第27話


 緊急イベントクエスト開催!

 ・みんなで力を合わせてモンスター達の襲撃からヤマト国を守り抜け!


 クエスト成功条件

 ・謎のモンスター以外の全てのモンスター達を殲滅する

 ・制限時間180分間、城壁内部にモンスターの侵入を許さない


 クエスト終了条件

 ・城壁内部に1匹でもモンスターに侵入された時点で終了


 クエスト難易度

 ・☆☆☆☆☆~☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 クエスト受諾条件

 ・どなたでも参加頂けます!


 参考


 制限時間は21時よりスタートの180分間。

 モンスター達は1匹1匹がかなり強力だぞ!

 その数、約4000匹。皆で力を合わせてヤマト国を守り切ろう!

 モンスター軍団を陰で指揮している謎のモンスターが存在しているみたいだ。注意しろ!


 クエストボーナスとして獲得EXP×2がイベント参加者全員に適用されます。

 またEXPはどのイベント参加者がモンスターを討伐しても、イベント参加者全員に加算されます。

 未確認モンスター撃破の場合、イベント中に獲得したEXPが更に×2、イベント参加者全員に加算されます。

 21時までにヤマト国にてイベント参加受付を済ませないと、クエストボーナスは受け取れませんのでご注意下さい。


 尚、本日の21時まで『ヤマト国』『イスタリア』『オリエンターナ』『アレイクマ』各国家の聖の大神殿に御座います、転移門ゲートを開放致します。

 ヤマト国へはそれぞれの国家の聖の大神殿から向かえますので是非ご利用下さい!



 な、なんじゃーこりゃー!


 くるみと一緒にログインすると、家の地下室に到着した瞬間、突然脳内に緊急アラームが鳴り響き、視界に『緊急イベントクエスト開催!』の赤い文字が出ていたのでメニュー画面から開いてみると、とんでもない内容だった。

 かなりのEXPが手に入るイベントクエストみたいなのだが、これってヨーロッパ組が断然有利じゃないか!

 イスタリアに居る二千五百人もヤマト国へと向かえるし、ヤマト国に居る二千五百人と合わせて五千人。

 百八十分の持久戦という事を考えると、モンスターは四千匹だけど一度に襲って来る数はそんなに多くないのだろう。

 少しずつモンスター達が襲って来て、イベント終盤になると纏めて襲って来るっていうパターンかな?

 それと、聖の大神殿には転移門ゲートという施設が存在するのか。全然知らなかった。

 オリエンターナへと続く地下道に居たモンスターは倒したので、日本人プレイヤー達もオリエンターナから向かえるはずなのだが、ヤマト国自体が『日本人プレイヤー入国禁止』なのでイベントクエストに参加出来るのかどうか……。

 何処かに隠れているボスっぽい奴も居るみたいだけど、☆九個という事を考えるとかなりの強敵みたいだな。

 普通のモンスター達で稼いで、ボスは倒せませんでした。という結果でもかなりのEXPが手に入るので、最初から倒せない事前提のボスなのかな?


 「お兄ちゃん、これって……」

 「フフフ、我が眷属よ、遂に妾が真の力を発揮する時が来たのじゃな?」


 イベントクエストの内容を見ながらあれこれ考えていると、同じくイベントクエストの内容を見ていたくるみと、先にログインしていたルシファーが話し掛けて来た。


 「二人はまだヤマト国に行った事がないだろ? 今から三人でイベントにエントリーしに行ってみる?」

 「うん! 行く!」

 「……無論」


 僕もヤマト国の様子を見に行きたかったので、瞬間移動でヤマト国南門の前へと向かった。




 現在目の前に聳え立つヤマト国の巨大な南門は閉ざされている。

 まぁ今日モンスター達が襲撃してくるのだから当然か。

 堅く閉ざされた南門へと近付くと、視界に『緊急イベントクエストに参加しますか?』というアイコンが現れたのだが、そのすぐ下に『現在参加表明中のパーティー名』という項目があったので、先にこちらを何気なしに覗いてみた。


 ……何だ、コレ? おかしくない?


 参加パーティー名は『武士道』となっているのだが、そのパーティー名のすぐ横に参加人数が記されているのだが……三名。

 しかも参加パーティー名が『武士道』ひとパーティーのみ。


 三名? 二千五百人も所属している『武士道』の参加人数が三人? まだ二十一時まで時間があるからか?

 ヨーロッパだと、現在夜中から朝方くらいのはずだし、みんなまだ寝ていてエントリーを済ませていないのか?

 いやいや、それにしても人数が少な過ぎるだろう!


 <マリアさん、タケルです。今ヤマト国の南門に来ているんですけど、イベントクエストの事で聞きたい事があるんですが、今から南門まで来て貰う事は出来ますか?>


 『武士道』の事が気になったので、マリアさんから教わった連絡先にメッセージを送ってみた。


 ――実は『武士道』内で不満を持っている者達が増え始めています。この状態で何かが起これば王女は孤立してしまうかもしれません――



 マリアさんと街道に座り込んで話していた際、彼女が話したこの言葉が僕の脳裏に引っ掛かったのだ。

 もしかしたらマリアさんの不安が的中してしまい、何かが起こってしまったのかもしれないな。


 <ああ、良かった! タケル殿、今から王女とエレーナと私の三人でそちらに向かいます!>


 くるみとルシファーが、ヤマト国の中に入れないからつまんない! と駄々を捏ね始めたところで、マリアさんから返信が届いた。


 「くるみ、ルシファー、今から本物のM国の王女様がここに来るみたいだから、失礼のないようにな」

 「はぁー、……お兄ちゃんは分かってないわね。ここはゲームの中よ? 王女様も王様も関係ないわよ。みんな同じプレイヤーなんだからさ」


 くるみはいつも通り腕を組んだまま尻尾をくねらせ、どっしりと構えている。


 「フフフ、我が眷属よ、この世界の王は妾じゃ。何も気後れする必要なかろう」


 ルシファーも日傘を差した後、いつもの掌で口を覆う仕草をしている。


 ……そう言われればそうかもな。シャーロット王女もゲームの中くらいは羽を伸ばしたいだろうし、僕達も普段通りでいいのかも。

 ルシファーの言っている事はよく分からないけど、まぁいつもみたいに冗談言い合えるくらいで対応しろという事なのだろう。

 無礼な口を利いた途端マリアさんに腹を掻っ捌かれる、何て事もないだろう……多分。


 「……分かった。でも必要最低限の礼儀だけは辨えような」

 「「はーい」」


 くるみとルシファーが棒読み加減で声を揃えて返事をしたのだが、何だかこの二人、異様に仲がいい気がする。

 ルシファーが普通に返事を返してくるなんて、滅多にない事なんだぞ?


 そうこうしていると、城壁の南門が地面を少し揺らす程の振動を伴う大きな音と共に、人が通れるくらいの隙間だけ解放され、ヤマト国から三人のプレイヤー達が歩いて南門を通過すると、すぐさま南門は金切り声を上げつつ閉ざされた。


 「タケル殿、どうか王女を元気付けてあげて下さい!」


 僕は人の心が読めるわけではないのだが、ヤマト国内から僕達に向かって歩いて来る、忍び装束姿で困り果てた表情を見せているマリアさんと目が合った瞬間、そんな声が聞こえて来た気がした。

 三人の中央を歩くシャーロット王女の足取りは重く、表情も昨日会った時みたいな凛としたものではなく、両目が真っ赤で腫れぼったい。

 ……泣いていた……のか? だとしたら僕ではとてもじゃないけど役に立てそうもないぞ?


 「……タケルはん、何しに来はったんどすか? ウチの事、笑いにでも来はったん?」

 「笑う? 何の事ですか?」


 僕達の前まで歩み寄って来たシャーロット王女は怒っているというわけではなく、どちらかと言うと拗ねている? いじけている? そんな感じだ。


 「一からヤマト国を作って行く! とか偉そうな事うてからに、一日もせん内に『武士道』のメンバー全員に逃げられてしもた……グスッ」


 ヤバイ、シャーロット王女がグズリ出したぞ。何とかしないと……。


 「ま、まぁ、仕方ないじゃ――」

 「だってアンタのやり方、つまんないもん」


 僕が話し出した言葉を遮って、くるみが横から割って入ったのだが、く、口の利き方ー!


 「ちょ、ちょっと、くるみ?」

 「だってそうでしょ? ここはOPEN OF LIFEの中で、ゲームの中なのよ? つまんなかったらそりゃ逃げるわよ。仕事じゃないんだから」


 いや、そりゃくるみの言う通りなんだけどさ、話し方は何とかならないのかな?


 「そないな事言わはっても、今まで散々ウチやシステムを使こうてからに、危ななったら自分らだけ逃げるて……あんまりやわ」


 遂にシャーロット王女の瞳から堪えられていた感情が溢れ出て来た。


 「そうね。武士道の風上にも置けない奴等ね。……でもウチのお兄ちゃんは違うわよ?」

 「グスッ……お兄ちゃん、どすか? OPEN OF LIFE内での……、えーと、……ちょ、ちょいと待っとくれやす!」


 シャーロット王女が掌を突き出し、またもや会話を中断させると、左斜め後ろに控えていたエレーナさんとヒソヒソと耳元で会話を数回やり取りした。


 「……お兄ちゃん、どすか? OPEN OF LIFE内での疑似兄妹プレイか何かどすか?」


 をい、何でそうなる! そんな言葉をわざわざエレーナさんに聞くんじゃないよ!

 しかも何事もなかったかのように冒頭から言い直したぞ!


 「い、いや、僕の本物の妹でくるみっていうんだ」

 「はぁ、そうどすか。ウチはシャーロット言います。宜しゅうに。それでくるみはん、タケルはんは何が違うんどす?」

 「お兄ちゃんは困っている人がほっとけない性格で、超お人好しで、誰彼構わず助けちゃう、世界一の優しさを持ち合わせた最強のお兄ちゃんなのよ! しかも夕食に出された唐揚げまであたしにくれるのよ!」


 くるみが腕を組んだまま両の翼を左右に大きく広げ、自信満々に言い放った。


 ……あの僕、全っ然そんな事ないよ? くるみの中では僕ってそんなイメージなの? あと唐揚げはくるみが勝手に僕の分を奪い取って食べているだけだぞ? もうあげないよ?


 「……グスッ、タケルはんがウチ等を、ヤマト国を助けてくれはるうんどすか?」

 「その通りよ! ねぇ? お兄ちゃん」


 マリアさん、エレーナさん、シャーロット王女、そしてルシファーの視線が僕に集まった。


 「うーん、流石に僕達だけだと人数が少な過ぎるから、何人かに助っ人を依頼しようとは思っているけど、僕は今回のイベント、何とかなるんじゃないかと考えているよ?」

 「……タケルはんは、そんなに沢山ようさんの助っ人が呼べるんどすか?」

 「いや、全然。多くても十人ちょっとくらいじゃないかな?」


 『POP☆GIRLS』さんに声を掛けて、何人が参加してくれるかだよな……。


 「そ、そんなん無茶やわ! モンスターは四千匹も居てはるうのに、十人ちょっとて――」

 「それはあんた、シャーロットがお兄ちゃんの強さを知らないからよ。お兄ちゃん、一丁お兄ちゃんの実力をババーンと見せてあげなさいよ!」


 再びマリアさん、エレーナさん、シャーロット王女の視線が僕に集まる。

 

 そしてルシファーからは『私に任せろ!』という強い目力を感じ取った。


 「じゃあ彼女、ルシファーが得意の火魔法を全力で放つので、それを見てから無理そうかどうか考えてみてよ」


 僕の背後に居たルシファーの背中を優しく押しつつ、全力を出すんだよ? とアドバイスしてから僕の前へと移動させた。


 「フフフ、我が眷属共よ、妾の真の力に恐怖し慄くがよい!」


 日傘を仕舞った後、ルシファーがいつも通りおかしなポーズを取りながらシャーロット王女達に向かってセリフを言い放った。


 「「「……」」」


 そんなルシファーの様子を目の当たりにした三人は、目をまん丸とさせ、口をポカンと開けたまま眺めている。

 一同の間を何とも言えない微妙な空気が支配したのだが……中二病というものは日本大好きなシャーロット王女でも流石に理解出来ないのか。


 ルシファーはいつもみたいに右手の掌を前方に向けるのではなく、懐をゴソゴソと漁り始めると、その手には『小型竜ワイバーンの杖』が握られていた。

 お? 遂にその杖を使うのか? 今まで使わなかったから、また自分の部屋の道具箱にでも仕舞っているのかと思っていたよ。


 ルシファーが右手に軽く握った杖を誰もいない街道へと向け、左手を頭上高くに掲げ指先を意味有り気に軽く撓らせる。

 ……何だかまた新しい事をやり始めたぞ? 色々考えてるなー。


 「……我、汝ら炎の精霊と契約を結びし者なり! 地獄の業火で卑しき天界を貫くがよい! 『天炎槍ジャベロットフィアンマ!』……ぼそ【ファイアウォール】」


 シャーロット王女達が見守る中、ヤマト国から遠方の森へと伸びる街道に、天をも貫く火柱が出現し辺り一帯を飲み込む。

 アンデッドマスター戦で見た『天炎槍ジャベロットフィアンマ』よりも、更に広範囲を燃やし尽くす威力で、勢いよく立ち昇る炎の高さも遥か上空にまで達し、ヨルズヴァス大陸に覆い被さる雲を蹴散らしている。

 どうやら小型竜の杖を構えて魔法を放つと、威力を底上げ出来るみたいだな。


 『天炎槍ジャベロットフィアンマ』の放つ炎の光により、赤く染められたシャーロット王女達の表情を覗き込んでみると、ルシファーの宣言通り恐怖し慄いているのか、未だ口は開いたままで、何処か目の焦点が定まっていない様子だ。

 

 「どうよ? ルシファーさんは他にも強力な魔法が使えるし、あたしだってそこそこ戦えるわ。お兄ちゃんなんてあたし達よりも、もっともっと凄いんだから。これでもまだ無理って言うの?」


 くるみが両腕を組んだまま、未だ呆然としているシャーロット王女達に言い放った。


 「……凄いどす、凄いどす! なんどすの、今の魔法!」


 シャーロット王女が興奮気味にその場でぴょんぴょんと飛び跳ね出した。

 そして飛び跳ねる姿を見て、今このタイミングで気が付いたのだが、彼女は草履を履いている。

 ……もしかしてずっと草履なのかな? 戦闘になれば動きにくくないか?

 まぁいいか。似合っているもんな。

 無邪気にはしゃぐ姿を見ると、やっぱりまだまだ子供なんだなーって思う。

 王女様といってもまだ十一歳の少女だもんな。


 「く、魔力を使い切ったか……」


 王女の微笑ましい姿に目を奪われていると、そのすぐ傍らでルシファーが片膝を突いたので、【チャージ】でMPを回復してあげるとすぐさま立ち上がり、今度は優雅に舞を舞い始めた。


 「こ、今度は何どすの! 何見してくれはるんどす?」


 シャーロット王女が更に興味津々といった様子でルシファーを観察し始めた。


 ……王女、それ多分、ただのLVアップの舞です。


 やっぱりルシファーは火魔法のLVアップ早いなー。毎回全力投球だもんな。

 早くみんなにもMPを注入する魔法の使い方を覚えて貰いたいな。


 そのままルシファーがシャーロット王女にLVアップの舞をレクチャーし始めたのだが、どうやらシャーロット王女は強力な火魔法の放ち方を伝授されているのだと勘違いしているみたいだ。


 「タケル殿、感謝致します」


 ルシファーと王女の舞を眺めていると、マリアさんが僕の傍へと近寄って来た。


 「殿下はすっかりと元気を取り戻した様子です。先程までは、どうしたものかと頭を悩ませていたのですよ」

 「いや、僕は何もしてませんよ? 王女が元気になったのはくるみとルシファーのお陰じゃないかな?」

 「……それでタケル殿にもうひとつお願いがあるのですが」

 「お願い? 何ですか?」

 「殿下をタケル殿のパーティーに誘ってあげて欲しいのです。お願いします」


 マリアさんが深々と頭を下げた。


 「『武士道』は我々三人以外全員が脱退し、イスタリアへと避難しました。今回のイベントが終了次第、今度はヤマト国を手に入れるべく数千人規模で攻め入って来るでしょう。脱退したメンバー達と別れ際に少し揉めたのですが、彼らはヤマト国へと攻め入った後『武士道』から街の所有権を奪い、かなり強引な行政改革を行うみたいなのです」

 「あー、なるほど。それでイベントクエストの参加人数が三人しかいないんですね?」

 「はい。元々『武士道』だったメンバー達がイスタリア、更にはアレイクマにまで手を回し、今回のイベントには参加しないようにと働きかけたのです」


 成程ね。だからイスタリアやアレイクマからの参加者が一人もいないのか。

 アレイクマの人達にはヤマト国を所有した際に、何かしらの便宜を図るつもりなんだな。……あれ?


 「あの、オリエンターナからの日本人プレイヤーの参加者は?」

 「タケル殿、日本人プレイヤーは未だオリエンターナに到着していませんよ」


 マリアさんの表情が曇っている。……何かあったのか?

 しかし日本人プレイヤー達は一体何をやっているんだよ。もう地下道に生息していたモンスターは倒したはずだろ?

 幾ら何でも、もう空気の循環も済んでいるだろうし普通に通れると思うぞ?



 「実は、非常に申し上げにくいのですが……タケル殿達の所為なんです。その……冒険者達の間で、『タケル殿があの洞窟内に、我々日本人プレイヤー達を通れなくする為に毒ガスを撒いた』という噂が広まってしまい、あの地下道には誰も近寄らなくなってしまったのです」


 半分正解! 僕じゃなくてルシファー達だよ? いやいや、そういう問題じゃないか。

 僕達がカヌット村に行って、もう地下道は通れるよと教えて回っても、誰にも信じて貰えないだろうな。


 ルシファー達の方へ視線をやると、今度はくるみがシャーロット王女に何か話しているみたいだ。

 ……あ、シャーロット王女が怒り出したぞ? どうやらLVアップの舞が強力な火魔法を放つ事と全然関係ない事が分かったみたいだな。


 「タケル殿、このままではイベントクエスト終了後に殿下はヤマト国に攻め込んで来るプレイヤー達に何をされるか……」

 「シャーロット王女は何て言っているの?」

 「それが……、我々が何を聞いても答えてくれませんでしたので、恐らく独りでヤマト国に残り、冒険者達を迎え撃つつもりなのかと……」


 ふむ、『武士道とは、死ぬ事と見つけたり!』ってヤツだな。

 男前な考え方で、勇猛果敢な武将みたいな行動ではあるのだが……。

 僕はマリアさんの傍を離れ、顔を真っ赤にしてルシファーに文句を言っているシャーロットに歩み寄る。


 「……ど、どうしはったんどすか? タケルはん」


 僕は無言のままメニュー画面からシャーロットに豚の喜劇団ピッグス・シアターズへの招待状を送った。


 「……ウチは『武士道』を解散しいひんよ。例えひとりでもこのヤマト国に残って戦います」

 「その結果、ヤマト国を守る事が出来なくなっても?」

 「……」


 シャーロットが無言のまま俯く。


 「マリアさんから少し話を聞いたよ。イスタリアに避難した元武士道のメンバー達はヤマト国を所有後、強引な行政改革に着手するんだろ? 今現在ヤマト国に住んでいる人達にとって、喜ばしい事じゃないとシャーロットは考えているんだろ?」


 シャーロットが無言のまま小さく頷いた。


 「だったらシャーロットが一人で戦って玉砕するのと、頼れる仲間と共に戦ってヤマト国を守り切る方だと、どちらがヤマト国に住んでいる人達にとってより良い結果になるんだ?」

 「……」

 「本当の武士道は死ぬ事じゃないよ? 守りたい物を守る方法があって、その方法に自らの命が必要だった場合、大切な物の為なら喜んで死ねるという心が本物の武士道の心なんだよ。そして、目の前で困っている人に見返りを求めずに手を差し伸べる事が出来るのも、武士道であり、大和魂でもあるんだよ」


 僕の言葉にその場に居た誰もが口を閉ざしている。


 ……何だか非常にクサいセリフを吐いてしまったぞ!

 言い終わってから顔が赤くなって来ている気がする。


 くるみとルシファーが顔を赤くしながら片手で鼻を摘まんでいる。

 どうやら僕が放ったセリフがクサかったみたいだ。


 ……やっぱり慣れない事をしちゃ駄目だな。


 「というわけで、豚の喜劇団ピッグス・シアターズは目の前で困っている友人を見捨てたりはしません」


 僕は普段通り、少し冗談っぽさも言葉に含ませつつシャーロットへと手を差し伸べた。


 「見捨てたりしません」

 「……ません」


 くるみとルシファーが僕の隣に並び直し、同様にシャーロットへと手を差し伸べる。


 「マリアさんとエレーナさんも一緒に加入して下さいよ!」 


 少し離れた場所で事の成り行きを見守っていた二人も僕達の所まで呼び寄せた。



 ――のだが、何故か二人共泣いている。マリアさんに至っては顔中色んな液体まみれだ。どうした?


 「で、殿下ー! づ、遂に念願の日本人のども゛だぢが出来ましたね!」

 「……グズッ」


 どうやらマリアさん達は王女に友達が出来た事に喜んでいるみたいだな。

 しかし、エレーナさんはただただ泣いているだけなので、未だに声を聞いた事がないのだが……。


 「と、友達。……ウチが友達でもええんどすか? ウ、ウチ、我が儘どすえ?」

 「あー、豚の喜劇団ピッグス・シアターズはそんな人達ばかりだから、誰もそんな事気にしないよ」

 「……ちょっとお兄ちゃん、それどういう意味よ」

 「いや、くるみはウチのパーティーの中でも我が儘代表だよ? トドメは差したいだとか、突然唐揚げが食べたいだとか言い始めるし」

 「う……あれは、アレよ。ただの冗談! 本気なわけないじゃない」


 くるみは何かを誤魔化す感じで僕の背中をバシバシと叩いている。


 「フフフ、我が眷属共は己の事しか考えぬ、困った者達ばかりじゃ」

 「いやいや、ルシファーも酷いよ? 魔力石は独り占めしようとするし、僕が我慢していたにも拘らず、いきなり日本人プレイヤー達に魔法ぶっ放したりするしさ」

 「……な、何の事だか」


 ルシファーは日傘を差し直し、そのまま日傘で顔を覆い隠した。

 

 「……うふふ、ほんに、楽しそうどす」


 そんな僕達のやり取りを傍で見ていたシャーロットは、笑顔で何かを呟いた後、自身のパーティー『武士道』を解散し、メニュー画面から正式に豚の喜劇団ピッグス・シアターズへと加入した後、伸ばしたままでいた僕の掌に自身の手をそっと重ねた。


 マリアさんとエレーナさんも同じく豚の喜劇団ピッグス・シアターズへと加入を済ませ、ヤマト国の所有者が空欄となったので、豚の喜劇団ピッグス・シアターズで所有する事となった。

 もし今後も所有し続けるのであれば、今まで通りヤマト国の人々が生活出来るようにシャーロットに任せよう。

 続けて、今回のイベントクエストが終了するまでの間、ヤマト国を豚の喜劇団ピッグス・シアターズと『POP☆GIRLS』以外は入国出来ないように設定させてもらった。

 シャーロットが言うには、こうやって設定しておくことで、ヤマト国へと攻め入ろうとしても必ず豚の喜劇団ピッグス・シアターズの代表と対戦PKを行わないといけないらしい。

 まぁその場合は対戦PKを断る事が出来ないそうなのだが、代表は誰でもいいらしいので和葉にでも任せておけばいいか。


 その後お互いの情報交換の為に、一度ファストタウンの自宅へと戻った。




 「ルシファー、くるみとシャーロットに強力な魔法の使い方を教えてあげてくれる? 僕はマリアさんとエレーナさんに少し話があるから」


 自宅の地下室のソファーにマリアさんとエレーナさんに座って貰い、シャーロットはルシファー達に預けた。

 少し離れた場所で待機していたエフィルさんが頃合いを見計らってこちらに近寄って来た。


 「タケル様、ガゼッタさんよりメッセージを預かっております。約束していたくるみ様の武器が完成したので武器、防具屋まで取りに来て欲しいそうですよ? その際、出来れば魔力石を十個程持って来て助けて欲しいのだとか……」

 「ありがとうエフィルさん。この後向かってみるよ」


 魔力石十個? 何だろう。余計に魔力石を使ってしまったのかな? でも助けて欲しいって何だ?

 まぁいいか。今はマリアさん達との話の方が大事だしな。


 「実はお二人に大事な話があるんですよ」

 「……何でしょう。困った事でもあったのですか?」


 勘の鋭いマリアさんがタイガー〇スクの下の真剣な表情から、何かを感じ取ったみたいだ。


 「実は現実世界の僕の家に、シャーロット王女と瓜二つの少女が居まして、その子が今朝方ヨーロッパの犯罪者グループ達の手によって誘拐されてしまいました」

 「……仰る意味が今一つ理解出来ないのですが、誘拐されてしまったのであれば、こんな事をしている場合ではないと思うのですが?」

 「いや、既に犯罪者グループから助け出しているので、もう心配はないんですよ」


 僕の話を聞いていたエレーナさんが、三人分の珈琲を静かに用意してくれた。


 「実はわけあって体中の色素が抜け落ちてしまった少女と同居しているのですが、その子が現実世界のシャーロット王女にソックリで、本物のシャーロット王女と間違えて誘拐されてしまった、という事なんです。それで、犯罪者グループの主犯格の男が言うには、シャーロット王女の事を狙っている犯罪者グループは五万と居るらしいんですけど、奴らは王女がお忍びで来日する際、日本だという事で警備が手薄になっているところを狙っている、とか言っていましたよ?」

 「そういう事でしたか。それはその子に大変なご迷惑を掛けてしまったみたいで、誠に申しわけない」


 ソファーに座ったまま、マリアさんとエレーナさんが頭を下げた。


 「あ、いや、コナちゃん……その子の名前はコナちゃんって言うんですけど、その子には怪我も全くなかったので今回は大丈夫でしたよ! 珈琲頂きます」


 二人に頭を上げて貰ってから珈琲を啜った。


 「それで、今後来日される際は警備を強化しておいた方がいいですよ、というお話がしたかったのでこうやってお二人だけとお話――珈琲!」


 慌てて自分の手に持たれている珈琲カップをまじまじと見る。

 僕、普通に珈琲飲んでたけど、今はOPEN OF LIFEの中だった! 一体何処から出て来たんだ?

 あまりにも普通に珈琲を出されたので、何も違和感を感じなかったぞ!


 「うふふ、驚いていらっしゃいますね? Mrタケル」


 執事姿の金髪の男性アバターで、女子っぽい可愛らしい笑顔が特徴のエレーナさんが初めて話してくれたのだが……声がおじいちゃんだった。だから今まで一言も声を出さなかったのか?


 「わたくしのギフト装備『セバスチャンスーツ』の特技で、いつでも何処でもお好きなお飲み物をお出し出来ますのよ。その代わり、声がセバスチャンっぽくなってしまうのですよ」


 女官のエレーナさんが高身長の男性アバターで、笑顔が女子っぽく可愛らしくて声がおじいちゃん。

 ……非常にややこしい! しかも何だよその特技! 戦闘には何の役にも立たないじゃないか!


 しかし珈琲は凄く美味しいぞ。最高のギフト装備じゃないか!

 

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