第18話


 「い、今なら師匠に勝てそうな気がする。勝負よ!」

 「いやいや、妹を紹介させてよ」


 その後ガゼッタさんが和葉の装備する『勇気の道着』に魔力石の効果を吸収させてくれたのだが、何とこの装備にも魔力石三個分の効果を吸収させる事が出来た。

 まぁ『ゴスロリファッション』同様、この装備自体には防御力の効果がないので、恐らくその分を補っているのだろう。

 和葉の武器は両手足四つで魔力石一個分を吸収させている。

 もしかしたら一個ずつ吸収させられるかも? と思ったのだが出来なかった。

 和葉の装飾品はイヤリングで、翡翠色に輝く涙型の宝石が両耳で小さく揺れている。



 「ほら、くるみ、挨拶しなよ」


 僕は後ろにいたくるみの背中をズイと押し出したのだが、翼に触るのが気持ち悪かったので、少し観察させて貰ったのだがこの翼、服の上から生えている。

 尻尾も同じで服の上から生えているみたいなので、装備を変更しても翼や尻尾を通す穴を開ける必要はなさそうだ。

 

 くるみが一歩前に出ると、何故かすぐさま和葉とルシファーに両腕をガッチリとロックされ、離れた場所まで連れて行かれた。

 何だ? 一体どうしたんだ?

 部屋の隅でガールズトークに花を咲かせてキャッキャウフフと盛り上がっているのだが、時折こちらを見ながら、やっぱりー! とか、うそー! とか叫んでいる。


 「何だか盛り上がっていますね」


 僕に歩み寄って来たガゼッタさんの両手には、見覚えのない刀がしっかりと握られている。


 「これをタケルさん用として、魔力石で攻撃力を上昇させておきました」


 ガゼッタさんが鞘に納められた刀を両手で丁寧に渡してくれた。


 「ありがとうございます! ガゼッタさんもワイバーンの死骸、剥ぎ取りして行きますか?」


 刀を受け取った後、先程道具箱から取り出したワイバーンの死骸を四匹、部屋のスペースに向かって放り出した。


 「そうですね、少し頂いて行きます」

 「僕は彼女たちをあのままにして、一度モルツさん達のお店にこの刀を持って向かいます」

 「オリハルコンコーティングを施して貰うのですね。ああ、それと地下室の事は先程タケルさんがいない間に、急いでモルツさん達に伝えておきましたよ」


 ガゼッタさんがワイバーンの死骸へ素材を剥ぎ取りに行ったので、道具箱から取り出した宝箱をソファーの近くに放り出してから、僕もモルツさん達の所へ向かった。




 「こりゃーまた凄いモンを持って来たな」


 モルツさんが僕から受け取った刀を光に当てたり、刀身に視線を這わせたりして細かく観察しながら呟いた。


 「ちょっと待ってろ、今すぐオリハルコンコーティングしてくっからよ! この刀ならそれこそ四、五分もあれば十分じゃわい」


 モルツさんはそう言い残すと、刀を持ってドタドタと店の奥へ姿を消した。


 「本当にありがとうねー、あんな生き生きとした主人を見るのは久しぶりだよ!」


 カウンターに立つ割烹着姿のおばさん、ミクリさんが商品を棚に陳列させながらお礼を言って来た。

 ……てっきり性格的に活発そうなミクリさんが豪快なホルツさんの奥さんなのだと思っていたのだが、まさかの寡黙なモルツさんの奥さんだった。


 「昨日も殆ど寝ていないはずなのに、あんなにも嬉しそうにしているんだよ。食事も碌に摂らずにさ。本当に職人ってのは困った人達よね」


 そんな事を言いながらも、ミクリさんもとても嬉しそうだ。

 商品の中には流石にオリハルコンコーティングされたものは並んでいなかったのだが、ワイバーンの素材で作ったと思われる武器や防具が幾つか並べられている。

 ……これ、プレイヤー達が買える値段なのだろうか? 最初の町でこんなの売ってしまっても大丈夫なのか?


 「はい、また一つ仕上がりましたよ! 今度は兜……あら、いらっしゃい!」


 店の奥からホルツさんの奥さん、カミラさんが出来立ての兜を手に持って現れた。


 「あらあら、ちょっと待っててね、今お茶を入れて来るから」

 「いえ、お構いなく! モルツさんがコーティングを――」


 話している間にカミラさんが店の奥にお茶を取りに行ってしまった。

 オリハルコンコーティングが仕上がるまでの間、ミクリさんと世間話をしていた。


 「この後ヤマト国とオリエンターナ、二か国に行かないといけないんですよ」

 「それじゃあこれを渡しておくよ、カヌット村に向かう為の近道の地図だよ。かなり早く到着する代わりに、少しモンスターが手強いけれど、みんななら大丈夫でしょ?」

 「ありがとうございます! 全然大丈夫ですよ! 今日もお土産沢山持って帰って来ますから、楽しみにしていて下さいね」


 受け取った地図を確認しながら待っていると、カミラさんがお茶を持って来てくれた。

 そのまま世間話を続けていると、今度は金属の素材が不足しているという話になった。


 「そのカヌット村への近道に出没すると言われている、金属のサソリのモンスターを狩って来てくれるかい?」

 「何すか何すか、最初から言って下されば良かったのに。ミクリさんも近道だー何て言っちゃってさー」

 「いやさ、流石にこれ以上は頼みにくいじゃないか」


 ミクリさんが、あらヤダ意地悪ねー、何て言いながら僕の肩をバシバシと叩く。

 冗談を言い合っている間に、カミラさん、ミクリさんの頭上に緑の『!』マーク、クエスト依頼が出た。

 おお、こんな風に世間話をしていてもクエスト依頼が出て来るのか。

 何々? メタルスコーピオンね、討伐数は記載なしなので適当でいいのかな?

 特に報酬が良いわけではないのだが、どうせそっちに向かうのだからついでに狩って来ようと思い、了解しましたよーと呟きながらクエストを承諾した。

 


 「とんでもない物が仕上がったぞい」


 モルツさんが鞘に納められた刀を僕に手渡してくれた。



 ・雷切丸(オリハルコンコーティングVer.)(品質 最高級) 

  ・攻撃力 +403 (内、オリハルコンコーティング補正値 +70)

  ・雷属性攻撃 +140 (内、オリハルコンコーティング補正値 +70)

  ・スキル『刀技』『近接武器』『攻撃力上昇』の所持者、雷魔法大魔道LV1習得者、尚且つLV85以上の場合にはダメージ+30パーセントの付加効果あり

  ・売却価格 ――


 これはまた凄い刀だな。

 雷属性が付いているのか。属性が付いている武器は初めて見たんじゃないかな?

 しかも雷属性。もしかして僕の雷魔法も雷切丸に付与出来たりするのかな? 濃縮した雷魔法を刀に溜めて魔法剣みたいに……後でやってみよう。

 僕のLVはまだ85に達していないので、ダメージ+30パーセントの付加効果だけは貰えないな。


 雷切丸……確か『雷を切った』とか言い伝えのある刀だよな?

 ワイバーンキングの野郎、自分が雷属性だからってこんな刀を隠してやがったのか。何て悪い奴だ。


 雷切丸を水平に持ち、ゆっくりと鞘から刀身を抜き出す。

 六十センチくらいとやや短かめの刀なのだが、刀身の反りが大きいので、抜刀術とかだと鞘から刀を抜きやすいのかな?

 刀身全体が白金っぽく表現しにくい輝きを放っているので、丸々オリハルコンコーティングが施されているみたいだ。


 「どうじゃ? 気に入ってくれたか?」

 「そりゃーもう、最高ですよ! ありがとうございます!」


 隅々まで観察し終えた雷切丸をもう一度水平に持ち直し、ゆっくりと刀身を鞘へと納めて行く。

 鞘に刀身を収めきった時の『チン!』という音が、何とも心地いいぞ!

  

 「クックッ、ワシもこんなお宝に触れられて大満足じゃわい」


 モルツさんは編み込まれた自慢の髭を片手で撫でながらウンウンと頷いている。


 「それじゃあ僕は急ぎますので今日はこれで。お店の裏にワイバーンの死骸を一匹置いておきますので、また剥ぎ取りしておいて下さい!」

 「おうありがとよ、任せときな! 気を付けて行ってこいよ」


 お店を後にして裏に回り、ワイバーンの死骸を一匹放り出してから家の地下へと瞬間移動した。





 「……それで? 何でこんな事態になっていたわけ?」


 僕の背中にしがみ付きながら首筋にかぶりつき、ちゅうちゅうと血を吸っているくるみは無視して、残りカウント8秒でギリギリ【女神の誓約ヴィーナスアシェント】で蘇生させた和葉に聞いてみた。


 「いやー、それがさ、くるみちゃんが魔界の従者を召喚出来るっていうからさ、ちょっとやって見せてよ! ってお願いしたらとんでもないのが出て来たのよ」


 話を聞きながら和葉の傍らで、大の字になって寝転がっているルシファーに【チャージ】を唱える。


 「だから、チョットだけ勝負! と思って戦いを挑んだら、強いの何のって。一瞬でやられちゃった」

 「妾の『煉獄神焔プルガトーリョヴェスター』も通用しなかったのじゃ!」


 何やってんだよ! 何でパーティーメンバー同士で殺し合ってんの?


 「……因みにどんな奴が出て来たの? ケルベロスはこのスペースじゃ出て来られないでしょ? スペースが足りないんだから」

 「んは。なんかね、変な喋り方する顔色の悪いオッサンが出て来たのよ。魔王直属の四天王の一人とか言ってたけれど、名前は……忘れちゃった。でもすぐに帰っちゃったわ」

 「そんな奴呼んでんじゃないよ! 勝手に『悪魔召喚』しちゃ駄目だって言っただろ?」

 「うう……ご、ごめんなさい」


 背中にしがみ付くくるみを降ろしつつ和葉とルシファーにも、その四天王さんの名前を聞いてみたのだが、二人共既にダウンしていて名前は聞いていなかったそうだ。


 「これ、我が眷属よ! 妾の火魔法がLV3に上がったのですよ!」


 ルシファーが優雅にLVアップの舞を舞い始めたのだが、おかしいぞ? LV上がるの早くないか?

 LV1からLV2に上がるまで、確か百六十六発『灼熱乱舞(インフェルノヴァラーレ)』を放ったはずなのに、LV2からLV3に上がるまで、まだそんなに魔法使っていないだろ?

 ……も、もしかして、MPの注入量でLVアップの上昇スピードが変わって来るんじゃないのかな。

 という事は、ルシファーは他のプレイヤー達の中で、恐らく最速で火魔法がLVアップして行くぞ!

 大発見だ! 他のメンバー達にも早くMPを注入する方法を覚えて貰わないと! と思ったけど、まずは魔法を覚えるところからスタートしないとな……。


 ルシファー、超ファインプレイだ!


 その後ソファーの近くに放り出した宝箱を幾つか開けてみたのだが、オリハルコンが数個とG《ゴールド》、趣味の悪い金色のベスト、連続詠唱の巻物、連続斬りの巻物、爆裂拳の巻物が出て来た。

 くるみにベスト着てみる? と聞いてみたのだが、そんな趣味の悪い服、着るわけないじゃない! と怒られてしまった。

 連続詠唱の巻物はルシファーに見つかる前にササッと道具袋へと仕舞った。

 多分SPが足りなくてルシファーには使えないから、勿体ないと思ったので、ステータスが上昇した時に渡そうと思う。

 爆裂拳の巻物は和葉が素早く奪い取り、さっさと使用して習得していた。

 くるみがG《ゴールド》を少し持ってみたい! と言っていたのでくるみにあげた。

 あんなにもG《ゴールド》、G《ゴールド》と言っていたルシファーが、今やG《ゴールド》には興味を示さなくなり、僕の横でピカピカと光る角砂糖、オリハルコンを両手の上でゆっくりと転がしながら陶酔に浸っている。

 他の物は取りあえず今すぐ必要な物はなかったので僕の道具袋へと仕舞った。


 マズイ、時間を大幅にロスしているぞ! このままだとオリエンターナへの地下道強行突破作戦に間に合わなくなるぞ! 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る