第7話


 「これ、我が眷属よ、妾のレベルが大変な事になっておるぞ?」


 ルシファーが一人で優雅に舞を舞いながらレベルが上がっている事を教えてくれた。

 やっぱりその踊り、毎回やるんだな……。

 そして僕の予想通り、僕がモンスターを倒してもきちんとルシファーにEXPが入る事も確認出来た。

 REINAや源三はどうかな? 流石にログアウト中だとEXPが貰えるという事はなさそうだけど、後で確認しないといけないな。


 そんな事よりルシファーのステータス、ステータスっと……、おお! 一気にLV7まで上がっているじゃ――ちょっと待て、何だこのステータスは?


 名前

  ・†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファー

 二つ名

  ・ファストタウンのストーカーゴスロリ少女

 職業

  ・なし

 レベル

  ・7

 住居

  ・始まりの小屋

 所属パーティー

  ・豚の喜劇団ピッグス・シアターズ

 パーティーメンバー

  ・タケル

  ・REINA

  ・源三

 ステータス

  ・?????

  ・???????

 HP

  ・3

 MP

  ・3

 SP

  ・2

 攻撃力

  ・1

 防御力

  ・1

 素早さ

  ・2

 魔力

  ・3

 所持スキル

  ・大器晩成

  ・火魔法 LV2

 装備品

  ・ゴスロリファッション・パープルバージョン レアギフト

 所持アイテム

  ・なし

 所持金

  ・12,500G


 待て待て、LV7まで上がったのに全然ステータスが上がっていないじゃないか!

 ……た、大器晩成スキル、これのせいか。

 これ、本当に後半からステータスが大きく上昇してくれるのだろうか。

 そもそも後半からって、LV幾つからが後半になるのだろう……。


 「どうじゃ? 妾の成長ぶりは?」


 踊りがフィニッシュを迎えたみたいで、最後の決めポーズを取ったままルシファーが聞いて来たのだが、さてどう答えたら良いのか……。

 

 「フフフ、妾の失われし力を取り戻す旅は始まったばかりじゃ。さぁ我が眷属よ、次へと向かうとするかの」


 僕の表情から察してくれたのか、日傘を両手で差し直したルシファーから笑顔が零れた後、次の供物の注文が来た。


 「そうだな、じゃんじゃん行こうか! 次は気絶しないように頼むよ?」

 「……き、気絶? ……何の事だか……さっぱり」


 キャラの壊れたルシファーを連れて、そのまま瞬間移動で次のモンスターの場所へと向かおうと思ったのだが、そう言えば先程のフレイムベアー、住居が書かれていた筈。

 確かファスト高原湖近くの洞穴だったか?

 もしかしたらあのフレイムベアー、お宝を溜め込んでいたりしないかなー? ちょっと気になるし、行ってみるか。


 「なぁルシファー、先程のフレイムベアーの住処が近くにあるみたいなんだけど、もしかしたらお宝でも隠されているかもしれないし、ちょっと行ってみないか?」


 巻き髪を揺らしながらコクコクと頷くルシファーを横目に、マップでフレイムベアーの住処であるファスト高原湖近くの洞穴を調べてみると、今居る場所からすぐ近くにある事が分かったので、そのまま歩いて向かう事にした。


 現在この世界の時刻は夕暮れ時。

 巨大な湖の浜辺を歩いているのだが、なかなかの景色だ。

 湖の穏やかな水面が夕日に染められ、キラキラと金色に輝いている。

 対岸は薄っすらとしか見えないのだが、広大な森が広がっており、その森の更に奥には巨大な山脈が連なり、雲を突き抜けた遥か上空からその頂を覗かせている。

 時折遠くの方で動物の物なのか、モンスターの物かは不明なのだが、遠吠えっぽい何かが聞こえて来る。

 とぼとぼと歩く僕と、そのすぐ後ろを日傘を差しながら歩くルシファーに、そよそよと吹く浜風と、湖特有の小さな波の音が心地よく届けられ、とても気持ちがいいのだが、次第に何だかモヤモヤとした別の感情が心を支配し始めた。


 ……何かコレ、デートしてるみたいじゃね?


 今まで瞬間移動したり瞬間移動したり、魔法ぶっ放したり、モンスター討伐したり、瞬間移動したりしていたのであまり意識はしなかったのだが、こうやって浜辺を二人きりで歩いていると……いやいや、余計な事は考えないでおこう。


 「のう、我が眷属よ、其方は高校生でおるのか?」


 僕のいつもと違う雰囲気を感じ取ったのかは定かではないのだが、ルシファーが突然こんな事を質問して来た。

 今まで色々と会話して来たけど、現実(リアル)の事を聞かれたのは初めてじゃないか?


 「答えたくない、タブーだと言うのであれば、このまま黙っておればよいし、詫びも入れるぞ」


 オンラインゲームでは、現実リアルの話を聞く事を、ルール違反タブーとしている場合もあるからな。

 ルシファーもそういう風に思ったのだろうな。


 「ううん、全然いいよ、僕は今日高校の入学式だったんだ。ルシファーも学生だよね?」

 「ふむ、偽りの姿ではあるが中学三年という物をこなしておるよ」

 「へー、そうなんだ。ウチの妹と同い年だな」

 「ほう、我が眷属には妹がいるのじゃな?」

 「うん、今月誕生日なんだけど、多分その日にOPEN OF LIFEデビューすると思うよ。お母さんが誕生日プレゼントで用意したんだけど、まだ渡していないみたいだしね」


 本当は僕がくるみの分を奪ってしまったからなのだが、そこまでは言わなくていいか。


 「妹も我がパーティーに入るのか?」

 「うーん、どうだろう。そこまでは分からないけれど、入りたいと言うならみんなに聞いてからじゃないと勝手には決められないよ」


 しかも僕のこの豚の姿を見られるのは、少々まずい。

 まぁその頃にはもう少し装備も充実しているだろうし、見た目じゃよく分からないだろうから気にしなくても平気だとは思うのだが……。

 早く短パン、ランニングシャツ姿を卒業したい。

 因みに先程から会話をしているのだが、お互い未だに前後に並んだ状態で、顔を見合わせずに歩いている。

 流石に横に並んで……というのは恥ずかし過ぎる。


 「……タケルさんは、友達が多そうですね」

 「僕が? まさかまさか。でも新しい高校では何とか上手くやって行けそうだよ」

 「タケルさんの高校はどんな学校なの?」

 「うーん、分かり易く言うなら物凄く自由な学校、かな。なんたって制服じゃなくて私服OKの学校だからね」


 ……あ、あれ? 何かルシファーの喋り方、凄く普通じゃね?

 普段もキャラが定まっていないのか、話し方がコロコロ変わる事があるのだが、今回のはそういうのじゃなくて……何かこう、普通の女の子と会話している感じだ。


 「自由で私服OK……、もしかして〇✖高校じゃない?」

 「へ、何で知ってるの?」

 「驚いた。〇✖高校、私の家のすぐ近所だよ」

 「ええ! マジで?」


 驚きのあまりルシファーの方へと振り返ってみると、いつものようにピンと指を伸ばした掌を口に添えたルシファーの表情は、鮮やかな夕日の色に染められていた。


 「フフフ、これで妾の進路は決定したな。妾もタケルと同じ学校へ進学するとしよう」


 話し方が戻ったルシファーは、嬉しそうに日傘を差しながら、LVアップの時とは別バージョンの踊りを始めた。

 

 日傘差しているのに、あんなに夕日に顔を照らされていたら、あまり意味がない気がするのだが……。


 世間は何て狭いんだ。

 ルシファーが僕の通っている学校のすぐ近くに住んでいるという事が発覚した。

 未だに天に向かって細い腕を伸ばしたり、ゴスロリファッションの膝上丈のスカートをヒラヒラさせながら、くるりと回ったりしているルシファーを横目に見ながら、来年からは学校の先輩、後輩かぁ……と考えていると、どうやら既に目的の洞穴の前まで到着していたみたいで、小さな丘の切り立った斜面の下に、ぽっかりと大きく口を開けた空洞を発見出来た。


 「ルシファー、どうやら目的地に到着したみたいだから、洞穴の中を確認するよ」


 踊っているルシファーに向かってこっちにおいでと手招きする。

 洞穴の中を二人で覗き込んで確認してみると、中は意外と狭かった。

 奥行きは七メートルあるかないかくらいで、高さも二メートル五十センチくらいとフレイムベアーの住処と考えると、ギリギリ体が収まるかどうかという広さだ。

 洞穴の中は薄暗いのだが獣臭が半端ない。

 臭い、とにかく臭い! は、鼻が曲がる。

 全く掃除されていない動物園みたいな臭いだ……。

 しかも足もとのあちこちにフレイムベアーの体毛と思われるオレンジ色の毛が散乱している。


 ……うむ、中に入るのは止めよう。


 二人で顔を合わせると、お互い同じことを思っていたのか同時に頷いた。

 しかし何かに気付いたルシファーの視線が洞穴の中の一点を捉えた。


 「これ、我が眷属よ、あそこに何かが見えるぞ? ちょっと行って見て来るのじゃ」


 その場を離れようとした僕の動きを、ランニングシャツの裾を引っ張り止めた後、気になる場所を指差すルシファーさん。

 ちょっと? こんな時くらいは役に立ったらどうですか? という僕の視線もお構いなしに、片手で鼻を摘まみ、もう片方の手で早く行けシッシ、と蠅でも追っ払うみたいな仕草をされた。

 思う事は色々とあったのだが、もしかしたら罠が仕掛けられているかもしれないので、仕方なくルシファーが指差す先へと向かう事にする。

 薄暗い洞穴の中、僕の視界は暗視スキルのお陰で至って良好だ。

 足もとに転がっているを避けながら進み、一番奥の岩陰の裏にあった物は……白骨化した死体だった。

 男性の物と思われる服を着ているので、恐らく男性の死体なのだが、プレイヤー達は死んでしまえば『オルガン送り』となるので、死体という物は存在しない。

 だから僕には風景の一部にしか見えなかった。

 ゲームの中に出て来る、返事がない、ただの〇〇のようだ、と同じだ。


 でも良かった、ルシファーが洞穴に入らなくて。

 この死体を見ればまた白目を剥いて気絶するだろうし、ルシファーを担いで外に出るのも一苦労だし……と視線を座ったまま白骨化している死体の後ろへと移すと、僕のテンションが一気に急上昇した。

 僕は白骨化した男性を足でささっと退かせた後、見つけたを担いで頭上へと掲げ、そのまま瞳を輝かせて洞穴の出口を目指した。


 「ルシファー! コレ見て……よ」


 ルシファーは片手で鼻を摘まみ、後ずさりしながら僕から距離を取った。

 ……臭いから何とかしろって事ね。

 【シャイニングオーラ】を僕自身と、頭上へ掲げているに試しに掛けてみると、辺りに立ち込めていた嫌な臭いが一瞬にして消え去った。


 「クンクン……おお、臭くない臭くない。我が眷属よ、良い物を見つけて来たではないか」

 「その前にルシファーさん? 色々と酷くないかい?」

 「フフフ、まぁ良いではないか、早速中身を確かめようではないか」


 僕が白骨化した男性の後ろで見つけた物、それは……宝箱だ。


 「宝箱、ゲットだぜ!」


 その宝箱は、表面の平らな部分は光沢のある赤いベロア素材っぽい物で加工され、箱の強度を上げる為に使用されている金属部分には、細かな装飾が施された高級感溢れる物だった。

 足もとに宝箱を置き、二人でワクワクしながら蓋を開けてみる。


 「「おお! お、う、うーん……」」


 開けた瞬間は二人共テンションMAXで驚いてはみたものの、中に入っていた物が微妙過ぎて尻窄まりとなってしまった。

 一辺が六十センチ程度の大きさの宝箱には、腕か拳に装着する物と思われる爪型の武器と、小さな巻物が一つ入っていた。

 僕は爪型の武器を手に取り、鑑定スキルで調べてみた。


 ・フレイムベアーの爪 (品質 良品)

  ・攻撃力+55

  ・装備時、ユニークスキル『爪攻撃』使用可能

  ・スキル『近接格闘術』『近接武器』の所持者にはダメージ+10パーセントの付加効果あり

  ・売却価格500,000G前後


 微妙とか言ってゴメンナサイ。

 すんごい高価な物でした。

 だって見た目、やや黄ばんだ三十センチ程のデカい爪を、古くなった革っぽい茶色のベルト二本で留めるだけの物だったから……。

 これ、ルシファーが装備すれば少しはマシになるのでは? と思いフレイムベアーの爪を持ったままルシファーへと視線を向ける。


 そんなクソダサい物、死んでも装備せん!


 殺意すら込められた目線で訴えかけられたので、僕はそっとルシファーから視線を逸らした。

 怖えー、普段あまり感情を表情に出さないルシファーが、あんな眼力を発するとは……。

 ……この爪は僕の道具袋へ仕舞っておこう。


 次にもうひとつの、小さな巻物も鑑定スキルで見てみる。


 ・クマ殺しパンチの巻物

  ・ユニークスキル『クマ殺しパンチ』を習得する事が出来る

  ・一人しか覚える事が出来ない

  ・習得可能条件 スキル『近接格闘術』所持者、LV30以上の2つを満たしている事


 今度はクマ殺しパンチを詳しく調べてみた。


 ・熊系のモンスターには即死ダメージ

 ・通常モンスターに絶大なダメージを与える事が出来る、一撃必殺のパンチ攻撃


 よく分からないけど、パンチ攻撃という事は、武器を装備していると使えないのかな?

 今のところ僕しか覚える事が出来ないのだが、一人しか覚える事が出来ないのであれば、僕が覚えるよりも他の誰かが覚えた方が役に立つのではないだろうか?

 しかし熊系のモンスターって、ピンポイント過ぎじゃないか? 他にも熊っぽいモンスターが居るのか? ウチのメンバーには熊猫パンダが居るけど……。


 「我が眷属よ、お主は何でも出来おるのじゃな」


 今見た鑑定スキルの内容をルシファーに説明すると、鑑定スキルの事を話していなかったので、まずそこを驚かれた。

 その後、妾は大魔法使い? だから必要ないと言われたので、巻物も僕の道具袋へと仕舞った。 



 先程の死体の男性は何故こんな物を持っていたのに、フレイムベアーの住処で死体となってしまったのであろうか……謎である。

 もしかしてクマ殺しパンチを覚える為に、レベル上げをしている最中だったとかかな?

 考えても結論が出ない事なのでまぁいいかと放置しておくことにする。

 でもモンスターの住処を家探しすれば、お宝に出会える事もあるのだと分かったのはラッキーだったなー。


 「よし、じゃあもう少し時間があるから、もう一匹倒しに行こうか」

 「フフフ、そうじゃな。では次のモンスターには妾の『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』をお見舞いしてやろう」

 「いや、まだお見舞いしなくていいから」


 <仕事早く終わったからログインして来たわよー!>


 会話しながらマップで次の獲物を物色していると、REINAからメッセージが届いた。

 どうやらノイズのないノイ子さんの居る小屋の外にいるみたいだ。


 <了解! 今からルシファーと一緒に迎えに行くよ>


 メッセージと同時に瞬間移動でREINAの所へ向かった。



 

 辺りはすっかりと暗くなってしまい、ピレートゥー山脈の頂上付近と山に掛かる高積雲だけが眩しく黄金色に輝いている。

 素晴らしい風景なのだが、やっぱりゲームの世界。

 ピレートゥードラゴンが今も尚、山脈の上空を飛んでいるのだが、その距離は普段より離れており、かなり北側を飛行しているみたいだ。


 「仕事お疲れー、早かったねー!」

 『ちょっと、後ろにいたなら最初からそう言ってよねー』


 後ろから話し掛けられたパンダが、一瞬ビクッと体を震わせてこちらへと振り返り、僕達の姿を見て表情を緩ませながら警戒を解いた。

 まぁREINAはまだ瞬間移動の事を知らないからなー。


 『このままだとルシファーちゃんばっかり強くなっちゃいそうだから、仕事放っぽり出して来ちゃった』


 てへっ! みたいな感じの仕草をしているのだが、見た目がやさぐれパンダなので正直微妙だ。

 やや気持ち悪さの方が勝っているが、雪乃さんならこれでデレデレなのだろうか……。


 『それでタケル君、ルシファーちゃんはLV幾つになったのよ?』

 「LV7だよ、火魔法もLV2に上がったよ」

 『ええー! たった半日でー!』

 「フフフ、妾の急成長ぶりに驚愕しておるようじゃな」


 デカい両手で頬を押さえ、嘘でしょー! という表情をしているパンダを見て会話の内容を理解したのか、ルシファーがいつものおかしなポーズを取りながら踏ん反り返っている。


 ……アンタ全然成長しとらんでしょうが。

 しかもステータスは圧倒的にREINAの方が高いし。


 『私がファストタウンのバーで他の冒険者達の話、まぁ唇の動きを読んでいただけだから会話の内容は完全には分からないのだけど、このOPEN OF LIFE、LVが全然上がらないから、LVの上限が相当低いのではないか? みたいな事を言っていたわよ?』

 「へ? どういう事?」


 REINAの読唇術がどんだけ凄いんだという話は置いといて、REINAの話を詳しく聞くついでにに、僕とルシファーの今日の活動内容を報告した。

 冒険者達の話ではモンスターが相当手強くて、なかなか倒せず、何とか倒せてもLVが全然上がらず、みんなLV2とかLV3が精一杯との事。

 そして僕達が倒したモンスターの分のEXPは、やっぱりログアウト中だと貰えなかった事。

 僕が爆走中に轢き殺したフレイムベアーの分のEXPが、ルシファーに入っていなかった時点で気付くべきだったな……。


 僕達の活動報告は、クエストを受けた事。

 ホルツさん達と報酬を山分けにする事を、勝手に決めてゴメンね、という事。

 ルシファーの火魔法がLV2に上がったのだが、かなり上がり辛いというのが判明した事。

 ワイバーン達は既に発見済みだという事。

 フレイムベアーを倒し、住処でお宝を発見した事。

 

 『へー、一匹しか倒していないのにLV7まで上がったのね。これもタケル君が言っていたボーナスのお陰なのかな?』

 「うん、それもあると思うけど、他の冒険者達が倒したというモンスターが、僕達が倒したフレイムベアーより弱いモンスターなんだと思う。それとルシファーの火魔法がLV2に上がったのも、ボーナスが付いてこれだけ上がり辛かったんだ。だからREINAに聞いておきたい事があるんだけれどいいかな?」

 『ど、どうしたのよ急に改まっちゃって』

 「REINA自身は今後、どういうプレースタイルで進めて行きたい? 前衛や、後衛、近距離攻撃や、長距離攻撃、武器の種類もどうやら色々とあるみたいだし、魔法の種類だって光、土、水、風、火、雷、闇とあるけどどれが使いたいのかな? レベルがかなり上がり辛いのが分かった今、あれこれと色んなジャンルに手を出して進めて行くと、中途半端なキャラになってしまうと思うんだ。自分がやりたいプレイスタイルをひとつ、後は補助的に使う物をもうひとつくらいに絞って成長させた方がいいと思うんだけどどうかな?」

 『なるほどねー』


 REINAはうんうんと頷きながら話を聞き、顎に大きな手を当てながら暫く黙って考え始めた。


 「妾は火魔法を極めて見せましょう」


 REINAとの会話を聞いていたルシファーが、いつものおかしなポーズを取りながら高らかに宣言した。 


 「そうだね、ルシファーは火魔法がいいと思う、後、何処かで覚える事が出来れば闇魔法なんかが合ってるんじゃないかな?」


 「や、闇魔法……」


 決めポーズを取ったまま一言呟いたルシファーは、絶賛初恋中の少女のような虚ろな瞳のまま、ぽーっとして動かなくなってしまった。

 †血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーという名前からして闇魔法とか好きそうだもんな……。


 『……よし、決めたわ!』


 背中を丸めてずっと押し黙ったまま考え込んでいたREINAが、大きな手をボフっと叩いて叫んだ。


 『私、本当は回復担当に……皆を癒す存在になりたかったのよ。だからアバターもエルフを選んだし。……でも今はパンダこんなすがただから、回復担当は諦めるわ」

 「どうして? 顔が酷いけど一応パンダなんだし、REINAの存在は既に癒し系だと思うけど?」

 『そ、そうかな……? ってちょっと聞き捨てならないわね。乙女に向かって顔が酷いってどういう事よ!』 


 中身がREINAなので、その短い毛並みをワシャワシャと堪能出来ないのが非常に残念だ。

 現在も目尻をピクピクとさせたパンダが、僕の顔を真下から見上げる感じで『ふざけるなよ、コラ!』とメンチを切って来ているのだが、爪を立ててその脇腹をゴシゴシしたい衝動を抑えるのに必死だ。 


 「と、とにかく自分がやりたいプレイスタイルで、ゲームを楽しむ事が一番だと思うよ?」 


 僕の言葉を聞くと、睨みを利かせていたREINAは僕に顔を近付けたままの体勢で少し考え始めた。


 『……そ、そうね、分かったわ。私は光魔法と水魔法の二つを頑張って覚えてみたい。そして接近戦になった時の為に近接武器も練習するわ』


 最初の自分がやりたかったプレイスタイルを選んだみたいだ。


 『でも今はまだ光魔法も水魔法も覚えていないし、暫くは他の皆よりステータスが高いというアドバンテージを活かして前衛を務めるわ』

 「うん、それでいいと思うよ」 

 『……そもそもその二つの魔法は何処で覚えられるの?』

 「バーのマスターから聞いた話だと、風魔法も水魔法もヤマト国の街で覚えられるよ」


 バーのマスターと会話している時に、魔法の神殿の場所を聞いてみると教えて貰えたのだ。

 このヨルズヴァス大陸には、『ヤマト』『オリエンターナ』『イスタリア』『アレイクマ』という四大主要国家があり、それぞれの国に光、土、水、風、火、雷の6つの神殿があるそうだ。

 しかし闇の神殿は何処にあるのか分からない、とマスターも首を傾げていた。


 『じゃあヤマト国に行くまでは、私が前衛を務めるわ……と言ってもまだLV1だから前衛もままならないけれどね。……というわけでさっきの話で出ていた装備品、見せてくれる?』


 REINAが大きなパンダの手を僕に向かって伸ばし、掌を上に向けてクイクイと曲げた。

 そのやさぐれた顔でそういう風に手を向けられると、オラオラ、さっさと出すもん出せや! と言われているみたいで凄く嫌だ……。

 道具袋からフレイムベアーの爪を取り出し、これがそうだよと言いながら手渡す。

 僕の道具袋から再び出て来た物体を、ルシファーは死んだ魚のような目で見ていた。


 『ちょ、ちょっとルシファーちゃん、そんな目で見ないでよー、確かに見た目は少しアレだけれど、強くなれるんだからいいじゃないのよ』


 ルシファーの見慣れない視線に焦りながらも、メニュー画面から装備コマンドを選択すると、パンダの手の甲の部分にフレイムベアーの爪が装着された。

 爪の黄ばみ具合が何とも言い難い武器が、ベルト二本で手の甲に固定されているパンダ……か。

 人の見た目を揶揄しているが、僕も豚の姿にタイガー○スク、これに比べれば全然マシだよREINA。


 「……じゃ、じゃあ、このまま三人で一丁モンスターを狩りに行こうか」

 『うん、行こう!』

 「フフフ、我が眷属よ、初めてのモンスターに怖気付いてはいけませんよ?」


 ルシファーが悪い笑みを浮かべながら、口に掌を当てるいつもの仕草をしている。

 自分はフレイムベアーを前にして、速攻で白目剥いて気絶してたくせに。

 マップを見ながらモンスターを物色して、気になるヤツの居る場所の近くに瞬間移動で向かった。




 瞬間移動した先は街道沿いの大きな湖の畔にあった、幹が優に四メートルはある巨木の切り株の陰だ。


 『え、えええ、えーっと……』


 REINAは混乱しているのか口に手を当てながら、トイレを我慢している女性のように、周囲を見渡しながらモゾモゾとしている。

 やさぐれたパンダがモゾモゾとしているのは不気味でしかない。

 ルシファーはそのREINAの様子を見ながら、口に手を当ててクスクスと笑っている。


 「……どうした? 漏らしたの?」

 『ち、違うわよ馬鹿! 何言ってんのよ馬鹿!』


 REINAがそのやさぐれた顔を、唾が飛んで来そうな距離まで近付けながら叫んだ。

 でもそんな大きな声を出してしまったら――


 「キュ、キュルルルッシャーーーー!」


 当然モンスターには気付かれてしまうよねー。


 「『ひぃーー!』」


 REINAとルシファーが悲鳴をハモらせながら、僕の背後へと光の速さで隠れた。

 二人はまだ瞬間移動を覚えていないはずだが……?

 そして二人掛かりで僕の背中をグイグイと押してくる。

 い、いや分かってるから、ちゃんと倒すから押さないでってば。

 遂に二人掛かりで巨木の切り株の陰からドンと突き飛ばされてしまった。

 ……うん、後で二人にはきっちりとお話させて貰おう。


 僕が気になったヤツというのは、街道を北へ爆進している最中に、モンスター同士で激突していた奴等の事で、二匹居たはずなのだが表示が一匹になっていたのだ。

 そして少し離れた場所で、戦いに敗れてしまったのであろうモンスターの死骸が横たわっている。

 負けてしまったモンスターは体長十五メートル以上のバッファローで、名前はジェネラルバッファロー。

 紺色の体毛を全身に纏い、首元は茶色いモジャモジャの汚らしい毛で覆われている。

 目の光は完全に失われており、あらゆる場所から大量の血を流し、全身に切り傷や、焼け爛れた痕、更に腹の部分には折れた剣先が突き刺さっている。

 このモンスターの特徴でもある、額部分からS字になって前方へと伸びている、長さ四メートルは在ろうかという立派な角も、元々は二本だったと思うのだが、その内の片方が根元から折られてしまっている。

 その折れた角は一体何処に行ったのだ? と周囲を探してみると、勝ち残っているモンスターの胴体部分に突き刺さっていた。


 名前

  ・スネークナイト

 二つ名

  ・なし

 職業

  ・なし

 レベル

  ・42

 住居

  ・なし

 所属パーティー

  ・なし

 パーティーメンバー

  ・なし

 ステータス

  ・空腹

  ・瀕死

 HP

  ・8

 MP

  ・3

 SP

  ・312

 攻撃力

  ・45

 防御力

  ・125

 素早さ

  ・130

 魔力

  ・90

 所持スキル

  ・物理防御 LV5

  ・盾防御 LV5

  ・毒耐性 LV5

  ・二段切り LV4

  ・薙ぎ払い LV4

  ・振り回し LV3

  ・毒攻撃 LV4

  ・ファイアウォール

 装備品

  ・スネークナイトの剣 

  ・スネークナイトの鎧

  ・スネークナイトの盾

 所持アイテム

  ・ジェネラルバッファローの角

  ・蛇柄の甲冑一式

 所持金

  ・45,000G


 体長十五メートル程の見た目は蛇で、胴体部分だけが人間の体をしている、このスネークナイトというモンスター、既に瀕死状態だ。

 蛇の部分の、頭、尻尾は土色で嫌な光沢を放つまさしく蛇皮なのだが、体と腕の部分はゴリゴリのマッチョ体型をしており、腹筋の部分は白くて滑りと湿っぽく、腕の見える範囲の部分は頭や尻尾と同じ土色の蛇皮だ。

 見える範囲の部分と言うのは、胸から肩にかけてまでは古代ローマ軍が装備していた、組み立て式のプレートアーマーっぽい物で覆われているからだ。

 色合いから鉄で出来ている物と思われるのだが、残念ながらジャネラルバッファローの角はプレートアーマーで守られていない腹筋部分を貫いており、赤い血がドクドクと流れ出ている。

 左手に持っている巨大な盾も、原形を留めておらず、投げつけて武器として使用した方がまだマシな程ボロボロで、右手に持っている巨大な剣もガードの部分から二、三十センチの所でポッキリと折れてしまっていて使い物にはならないだろう。

 そして何と言ってもこのモンスター、アイテムを二つも所持しているのだ。

 一つはジェネラルバッファローの角。これって腹にぶっ刺さっている角の事だよな……。これも所持アイテム扱いなのか?

 そしてもう一つは甲冑なのだが、蛇のモンスターが蛇柄の甲冑って……じ、自分の皮で作ったのか?

 激戦を何とか制した様子だが、口からは吐血し全身傷だらけ、胴体を貫通してしまっているジェネラルバッファローの角は致命傷。

 そのバランスが悪そうなマッチョな体の部分を、足もとの細い蛇の部分で支えているのだが、息も絶え絶えと言った感じでフラフラとしている。

 このまま放って置いても死にそうなのだが、辛そうなので止めを刺してやるか。

 しかしこうやってモンスター同士でも、生きる為に戦っているんだな。


 OPEN OF LIFEの世界は厳しいなー。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る