第6話

 

 ルシファーは踏ん反り返りながら、いつものおかしなポーズを取っているのだが、自分もワイバーン討伐に行く事をきちんと理解しているのだろうか……。

 しかし、ギルドカードが存在しない事、パーティーメンバーの誰かがクエストを受け付ければ、メンバーの皆がクエストを受け付けた事になるのは分かったぞ。

 そしてギルドに依頼が来ていれば、誰でも、どんなクエストでも受けられて、恐らく達成報告の早い者勝ちで報酬を受け取る事が出来るのだろう。

 早速バーのマスターが言っていた通り、武器屋、防具屋、道具屋に顔を出しに行こう。

 だが、その前にひとつ。


 「エルフのお姉さん、色々と説明してくれてありがとう。それと魔力石の事とか、ギルドカードの事も、受付に大きく張り紙を出しておけば、毎回同じ返答を繰り返さなくて済むと思いますよ」

 「あ、あなた天才……!」


  笑顔で問題の解決方法を教えてあげると、瞳をうるうるとさせながら感謝されたのにはビックリした。


 「気を付けて行ってくるのよー!」


 最後には今まで冷徹に淡々と処理されていたのが嘘みたいに、心配そうな表情で手を振って見送ってくれた。

 簡単にデレやがって……なんて事は思っていないぞ?


 「我が眷属よ、其方はこのクエストの山脈までの行き方や所要時間などは把握出来ておるのか?」


 武器屋、防具屋、道具屋に向かっている最中、ルシファーが真面目な質問をして来た。


 「そうだなー、場所は大丈夫だけど、時間は……まぁ多分大丈夫だよ」


 少々無茶をすればすぐに到着出来るだろう。

 その方法で移動して、ルシファーがどういう状態になっているかは不明なのだが……。

 場所の確認の為に、先程受け付けたクエストを確認してみる。


 クエスト内容

 ・グレーデン山脈に巣くうワイバーンを殲滅して下さい!


 クエストの依頼者 

 ・冒険者ギルド


 クエスト成功条件

 ・ワイバーンキングの首を持ち帰る

 ・ワイバーンの魔力石を三百個持ち帰る


 クエスト失敗条件


 ・ワイバーンキングの逃亡

 ・ワイバーンの魔力石が三百個に満たない


 クエスト報酬

 ・EXP

 ・1,000,000G

 ・ファストタウンの住人、ヤマト国行商人の信頼


 クエスト難易度

 ・☆☆☆☆


 クエスト受諾条件

 ・なし


 気になる部分が幾つかあるな。

 まずはワイバーンキングとかいうヤツ、コイツが多分群れを統率しているワイバーンなのだろう。

 そしてクエスト報酬。

 1,000,000Gって多いよな……。

 このクエストを六回こなせば売家が買える、と考えればかなり多いと思う。

 しかもこれとは別で、モンスターを倒せば恐らくドロップアイテムや部位の剥ぎ取り、魔力石と大量に転がり込んで来るはずだ。

 モンスターをゲーム内で倒した事がないので分からないのだが……。

 ファストタウンの住人とヤマト国行商人の信頼というのは、クエストを冒険者ギルドに依頼した人達の事なのだろう。

 そしてクエスト難易度の☆4つというのはどうなんだ?

 恐らく数百匹のワイバーン、小型竜というくらいなのだからドラゴンなんだろうけど、それを数百匹とワイバーンキングとかいうボスっぽいヤツを同時に始末するのって結構大変なのだと思うのだが、☆四つは少なくないか?

 それにゲームを始めて最初の町に出ているクエストとしては、高難易度過ぎなのではないのか? とも一瞬考えたのだが、最初の町だから簡単なクエストばかり、というのはゲームだと思っているからそう考えるのだよな。

 恐らく雪乃さんが言っていた『リアリティーを追及した』というのはこういう事も意味しているのだろう。


 ギルド会館から歩いてすぐの場所に、大きな煙突が目印の武器屋と防具屋が併設された建物があったのを、初めてファストタウンに来た時に見つけて確認済みだったのだが、そのお店のシンボルとも言える、大きな煙突からは昨日と同様全く煙は立ち昇っていない。

 鍛冶場に火が入っていないという事は……暇なんだろうな。


 「すいませーん」


 お店の入口は解放されており、店内に入ったのだが、そこには誰も居なかったので声を出してお店の人を呼んでみた。

 そのお店は某ハンバーガー店みたいな造りとなっており、そう広くないスペースには少しの間、座って待っていられる程度の椅子がお店の壁際に数脚、お店の端から端まで繋がっている長めのカウンター、そのカウンターの後ろ側にはメニュー表やドリンクの機械の代わりに、商品の陳列棚が備わっているのだが、陳列棚には『売り切れ』という小さな紙がぽつぽつと置いてあるだけで、武器や防具の類は一切置かれていなかった。


 「ごめんなさいねー、悪いけれど今は売れる物が何もないのよ」


 お店の奥から出て来た割烹着姿のおばさんが、申しわけなさそうに僕達に教えてくれた。

 人の良さそうなおばさんなのだが、憔悴しきっているのか、その表情に覇気は全く感じられない。


 「僕達今からグレーデン山脈のワイバーン討伐に行こうと思っているんすけど、バーのマスターにこちらでお話を聞いてから行った方がいいよと言われたのですが」

 「まぁ! バーのマスターから? 大変、こうしちゃいられないわ! ちょっとアンタ、出て来ておくれ! 遂に来てくれたわよ! それとカミラさんと旦那さんも今すぐお店の方に来て頂戴ー!」


 割烹着姿のおばさんは、途中まで僕の話を光の灯っていない瞳で聞いていたのだが、バーのマスターというワードを聞いてからは表情が一変し、店の奥に向かって旦那さんと思われる人物、そしてカミラさんという謎の人物と旦那さんを呼んだ。


 「あたしは今から道具屋の主人も呼んでくるからここで待っていておくれよ! ああ大変大変」


 そしておばさんは割烹着姿のまま慌ただしく店を飛び出して行き、土煙を上げながら道具屋の主人のもとへと向かった。


 何だかせわしない人だな。雰囲気が国民的アニメの独特なヘアスタイルのおばさんそっくりだ。

 しかし道具屋の主人も呼びに行ってくれたので、話が早くて助かるなー。


 店の奥からぞろぞろと三人の人物が姿を現したのだが、その内の二人はずんぐりむっくりの体型に髭モジャの容姿、恐らくドワーフという種族だ。

 身長百四十センチ程の背丈で恰幅の良い体格なのだが、脂肪ではなく筋肉の鎧を着ているみたいに、着ているシャツの下からくっきりと筋が浮かび上がっている。

 胴回りなど豚の僕より若干細いくらいなのだが、それでも見事な腹筋が浮かび上がっているので、体の構造自体が人間とは違うのであろう。

 二人共赤茶色くボサボサな髪と、長く丁寧に編み込まれた髭が特徴的なのだが、その両手がゴツゴツとした職人の手をしているので、長年にわたり武器と防具を鍛冶場で手にして来た方達なのだとすぐに理解出来た。

 しかしカミラさんと呼ばれていた女性は、少し小柄な普通の女性にしか見えないのだが……とまじまじと女性を見ていると割烹着姿のおばさんが、店の入口からカツ○……ではなく道具屋の店主と思われる眼鏡をかけた普通のおじさんを引きずって現れた。

 三十代前半くらいの知性が高そうな普通のおじさんなのだが、どうやら食事中に割烹着姿のおばさんに引きずられて来たみたいで、その口の中には未だ咀嚼中の物が入っている……。

 そのまま皆で店内の壁際に配置されていた椅子に座り、今日にでもワイバーン討伐に行こうとしている事を説明すると、それぞれが色々と話をしてくれた。


 冒険者達が店の品を買い占めて行った事。

 ヤマト国の行商人が来られないので物資が殆ど入って来ない事。

 冒険者達が南に行ったきりなので、近場の素材もなかなか入って来ない事。

 道具屋には冒険者達が頻繁にこなして行った『薬草採取クエスト』のお陰で大量に薬草だけはあるという事。

 その為近場の薬草は絶滅寸前で、薬草を主食としていた小動物達も近隣から姿を消してしまい、町の食糧事情も危険な状態だという事。

 そして色々な冒険者達が討伐に行くからと店に来たのだが、どの冒険者も討伐に失敗、又は最初から討伐に行っていないのだそうだ。

 この悪循環を何とかする為、討伐に成功しそうな冒険者が来た時にだけ店に寄って貰うよう、バーのマスターに言伝していたらしい。

 だから僕がバーのマスターから聞いて来たと言った途端に、態度が変わったのか……。

 何だか一万人という冒険者達が一斉に押し寄せた事によって、このOPEN OF LIFEの世界が一気に歪んでしまったように感じるな……。


 「ワイバーン一匹丸々手に入るなら、アンタ達の装備品、タダでこしらえてやっても構わんぞ」


 武器を担当しているドワーフのモルツさんがこんな提案をして来た。


 「それは嬉しいんすけど、討伐したワイバーンは三百個魔力石に変えてくれとギルドに依頼されているんすよ」

 「アンタらの実力は分からんが、もし三百匹倒せる実力があるのなら、あの山脈には現在とんでもない数のワイバーンが生息しておる。もっと多く討伐する事も可能ではないのか?」

 「げ、そんなに沢山居るんすか?」


 「確認出来ただけでも軽く千匹は越えておるそうだ」


 せ、千匹か……大丈夫かな……。

 しかし分からない事があるのでプロの意見も聞いておこう。


 「討伐するワイバーンってなるべく無傷の方がいいんすよね?」

 「ガハハー、そりゃ皮や鱗、爪から頭蓋まで、完璧な状態で手に入れば良いに越した事はないが、流石にそれは難しいだろーよ」


  僕の質問に、今度は防具を担当しているホルツさんが豪快に口を開いた。


 「そうっすね……。それでは剥ぎ取りなんかも僕がするより、皆さんでやって貰った方がいいんすか? 僕だと必要な部分に傷とか付けてしまうかもしれないし……」

 「確かにその通りだがよ、店の裏手に運んで貰わんと、ワイバーン一匹の解体なんぞ出来んぞ?」

 「その事でご相談があるんですけど少し聞いて貰ってもいいすか?」


 今度は道具屋のおじさんガゼッタさんに話を振ってみた。

 恐らく今からする話はガゼッタさんの方が得意だと思ったからだ。


 「今回の討伐クエストの報酬、皆で山分けにしませんか?」

 「……どうしてそのような提案をなされるのです? 理由を聞かせて貰っても宜しいですか?」


 ガゼッタさんは僕の提案を疑問に思ったみたいで、少し疑っているみたいだ。


 「僕達はワイバーンを討伐する実力はあるんすけど、世界の地理やモンスターの事や道具の事、魔法の事も詳しくないんすよ。だから報酬を山分けにする代わりに、今後も色々な事を皆さんに教えて貰いたいんすよ」

 「……へ、それだけですか?」


 僕は正直に話したのだが、拍子抜けした感じで言われただけだった。


 「後、今回の僕達の件を誰にも言わずに、一切秘密にして貰いたいです」

 「まぁ、そういう事なら我々も商売の都合上、他の町の取引相手に素材の入手経路等を秘密にしたいので、全然構わないですよ、ねえ、モルツさん、ホルツさん」


 ガゼッタさんは僕のお願いを受け入れてくれた上で、モルツさん、ホルツさんにも同意を求めた。


 「ああ、ワシも構わん」

 「ガハハー、構わん構わん。ワシの知っている事なら何でも教えてやるぞ?」


 少し寡黙な感じのモルツさんに続いて、豪快な感じのホルツさんも了解してくれた。

 カミラさんと割烹着姿のおばさん、ミクリさんの方へ視線を向けると二人共コクコクと頷いてくれた。


 「では皆さん了承して頂いた、という事でカミラさんとミクリさん、少しの間モルツさんとホルツさんをお借りします」


 カミラさんとミクリさんに挨拶を済ませ、ルシファー、ガゼッタさん、モルツさん、ホルツさんで町の外へと瞬間移動した。

 

「こりゃーたまげた、どうなってやがる」


 豪快なホルツさんも瞬間移動にはビックリした様子で、目を大きく見開いたまま辺りをきょろきょろとしている。


 「ここは……町の外、ですか?」


 ガゼッタさんは冷静……を装っているのか、状況を把握しようとしているみたいだ。


 「……成程」


 モルツさんは無表情のまま一言呟いた。


 「フフフ、どうじゃ妾の眷属の実力の程は?」


 ルシファーはいつものよく分からないポーズをキメながら、何故か一番偉そうにしている。


 「実はこういう事が出来るので、討伐が終わった際、皆さんには現場まで一緒に来て貰おうと思ったんすよ」

 「じゃから急に剥ぎ取りの事を聞いて来おったのじゃな?」


 納得がいった表情のホルツさんが腕を組みながら大きく頷く。


 「ええ、出来れば剥ぎ取りの方法や魔力石へ封じ込める方法を直に見たいと思っていましたので」

 「そういう事でしたら魔力石の事で私がお力になれると思いますよ」


 ガゼッタさんが胸に手を当てながら、笑顔で答えてくれた。


 「私は剥ぎ取りに関してはモルツさん、ホルツさんの遠く足もとにも及びませんが、魔力石の事なら専門分野なので任せて下さい」


 その後、町の外でお三方に色々と話を聞いたり今日の作戦会議をしている最中、時間を有効利用する為、ルシファーには僕に向かって【ファイアーボール】――じゃなかった、『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』を唱え続けるように指示した。


 「……くっ、魔力を使い切ったか……」


 魔法LVを上げる為には沢山魔法を唱えないといけないのだが、一度【ファイアーボール】を唱える度にルシファーが片膝を突いていつものポーズを取るのが少々面倒だったが、その都度光魔法【チャージ】でMPを分け与え続ける、という単純作業を延々と繰り返させた。

 僕も【ファイアーボ――】『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』のお陰で火耐性のスキルをゲット出来たので、ワイバーン討伐が楽になったはずだ。

 恐らく小型竜というくらいなのだから、ブレス攻撃とかあるのでは? と思っていたのでルシファーが火魔法使えてラッキーだったよ。


 「……我、汝ら炎の精霊と契約を結びし者なり、その荒々しき業火、今ここに解き放たん『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』!……ぼそ【ファイアーボール】」

 「……くっ、魔力を使い切ったか……」

 「【チャージ】」

 「……アンタら一体何をやっとるんじゃ?」


 僕達が不可解な行動を続けているので、遂にホルツさんが呆れた口調で口を挟んで来た。


 「お構いなく、ただの修行っすから。彼女は未だ修行中の身なのですが、実際の討伐は僕がやるのでどうぞご心配なく」


 お三方がルシファーの魔力を見て不安に駆られたみたいなのでフォローを入れておいたのだが、疑惑は払拭出来ず、仕方なくバーのマスターの時と同じく片手に少し雷を溜めて見せると、皆ホッと胸を撫で下ろしてくれた。


 「……我、汝ら炎の精霊と契約を結びし者なり、その荒々しき業火、今ここに解き放たん『灼熱乱舞インフェルノヴァラーレ』!……ぼそ【ファイアーボール】」

 「……くっ、魔力を使い切ったか……」

 「【チャージ】」

 「……! これ、我が眷属よ! どうやら妾の火魔法がLV2に上がったみたいじゃ、ピコーン! と音も鳴ったし、視界にもLV2に上がったと出ておる」


 ……ひゃ、百六十六発でやっとLV2か……魔法熟練度上昇スピードに二.五倍のボーナスが付いて百六十六発って事は、通常のプレイヤー達は四百発以上、しかもMPの回復手段があるのかどうかも怪しい。

 こりゃ、一般のプレイヤー達はなかなか大変そうだ。

 MP回復手段を使ったとして一日四十発魔法を放てた場合、十日ちょっとでLV2に上がる計算か……。

 恐らく殆どのプレイヤー達が魔法が使えたとしてもまだLV1かLV2だな。

 

 ルシファーは火魔法のLVアップが嬉しかったのか、現在一人で優雅に舞を舞っている。

 ナニソレ、もしかしてそれも毎回LVが上がる度にやるのか……?


 「……我、汝ら炎の精霊と契約を結びし者なり、その荒々しき業火、今ここに解き放たん『灼熱乱舞(インフェルノヴァラーレ)』!……ぼそ【ファイアーボール】」

 「……くっ、魔力を使い切っ……ていない、あれ? おかし――ケフンケフン、これ、我が眷属よ、どうやら『灼熱乱舞(インフェルノヴァラーレ)』では魔力を使い切らなくなったぞ?」

 「そうみたいだね、どうやら火魔法がLV2に上がった事で『灼熱乱舞(インフェルノヴァラーレ)』の消費MPが減ったみたいだ。これで更にレベルアップが早くなりそうだけれど、まだ続けられそう?」

 「フフフ、当然じゃ、妾を誰だと思うておるのじゃ? この†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファー、再び失われた力を取り戻し、この世を我が手中に収めるまで、努力は惜しみませんわよ」


 今度はいつものおかしなポーズを取って話すのではなく、ひとつひとつのセリフに身振り手振りを付けたミュージカル口調だったのだが、そんな設定初めて聞いたぞ?

 しかし、そんな事を言いながらも、ルシファーは家の用事で三十分程ログアウトするとの事だったので、その間に僕一人でクエスト現場まで向かってみる事にする。

 モルツさん、ホルツさん、ガゼッタさんには夜中に迎えに行くので、皆で武器、防具のお店で待機しておいて下さいと伝えて解散した。


 ログアウトするルシファーに、REINAと源三に何時くらいにログイン出来そうか連絡を取ってくれるように伝えておいた。

 そしてまたルシファーには、ログインした際連絡をくれればすぐに迎えに行くからと伝えてある。

 REINAは確か十時頃にログイン出来そうと言っていたのだが、問題は源三だよな……、今日も学校にいる時に皆で連絡やり取りしている間、源三からだけは一切連絡なかったし。

 生きてるよな……?

 最悪今日の討伐は源三抜きで行く事になりそうだけど、多分今日の討伐、物凄くEXPが手に入ると思うんだよな……、勿体ない。


 ワイバーンが巣くっているというグレーデン山脈へ向かうには、街道をひたすら北へ向かえば到着するのだが、なかなかの距離だ。

 ガゼッタさんの話によると普通に馬車で移動するなら、グレーデン山脈に到着するまでに五日くらいは掛かるそうなのだが、プレイヤー達が向かう場合どうやって途中でログアウトするのだろうか?

 仮設テント的な物でもあるのだろうか?

 これはまた確認しておかないといけないな。


 現在アクティブスキル『霧隠れ』を掛け、土煙を上げながら街道を北へ爆進中だ。

 道中、物凄い速さで流れて行く景色の中でモンスターっぽい物が視界に入れば、その位置をささっとマップで確認してから先へと進んでいる。

 後でルシファーやREINAと合流した時に、短時間でも狩りが出来れば少しでも早くLVを上げられるからな。

 しかしあれだ、もっとこう定番のスライム的なやつだったり、ゴブリン的なやつだったり、オーク的なやつだったりと、弱そうなモンスターがいるのかと思っていたのだが、視界に入って来た奴等は、もうガッツリ強そうなモンスターだ。

 体長五メートルクラスとか普通にゴロゴロ転がっていて、湖の近くでは十メートル級のモンスター同士が縄張り争いなのか、バトルをしていたのは大迫力だった。

 その大激突を観賞していて、前を見ていなかったので、どんな奴かは知らないのだが、途中で一匹フレイムベアーなるモンスターを轢き殺してしまった。

 初めてのモンスター討伐がよそ見をしている間に終わってしまった……。

 その際EXPは入って来たのだが、ゴールドは入って来なかった。

 やっぱりモンスターの死骸に何かしないといけないのかな……嫌だなー。

 さっきのモンスターとか、恐らく木っ端微塵だったはず。

 その破片に触らないと駄目だとか言われたら……、うん、なるべくモンスターは原形を留めたまま始末しよう。


 遂にグレーデン山脈の麓に到着した。

 ルシファーは三十分くらいで戻ってくると言っていたので、もうそろそろ帰って来るだろう。

 ここに到着するまでのスピードを足もとの土の街道に、木の枝でガリガリと数式を書いて、足りない頭で一生懸命計算したのだが、少なく見積っても時速三百キロ以上は出ていたみたいだ。

 はは、人間のスピードではないけど、ここはゲームの世界、現実リアルと違って別に問題ではないのだ。

 でも次からはもう少しスピードを控えよう……。


 グレーデン山脈の麓、山道入口付近から山脈を見上げ、ワイバーンを観察しているのだが、まぁ居るわ居るわ、うじゃうじゃしてる。

 害虫の異常発生みたいな状態だ。

 これ千匹どころの騒ぎじゃねーだろ。

 こんなに増えていたらこの辺りの食料、殆どワイバーン達に食い散らかされているのではないか?

 そのワイバーンは体長三メートルから七メートルくらいで、茶褐色のヤツと薄い水色のヤツの二種類がいる。

 茶褐色のヤツの方がデカくて、薄い水色のヤツの方が小さい。

 これ、多分雄と雌だな。

 茶褐色のヤツは表面の鱗がゴツゴツしていて若干乾燥肌っぽく、爪が長い。

 更に顔が厳つくて怖い。

 薄い水色のヤツはどちらかと言うと鱗が滑りとしており、保湿が行き届いている感じで、爪は短いのだが代わりに牙が長い。

 こっちは顔がトカゲみたいでキモイ。


 茶褐色のヤツのステータス。


 名前

  ・アルワイバーン

 二つ名

  ・なし

 職業

  ・なし

 レベル

  ・20

 住居

  ・グレーデン山脈の巣

 所属パーティー

  ・なし

 パーティーメンバー

  ・なし

 ステータス

  ・空腹

 HP

  ・380

 MP

  ・20

 SP

  ・550

 攻撃力

  ・85

 防御力

  ・70

 素早さ

  ・90

 魔力

  ・50

 所持スキル

  ・物理防御 LV4

  ・自然治癒 LV1

  ・火耐性 LV7

  ・薙ぎ払い LV4

  ・噛み付き LV3

  ・ブレス攻撃 LV5

 装備品

  ・なし

 所持アイテム

  ・なし

 所持金

  ・18,000G


 大体コイツくらいが平均的な強さだった。

 後は個体差のレベルの上下で若干ステータスが違うくらいだった。


 薄い水色のヤツのステータス。

 

 名前

  ・プラワイバーン

 二つ名

  ・なし

 職業

  ・なし

 レベル

  ・18

 住居

  ・グレーデン山脈の巣

 所属パーティー

  ・なし

 パーティーメンバー

  ・なし

 ステータス

  ・空腹

 HP

  ・290

 MP

  ・300

 SP

  ・600

 攻撃力

  ・55

 防御力

  ・75

 素早さ

  ・85

 魔力

  ・100

 所持スキル

  ・物理防御 LV3

  ・自然治癒 LV2

  ・火耐性 LV4

  ・毒耐性 LV6

  ・薙ぎ払い LV3

  ・噛み付き LV2

  ・毒ブレス攻撃 LV6

  ・ヒール 

  ・キュアヒール

 装備品

  ・なし

 所持アイテム

  ・なし

 所持金

  ・15,000G


 コイツくらいが平均的な強さで、若干ステータス的にアルワイバーンに劣るのだが、回復持ち、毒持ちと、厄介さで言えばこちらの方が厄介そうだった。

 しかしどちらのワイバーンも、一匹で十分初心者冒険者を無双出来そうなので、これだけの数がいれば、そりゃー逃げ帰っても来ますよ。

 もし、僕が普通の冒険者でステータスも低かった場合、どうやってこいつらを蹴散らせばいいのだろう……。

 クエスト攻略する為に、何か方法があるのか?

 雪乃さんが作ったゲームだから攻略法がない、何て事はないはずなんだけど……。

 いや、逆に攻略法があると思うな! とか言いそうだな。


 このワイバーン達は夜間は巣に籠って眠るとガゼッタさんからの情報はあるのだが、それでも夜間巣に籠っているワイバーン達を三百匹以上討伐するのも無理だし、寝静まったワイバーン達を無視してヤマト国へと抜けるのも自殺行為だ。

 気付かれてしまえば一斉に囲まれてしまうし、そもそもいくら寝静まっていると言っても、気付かれずに近付くのは普通の冒険者達には無理だろう。

 うーん、出来れば正規の攻略法で行きたいけど、何かいい方法はないかな……。

 

 

 今はグレーデン山脈の山間部の中間部分くらいまで来ている。

 僕一人ならアクティブスキル『霧隠れ』のお陰で、ワイバーン達に気付かれる心配はない。

 後でメンバーが集合した時に、ワイバーン達に気付かれないで隠れられる場所を探していたのだが、山道沿いに大きな岩で身を隠せ、尚且つワイバーン達の巣が一望出来る場所を偶然にも発見出来た。

 グレーデン山脈は険しい山道だと聞いていたのだが、山自体はそんなに標高が高いわけではない。

 一番高い山頂でも千メートルあるかないかくらいなのだが、山道の道幅が狭くすぐ脇は切り立った断崖となっていて、崖下には広大な森が広がっている。

 当然山道は舗装などされていないので、段差も酷くボコボコとしている。

 しかもトラックのタイヤ程の大きさの岩が、山道の至る所に転がっていたりするので、馬車でこの山道を抜けるのは一苦労しそうだ。

 ワイバーン達は山道沿いの切り立った断崖、山道から見下ろすと地上三十メートルから五十メートルくらいの場所に数百もの巣を作っており、そのワイバーン達の巣も、上から覗き込んで中を確認してみないと巣だと分からない外形となっていて、崖の岩肌と同系色でカモフラージュされている。

 討伐目標であるワイバーンキングの姿は確認出来ず、巣全体の中腹部に存在している、他の物よりもかなり大き目の巣の中に籠ったまま全く動かず、外に出て来る気配はない。

 しかし実際目の前を巨大で厳つい顔をしたワイバーン達が、巣から引っ切りなしに出入りする光景は、見ているだけでも面白い。

 しかもコイツら空中でたまにワイバーン同士でぶつかったりする。

 そこから普通に喧嘩とかおっ始めるのだが、ブレス攻撃や薙ぎ払いなどのスキル攻撃をバンバン使う本気のバトルをする。

 おお、本物のドキュメンタリー番組みたいだー!

 見ていて飽きが来ないぞ!

 やっぱり僕も男の子だし、こういうの好きなんだなー。


 <タケル様、ログイン致しましたわよ>


 ルシファーから連絡が来た。

 しかしルシファーはメッセージとキャラと素で全部話し方が違うんだよな……。




 「どうだった? REINAと源三と連絡取れた?」


 瞬間移動でルシファーの所へと迎えに行き、現実リアルの状況を聞いてみた。


 「……源三、……死んだ?」


 日傘を差しながら首をコクっと横に倒してルシファーが呟く。

 どうやら源三とは連絡が取れなかったみたいだな。


 「REINAはやっぱり十時くらいにログインするって言ってた?」


 ルシファーは巻き髪を揺らしコクコクと首を縦に振る。

 それなら十時まで少し時間があるな。


 「よし、じゃあ今からレベル上げに行こう」


 ルシファーの返事を待たずにそのまま瞬間移動で、先程見つけておいた街道沿いのモンスターの所へと向かった。




 「グォオオオーーー!」


 ありゃー、やっちまった。

 モンスターのすぐ近くに移動し過ぎて気付かれてしまった。

 そいつは体長六メートル程の馬鹿デカい熊で、全身オレンジ色の体毛で覆われており、その硬そうな毛の隙間からは若干湯気が立ち込めている。

 鋭い爪を持ち合わせた巨大な両手を高く上げながら、僕達に向かって威嚇の咆哮を繰り返している。


 名前

  ・フレイムベアー

 二つ名

  ・なし

 職業

  ・なし

 レベル

  ・26

 住居

  ・ファスト高原湖近くの洞穴

 所属パーティー

  ・なし

 パーティーメンバー

  ・なし

 ステータス

  ・空腹

 HP

  ・520

 MP

  ・60

 SP

  ・600

 攻撃力

  ・155

 防御力

  ・95

 素早さ

  ・95

 魔力

  ・35

 所持スキル

  ・物理防御 LV4

  ・火耐性 LV6

  ・爪攻撃 LV5

  ・噛み付き LV4

  ・ブレス攻撃 LV3

 装備品

  ・なし

 所持アイテム

  ・なし

 所持金

  ・25,000G


 おおー、アンタがフレイムベアーか! 初めましてー。

 こんなにデカいヤツを轢き殺してしまっていたのか……。

 しかしステータス的には最初に出て来るような弱いモンスターではないよな。

 出会ったが最後、全滅覚悟の総力戦……でも無理だな。


 「ルシファーは危ないから下がっ――」


 後ろを振り返ってルシファーに注意を促したのだが、ルシファーは既に白目を剥いており、器用に立ったまま気を失っている……。

 をい! 気を失うのが早いって!

 ……まぁ仕方がないか。

 これが初めてのモンスター討伐になるのだから。

 アクティブスキル『隠蔽強化』を掛けて、実践初めての【雷の弾丸ブリッツバレット】……ではなく、【放電】でフレイムベアーを瞬殺する。

 いや、本当は【雷の弾丸ブリッツバレット】でババーンとカッコよく仕留めたいのだが、多分【雷の弾丸ブリッツバレット】だとフレイムベアーの死骸がグロ注意になってしまうんだよな……。

 やっぱり要モザイクな死骸とか近付きたくないし、なるべく原形を留めている方がいいから……。

 今回はきちんと処理の方法も確認したかったし。


 白目を剥いているルシファーに【シャイニングオーラ】を唱え、気絶状態から回復させてあげる。


 「……大丈夫か?」


 僕の声でルシファーの気持ち悪い白目が、くりんといつもの可愛らしい瞳へと戻った。


 「……何が起こったのじゃ?」


 きょろきょろと辺りを見渡し呟いたルシファーに、こんな事になりました。とお辞儀をしながら、ルシファーの視線を掌で誘導し、フレイムベアーの死骸へと向けさせた。


 「ひぃぃー」

 「大丈夫だよ、もう死んでるから。後処理のやり方を一緒に確認しに行こうよ」


 僕の豚な体の後ろへと隠れて、すっかり怯えてしまっているのだが、コクコクと首を縦に振ってくれたので、フレイムベアーの死骸のもとへと一緒に向かう。

 ――のだが、ルシファーは完全に僕の身体を後ろから押している。

 お前がやれ! と無言の圧力を掛けながら、華奢な体でグイグイ僕の身体を押してくる。


 「ちょ、あの、ルシファーさん? せっかくだし一緒にやろうよ」


 『部位剥ぎ取り』

 『魔力石に封印』

 『ゴールドに換算』


 ルシファーは僕の問いかけには反応せず、そのまま押され続け、フレイムベアーの死骸にある程度まで近付いたところで、三つのコマンドがフレイムベアーの死骸から出た。


 「『ゴールドに換算』を選ぶがよい!」


 その様子をルシファーにも見せると、普段より大きな声でカネを選んだ。

 現金な奴め! と心の中で呟きながら、言われた通りに『ゴールドに換算』を選んでみると、フレイムベアーの死骸がボフッという音と共に消え、白い煙の中から、Gと書かれた布袋が現れた。

 おおー、こういう風にしてGに換算する事が出来るのか――っと、ちょっと待て。

 何故かルシファーが一目散にゴールドの袋へと向かって行き、袋を手に取ると自分のメニュー画面を開いて『道具袋』へさっさと仕舞った。


 「……をい」

 「フフフ、眷属の主として、供物はしかと受け取った。今後の働きも期待しておるぞよ」

 「な――」

 「フフフ、冗談じゃよ冗談。妾はこの方法を千里眼で見ておったので、我が眷属に教えてやろうと思うてな」


 千里眼で見てた……? ああ、ファストタウンの何処かで、他のプレイヤー達がやっていた事を覗き見していたんだな。

 ルシファーがメニュー画面を少し操作すると、『12,500Gが†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんから振り込まれました!』と僕の視界の隅に表示された。

 そういう事か。一度誰かが入手した後にこうやって分配していくやり方なんだな。

 面倒だなと一瞬思ったけど、よく考えたらこの場で12,500Gずつを、じゃらじゃらと分ける方が面倒だと気付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る