スペシャルエピソード REINAの場合
ただ今お仕事休憩中。
ペットボトルのお茶に口を付けつつ、最近色々な事があったなぁー、なんて物思いに耽っていました。
ひと月程前、事務所の先輩達がゲーム機の話題で盛り上がっていた事から全てが始まったの。
私もそれなりにゲームは小さい頃からやって来たけれど、そんなに得意な方ではなかったわ。
でも、今回発売されるゲームはVRMMOっていう前代未聞のゲームみたいで、自分自身がゲームの中に入り込んでいるみたいな感覚で、沢山の人達と同時に遊べる画期的なゲームだと聞き、是非私も遊んでみたいって思ったの。
長い間、友達と一緒に外で遊んだりなんてしていないし、ゲームの中なら色んな人とバカ騒ぎして、心置きなく羽を伸ばせそうじゃない!
小さな子供からお年寄りまで、皆を癒せる存在になりたい!
私の小さな頃からの夢も、このゲームの中でなら叶えられるかもしれないって思ったのよ。
でも予約の段階で抽選があると聞かされた時には、正直無理だろうな、当たらないだろうな、と諦めていたわ。
……だって私、くじ運ないんだもん。
それがさ、移動中の車の中で当選したって知った時には大声で、やったー! って叫んじゃった。
……そして先輩にうるさい! って怒られたわ。てへっ。
初めてOOLHGを装着してダイブした時は凄く感動したなー。
ああ、こんな凄い世界があるんだ、これがゲームの中なんだーって。
でも感動したのは最初にダイブした時だけだったの。
それどころか二回目以降はダイブする事が億劫でしかなかったわ。
……どうしてかって? アレよ、アレ!
ギフト装備『パンダスーツ』の所為よ! 誰よ、あんなの作った馬鹿な人は!
「ステータスが大幅に上昇しますよ」
最初の小屋に居た女の子、エフィルさんが言うから装備してみたのはいいけれど、メニュー画面を操作する自分の手を見て愕然としたわよ。
リアルに作り過ぎ! ゴツゴツし過ぎよ!
『パンダスーツ』なんて名前だったから、可愛らしいお人形さんみたいな物か、着ぐるみみたいな物を想像してたのに、肉球はカサカサで可愛くないし、指の爪とか凄く尖っているし。
しかも自分のステータスが見られないと分かった時には、即、この装備は封印しようと心に決めたわ……。
ガッカリしながらメニュー画面を操作して、コマンド選択『装備を外す』を鋭い爪でタップしたの。
<この装備は解除出来ません>
ホント、言葉を失ったわ。
<この装備は解除出来ません>
<この装備は解除出来ません>
<この装備は解除出来ません>
<この装備は解除出来ません>
<この装備は解除出来ません>
<この装備は解除出来ません>
ムキになって何度も何度も、装備を外すコマンドを鋭い爪で連打してみても結果は同じ。
……
『もー! 何でよー!』
思わず大声で叫びながら小屋から飛び出したわ。
そしたら小屋の外は、沢山のプレイヤー達で溢れ返っていたの。
……そうだ! みんななら装備の解除方法を知っているかもしれないわ!
そう考えた私は早速近くに居た、白いTシャツに短パン姿の女性プレイヤーに話し掛けてみたの。
……全っ然何言っているのか分からないし、私の言葉も通じない。もー! 何でよー!
またムキになって大声を出してみても、私を見たプレイヤー達が笑い始めてしまい、途中から惨めさすら感じ始めた。
私はプレイヤー達の輪から逃げ去るようにして走り出し、右も左も分からないまま、人が走って行く方向を同じように直走ったの。
……もしかしたら、もしかしたらこの先でみんなと同じ冒険者風の見た目に変われるかも。
そんな淡い希望を胸に抱いて、ひとつの小さな町に辿り着いたの。
結果は同じだった。
冒険者達は私をペットのように扱い、芸までさせようとしたプレイヤー達も居たわ。
『コッチにおいでよ』
……そうよ、忘れもしないわよ! バーの椅子に座っていたら、男性のプレイヤーに手招きされたのよ。
私は嬉しくって舞い上がっちゃって、こんな私でも冒険に連れて行ってくれるんだ! って大はしゃぎしたわ。
そしたら町の外に冒険者達が沢山集まって居て、何処から用意したのか分からないけれど、サーカスの猛獣ショーなんかで見た事のある『火の輪』が用意されていたの。
さぁ、早く
……思い出しただけで泣きそう。
何で私だけこんな思いをしなきゃいけないの?
他にも、バーの椅子でただ座っていただけで、お金、
見物料なんて要らないわよ! 動物園じゃないのよ! 馬鹿じゃないの? ……
私がログインして向かう場所はただひとつ、町のバーの端っこの席。
何故かって? バーのマスターだけは私の言葉が分かるからよ。
そしていっつもマスターに愚痴を溢していたの。
「他にもREINAさんみたいに言葉が分からない人が現れるかもしれないし、その人となら一緒に冒険出来るんじゃないか?」
マスターがくれたこのアドバイスを頼りにして、私は只管待つ事にしたのよ。
でも他に私みたいな人は現れなかった。
……やっぱり私ってくじ運がないのね。大外れだったのよ、この装備。
せっかくログインして来て、バーでドリンク呷るだけって……何やってんだろう、私。
……もう、このゲーム、止めようかな。
『マスター、おかわり!』
お金はあるのよ。見物料いっぱい貰ったしねー! フンだ。
――そんな時だったわ。
「あのー?」
『何か用ですか?』
『何かと聞かれても、僕今日初めてこの――』
変テコな見た目のプレイヤー、タケル君が私の前に現れたのよ!
私嬉しくって嬉しくってその場で大はしゃぎしちゃったの。
……今考えると、私相当変な人――じゃなかった、パンダだったよねー。良かった、私を見てタケル君が逃げなくて。
私が事情を話すと嫌な顔ひとつせずに、私を冒険に連れ出してくれるっていうの。
神様だと思ったよ。いや、ホントに。
もうドリンク注文するだけのゲーム生活は嫌だったのよ!
その後すぐにルシファーちゃんが仲間になって、メッセージでやり取りするっていう方法を教えてくれたのよ!
私、全っ然考え付かなかったよ、こんな方法……。そもそも誰も教えてくれなかったし。
そして和葉さんやくるみちゃんも仲間に入った所で、私は一大決心をした。
私の素性を女性陣にだけ話したの。
……それでもみんな、今まで通り普通に接してくれるの。凄く嬉しかった。
タケル君には、言う時が来れば自分から話すから内緒にしておいてくれる? ってお願いすると、みんな快く了解してくれたの。
いつかキチンと話さないと……ね。
タケル君はこんな容姿の私にも、何も言って来ないし、何も聞いて来ない。
お仕事についても一切触れて来ない。
ドライ……とは少し違うけれど、一緒に居て凄く過ごし易いのは事実よ。
……こんなにも気兼ねなく男の子と会話出来たのはいつ以来だったかな?
しかもゲーム内では凄く強くて何でも出来て……。
<お兄ちゃんは現実世界でも超強いわよ? この間も私が助けて貰った時、三人相手に余裕のノーダメージだったし。 しかも超イケメン!>
そんな話をみんなにすると、くるみちゃんからメッセージが返って来た。
タケル君、あなた一体何者なのよ? ルシファーちゃんのお姉さんも痴漢から救ってあげたって言っていたし。 ……ちょ、超イケメンって。い、いや、別に私はタケル君がイケメンであろうがなかろうが、どどどっちでもいい……ああ、もう! 何言ってんの私! そういう意味じゃなくて――
「
「うひゃう! は、はーい! すぐ行きます!」
ドアの向こう側から、突然スタッフさんに声を掛けられちゃったから変な声が出ちゃった。
何だか最後の方はタケル君の話ばっかりになっちゃったけれど、今は毎日OPEN OF LIFEにダイブするのが待ち遠しいよ!
こんな気持ちになるなんて、バーでドリンク注文していた頃からは想像も出来ないよ。
今考えると『パンダスーツ』は私のくじ運で、初めての大当たりだったのかもね。
こんなにも楽しい仲間達と出会えたんだもの!
……さて、そろそろお仕事に戻るとしようかな。
ペットボトルのお茶をひと口含み、姿鏡でおかしなところがないかささっとチェックしてから、みんなが待つ場所へと向かう為、控室のドアを元気良く開けた。
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