第21話


 <タ、タケル! 一体どうなってやがるんだ?>

 <全っ然分かんないよ。僕にもちんぷんかんぷんだ>


 シャーロットと名乗った京都弁を話す女性がヤマト国を治める姫? どうなってんだ?


 「うふふ、やっぱりなんも分かってはらへんかったんどすな。日本人のゲーマー達にはがっかりさせられましたわ」


 狼狽える僕と源三の様子を見たシャーロットさんが、クスクスと笑いながら話を続けて来た。

 でもがっかりさせられたっていうのは、どういう事だ? 


 <タケル、暫くこのお姉ちゃんの相手を頼めるか?>


 突然源三からこんなメッセージが届いた。


 <へ? 何で? 源三はどうするのさ>

 <俺はさっき話し掛けて来た弓の男から色々と情報を引き出してみる。だからその間このお姉ちゃんの相手を任せたい>

 <大丈夫なの? そんな事出来るの?>

 <任せとけって! アイツみたいな素人の会話じゃない、本物の営業マンのトークスキルを見せてやるよ!>


 源三は僕に視線で合図を送った後、男の背中を見せ付けながら弓を背負った男性の所へと向かい、フレンドリーに話し掛け始めた。


 ……スゲーカッコイイんだけどさ、さっきの事があるから失敗フラグとしか思えないぞ!

 さて、源三にシャーロットさんの事は任されてしまったわけなのだが、どうやって切り出して行けばいいのやら……。


 「が、がっかりさせられたと言っていたけど、どういう事ですか?」

 「そうどすな……、その事を話させて貰う前に、まずはウチの……ウチの……、えー……、えー……ちょ、ちょい待っとくれやす」


 シャーロットさんは掌を僕に向け、『待った!』とポーズを取った後、すぐ後ろで控えていた、より女性っぽい方の執事へと口もとを手で覆い隠しながらゴニョゴニョと耳打ちをした。

 すると今度は柔らかな笑みを浮かべた金髪の執事から、シャーロットさんにゴニョゴニョと耳打ちが返されると、シャーロットさんはうんうんと頷きながら、顔の前で軽く両手を叩いた。

 その後、更に執事からゴニョゴニョと何かが告げられると、シャーロットさんと執事がお互いに向き合って小さくガッツポーズをした後、僕の方へと身体を戻して来た。


 ……ナニコレ?


 「……コホン、そうどすな……、その事を話させて貰う前に、まずはウチの自己紹介をさして貰いましょ」


 シャーロットさんは小さく咳払いをした後、何事もなかったかのように先程の会話を冒頭から言い直した。

 ……自己紹介の単語が出て来なかった、のか?


 「ここに居てはる、『武士道』のみなさんは既に知ってはる事どすけど、ウチはM国王家の長女シャーロットどす。ほんで、後ろに控えてはるのが女官のマリアとエレーナどす」


 シャーロットさんに紹介され、銀髪で相変わらず鋭い視線を向けつつ僕の事を警戒しているマリアさんと、先程シャーロットさんに耳打ちしていたエレーナさんがそろって会釈してくれたので、僕も、はぁ、どうもと会釈を返しておく。



 ……M国王家の長女だとー! シャ、シャーロット王女って事か?

 NPCの姫キャラクターでも、姫プレイヤーでもなく、この人は本物のお姫様だったのか……。

 それと後ろの二人が女官……という事はこの二人、現実リアルでは女性という事か。


 シャ、シャーロット王女……何だけ? このワードで何かが記憶の片隅にふわっと引っ掛かったんだけれど、全然思い出せないな……。

 何か気付かないといけない気がするんだけど、もやもやするだけでちっとも頭に浮かんで来ないぞ。

 ……まぁ今はいいか。後で何か思い出すだろう。


 「ウチは日本の事が大好きなんどす。文化も歴史も人柄も何もかも。ほやしこうやって日本語も覚えたんどす」


 シャーロット王女は自分の胸に手を当て、感慨深そうに瞳を閉じた。


 「大好きな日本から発売されるVRMMOがヨーロッパ全体でたったの五千台。ウチはなんとしてでもその狭き門をマリア、エレーナと共に潜り抜ける為に、毎日お祈りしてたんよ」


 シャーロット王女は閉じていた瞳を開け、今度は胸の前で小さく合掌している。

 両手をガッチリと組むお祈り方法ではなく、より日本っぽい神社やお寺での参拝に近いやり方だったのだろう。


 「せやかて流石に三人一緒うんは無理かなー思てたけど、見事に三人共抽選で当選し、こうやってゲームに参加させて貰ろてます。ほんで、いざゲームを始めたら、『ヤマト国』う名前の国があるやないの。日本大好きなウチとしては是非とも寄せて貰わんとアカン思て、無理してここまで来たんどす。ほなこの『ヤマト国』の所有者が空白のままになってはったし、『武士道』で所有させて貰う事にしたんどす。メニュー画面で確認しとくれやす」


 ヤ、ヤマト国の所有者?

 メニュー画面でヤマト国の情報を見てみると……た、確かに所有者の欄に『武士道』と出ている。

 どうやらヤマト国と他の四大主要国家『オリエンターナ』『イスタリア』『アレイクマ』はその街自体を所有する事が出来るみたいだ。

 ……ぜ、全然知らなかった。


 「がっかりした、うんは日本人のプレイヤー達の事どす。ほんまやったらここ『ヤマト国』は日本人のプレイヤー達が所有しなあかんかったはずどす。一番ちこうから始めさせて貰ろおて、他のどの国のプレイヤー達よりも優遇されてはったんどす。人数も多おて一万人も居てはったんやし。それが何ですのん? ちぃとモンスターが強い、おもたらすぐに尻尾巻いて逃げ出しはって。情けない思わんの? 武士道の精神は何処へ行ってしまわはったんどすの!」


 シャーロット王女は沸々と込み上げて来た感情を爆発させるように、体を震わせながら怒り始めた。


 ……確かにシャーロット王女の言う通り、日本人のプレイヤー達はちょっと情けないよな。

 彼女達がここまで辿り着くのも相当大変だったはずだし。


 「ここ『ヤマト国』はウチ等が昔ながらのより良い日本を目指して、一から作って行こ思います。ほやし日本人プレイヤーには街を使用禁止にさして貰いました。どうぞお引き取りしておくれやす」

 「……へ? ちょ、ちょっと待ってよ」


 し、使用禁止? 街を所有するとそんな事も出来るのか!


 「……どないしはったんどすか?」


 シャーロット王女の顔は至って真面目だ。どうやら本当にそんな事も可能みたいだ。

 ……仕方がない。今回は出直すか。


 「……まだ自己紹介出来ていませんでしたのでご挨拶だけでもと思いまして。僕の名前はタケルです」

 「これはこれは礼儀正しゅうて何よりどす。ほなウチ等はこれで。ご機嫌よう」


 シャーロット王女は小さくお辞儀をすると、そのまま踵を返し、マリアさん、エレーナさんと共にヤマト国内へと帰って行ってしまった。

 後ろ姿からも気品を漂わせて去って行ったシャーロット王女達がヤマト国内に入ると、ヤマト国の南門が激しい金切り声を上げながらゆっくりと閉まった。


 「……ちょ、約束が――」

 「へへーんだ、そんな約束、俺はした覚えないぜ? 『考える』って言っただけだし、嘘は言ってねーぜ? じゃあ色々とありがとよ!」

 「お、おい! 誰かアイツを止めてくれ!」


 揉める声がする方向を見ると、源三が数人に追われながらこちらに向かって走って来ている最中だった。


 ……今度は何をやったんだよー!


 「タケルー! 背中だ! 背中に乗せてくれ!」


 源三が叫ぶと同時に僕の背中に飛び乗って来た。


 「ダッシュだタケル! こいつ等を撒いてくれ!」


 ……僕は馬でもタクシーでもないんだぞ!


 とか思いながらもしっかりと全速力で逃げ切ってしまう僕。

 和葉達といい、源三といい、パーティーメンバー達に上手い具合に使われているなぁ……。


 「……それで? 源三の方はどうだったの? 何やらかしたの?」

 「その言い方だと俺が何かやらかす事前提みたいじゃねえか」

 「え? 違うの?」

 「何て酷い奴だ。ちゃんと情報は聞き出して来たし、何も失敗はしてねえよ!」


 ……またまたぁー、源三なのにそんなわけないじゃん。


 「とにかく一度ファストタウンの自宅に戻るよ」


 源三と瞬間移動で自宅の地下へと向かった。



 「あ、師匠、おかえりー! どうだったの? 上手く辿り着けた?」

 「みんなにヤマト国の事情を説明するから集まってくれる?」


 今回は和葉、ルシファー、くるみの三人共真面目に練習してい様子で、和葉は筋トレ、くるみは何やらルシファーから教わっているみたいだった。 

 ソファーセットが置いてある場所に集まって貰い、シャーロット王女から聞いた事情を話した。


 ……


 「……成程なー。思いが強かった分ショックだったんじゃねーの? 王女さん。よし、じゃあ今度は俺が仕入れた情報を皆聞いてくれ」

 「プーッ! 源三が? 何を仕入れたのよ? いつでも何処でも寝られる方法か何か?」


 和葉は源三が活躍した場面を知らないので、話を信用していないのか、笑いながらからかい始めた。


 「……おいおい、お前ら、ちょっとは人の話を真面目に聞けっての」


 源三は少し拗ねながら、仕入れた情報を話してくれた。


 ヨーロッパ組は、『プリマチッタ』という町の近くからスタートした事。

 そしてその町からは四大主要国家である『イスタリア』が近かった事。

 『イスタリア』はヤマト国からかなり西に行った場所にあるという事。

 『プリマチッタ』の町の近くの海には『クエルブレドラゴン』という恐ろしい化け物が住んでいるらしい。恐らく四大神龍の一角で、ピレートゥードラゴンがヨルズヴァスの空の覇者となっていたので、海に居るという事は『ヨルズヴァスの海の覇者』なのかもしれない。

 ヨーロッパ組は五千人が団結しており、イスタリアを目指したのが二千五百人で一つのパーティーを組み、後の二千五百人で『武士道』を結成してヤマト国にやって来たそうだ。

 その二千五百人は全て役割分担を徹底しており、各々が得意な分野、鑑定や偵察、討伐や解析チーム等、全てをシステム化させて効率良くゲームを進めて来た手腕の持ち主が、シャーロット王女なのだそうだ。

 ……シャーロット王女は凄い人なんだな。

 そして解析チームからの結果で、救世主スキルの効果が既に判別済らしく、救世主スキルが重複出来る事も分かったので、仲間同士で争うよりも、みんなで恩恵を受けた方が得だという事で落ち着いているらしい。

 因みに解析作業というのは、パソコンを使って解析をするわけではなく、一つの物事を人海戦術で少しずつ検証実験して行く方法で、とても面倒くさくて時間の掛かる作業なのだそうだ。

 モンスター討伐で入るEXPが共有される事、またモンスター討伐でEXPを共有する為には、討伐したプレイヤーの近くにいないと共有出来ない事、クエスト報酬で貰えるEXPにはプレイヤー同士の距離制限はなく、例えログアウトしている場合であってもパーティーメンバー全員にEXPが入って来る事、クエスト参加人数に上限がない事も分かったらしい。

 くるみにもクエスト報酬のEXPが入っていたもんな。色々調べればもっと色んな事が分かるかも。

 『武士道』は二千五百人という大所帯で活動し、人海戦術的に片っ端からクエストをクリアして行き、全員にEXPが入るようにしていたのか。

 二千五百人も居れば、少々難易度が高めのクエストも何とかなりそうだもんな。

 そして僕達を鑑定した四人組は全員が同じLV25だったのは、自分達でモンスターを倒していないからだったんだ。

 そしてLVの割にはスキルLVが低かったのもそういう理由で、自分達は自分達の仕事をこなし、EXPはクエスト報酬で入って来る、と。

 シャーロット王女、本当に頭がいいんだな。


 ……でも、ゲームとしては面白くなさそうだな。


 「シャーロット王女の容姿、あれは実際の王女様の姿じゃないらしいぞ?」

 「え? そうなの?」


 凄く綺麗な人だったのに、色んな部分を『盛った』のか?


 「ああ、流石に王女が人を攻撃するところっていうのを見せるわけには行かないと、父親である王様が許可しなかったそうだ。だからより日本人っぽく黒髪や黒い瞳にアバター設定したらしい」


 そ、そういう事か。そうだよな、王族が、しかも自分の娘が人に向かって薙刀を突き立てるシーンなんか、国民に見せられないよな。

 だから女官の二人も男性のアバターに変更していたんだな。納得したよ。


 「ところで源三、一体どうやってこんなにも情報を引き出して来たの?」


 僕はあまりの情報の多さに、源三の事を色々と疑い始めた。

 だっておかしいじゃないか! 源三だぞ?


 「普通はよ、『海老で鯛を釣る』っていう言葉があるよな? 俺はそれを更に進化させて『海老の匂いを嗅がせて鯛を釣る』を実践したんだ。それっぽい事をふわりふわりと匂わせて、喰いついて来た所を一気に根こそぎ引き抜いてやったのさ。実際には何にも言っていないし、ヒントになるような事すら言ってねーぜ?」


 ぐははー! とのけ反って笑っている源三を、みんなが唖然とした表情で見つめる。


 ……げ、源三のクセに、超カッコイイじゃないか!

 これが源三の言っていた、営業マンのトークスキルというヤツか。恐ろしい奴だ。


 「まだ情報はあるぜ? ヤマト国の事だ。街を所有すると街の人から税金が取れたり、入国税が取れたり、施設の使用料が取れたりするみたいだが、あまり税金を高く設定し過ぎると、街の住民がどんどん減るらしいぞ」

 「……何か、本当に街を作るゲームみたいね。あたしには無理なヤツよ」


 源三の話を聞いていたくるみが、眉間にしわを寄せつつ首を横に振った。

 街を所有すると出入り禁止に出来ると言っていたシャーロット王女の話も本当なんだろうな。


 「何だよ源三、やるじゃないのよ! 見直したわ」


 和葉が話終わった源三の背中をバシバシと叩く。


 「フフフ、我が眷属よ、其方には妾の失われた力を取り戻す為の諜報活動を任せましょう!」


 ルシファーも源三の事を見直したみたいで、指輪が輝く手を口に当てて、いつものポーズを取っている。


 ……でもルシファー、失われた力の話はミュージカル口調じゃないと駄目なんじゃなかったのか?


 本当ならヤマト国で少し活動する予定だったのだが、街に入れて貰えなかったのでその分の時間が余ってしまった。

 本来なら全力疾走でカヌット村に向かわなければならないところを、みんなが耐えられるスピードで突き進む事が出来そうだぞ。


 「みんな、荷車に乗ってくれる? 今度の旅はスピード控えめの快適旅になるからさ。あと、途中で討伐クエストを一つ消化するから」

 「討伐クエストだと? 来たー! 待ってましただぜ!」


 源三が嬉しそうに荷車へと乗り込む。

 他の三人は僕に懐疑の目を向けながらも、渋々といった感じで荷車へと乗り込んだ。




 「源三、これあげるよ、『連続斬りの巻物』」


 小高い丘の上でカヌット村へと続く街道を進んでいるのだが、ガラガラと荷車を引きつつ、道具袋から『連続斬りの巻物』を取り出し、荷車の上で小型竜ワイバーンのアギトを素振りしている源三に渡した。


 「お? これ使うとどうなるんだ?」

 「実力に応じて連撃数が増えるユニークスキルが使えるようになるらしいよ?」


 鑑定で調べてみると、LV、各種武器スキルのLVによって連撃数が変わるというユニークスキルだった。

 僕は恐らくそんなにも連撃する必要がなさそうなので、源三にあげる事にした。


 「因みに和葉の『爆裂拳』は攻撃数が増えるんじゃなくて、打撃に爆破属性が付く、変わったユニークスキルだったよ」


 爆裂拳という名前から、打撃数が増えるのかと思いきや、本当に爆裂するスキルだった。

 僕の話を聞いた和葉が、源三の背中へ向けてスキルを発動させようとしていたので、強く止めておいた。


 荷車が壊れるじゃないか! 

 ご使用の際は、用法を守って正しくお使い下さい。

 決して人に向けて使用しないで下さい。


 「……ねぇお兄ちゃん、一回『悪魔召喚』してみてもいい?」


 僕の近くまで来て腰を下ろしたくるみが少し考えながら聞いて来た。


 「何か思う事があるのか?」

 「……うん、チョット」


 時速三十キロくらいで走っていたので、一度荷車を止める事にする。


 「【シャイニングオーラ】」

 「フ、フフフ、我が眷属よ、妾を謀るとはいい度胸じゃ」


 ルシファーは乗り物に弱いみたいで、ゆっくりと走ってもやっぱり酔ってしまってダウンするので、こうやって定期的に回復させないといけない。

 ……早く酔い耐性スキル覚えてくれないかな。


 くるみは荷車の上から飛び降り、少し離れた場所へと右手の掌を向ける。

 ……悪魔召喚に、掌を向ける必要なんてあったっけ?


 「まぁまぁ弱いヤツ、出て来なさい!」


 くるみは大きな声で叫びながら悪魔召喚を使用した。

 ア、アバウト過ぎじゃないか、それ。

 叫んだ通りの従者が出て来るにしても、もうちょっと具体的じゃないと召喚される方も困ると思うぞ?


 くるみが掌を向けた場所に怪しく光る幾何学模様の魔法陣が出現する。

 ……おお、きちんと狙った場所に魔法陣が出現したじゃないか! まぐれじゃないよな?


 「おお! スゲーじゃねーか! 何だあれ!」


 くるみの悪魔召喚を始めてみる源三は大興奮だ。

 前の魔法陣よりも遥かに小さな魔法陣の中央から現れたのは……体長三メートル程の蝙蝠こうもりなのだが手足が長く、プラスチックみたいな肌質で燃えるように真っ赤なモンスターだ。

 名前が……レッドデーモンで、ステータスも……まぁまぁ弱い。

 おい、注文通りのヤツが出て来たじゃないか! どうなってんだ?


 「よしよし、狙い通りね。気持ち悪いから帰ってよし!」


 くるみが掌をシッシと振ると、レッドデーモンはすぐさま魔法陣の中へと飛び込んで行った。


 「……うんうん。やっぱり呼び出す悪魔の強さと呼び出している時間の長さによって、必要な血の量が変わって来るみたいね。さっきお兄ちゃんが居ない間に、ルシファーさんが色々教えてくれたのよ。掌を向ける事とか、大きな声を出すとか、頭の中でなるべくリアルにイメージするとか、気持ちを強く込めて念じるとか。それを実践してみれば上手くいったわ」


 そう言えば僕が地下室に帰って来た時に二人で何か話し合いをしていたみたいだったが、そんな事を話していたのか。

 しかしルシファーが教える立場になるとは……。

 魔法の場合だと、そこから更に微妙な魔力の流れを感じ取ったり、感じ取れるようになればその魔力を急激に流したり、小分けにしたりすることで濃縮したり纏めたり出来るようになるんだけどね。


 「……で? 必要な血の量は減ったのに、僕の血は吸うんだ」

 「ほえあほえ、こえあこえお」


 くるみは僕の背中にしがみ付いたまま、首筋からちゅうちゅうと血を吸っている。

 

 「何だ、タケルの妹は見た目も変だが、中身も変なのか?」


 源三がくるみのスキルの事を知らなかったので、吸血と悪魔召喚の事を教えてあげる事にした。

 源三に話している間に、くるみのステータスを見てみると、吸血と悪魔召喚のLVが2に上がっていたぞ。

 ……でも早過ぎじゃないか? 悪魔召喚なんてまだ三回しか使っていないんじゃないのか?


 「ふーん、そうなんだ」


 その事をくるみに教えてあげたのだが、いつも通りのあっけらかんとした返事しか返って来なかった。


 「スキルのLVアップが凄く早かったんだよ? もうちょっと何かないの? やったー、とか、嬉しい! とか」

 「そんな事言われたって初めてなんだし……。そう、早かったのね。……因みにどのくらい早かったの?」

 「どのくらいっていうのは説明するのが難しいけど、滅茶苦茶早かったよ?」


 ふーん、と何かを考えているくるみをそのままに、ガラガラと荷車を引いていると、ミクリさんから受け取った近道の地図に記されている、通常ルートとモンスターが手強いけど近道になる分岐点の場所へと到着したみたいだ。

 近道の方は足場の悪い岩石地帯を抜けて行くみたいで、軽自動車程の岩や、巨大なダンプカー程の岩がゴロゴロと転がっている場所へと向かって行く。


 「みんな、ここからはモンスターが出て来るよ。しかも手強いモンスターらしいから気を引き締めて」


 みんなに注意を呼びかけながら、索敵マップで討伐クエストの対象であるメタルスコーピオンを探す。

 もしかしたらなかなかエンカウント出来ないモンスターかも知れないし――いや、そんな必要なかった。うじゃうじゃ居る。

 しかもメタルスコーピオン以外もうじゃうじゃ居る。

 ここのモンスターって手強いんだろ? 大丈夫か?


 豚の喜劇団ピッグス・シアターズのメンバー達を荷車の上に乗せたまま、ガラガラと岩場を進んでいたのだが、……おかしい。

 索敵マップで確認しているのだが、モンスター達が一定の距離を保ったままこちらに近付いて来ない。

 しかも少しずつ僕達を包囲するつもりなのか、後ろ側へと回り込もうとするモンスター達も出始めた。


 ……罠、みたいだな。


 このままもう少し進むと、若干開けた場所に出るので、どうやらその場所で一斉に襲い掛かって来るつもりなのだろう。

 さてどうしたものか。罠にかかったフリをして逆にこちらがモンスター達を一網打尽にしてもいいのだけど、出来ればメンバー達に経験を積ませてあげたいし……。

 

 <大急ぎでお仕事終わらせて来たわよー! タケル君、お迎え宜しくー!>


 どうしたものかと考えていると、仕事で遅れると言っていたREINAから連絡が来た。


 「師匠! REINAっちからメッセージが入ったよ!」

 「そうみたいだね。よし、みんなにも話したい事があるから、一度家に戻ろう」


 荷車があるので、一度地下の広い部屋へと瞬間移動で向かってから家の入口、豚小屋へと向かった。



 『ぁわわ! ちょ、おおお驚かせないでよ! 急に現れたらビックリするじゃないのよ!』


 REINAは突然目の前に現れた僕にビックリしたのか、現在僕の肩口をパンダの大きな手でバシバシと殴りつけている。


 「ゴメンゴメン、みんな地下に居るから合流しよう」


 やさぐれた顔のREINAに睨まれながら、みんなが待つ地下へと移動した。


 「エフィルさんゴメン、みんなにログイン後のスタート位置の設定方法を教えてあげてくれる?」

 「勿論ですよ、お任せください!」


 僕が設定方法を忘れてしまったので、メンバー全員にメニュー画面を開いて貰い、エフィルさんにもう一度説明して貰う事にした。


 ……のだが――


 「ちょっとそこ! ちゃんと聞いてるの? 設定しておかないと、僕が毎回迎えに行かないといけなくなるだろ!」

 『ちゃんと聞いてるよー……』


 空返事を返して来たREINA、ルシファー、和葉、くるみの四人がソファーセットの一角で向かい合いながら無言を貫いている。

 最初は何事か分からなかったのだが、そう言えばREINAには言葉が通じなかったので、ああやってメッセージのやり取りをしているのだろう。

 時折|REINAが『やっぱりー!』とか叫んでいるのだが、他のみんなにはガウガウとしか聞こえていないと思う。


 「纏まりがあるのかないのか、よく分からんチームだよな」


 源三がぼそりと呟いた。


 その後、ガゼッタさんから預かっていた装備品『清流のレイピア』という武器をREINAに渡した。

 これはワイバーンの素材で作られたものではなく、ワイバーンキングの巣の中で回収した金銀財宝の中に埋もれていた、金色の剣だった物らしい。

 何処かの金持ちが鞘を金ピカに装飾してしまったものらしく、鞘は別の物を作ってくれたのだそうだ。

 突剣と呼ばれる突く事をメインに作られた刀身の細い剣で、名前の通り水属性が付加されており、この剣自体に『清流突き』というユニークスキルが付いている変わった剣だ。

 

 『綺麗な剣ねー!』


 REINAが僕から受け取った清流のレイピアの柄を握ると、澄んだ水色だったガードの部分がコップに注がれた水のように、チャプチャプと波打ち始めた。


 『何、コレ……凄い』


 ガードの部分から溢れるように水が湧き出し、オリハルコンコーティングされた刀身部分を纏うように螺旋を描きながら勢いよく流れ始めた。

 切っ先の部分まで流れた水が、何処に消えているのか不明なのだが、水が零れるといった事もなく、水はジャバジャバと流れ続けている。

 みんなの視線も釘付けで、一様に口をポカンと開けて見入っている。


 『すごーい! 凄いけれど……これってどうやって仕舞えばいいのかしら?』

 「……さぁ? 普通に鞘に仕舞えばいいんじゃない?」


 REINAは不安に駆られながらも、水流が螺旋を描き続ける切っ先をゆっくりと鞘の中に入れ始めると、途端にジャバジャバと水が溢れ出し、REINAが水浸しになり始めたぞ!


 『キャー! ちょっと、何なのよコレー!』

 「いいから早く、剣を鞘に納めきって!」


 REINAがやさぐれた顔を後ろに背けつつ、水でボトボトになりながら剣を鞘に納めきると、湧き出していた水がピタリと止まった。


 ……うむ、金ピカな装飾品になっていた理由判明。今度からは外で使おう。 

 

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