第19話



 「ちょっとお兄ちゃん、何なのよコレ……」

 「いいから早く乗って!」


 大急ぎでモルツさん達の店の裏から木製の荷車を借りて来た。

 大きな獲物でも乗せられるようにと、かなり大き目の荷車だ。

 大人でも十人くらいなら平気で乗れるんじゃないかな?

 荷車ごと瞬間移動出来るのか不安だったのだが、何の問題もなく移動出来たので、家の地下でみんなを乗せてすぐにでも出発したいのだが……。


 「「ダサいから無理!!」」


 ルシファーとくるみが駄々をこね始めたのだ。

 ぬあー! この忙しい時に、何なのよ、君らは!

 いつもならこんな事はしないのだが、やれ汚いだの変な毛が挟まってるだのと、ブツブツと文句を言い合っているルシファーとくるみを荷車の上にポイポイと放り投げて、瞬間移動させて貰った。


 「師匠、ここって確か……」


 移動した先はワイバーンキングと対戦した、グレーデン山脈の岩場の陰だ。

 ヤマト国の行商人を広域マップで探してみると、丁度ヤマト国とここグレーデン山脈の中間地点に居るみたいだったので、ここから全力で向かえばすぐに出会えると思ったのだ。


 「みんな、しっかり掴まってて! 喋っていると舌を噛むから注意して」

 「ちょ、お兄ちゃんこれからららあぁぁ、ぎゃーーー!」


 くるみが喋っている途中だったのだが、荷車の前方へと移動してすぐさま発進した。


 そしてグレーデン山脈下り最速伝説を目指した。


 荷車なので当然サスペンション的な物は付いておらず、岩場の劣悪な振動がダイレクトに乗車中の三人に襲い掛かっている。

 山道の足場は非常に悪く、視界に大きな岩が転がっているのを見つける度に、『隠蔽強化』を掛けた【放電】で処理しながらノンストップで突き進んで行く。

 コーナーを曲がる時などは荷車を空中に浮かせ、地面に足を突き刺しつつ体をインコーナー側へと傾けながら曲がって行く。

 ……あれ? よく考えたら、僕がこのまま荷車を持ち上げて走った方が早いんじゃね?

 乗客も振動が少ないからこの方が気分が楽だろう。

 よし、もっとスピードを上げて……と思ったのだが、後ろがやけに静かだったので振り返って見てみると、和葉以外の二人が白目を剥きつつ安らかな眠りについていた。

 和葉はダウンしてしまった二人が荷車から放り出されないように押さえてくれている。


 「し、師匠、き、気持ち悪い……」

 「もうちょっとで峠を抜けるから我慢して。スピード上げるよ!」

 「……鬼」


 そのまま暫く土煙を上げながら爆走すると峠を越えて巨木が立ち並ぶ森の中へと入った。

 土の道ではあるものの整備されていて、余裕を持って馬車同士がすれ違えるくらい道幅は広いのだが、この辺りから巨木の奥にモンスターの影が見え始めた。


 「和葉どうする? アイツら和葉が倒して来ていいよ?」


 後ろを振り返り聞いてみたのだが、和葉もダウン寸前だった。 


 「……まず回復……ぅぷっ」


 和葉の口から何かが生まれて来そうだぞ。

 ……ああそうかそうか、見ていないで僕が回復させてあげればいいのか。

 三人に【シャイニングオーラ】を唱えてあげると和葉が荷車から飛び出しモンスターへと突進して行った。

 ……猟犬みたいな人だな。

 十メートル級のデカい植物系のモンスターだったのだが、相手の強さを確認する前に和葉が鬱憤を晴らすように倒してしまったのでステータスを見るヒマもなかった。


 「魔力石に封印して来たけれど、良かったのかな?」

 「うん、大丈夫だよ。もうすぐ行商人の所に到着するからここからはゆっくりと移動しよう」


 轢き殺してしまわないように……ね。

 回復したルシファーには『煉獄神焔プルガトーリョヴェスター』を空中に向かって唱え続けるよう指示を出した。

 LV上げの為なのだが、二発、三発と放ったところで、ルシファーが荷車の上をフラフラと移動して来て、僕の近くでちょこんと腰を下ろした。


 「……新しい魔法、覚えた」

 「そうなの? じゃあ早速使ってみてよ!」

 「……無理」

 「どうしてさ、炎の精霊の力を借りて魔法使えるじゃないか」

 「……詠唱と魔法名、考えてない」


 知らんがな。調子に乗ってすぐに新しい詠唱とか使っちゃうからでしょうが。


 「まずは一度どんな魔法なのか見てみないと……因みに何て名前の魔法を覚えたの?」

 「……ゴニョゴニョ【ファイアウォール】」


 ルシファーは僕の耳元で呟いた。

 うん、それ多分森の中で使っちゃ駄目だよね。火事になっちゃうよね?


 「ここで使うのはマズそうだから、それは家に帰って詠唱の練習をしてから使う事にすれば?」

 「……そうする」

 「ちょっとお兄ちゃんあたしはどうすればいいのよ」


 くるみもルシファーの隣にやって来てその場で腰を下ろした。


 「くるみはどういうプレイスタイルで行きたいの?」

 「そうね……あたしも最初は魔法を使って攻撃したい! って考えていたけれど、折角この変な力も貰っちゃったし……。お兄ちゃんがもっと強くなれば魔王だって召喚出来ちゃうんじゃないかしら?」


 くるみは二本の牙を光らせながらウフフと笑っているのだが、『吸血』と『悪魔召喚』を繰り返すつもりなのかな?

 ……僕の血液、枯れちゃうんじゃない?


 話をしながら暫く進むと、行商人の一行の物と思われる馬車や荷車を視界に捉えたのだが、マズイ、戦闘中だ!


 「三人共、行商人を助けに行くよ!」


 荷車を引っ張って行商人のもとへと急いで向かった。  

 途中和葉が荷車から飛び降り、戦闘中の行商人の護衛と思われる人物のもとへ真っ先に加勢へ向かう。


 「大丈夫ですか? 加勢に来ました!」


 行商人のところに到着すると、すぐさま腰からぶら下げた新しい相棒、『雷切丸』を鞘から抜いた。


 「おお! 助かった、お願いします!」


 小柄で軽装の男性を守る為、庇うようにして前に立つ。

 モンスターの数は全部で十二匹。行商人の護衛は数名が既に倒れており、残り三名しか動ける人物がいなかった。


 ……あぶねー! もうちょっとでクエスト失敗になるところだったじゃないか!


 「コイツ等、闇に乗じて積み荷を襲って来たのですよ……」


 行商人のおっちゃんが荷車の車輪部分にその小さな体を更に縮ませて、何とか隠れようとしながら呟くように愚痴を吐いた。

 闇? ああそうか、今は夜だし見えにくいんだよな。

 モンスターはガーゴイルっていうヤツなのだが、背格好は人型で眼つきが悪く、背中には小さな翼を生やしていて、切っ先が三又に分かれた矛を装備している。

 全身が紫色で体毛は一切生えておらず、肌はプラスチックみたいな質感だ。

 ステータスはそんなに高くないし、ハッキリ言って弱い。

 戦い方を見ていても呪文を使ってくる事もなさそうだ。

 しかしガーゴイル達は空を飛んでいるので、近接格闘の和葉はかなり戦いにくそうにしている。


 「ルシファー! こいつらは弱いから、詠唱なしで『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』だ」


 多分ルシファーは詠唱している間にMPを注入し続けているのだろうと思ったので、詠唱なしで魔法を放てばぶっ倒れないだろうと考えたのだ。


 「周りの人達を巻き込まないようしてやってよ。あと、森林火災にも注意しながら撃つんだよ?」

 「フフフ、我が眷属よ、妾に任せておくがよい」


 手加減の部分を強調すると、ルシファーはまんざらでもない様子で了解してくれた。

 ルシファーが僕の一歩前に立つと、戦士風の行商人の護衛に向かって空から襲い掛かろうとしているガーゴイルに、『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』を放った。

 バスケットボール程の大きさの火球がガーゴイルの翼に直撃し、バランスを失ったガーゴイルはそのまま地面に激突してしまった。


 「よし、いいぞルシファー! その調子でどんどん行こう」

 「……お兄ちゃん、あたしも攻撃したい!」


 僕の背後にいたくるみが僕の前に飛び出そうとしている。


 「ちょっと、くるみはまだ『悪魔召喚』しか出来ないじゃないか」

 「いいじゃない、こんな奴等一瞬で灰にしてやるわよ」

 「……一瞬で灰になるくらいの攻撃なら、ここにいる他の人達も灰になるだろ?」

 「あ、そうか……」


 今回は我慢してて、とくるみを僕の背後に隠す。

 その間にもルシファーの『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』で、ガーゴイルがもう一匹火達磨となりながら森の中へ墜落して行った。

 ……ル、ルシファーが活躍しているぞ! 

 今の場面をしっかりとメモ帳にキャプチャー付きで保存しておいた。

 そしてガーゴイルを仕留めた後、僕に向かって放ったドヤ顔もキャプチャー付きで保存した。

 しかし実戦慣れしていない為、魔法は外れるし、動きはぎこちないしと、まだまだこれからなわけではあるのだが、初めての実戦としては上々の成果だろう。



 「ギャギャーーウ!」


 背中に余裕が感じられるルシファーの上空から、三又の矛を構えたガーゴイルが突進して来た。

 ルシファーは前方ばかりに意識が集中しており、上空のガーゴイルには気付いていない様子なので、足もとに落ちていた小さな飴玉程の石を拾い、ひょいとガーゴイルに投げ付けてやると頭蓋が、パーン! と音を立てながら花火のように消し飛んだ。


 「ルシファー、お疲れ。後は任せてくれていいよ」


 行商人のおっちゃんに、そのまま車輪の陰に隠れているようにと指示をだし、墜落して来た頭のないガーゴイルに驚いてしまい、その場にへたり込んでしまっているルシファーの頭をポンポンと叩いてから手もとに雷を溜める。


 ふむ、残り八匹か。今和葉が戦っている奴以外は仕留めておこう。

 ……和葉の獲物を横取りすると怒られそうだしな。

 『隠蔽強化』を掛けてから【放電】で空中にいるガーゴイル六匹と、戦士風の護衛と鍔迫り合い状態となっているガーゴイル一匹をサクッと始末した。


 「あとは和葉だけだよー」

 「もー! 師匠うるさいよ! こいつら全然下に降りて来ないんだよ。アッタマ来る!」


 僕の煽りでますます冷静さを失ってしまった和葉が、足もとに落ちていた石を幾つか拾い、ガーゴイルに向かってポイポイと投げ付けると、一つが偶然にも片側の翼に当たったみたいでフラフラとガーゴイルが地上に降りて来た。


 「チマチマと時間掛けさせやがって、こんにゃろー!」


 ガーゴイルの着地地点では和葉が既に待ち構えており、怒りの上段回し蹴りが炸裂すると、両手に持った三又の矛で防御姿勢を取ったガーゴイルの頭を、その武器ごと刈り取った。


 「「「おおー!」」」

 「……フンッ」


 近くにいた護衛達から歓声が上がった。

 和葉は左の拳を突き出し、残心の姿勢を取りながらも納得がいっていない様子だ。




 和葉とルシファーがくるみに魔力石への封印方法を教えている間、行商人の護衛が腕を怪我をしていたので回復させていると、行商人が駆け寄って来た。


 「いやはや、お見事ですな! この度は本当に助かりました、有難うございます! 私、ヤマト国で行商人をしております、ソウキュウと申します」


 行商人、ソウキュウさんが正した姿勢で深々とお辞儀をした。

 豚の僕と同じくらいの身長でかなり小柄なソウキュウさんは、時代劇に出て来る有名なおじいさんの二人の御供みたいな旅慣れた和服を着込んでいて、顔立ちも日本人っぽくて人柄も良さそうだ。

 流石に髷は結っておらず、髪は短めに刈られていて、若干無精髭が生えている。

 護衛の人達との接し方も凄く丁寧で、僕のもとへと駆け寄って来る前も、死んでしまった三人の護衛のお墓を他の護衛達と一緒に作っていた。

 ……かなり信頼出来る人みたいだな。


 ソウキュウという名前、この出で立ち、丁寧なお辞儀、そしてヤマト国という地名。

 どうやらヤマト国という都市は、昔の日本を思わせるような場所みたいだぞ。


 「探していましたよ、ソウキュウさん。僕達はファストタウンから来たのですけど、町の人達からあなたを連れて来て欲しいと依頼されたのですよ」

 「ファストタウンという事はグレーデン山脈を抜けて来られたのですよね? 通行出来るようになったのですか?」

 「はい。ワイバーン達は全て始末しましたよ」

 「……それはそうと、みなさんの装備品……え、それってひょっとして……」


 会話中も心ここにあらずといった様子で、僕達の装備品をチラチラと見ていたソウキュウさんは、特殊な加工に気が付いたみたいだ。


 「……何処で、い、一体何処でこれらの装備品を……」


 ソウキュウさんはブツブツと呟きながら僕の装備品を勝手に弄り始めたのだが、このゲームのキャラクターはこんな人ばかりなのか?


 「んん? こ、これは、ワイバーンの鱗? ワイバーン……ま、まままままさか……ファストタウン?」


 おお! 流石商人、勘が鋭い。

 僕はソウキュウさんの問いかけに一度だけ頷いた。


 「いやいやいやいや、おかしいですって! 僕はファストタウンで革製品が物凄く需要があるからと密かに情報を仕入れ、危険を承知でこうやって大量の革製品を積んで来たのですよ? ほら!」


 ソウキュウさんが自身の荷車に掛けられていたシートを勢いよく引っぺがすと、中からは僕が装備していた物と同じ革の鎧や、所々が金属で補強されている革の盾、真っ黒な何かの動物の皮で出来ている革のドレス等、大量の革製品がぎゅうぎゅうに押し込まれていた。


 「どうするんですかコレ! ファストタウンでそんなにも凄い鎧が手に入るのであれば、僕の持って来た製品は……ああぁぁ大赤字だ! 更に護衛まで失って見舞金も――」

 「ちょ、ちょっと落ち着いて下さいソウキュウさん!」


 ソウキュウさんは頭を両手で抱えながら蹲り、あぁあぁと叫んでいる。

 護衛の一人が教えてくれたのだが、ソウキュウさんはグレーデン山脈に生息していたワイバーン達が見当たらないという情報を何処からか仕入れて来たらしく、我先にと危険覚悟で乗り込んで来たらしい。


 ……でも革製品、無駄にはならないと思うよ?

 もうすぐ通常生産分のOPEN OF LIFEが発売されるし、更に大量の冒険者達が集まって来るはずだから。

 金銭的な問題で、初心者ではいきなりワイバーンの鎧は恐らく買えないだろうし、最初は革製品の装備から入るだろうし……。


 「ソウキュウさん、とにかくファストタウンに行きましょう! 今日はあまり時間がないんですよ」

 「……行ってどうしろと言うのですか? こんなにも革製――」


 ソウキュウさんが蹲ったまま何か喋っている途中だったのだが、豚の喜劇団ピッグス・シアターズのメンバー達と荷車も一緒に、ソウキュウさんの馬車、荷車三台と護衛達も纏めて、ファストタウンのモルツさん、ホルツさんのお店の前へと瞬間移動した。




 瞬間移動した後のソウキュウさんの反応はみんなとは全く違った。


 「五十……いや、百だ。百万ゴールド。一回の移動で百万ゴールドお支払いします! ど、どうか私と専属契約を結んで下さい! お願いします!」


 瞬間移動後、数秒間押し黙っていたソウキュウさんは、頭の中で必死にそろばんを弾いていたみたいで、現在土下座スタイルで僕に向かって懇願している。

 まぁ行商人からすれば瞬間移動なんてチートスキル、喉から手が出る程羨ましい能力だからな。

 何と言うか、商売人根性が凄いな……。


 「一回百万ゴールド払います! どうかお願いします。私と専属契約を!」


 ソウキュウさんが一回百万ゴールド! というワードを連発して来るのだが、正直止めて欲しい。


 ……周りから見れば、変なお願いされていると誤解されてしまうじゃないか!


 「ソウキュウさん、頭を上げて下さい。そのお願いは聞けませんから」


 そこを何とか! と粘るソウキュウさんを無視してお店に入ろうとすると、店番をしていた割烹着姿のミクリさんがお店の入口で出迎えてくれた。


 「あら、何だい? もう帰って来たのかい?」

 「ええ、今着いたところです。ヤマト国の行商人を連れて来ました」


 僕は店の外で必死に土下座中のソウキュウさんを指差した。


 「あらま、やだ大変! ちょっとみんな! タケルさんが行商人のソウキュウさんを連れて来て下さったわよー! すぐに出て来て頂戴!」


 ミクリさんは店の奥に向かって大声を上げると、着ていた割烹着をカウンターの奥へと投げ捨て、大変大変! と騒ぎながらお店を飛び出して行った。

 恐らくガゼッタさんの所に向かったのだろう……。


 「……お兄ちゃん、これ、似合うかな?」


 くるみがソウキュウさんの荷車の上に積んであった『革のドレス』を手に持ち、自分の体に当てがっている。

 ドレスと言うよりも、細めのロングコートみたいな作りなのだが、革の色が真っ黒なので、ますますヴァンパイア? 悪魔? に近付く気がするのだが……。


 「お店の中にもっと良い装備が置いてあると思うけどそれでいいの?」

 「みんな装備品なのに、あたしだけ白の短パンTシャツっていうのもね……。だから今すぐ着たいんだけれど、これって幾らくらいなの?」


 値段か……、はっ! そう言えば僕、OPEN OF LIFEの中で家しか買った事なかったぞ!


 「ソウキュウさん、あの『革のドレス』を売って欲しいんですけど、幾ら払えばいいですか?」

 「へ、あ、いや、タケルさんには命も救って頂いておりますので、あれ一着くらいであれば無料で結構ですよ! どうぞお持ち下さい。因みに店頭販売価格は二万四千九百Gになります。それで一回ひゃくま――」


 ……ふむ。学生にはチョットお高めなコートといった値段だな。

 くるみは貰えると聞くと、早速メニュー画面から装備したみたいで、見た目のヴァンパイア度がますます上がった。


 「お兄ちゃんあのさ、さっきの戦闘であたし何もしていないのにLVが3まで上がったよ? 何で?」

 「パーティーに加入していると、パーティーメンバーが倒したモンスターのEXPもメンバー全員に入って来るんだ」

 「ふーんそうなんだ。じゃあお兄ちゃん、これからドンドン敵を倒してあたしのLVを上げてね」


 くるみがニッコリと微笑むと、口もとの牙がキラリと光った。


 くるみは和葉とルシファーのもとへと走って行き、二人の前でクルクルと回りながらドレス姿を披露している。


 くるみ、和葉、ルシファーの三人がガールズトークで盛り上がっていると、店の奥からモルツさんとホルツさんが姿を現した。

 二人は作業の途中だったみたいで、自慢の髭までもが真っ黒に汚れてしまっている。


 「ソ、ソウキュウさんが到着したと伺ったのですが!」


 同時にミクリさんに連れられてガゼッタさんもお店に到着したのだが、またもや食事中だった様子で、その手には箸が握られている。


 「はい。お約束通り、ヤマト国の行商人ソウキュウさんをお連れしました」


 ガゼッタさんに告げると視界に『クエストクリア』の文字が表示された。

 ガゼッタさん達から依頼されていた、『ヤマト国の行商人を連れて来る』という条件を達成したからだ。


 「……あの、お兄ちゃん。何だか視界に文字が出て来て、また一つLVが上がったけれど、今度は何?」


 くるみが僕の脇腹をチョンチョンと突いてからLVアップの報告をして来た。

 ……クエストを受けた時にくるみは居なかったのだが、EXPは貰えるのか。


 クエストの事を小声でくるみに教えてあげると、ふーん、そうなんだー、といつも通りの返事が返って来たのだが、僕達の話を聞いていたルシファーと和葉が、くるみにLVアップの舞をレクチャーし始めた。


 くるみの装備品がないのでモルツさん達にお願いしてみると、ホルツさんは快く引き受けてくれたのだが、モルツさんとガゼッタさんが難色を示した。

 というのも、くるみの攻撃方法がなわけで……。


 「……うーむ、普段攻撃参加はあまりせず、お嬢ちゃんにも扱えそうな装備品じゃと……いざという時に身を守る、ダガーくらいしか思いつかんのじゃが……」


 そうなりますよねー。『自分で攻撃しない人の為の武器』っていう無茶難題をふっ掛けているわけだしさ……。


 「そ、それなら私が思いついた武器を二人合作で作ってみるというのはどうですか?」


 ガゼッタさんは何やら思いついた様子でモルツさんに相談している。

 思いついた武器? そんなの簡単に作れるのかな?


 「その思いついたという武器を、とりあえず作ってみて貰えますか?」

 「分かりました。上手く作れるかどうか分かりませんので、武器の詳細は出来上がってからお話ししますよ」





 「では約束通り、この後の事は三人にお任せします! ファストタウン発展の為、頑張って下さい!」

 「ガハハー! 任せときな」


 ホルツさんが分厚い胸板をドン! と叩きながら答えてくれた。

 最初の約束通り、僕の家の道具箱の中身を使ってファストタウンを今以上に発展させるという計画を、ガゼッタさん達に全て任せようと思う。


 ホルツさん、結構適当だけど大丈夫かな……?



 「くるみ、和葉、ルシファー、急いでヤマト国へと向かうよ! さぁ、荷車に乗って!」

 「「「……」」」


 豚の喜劇団ピッグス・シアターズのメンバー達に荷車へと乗るように指示したのだが、各々が視線を散らしつつ無言を貫いた後、今までLVアップの舞を拒否していたくるみが突然一生懸命踊り始めた。


 「そ、そうそう、その調子よ! アアアタシも一緒に踊っちゃおう!」


 和葉も何故か踊り出す始末。


 ……


 おい、乗車拒否かよ! そんなに荷車の乗り心地が悪かったのか?

 誰も僕と眼を合わせようとしないし、……僕に熱い眼差しを向けて来るのはソウキュウさんだけだし。


 「あのー、僕独りで行けって事なのかな?」

 「「「……」」」


 重い沈黙が辺りを支配している……。


 <おーい! 源三様が到着したぞー! 何処に行けばいいんだー?>


 そんな中、源三からメッセージが届いた。


 「ほ、ほら師匠、源三が迎えに来て! って言っているよ? そのままヤマト国まで行って来てよ! アアアタシ達は家の地下で特訓しているからさ、ね? ね?」

 「お、お兄ちゃん、この源三さんとその何とかって場所に着いたらまた呼びに来てよ」

 「フフフ、我が眷属よ、妾も取り戻した力、魔法の制御に忙しい。其方がかの国に到着するまで部屋で勘を養っておく事にしましょう」


 和葉は斜め上を向き、くるみは俯き、ルシファーはいつものおかしなポーズを取りつつ、よく分からない方向を見ながら『源三と行って来い!』と口にした。

 ……なんて薄情な人達だ、全く。


 「分かったよ、ったく。向こうに着いたら迎えに来るから地下室で待機してて。くるみは絶対『悪魔召喚』使っちゃ駄目だからな」




 僕はささくれてしまった心を癒して貰う為、直接源三のもとへは向かわずに、瞬間移動で一度ギルド会館へと向かった。

 昨日エリちゃんに『明日必ず来てよ』とお願いされていたからだ。



 「スー、ピー……」


 ギルド会館の扉を開け、一直線にギルドの受付カウンターへと向かったのだが、エリちゃんは受付カウンター内で座ったまま居眠りしていた。

 コクリコクリと舟を漕ぐエリちゃんのスッと鼻筋の通った高い鼻から、綺麗な鼻風船がピーピーと音を立てながら、大きくなったり萎んだりしている。

 微笑ましい光景に僕の心はすっかりと癒された。

 そしてこの光景はお宝画像としてしっかりと保存させて貰いました。


 昨日は夜中に起こされたわけだし、そりゃ疲れているよなー。

 ……まさか昨日キリちゃんと途中交代してからずっと仕事させられているんじゃないだろうか?


 <お疲れみたいなので、また後で伺います! タケル>


 カウンターの上に置かれてあったメモ帳に、メッセージを残してから源三のもとへと向かった。



 「源三お待たせー!」

 「何だよ遅かったなー、……あれ? 他のみんなは?」

 「それがさ、チョット聞いてくれる?」


 ……


 家の豚小屋へと源三を迎えに行った僕は源三に色々と愚痴らせて貰った。


 「まぁしゃーねーわな。じゃあ二人でヤマト国を目指そうぜ!」

 「そうだね。因みに源三は『特急旅』と『くつろぎゆったり旅』のどちらが好み?」


 ガゼッタさんから受け取っていた源三の装備品を渡しながら聞いてみた。

 因みに源三の装備品は『小型竜ワイバーンのアギト』と『蛇柄の甲冑 改』だ。

 『蛇柄の甲冑 改』は蛇柄の部分をワイバーンの素材で補強しつつ、オリハルコンコーティングが施されていて、守備力に関しては僕達の装備品の中で一番の鎧だ。


 「うひょー、何だこのカッチョいい装備は! こんなの俺が装備していいのか? ……は? 旅? んなモン、移動なんか早い方が良いに決まっているじゃないか。時間が勿体ない!」

 「ですよねー」


 満面の笑みでオリハルコンコーティングされた装備品を身に着ける源三を傍らで待ち、全ての装備が完了したところで源三を背中に背負う。


 「よっこらしょっ、と」

 「ん? 何だ? どうしたんだ?」


 源三を背中に搭乗させたまま、瞬間移動で先程ソウキュウさん達と遭遇した地点、ヤマト国の近くまで向かった。 

 

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