴さんのダンジョン・キーパーの爪を渡すと、瞳に輝きが戻って来た。


 「おいおい、こりゃ凄いな。ちょっと待ってろ! すぐに終わらせてくっからよ!」


 モルツさんは新しいおもちゃを手に入れた子供みたいに、大はしゃぎでお店の奥へと駆けて行った。

 オリハルコンコーティングの仕上がりを待っている間、みんなのステータスを改めて『改ざん』スキルで弄らせて貰った。

 と言っても、LVや個人が所持しているスキルなどはそのままで、救世主加護と管理者権限加護を隠させて貰っただけだ。

 どうせ今日のイベントクエストで大幅にLVが上がるだろうし、今更隠す必要もあまりないかと思ったからだ。


 そしてホルツさんに頼んでおいたPOP☆GIRLSさん達の装備品も仕上がっていた。

 僕達が装備しているワイバーン装備に、所々金属で補強が加えられているので、恐らくメタルスコーピオンの素材で急遽強度を増してくれたみたいだ。

 オリハルコンコーティングもしっかりと施されていて、POP☆GIRLSのメンバー達は大喜びだ。

 加奈子さんもビキニアーマーからワイバーンの鎧姿に変わった。


 「加奈子さんの鎧ってギフト装備じゃなかったんですね」

 「そうよ? ビキニアーマーは『服飾』スキルを持っていたプレイヤーにゴールドを支払って作って貰ったのよ。あのスキルはGが稼げて便利よね」


 成程、そんなスキルがあったのか。そういや軍神オーディンも色んなスポンサー名が入ったコスチュームを着ていたな。

 何処のお店で作って貰ったのか気になっていたけど、プレイヤーがスキルで制作したのか。

 ……僕も服を作ればスキルが手に入ると思うけど、今のところは必要ないかな。まぁOPEN OF LIFEの世界で商売する人には、とても便利なスキルだけど。


 店内でミクリさんが僕達にお茶を淹れながら、モルツさんは回復したけど、今度はホルツさんがダウンしてしまったのだと話してくれた。


 「あのー、山田君。僕の装備品ってないのかな?」


 浩太君は新しい装備品を手にして喜んでいるPOP☆GIRLSのメンバー達を羨ましそうに眺めている。


 「あー、浩太君の分はないよ。装備を頼んだ時に居なかったからね」

 「そ、そんなぁ……」


 浩太君は両肩を落としてガックリと落ち込んでいるんだけど、前衛を務める浩太君に防具がないのは確かに不味いな。


 「ミクリさん、お店の在庫で鎧ってありますか?」

 「鎧……ですか。丁度旦那が作り終えた分があるのですが、オリハルコンコーティングは施されていませんよ?」

 「それで結構ですので購入させて下さい。勿論お代もお支払いしますので」

 「ええ、それは結構なのですが……スイマセン、私一人では持てませんので工房まで取りに来て頂けますか?」

 「分かりました。浩太君、行って来なよ」


 背中を押してあげると、浩太君は嬉しそうにミクリさんの後に着いてお店の奥へ足を運んだ。

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