第ニ部

第1話

 


 「お久しぶりです、タケル様」


 挨拶してくれたのはノイズのないクリアーなノイ子さん。


 「久し振りっすね、ノイ子さんは僕と一緒に冒険出来ないんすか?」

 「残念ですが私はこの場所から離れる事が出来ません、申し訳ございません。しかし、私を冒険に誘って下さったのはタケル様が初めてですよ」

 「そうなんすか? 僕はまだ独りだし、一緒に行けたら良かったのに。まぁ仕方ないか、では行ってきます!」

 「あ、タケル様はまだチュートリアルが済んでいませんが?」

 「そうか……まぁ分からなくなったらまた聞きに来るよ。じゃあ今度こそ行ってきます!」


 僕は山小屋風の建物の扉を開けて外に出る。

 小屋は丘の上にぽつりと建っていて、辺りは開けた草原となっている。

 目の前に広がる世界は雄大な大自然。

 巨大な島が遥か彼方の上空を浮かんでいたり、その上空の島から滝が流れていたり、巨大なドラゴンっぽい生物が上空を飛んでいたり、目の前で山賊っぽい輩が待ち構えていたりと、如何にもファンタジー要素に溢れている世界だ。

 遂にやって来たぜ! OPEN OF LIFE! 待たせたなー!

 テンションを上げて叫びたくなったのだが、何かおかしい事があるような……。


 「来た来た、久し振りの獲物だぜ」

 「ぎゃははー! 何だコイツの恰好は?」

 「変なマスク買う前に、まずは防具でも買えっての!」


 山賊っぽい輩の三人は僕の風貌を見て笑っているみたいだ。

 そりゃそうだ、僕の今の恰好はイケメン姿とは程遠く、白の短パン、ランニングシャツに管理者権限アイテムのタイ○ーマスク、そして現実リアルの僕の姿、チビで豚だ。

 コメディー要素満載のアバターだ、笑いたければ笑えばいいさ。


 その代わり色々教えてちょーだいませ。



 今僕の目の前では三人のが短パン、ランニングシャツ姿で正座をしている。

 その代わり、僕が身包みを剥ぎ取った山賊となった。


 「ちょっとでも動けばアンタ達の言う、『オルガン送り』にするからな」

 「「「はい!」」」


 何でも、倒されたプレイヤーは聖の大神殿という場所で復活するらしいのだが、その際神殿内で大音量のパイプオルガンが鳴り響くらしいのだ。

 プレイヤー達の間で神殿送りと呼ばれていたものが、最近ではオルガン送りと呼ばれているみたいだ。

 しかも普通のゲームと違って、OPEN OF LIFEの世界では痛みが実装されているので、オルガン送りにされるのは本当に苦痛なのだそうだ。

 僕は一人の男が持っていた武器『量産品の刀(劣悪)』という物を装備している。

 元山賊達が装備していた物は鑑定スキルで見る限り、どれもこれも品質が劣悪のどうしようもない物だったのだが、何もないよりはましだったので、して譲って貰った。

 殺してしまえばオルガン送り、強奪は出来ない、と山賊達が丁寧に教えてくれた。


 「ちょーだい」


 山賊達と同じやり方でお願いすれば、素直に渡してくれた。


 そのまま防具には『革の鎧(劣悪)』を装備して、残りの使わない装備はメニュー画面にある『道具袋』という、アイテムが沢山入る場所に仕舞っておいた。

 この道具袋が現実リアルで使えれば便利なのだが、何故か使えない。

 どうにかすれば使えるようになるかもしれないのだが、まぁこの辺は後々考えるとしよう。


 元山賊達の話によると、このまま道なりに進んで行けばすぐに『ファストタウン』なる町に到着するそうだ。

 最近では他のプレイヤー達は、そのファストタウンの次の町に殆ど集まっているらしく、この最初の区画やファストタウン周辺は完全に過疎ってしまっているそうだ。

 そりゃOOLHGが品切れ状態で、新規参入者が居ない状態なので過疎ってしまうよな……。


 「発言してもよろしいでしょうか?」


 元山賊達の内の一人、ステータスでは名前が『ますっち』となっているLV2の男が正座したまま、右手を上げている。


 「ふむ、許そう、なんだね?」


 僕も少し調子に乗って返事をする。

 右手で先程装備した量産品の刀(劣悪)を持ち、左手は常に隠蔽強化を掛けながら、光魔法を練習しながらコネコネしている。

 傍から見れば、常に左手をコネコネしている変な奴に見えてしまうだろうが、練習最優先という事でそれはまぁいいや。


 「あなたは一体、何のギフト持ちなんですか?」

 「……ギフトとはなんだね?」

 「何人かに一人、特殊装備や特殊スキルを所持したまま、スタート出来たプレイヤーがいるという話を聞いた事があったので、恐らくそういう方なのかと思ったのですが……」


 成程、僕の場合だと救世主スキルがそのギフトと呼ばれる物に該当するんだな。


 「そのギフトというのはどんな物があるんすか? ……あるのかね?」


 いかんいかん、いきなりキャラを壊してしまうところだった。


 「それがステータスが見られないという事で、皆が持っている装備やスキルを隠すので、圧倒的に情報が出て来ないのです」

 「それで君たちはそのギフトという物は持っていないのかね?」

 「……ギフト持ちならこんな所で山賊紛いの事やってませんよ」


 元山賊達が膝に置いたままの手をグッと握りしめた。

 話を聞くと今まで襲った中に、ギフト持ちがいた事はなかったという事なのだが、嘘を付かれていても判断が出来ないので実際は分からないとも言っていた。

 どうやら救世主スキル以外にも様々なギフトが存在しているみたいなので一応注意しておくか。

 しかしこの『ますっち』達は先に進みたくても進めないみたいだな。

 それで稀に現れる新規プレイヤーを、街中では戦闘出来ないのでここで狩っているのか。


 仕方がないので装備は返してやるか、色々情報も教えて貰ったしな。


 「もう山賊行為は止めろよ」


 装備を外し、道具袋から荷物を全て取り出すと、男達の前にバサバサと置いて行く。

 僕はまた短パンランニングシャツ姿に戻ったのだが、すぐにファストタウンという所があるみたいなので、それまで我慢しよう。


 確かこの道を真っ直ぐ進んで行くって言っていたよな。

 男達から見えなくなるまでゆっくりと走り、距離を取ってからはダッシュでファストタウンに向かった。




 雪乃さんのクエストをクリアした後部屋へと戻り、くるみの誕生日プレゼントを勝手に開けてしまった事をお母さんに話した。

 その為にエンテンドウ・サニー社で手伝いをさせて貰い、新しいOOLHGを貰って来たので、これをお母さんからくるみへと渡して欲しいとお願いした。


 「あらあら、そうだったのね」


 お母さんは、なかなか届かないのでおかしいと思っていたみたいなのだが、あっさりと納得してくれた。


 くるみやアヴさんとコナちゃんは、僕が帰って来るのを暫く待っていたらしいのだが、少し前に部屋へと戻って就寝したみたいだった。

 寝るまでもう少し時間があるので、明日から学校なのだが少しだけ、少しだけダイブしてみようと思ったのだ。


 一時間だ、一時間で絶対に寝るぞ!

 

 


 「ここがファストタウンか」


 目の前には道路も舗装されていない、木造の小屋っぽい建物が十件程並ぶ小さな町、町と言うより村の方が近いのだが、そんな場所が展開されている。

 装備品を売っている店や道具を売っている店、ギルド会館等必要最低限の施設しかないのかと思いきや、今僕のすぐ近くにある一軒家は売家となっている。

 表示されている6,000,000Gという価格が、安いのか高いのかは今の所は分からない。

 家欲しいな……、今はお金持っていないけど、貯まったら買おう、うん。


 今ファストタウンを僕のマップで見ているのだが、現在プレイヤーは僕を含めて三人しかいない。

 本当に過疎っているんだな……まぁ一人ずつ会いに行ってみるか。

 まずはギルド会館という施設にいるプレイヤーに会いに行ってみよう。

 何か情報が得られるかも知れないからな。


 徒歩でギルド会館へと向かい、重厚な観音開きの扉を引いて開ける。

 施設の中は銀行の窓口みたいな物、まぁ全て木製なのだが、その窓口にNPCが一人、併設されているバーの店員のNPCが一人、そしてそのバーで飲んでいるプレイヤーが一人だ。

 まぁマップで確認しているので確実なのだが、視覚的にNPCには頭の上に白い下向きの三角形のアイコンが出ているので間違いないのだが、プレイヤーの方が怪しい。

 プレイヤーには頭の上には緑の下向きの三角形が出ているそうだが、それもきちんと付いているので、間違いなくプレイヤーだ。


 しかし容姿――今はまだ後ろ姿しか見えていないのだが、その後ろ姿は確実にパンダだ。


 百五十センチ程の背丈でモコモコしており、真っ白の頭に真っ黒の耳、真っ黒の肩の部分と手足。

 そんなモコモコのキャラクターが、バーのカウンターで飲み物を煽っている。

 何処か後ろ姿が疲れ切ったサラリーマンみたいに見える。

 取りあえず話し掛けてみるか。


 「あのー?」

 『何か用ですか?』

 『何かと聞かれても、僕今日初めてこの――』

 『ちょ、ちょっと待って! わ、私の言葉が分かるのですか?』

 『分かるも何も、普通に会話出来ていると思うのですけど、何かおかしいのですか?』

 『あああーーー! やっと……やっと現れましたー!』


 目の前でパンダが狂喜乱舞し始めた。

 物凄くキレのある動きで激しいダンスを踊ったりしている。

 こんなパンダは嫌だ。

 まぁバーで飲み物煽っているパンダも嫌だけど。

 しかしこのパンダ、僕が知っているパンダより若干顔のやさぐれ感が強い気がするのだが……。


 『あ、あのー』

 『ああ、スイマセン、つい嬉しくって! ちょっと聞いて貰えますか、私の話!』

 『は、はい』


 この変なパンダ、ストレスでも溜まっていたのかグイグイ色々な事を話始めた。

 名前はREINAレイナさんで、アバターはエルフを選んだそうだ。


 「アイテムの支給がございます。お受け取りになって下さい」


 しかしスタートする際ノイ子さんからアイテムを受け取ると、パンダスーツという特殊装備が貰えたそうだ。

 先程聞いていた所謂ギフトと呼ばれる物だ。

 

 「ステータスが大幅に上昇しますよ」 


 ノイ子さんからパンダスーツの性能を説明されたので装備してみたのだが、実際装備してみてもステータスが見られないので、どれだけ上昇したのか分からず、今はまだ要らないかと思い装備を外そうとしたそうなのだが――


 『このパンダスーツ、装備解除が出来ないのです……。しかも他のプレイヤーには私の言葉が通じないみたいで、皆さん私の事ペットみたいにしか扱ってくれませんでした』


 しょぼくれた様子で話し終えた後、REINAさんはまた飲み物を呷り始めた。

 僕は例の如く普通に日本語感覚で会話していたのだが、このREINAさんの言葉は普通じゃないのか。


 話が変わるがこのREINAさん、声が凄く綺麗だ。

 パンダの容姿とのギャップが凄い。

 透き通った声が耳へと届く度に、心がぽわーっとなる。

 声に恋する! とまでは流石に言わないが、もっと聞いていたいと思わせる優しい声だ。

 話をする仕草も、子供っぽい話し方をする時があったり、逆にドキッとさせられるくらいに大人っぽい感じの仕草をしながら話す時もある。

 しかし見た目がパンダなので、年齢は一切不明だ。


 REINAさんがドリンクを一気に飲み干しジョッキを置いた後、続きを話し始めた


 『そしてここで待っていれば、私のパンダスーツみたいに特殊装備の影響で、他のプレイヤーと会話の出来ない人が現れるのではないかと考えて、その人とパーティーを組もうと思っていたのよ』

 『それでこのファストタウンにずっと居たんすね』

 『はい。あなたの装備は豚さんのスーツ……ではなくて虎……になるのかな?』

 『をい、人間っすよ』


 誰が豚のスーツだ。

 しかしこのREINAさん、ステータス的には格段に一般プレイヤーより強いんだよな。

 雪乃さん、パンダ好きだしこのパンダスーツにはかなりの優遇したみたいだな。


 『本当に僕とパーティーを組んでしまってもいいんすか?』

 『ええ勿論、というより連れて行って貰わないと、私またここでずっと待っていないといけないので……よ、よろしくお願いします』


 目の前でパンダが丁寧に頭を下げている。

 何か変な感じだな。


 『では、こちらこそよろしくお願いします……なんすけど、ちょっと待って貰えますか?』

 『……どうかされたのですか?』

 『ええ、まぁ』


 僕は視界の隅にマップを表示させていたのだが、先程確認出来ていたもう一人のプレイヤーが、少し前からギルド会館の入口で待っている。

 待ち伏せか? しかし元山賊情報だと街中では戦闘出来ないはず。

 こちらから向かってみるか。

 REINAさんに向けて、唇に人差し指を添えて、シー! と合図を送りつつ、一緒に着いて来て、と手招きをする。


 ドン!


 ギルド会館の入口、観音開きのドアを勢い良く押して開けた。


 「……あれ? 誰もいない」


 ――と思ったのだが、ドアから少し離れた地面に目を回しながら倒れている女性が居た。

 どうやら僕が開けたドアにぶつかって、飛ばされてしまったみたいだ。


 


 「……あの、大丈夫すか?」


 死んでいないよな? オルガン送りにはなっていないよな?

 目の前で倒れているは、顔の周辺に天使やらヒヨコやらをグルグルと回しながら倒れている。

 このまま放置するのは可哀相だ。


 「【シャイニングオーラ】」


 REINAさんには分からないように、コネコネしている左手でそのままこっそり回復させた。


 倒れたままのこの少女は、赤紫色の巻き髪ツインテールに、黒と紫のカチューシャというヘアスタイルで、服装はあれだ、所謂『ゴスロリ』というヤツで、膝上までの紫色のドレスで所々に黒いレースの刺繍が入っている。

 そのドレスと黒のニーハイソックスの、少しの隙間から見える太股、絶対領域と世間では呼ばれている場所が神々しく見えるのは、僕が思春期真っ只中の健康な男子である証拠だ。


 「イタタ……」


 そのゴスロリ少女は意識が回復したらしく、後ろに手を突いて上半身を起こしたのだが、僕とREINAさんの姿を見るなり、そのままの体勢でサササと後ろへ下がった。


 おい、その体勢のままで後ろに下がってしまうと色々と見えてしまうぞ?


 ゴスロリ少女は三メートル程下がった場所でスッと立ち上がり、洋服に付いてしまった土埃を両手でパンパンと叩き落とすと、何事もなかったかのように無表情のままツカツカとこちらの方へと歩み寄って来た。

 そして倒れた時に落としてしまったと思われる、真っ黒で所々に紫色のレースの刺繍が入った、閉じられた日傘をスッと拾った。

 しかしなかなか可愛らしい子だな。

 アバターだから僕みたいに本人とは全然違う可能性もあるのだが……。


 「あの、大丈夫すか?」

 「……ええ」


 ゴスロリ少女は一言だけ返事をすると、拾った日傘を両手で広げた。


 「……」

 「……」


 しかしその後は沈黙が空間を支配した。

 その気まずい時間をREINAさんが打ち破ってくれた。


 『こちらの方も、おひとりなのではないでしょうか?』

 『そうなのかな? この少女も誘ってみるっすか?』

 『そうですね、この辺りには他にプレイヤーがいないと思いますので、一度聞いてみてはどうでしょうか?』

 『了解っす、聞いてみます』


 REINAさんとの作戦会議中も、ずっと無表情のまま僕達の前で立っていたゴスロリ少女に聞いてみる事にする。


 「あの、もし良かったら僕達と一緒に行きませんか? この辺りには現在――」

 「行きます、一緒に行きます」


 僕がまだ喋っている最中に、無表情のまま物凄く食い気味にゴスロリ少女が答えた。

 もしかして一緒に冒険する仲間を探している最中だったのかな? それでギルド会館の入口に居たのか? すぐに入って来なかったのは……ひょっとして――


 「こういうがゲーム初めてで、どうしていいのか分からなかった……とか?」

 「……それもある」

 「それもある……すか。もしかして会話が苦手……とか?」


 ゴスロリ少女は無言でこくこくと頷いた。

 成程、そうだったのか。

 僕も経験あるよ、現実リアルで人と接していなかったお陰で、ゲームでもどうやってコミュニケーションを取ったらいいか分からなかったから。

 このゴスロリ少女は恐らく現実リアルでも口数が多い方ではないのだろう。

 まぁ僕の場合、そういう人がパーティーメンバーの方が色々と都合がいいのは確かだ。

 他のプレイヤー達に秘密が漏れにくいからな。

 このゴスロリ少女には色々と聞きたい事もあるし、一度ギルド会館のバーにでも入って話を聞くか。

 それにしてもこの人、名前が……。


 「あの、名前、何て読めばい――」

 「†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファー


 また喰い気味に答えられた。

 しかしこれまた凄い名前だな。

 完全に中二病ネームと言うか何というか。

 しかし僕も初期登録の時にきちんと説明を聞いていれば、似たような名前を付けていたかもしれない。


 「じゃ、じゃあ†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさん、少し中で話をしましょうか?」


 再びギルド会館の入口を開け、†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんを中へと招き入れた。


 名前が呼びにくい! すぐにでもニックネームを付けよう。


 その後、バーのカウンターで暫く話を聞いたのだが、会話が苦手というだけあってなかなか話を聞くのに苦労した。

 全ての返答が片言で返って来るので、REINAさんとニ人で言葉の意味を推理しながら会話を進めた。


 「……が、がうがう」


 時折REINAさんがそのまま†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんへ話し掛けてしまい、よく分からない返答をしていたのが面白かった。

 普通の人にはそういう風に聞こえていたんだな。


 話を纏めると、今までも他のプレイヤー達にパーティーメンバーに入れて貰おうと、何度も声を掛けようとしたらしいのだが、結局いつも声を掛ける事が出来ず、そんな事を繰り返しているうちに、周囲には誰もいなくなってしまったそうだ。

 今日は何とかしてバーにいると噂になっていたパンダ――その噂というのも遠くから聞き耳を立てて、かろうじでGETした情報らしいのだが、そのパンダに声を掛けてみようと、ギルド会館の入口まで来たらしいのだが、なかなか扉を開ける勇気が出なかったらしい。


 ちなみにこれだけの話を聞き出すのに三十分以上掛かった……。


 そして†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんもギフト持ちだった。

 殆どいないという話だったのだが、この場所に三人のギフト持ちが揃っているのは偶然なのだろうか。

 そのギフトというのが、特殊装備『ゴスロリファッション』なのだそうだが、こちらはパンダスーツとは違い着脱可能なのだそうだ。


 「絶対に脱がない」 


 気に入っているのか、それとも拘りがあるのか……。


 「その『ゴスロリファッション』にはどんな効果があるんすか?」

 「……言わないと、駄目?」


 無表情のまま首をコクっと横へ倒しながら答えた。


 「いや、言いたくないなら別に言わなくてもいいよ」


 僕も言えと言われると返答に困ってしまうから。


  

 実は最初から気になっていた事がある。

 この†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんにはステータス閲覧で見る限り、普通のプレイヤーと違う所が三つある。

 一つは全てのステータスが異様に低い。

 LV1だし低いのは当たり前なのだが、全てのステータスが一桁前半、しかも1とか2ばかり……。

 そよ風で吹き飛んでしまう、とまでは言わないがこれは低過ぎじゃないか? しかしこれは二つ目の違う部分と関係しているのだろう。

 この†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんは『大器晩成』という変わったスキルを所持している。

 最初は他のプレイヤー達よりもステータスが低いのだが、LVが上がって行くに連れて後半から一気に成長するタイプなのではないだろうか?

 鑑定スキルで調べれば分かる事なのだが、これからパーティーメンバーになろうという人を、勝手に鑑定するのもどうかと思ったので今はまだ止めておく。

 そして三つ目、†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんは既に火魔法LV1を習得している。

 何処にあるのかは分からないが、彼女が一人で火の神殿まで行って火の精霊から加護を受けて来た、という事はないと思うので、これもゴスロリファッションに付属していたのだろう。

 僕でも習得していない火魔法……、う、羨ましくなんかないぞ、全然。


 「じゃあ早速今から冒険に! と言いたいところなんすけど、僕明日入学式なんで朝早起きなんすよ。今日は一度ログアウトして、明日から皆で出発しませんか?」

 『私も明日朝からお仕事なので、その方が助かります』

 「……妾も学校」


 二人とも賛成みたいなのでログアウトしようという事になった。


 『皆で一緒に宿屋でログアウトしましょう。そうすれば全員同じ場所で再スタート出来ますから』


 REINAさんが教えてくれたので、三人で歩いて町の入口付近の場所にあった宿屋に向かう事にした。



 宿屋の前まで到着したので、ドアを開けようと手を伸ばしたその時――


 「だ、誰か助けてくれー」


 町の外、少し遠くから男性の声が響いて来た。


 『何かあったのでしょうか? 行ってみますか?』


 REINAさんの提案で、三人で少し見に行ってみる事にした。

 すると先程僕が来た道、最初の小屋から続いている一本道を、男性が爆走してこちらへ向かって来ている。

 その男性は僕と同じ恰好、短パン、ランニングシャツ姿なので新規参入者なのだろう。

 一本道を助けを求めながら新規参入者が逃げて来る……ま、まさか。


 「助けてくれ! 追われているんだ!」


 男性が僕達に気付いたみたいで、走りながら大声で助けを求めて来た。

 その後ろから見覚えのあるの姿が視界に入る。


 「くそー、待ちやが……れ」


 三人の山賊の内の一人が僕の存在に気が付いたみたいで、叫んでいた声を急速に萎めてその場に立ち止まった。

 しかし残りの二人は僕に気付かず、そのまま男性を追い掛けてこちらに向かって来ていたので、隠蔽強化を掛けた【放電】を皆に気付かれないように素早く放った。

 普通のプレイヤーなら即死レベルの威力で放ったので、傍から見れば走って追い掛けて来た山賊二人が、突然走りながらぶっ倒れてオルガン送りとなり、その場には200秒のカウントが意味も分からず出ている、という風にしか見えないだろう。

 走って助けを求めて来た男性、REINAさん、†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんは何が起こったのか理解出来ず、ぼけーっとしているのだが、立ち止まった山賊、ますっちだけは僕が何かをした、という事だけは理解したみたいだ。


 「はぁ……。山賊行為は止めろって言ったすよね?」

 「いや、これは、あの……」


 しどろもどろのますっちの足は震えている。


 『一体どういう事なのですか?』

 「僕もここに来る途中であいつらに会ったんすよ。でも返り討ちにしてから山賊行為は止めろよと言って見逃してやったんすよ」


 声に怒りを滲ませながら事情を説明して、ますっちの方へスタスタと歩いて行く。

 ますっちは恐怖のあまり腰を抜かしてしまい、その場にへたり込んでしまった。


 「お、おい、アンタ! 俺は助かったんだからもういいよ、何だか良く分からねーけど許してやれよ」


 助けを求めて来た男性が僕の所まで走って来て、僕を引き止めた。


 「ここで許せば、次から入って来る新規参入者がまたこいつらに襲われるすよ?」

 「ぜ、絶対止める! 二度と、二度としないからこの通り、許して下さい!」


 ますっちはその場で土下座しながら二度としないと誓っている。


 「や、約束します、絶対にしません、他の2人にもさせません!」


 仕方がないのでますっちの傍まで歩いて行き、みんなには聞こえないようにボソボソと忠告してやると、頭を上下に何度も振っていた。

 みんなの所へと戻ると、助けを求めて来た男性が話し掛けて来た。


 「お、おい、一体何て言って脅して来たんだよ。あんなにビビらせちまって……」


 僕が皆の所へと戻ってからも、ますっちは土下座スタイルのまま一切動いていなかった。


 「ちょっと口から出まかせを言って脅して来ただけすよ」


 REINAさんと†血塗られた堕天使†ブラッディー・ルシファーさんの僕を見る目がちょっと変わっていたのが気になったのだが、助けられた男性が当たり前のように、しれっと僕達に着いて来た事の方がもっと気になった。

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