第5話


 ああ、今日は人生で初めてと言っていいくらいの良い事をした。

 ひったくり犯撃退とか、こんなイベントが僕の人生に起こるとは。

 しかしひったくり犯達にはビックリした。

 気付いたらボコボコにされてたからなー、見ため的には。

 スキルも山盛り貰えたみたいだけど、耐性とか防御関係が殆どだったよなー。


 出来れば攻撃系のスキルも欲しい。


 グーで殴る喧嘩とか勿論した事なんてないし、武器、凶器なんて触った事すらあるわけない。

 ステータスだけ高くても、攻撃が当たらなければ意味がない。

 補正を掛けて当ててくれるスキルとかがあれば――ってそれさっき貰った命中スキル……かな。

 なんか体ばっかり強化されていっても、頭が全然ついて来ないよな。

 時間を作って色々と練習しておかないと、いざという時に動けない気がする、うん。

 しかし攻撃系スキルも欲しいけれど、もっと欲しいものがある。


 魔法と魔法系スキルだ!


 やっぱりこんな変態な体になってしまったのだから、どうせなら変態ついでに魔法も使えるようになりたい!

 現実世界(こっち)でスキルが使えるのなら、魔法も使えるよな、絶対!

 どうしても必要なのが回復系魔法だ。

 これから何があるか分からないし。

 チート級魔法も欲しいけど、まずは回復が欲しい。

 僕はビビりだからなぁ……。


 しかし、手に入れる方法が思いつかない。

 他のスキルはそれらしい行動を取れば貰えるというのが何となく分かったけど、魔法に関してはそれらしい行動っていうのが全く見当が付かない。

 回復魔法をゲットする為にユ○ケルでも飲んでみるか?

 いや、薬とかアイテムとかのスキルが付きそうだし何だか違う気がする。

 やっぱり魔法そのものはゲームの中で手に入れて来なければダメかな?


 今、視界には家の近所の地図が浮かんでいる。

 家に帰っている最中なんだけど、その地図の中に普通のクエストを出している人を発見した。

 クエストを出している人を発見するところまでは出来るんだけど、クエストの内容は自分でその場に行って確認しないといけないんだよなー。

 まぁすぐ近くだし、取りあえず行ってみるか。

 早く帰らないとお母さんが心配するだろうし、ちゃちゃっと終わりそうなクエストなら受けるけど、時間が掛かりそうなら今日は諦めよう。

 お、クエスト出してる人が視界に入ったぞ、どれどれ?



 クエスト内容

  ・少女を悪漢から救い出し、家まで無事に送り届けろ!


 クエストの依頼者 

  ・少しケバい少女


 クエスト成功条件

  ・悪漢の撃退、少女を無事に家まで送り届ける


 クエスト失敗条件

  ・少女が傷付けられる


 クエスト報酬

  ・EXP

  ・かけがえのないもの


 クエスト難易度

  ・☆☆☆


 クエスト受諾条件

  ・なし



 うーん。

 正義の味方なクエスト内容なんだけど、依頼者がなぁ……。

 確かに顔は整ってはいるんだけど少し――いや、かなりケバケバしい。

 近所の中学校の制服がこんな感じだったと思うけど、ほとんど学校に行ってなかったので、あまり覚えていないのだが、恐らくこんな制服だったはず。

 年下の中学生だとは思うけど、とにかく痛々しいくらいに恰好が似合っていない。

 茶髪に縦の巻き髪、化粧もゴテゴテでスカート丈も凄く短い。

 何故そんな恰好するかな、勿体ない。

 僕としては今現在、千年に一人! とかで世間を騒がせている清純派アイドルっぽい子が好きなんだけどなぁー。

 いやいや今僕の好みは関係ないか。

 とにかく整った顔なのに、何故か全然僕の美少女レーダーが反応しないんだよなぁ……。

 そういやこのレーダー、自分の部屋の中、パソコンの画面越しでしか反応した事なかったわ。


 しかし女性一人に対して男が四人か。

 この状況を放って置くのも、イケメンっぽい行動の美学から外れてしまう。

 報酬によく分からないものも含まれているけど、少女を助け、家まで送り届け、そしてかけがえのないものって言われれば……はは、まさかな。

 しょーがねーな、クエスト受けるか。

 べ、べ別に下心からクエストを受ける訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!


 「っせーんだよ! しつけーぞ、ごるぁ!」


 荒々しい声で叫び始めたので慌ててクエストを受ける。

 いや、叫んだのは少女の方なのだが……。

 何が起こっているのかはよく分からないが、とにかく止めに行こう。

 少女が傷付けられてしまった時点でクエストが失敗になってしまうからだ。


 「はーい、ちょっとごめんなさいよー」


 なんて呟きながら少女と4人の男の間に割って入った。


 「なんだてめーは! 関係な、え、えっと……ごにょごにょ……」


 威勢の良かった少女は僕と目が合った瞬間にごにょごにょ言いはじめ、赤面させながら俯いてしまった。

 よし、これで少女の方は静かになるだろう。

 後は四人の男の方だが、四人の内、二人はチャラ男っぽい同世代、少し離れた場所に立っている一人は真面目そうな好青年、もう一人はやや年上の、社会人っぽい感じの男性だった。

 なんだ? みんなバラバラな感じだな。

 一体どういう関係?


 男達は顔を合わせながら、まだ被害者が居ただの、更にイケメンが増えただのごちゃごちゃ会議を始めた。


 「失礼、あなたもこの女にやられた被害者ですが?」


 一番年上風の、社会人っぽい男が話し掛けて来た。


 「い、いや、何の事だかよく分からないんです。一体何があったのですか?」

 「何がも何も、この女は私に貢がせるだけ貢がせて、この、他の男達とも同じような関係を持っていたんですよ!」


 社会人っぽい男は他の男達にも何か言いたげに視線を送りながら、信じられないといった様子で答えた。


 「んだとてめー、そりゃこっちのセリフだ!」

 「そうだ、てめーこそウゼーんだよ!」

 「……」


 チャラ男風な二人は語彙ごいが少ないのか、薄っぺらい啖呵を切り、好青年風な男は何も言わなかった。


 「なるほど、恋愛のもつれというヤツですね」


 フムフム僕には関係ないみたいです、さようなら。

 そう言って立ち去ろうと正直思った。

 恋愛経験ゼロの僕には荷が重い。

 いくらクエストとは言え、コレ、この少女の方がどうしようもなく悪くね?

 クエストには悪漢と書かれていたけど、男たちの話だけを信じれば悪いのは少女の方で、ただの自業自得なのでは?


 「カンケーないわよ! アンタたちが勝手にくれるって言うから受け取ってただけじゃない!」


 ……これ、助ける価値ねーわ。

 むしろ、男達の方を応援したいくらいだ。

 こんなビッチ、ドラマやアニメの中だけだと思ってたら実際存在するんだなー。

 よし、クエストリタイアしよう。

 そう考え立ち去ろうとした矢先――


 「こんな奴ら放っておいて行きましょ! ねーダーリン! はぁと」


 ウフッ! とか言いながらウインクをして来て、僕の肘に自分の腕を絡ませその場を離れようと引っ張り始めた。


 「「「ダ、ダーリン?」」」


 好青年風の男以外の三人が声を揃えて、親の仇のような視線を僕にぶつけて来た。


 「えぇ! ち、ちょ、ちょっと待って、て」


 その間も少女はグイグイ腕を絡ませながら引っ張っている。

 自分のない胸を押し当てながら。

 しかしアレだ、こんな状況だからかもしれないけど、全然興奮しない。

 少女に胸を押し当てられるという、思春期の男であれば色んな場所が爆発してしまいそうなシチュエーションなのに。


 ちゃっかり腕に当たる感触で『集中』スキルはゲットしているわけだが。


 「て、てめー、やっぱりそうか!」


 チャラ男その一が突っ掛かって来た。


 「少女こいつを使って、俺達に色々貢がせていた黒幕だな?」

 「な、なに? こいつに命令されて、コイツ等に色々貢がせていたのか!」


 社会人っぽい男が続く。

 いや、違います。全然違います。初対面です。

 むしろあなた方を全力で応援(サポート)したい気分です。


 でも何だよ、そのこじつけみたいな理由は。

 しかし頭に血が上ってしまっている男達には話が通じそうもない。

 そこへ未来予知スキルが働き、チャラ男その二が声を上げて殴り掛かって来る姿をハッキリと捉える。


 よ、よし。ここは覚悟を決めよう。


 前回の世紀末キャラ達には一方的にやられっぱなしだったので、今回は自分でガードしたり、避けたりしてディフェンスの練習をしてみよう!

 少女が傷つけられてしまうとクエスト失敗になるので、そこのところだけは気を付けながら。

 そして可能であれば自分から攻撃もしてみよう。

 しかしこの人達を攻撃するのは気が引けるなぁ。

 男達の方が悪いというわけではないし、むしろ隣にいる少女の方が害悪……。

 出来ればすぐに諦めてお引き取り願いたいなー。


 「テメー!」 


 あれこれ考えていると、漸くチャラ男その二が右の拳を振りかぶり突進して来た。

 喧嘩なんてした事もないけど、恐怖心というものは全くなかった。

 ダメージは全くなし、という事を理解しているからなのかどうかは分からないけど、自分でも驚く程落ち着いている。


 あー、なんかそういやそんなスキル持っていたかも……平常心だったか、冷静だったか、そんな感じのヤツ。

 しかし攻撃してくる場所が分かるのでフルスイングの拳を難なく躱す。

 するとチャラ男その一も参戦して来て、すぐに二対一の状況になった。


 次の攻撃はこの角度で来るからこっちへ躱して、こっちの攻撃はこう捌いてといった感じで、答えの分かっているパズルゲームを攻略していくのに近い要領で躱していく。

 うん、未来予知スキルは今のままだと、戦闘時の感覚ではちょっと遅れる感じだな。


 男達の鈍い攻撃を躱しながらメニュー画面を操作して、未来予知スキルの微調整を色々と弄ってみた。

 ……よしよし、丁度いい感じに仕上がったぞ。

 しかし隣の少女が邪魔だな。

 避けたい方向に居たり、避けてしまうと少女に当たってしまう恐れがあったり……そうか!

 名案が思い付いた僕は左腕で少女を抱き寄せる。


 「えっ! ちょ、ちょっとこんな時に何考えて――」

 「よっこらしょっ!」


 何やら叫んでいるが無視して、人攫いが人を担ぐようにして肩に乗せた。

 少女が邪魔なら、邪魔にならないように最初から持っておけばいいじゃん。


 「ふぎゃー、降ろしてー!」


 騒ぎながら僕の背中をガシガシ叩いているみたいだけれど、無視無視。

 少女のスカート丈が短いので、男達の方から見ればパンツ丸出し状態なのだが、お詫びのしるしという事でそのままにしておく。

 しかし少女の方が今の自分の状態に気付いたようで左手で自分のお尻の部分のスカートを押さえながら、足をバタつかせて暴れ出した。


 ……今気付いたんだけどこの状況。

 傍から見れば少女を攫おうとしている僕に、助けようとしている四人に見えなくもなくね?  

 誰かに見られると非常に面倒だな。さっさと終わらせる事にするか。


 「あのー、もう何もかも忘れてこのまま帰らせて貰えないですかね?」

 「「「ふ、ふざけんじゃねー!」」」


 好青年風の男以外の三人が声を揃えて答える。

 ですよねー。

 やっぱりそう簡単には終われないですよねー。

 というか好青年風の男は一体何の為にここにいるんだ?

 しかし――


 「こんなヤツのどこがそんなにいいんすか?」


 男達に目配せしつつ僕の左肩に乗っかっている、少女の尻をポンポン叩く。

 傷が付かない程度に優しく。

 クエスト失敗になるから。


 「ふぎゃー、ちょ、ちょっと何処触って――むぎゃー!」


 変な声を出しながら少女は尚も暴れている。

 そりゃ普通の女の子には、こんな対応絶対しない。

 僕の中での少女に対するお仕置き的な意味も込めている。

 何故だか分からないけど、そうしないといけない気がしている。


 「もっと他にいい人、いっぱい居ると思うよ?」


 ずっと引き籠っていた僕が言うのも変だけど、この害悪少女だけは有り得ないと思う。

 押し黙っている四人の男達に向かって諭すように話しながら、更に少女の尻をポンポン叩く。

 少女は尚も暴れているが、疲れてきたのか少し大人しくなって来た。

 これ以上は傷付けてしまいそうなのでやめておこう。


 「く、くそう、こうなったら」


 社会人っぽい男は懐をゴソゴソし始め、何やら取り出した。

 諦めてくれるのかと思ったが違った。

 男が取り出したのはスタンガンだった。


 「ちょっとちょっと、そんなもん持ち出してどうするつもりすか?」


 ……余裕出しながら言ってはみたが、内心は違った。

 本格的な武器を見てちょっとビビってしまったのだ。

 だ、大丈夫だよな? スタンガンって事は、電気? 電撃耐性? 麻痺耐性? ……雷魔法?

 い、いや、状況的に攻撃を貰うのは危険過ぎる。

 練習で一人の時にちょっとずつ確かめて行かないと。

 今回は回避で行こう。


 「そんな物持ち歩いて、一体少女に何をしようとしてたんすかね?」

 「う、うるさい、だまれー!」


 とうとう社会人っぽい男はキレてしまったみたいで、捨て身の覚悟でスタンガン片手に突っ込んで来た。

 やれやれ、しょーがねーな。

 男が右手で突き出してきたスタンガンを、男から見て時計周りに身体をくるりと捻って躱し、スタンガンを持っている手首へ軽く、かるーく、手刀を入れる。

 世紀末キャラに投げたヘルメットの勢いを思い出し、更に軽く攻撃した。

 ……手首を切断してしまうかもしれないからな。


 「ぐわぁーーー!」


 男は叫びながら手首を押さえて蹲り、スタンガンが足もとに転がる。

 よし、コレで恐らく……。

 足もとのスタンガンを拾い上げ、スイッチを入れ直し、パチパチと音を出しているスタンガンを男に近づける。

 当然こんなの使った事なんてないけど、使い方ってこれで合っているのかな?

 バチバチと音を発しながら電気が流れている部分を、蹲っている男の肩にグイッと当ててみた。


 「:lj@おうwb」


 社会人っぽい男は声にならない声を出し、そのままの体勢で固まってしまった。

 あー、痛いっすよねー、ごめんなさいよー。


 ……

 ピコーン! 近接武器スキルを習得しました!


 ちぇー、駄目か。近接武器だったか。雷系統の魔法覚えるかと思ったんだけどなー。

 獲得熟練度が足りないのかなー?

 かといって倒れているこの社会人っぽい男にもう一発喰らわせるのも可哀相だし……。

 ……そうだそうだ。獲物は他にも三人居るんだったな。

 ゆっくりと視線を他の三人の男に向ける。


 「「く、くそ、覚えてろよー!」」


 チャラ男その一、その二はテンプレフレーズを残し、走り去ってしまった。

 実際にそのセリフを言う人って居るんだな……。

 しかし好青年風の男は微動だにしない。

 というかこの人、一切何もしていないよな?


 「……あの、もしもし?」

 「く、くぅーたん、お幸せに……」


 初めて声を出したかと思えばその一言を残し、何処かへ走り去ってしまった。

 なんだったんだあいつ?

 もしかして一番ヤバイ奴だったのでは?

 まぁいいか、というかくぅーたんって誰? この害悪少女の事か?


 一般の人の邪魔になるといけないので、道の真ん中で蹲っている社会人っぽい男を引き摺って道の端へ寄せておく。

 どうもお借りしましたと呟きつつ、スタンガンは男の手に握らせて返しておいた。

 

 なんか忘れているみたいだけれど……なんだったか、魔法じゃなくて――


 「……そろそろ降ろしてくれない?」


 ……そうだった。少女の存在をすっかり忘れてた。


 「降ろすのはいいけど、とりあえず話がしたいから、騒いだりするのはなしでいいかな」

 「……分かったわ」


 素直なのが逆に不自然だったけど、足が地面に付くようにとゆっくりと降ろしてみる。

 しかし少女は足が地面に着くと同時に、その場にしゃがみ込んでしまった。


 「どうした? どっか痛めたのか?」

 「……腰が抜けて立てない」


 なんじゃそりゃ。

 まぁ肩に担いだままちょっと戦闘になったりもしたしな。

 スタンガンなんて見た事もないだろうし。

 いや、偉そうに言っているけど僕も初めて見たんだけどさ。


 さて、この後家に送り届けないといけないのだけど、どうしたものか……うーん。


 「この後、家まで送って行こうと思うけど、ここで少し休んでいくか? それともおんぶがいい? お姫様抱っこがいい?」

 「え、えぇーっと、おんぶでお願いします」


 あ、あれ? もっと突っ掛かってくると思ったのに。

 ちょっと煽ったつもりだったのに逆にさらりと流されたみたいだ。

 しかもなんだか急に素直になったな。

 ……まぁいいか。


 「はいはい、どうぞ。お足もとに注意してご乗車下さーい」


 少女の前で背中を向けて屈み、おんぶの体勢を取る。


 「……ばか」


 背中に体重を預けて来た少女を、ひょいっと乗車させ、家路へと向かう事にする。

 おぅ、女の子をおんぶしたの初めてだ。



 「それでー? 何があったんだー?」


 少しの沈黙の後、背中に少女をおんぶしたまま、重苦しい雰囲気にならないようにと軽い感じで聞いてみた。

 話し易いように、ちょっと気を使ったつもりだ。


 「……別に。何でもないわよ」


 ぐぬぬぬ! この害悪少女が! このままチート級ステータスを駆使して、全力疾走でぶっ飛ばして気絶でもさせてやろうか!

 クエスト失敗になってしまうが、もういいだろう、僕は頑張った!


 「ちょっと大きな失恋しただけよ」


 一言そう呟き、僕の首に回した両腕に、ギュッと力が入ったのが分かった。

 失恋か……した事ないな。ナニソレおいしいの? 状態だな。


 「でも、失恋したからといって色んな人に貢がせるのはどうなんだ?」

 「分かってるわよそんな事。あの人達も最初はあんな感じじゃなかったのよ」

 「そうなのか?」

 「失恋した当初、相当落ち込んでいたし、それに全員知り合いだったから、プレゼントくれるって言うなら貰うでしょ? 多分私を元気付ける為にくれたんだろうから」


 そりゃあ貰うだろうなぁ。

 

 「最初は何でもない物だったのよ。お菓子とか、キーホルダーとか。それがあの三人、私が身に付けている物より少しでも高価なものを渡してくるようになったのよ」

 「へ? どういう事?」

 「三人別々に渡して来るんだけど、誰かからブランドの財布を貰ったなら、じゃあ俺は更に高価などこどこのカバンをプレゼントしてやるって。何度も要らないって言って突っ撥ねているのに、それぞれが見えないところで張り合って渡してくるのよ。それにそれぞれが今度会う時はこんな格好して来て欲しいって、服装とか指定してくるのよ、私は着せ替え人形じゃないっての」


 何やら凄い剣幕でキレだしたな。

 色々溜まってたのか?

 でもその話を聞く限り、少女の方は悪くない気がする。

 多分下心丸出しで落ち込んだ少女に近寄って、プレゼントしまくって、振り向いて貰えなくて逆ギレってところか。


 「でも、なんだかんだ言って結局は高価なプレゼント受け取ってしまってるんだろ?」

 「受け取らなきゃキレるんだから受け取るわよ。ムカつくからすぐにお金に換えて、募金箱に突っ込んでやってたわよ」


 なんと。

 良い事してるような、悪い事してるような。


 「余りにもしつこいから、私ももう我慢出来なくって、今日ハッキリと言ってやろうと思って、三人を同時に呼び出し、それぞれの好きな恰好、化粧好き、茶髪の巻き髪、短いスカートで来てやったのよ」


 それでなんだかゴテゴテした感じの恰好になってるのか。

 全然似合ってないと思ったらそういう事か。

 それにしても考え方が極端な子だな。


 「じゃあ普段はそんな恰好してないのか?」

 「はぁ? するわけないじゃない。私中三で今年受験よ? こんなくだらない馬鹿な恰好してなんになるのよ」

 「ハッキリ言い切るなぁ、しかし言葉遣いが悪くなって来てるぞ?」

 「ええ? あ、ああごめんなさい、つい興奮してしまって……。それで、啖呵を切ったところであなたが現れたのよ」


 そういうことだったのか。

 でも、ちゃんと素直に謝れるいい子じゃないか。

 話を聞く限り、嘘を吐いている感じもしないし。

 最初なんでこんなクエストが出たんだと疑問に思ったけど、助けて良かったよ、うん。


 「そうか、それでお家はこっちの方でよかったのか?」

 「ええ、もう少し先を行ったところよ」


 この少女、僕の家のご近所さんだったのか。

 こんな子居たか? 引っ越して来たのかな?

 まぁ引き籠っていた間に引っ越して来たのなら分かるわけないか。

 しかしなるべく家の近所に呼び出して、危なくなれば自宅に避難する予定だったのか。

 危ない考え方をしている子と思ったけど、ちゃんと色々考えていたんだな。


 「しかしさ、さっきから気になっていたんだけど」

 「な、なによ?」

 「三人三人ってずっと言っているけど、さっきの現場、もう一人居たぞ?」

 「えぇ? 嘘? 私知らないわよ? どんな人だったの?」

 「知らないってアンタ、電柱の陰に好青年風の真面目っぽい男が居たでしょうが」


 気付いてなかったのか。

 あの男もちょっと可哀相なヤツだな。


 「げげ! アイツもいたの? ま、まぁ丁度いいか……」

 「なんだよその言い方、気になるだろ? それでアイツはなんだったんだ?」

 「……ス、ストーカー、かな」

 「をい! やっぱり一番ヤバイ奴だったんじゃないか」


 索敵スキルで居場所を突き止めて、ぶっ飛ばしに行ってやろうか。


 「ま、まぁいいじゃない、退治してくれたんでしょ?」

 「ああ、なんかくーたん、お幸せにーとか言って走って行ったぞ」

 「そっか、普段と違う恰好してたから幻滅したのかもね。まぁあの三人に比べれば、あのストーカー君のが百倍マシだったけどね」


 視界に表示させたマップに印されている、目標地点である少女の家が近付いて来た。


 「ところで、助けてくれたヒーローさんはなんて名前なのよ? お礼くらい言わせてくれる?」

 「ああ、名乗ってなかったか、タケルだよ」

 「下の名前だけって、タ、タケルか……」


 少女は僕の名前を呟くと、今までとはうって変わって雰囲気が暗くなってしまった。

 

 「なんだよ、下の名前だけじゃ駄目だったのか? それともタケルって名前に恨みでもあるのかよ」

 「別に恨みがあるわけじゃないけど――」


 会話している間にクエストクリアのアイコンが視界に表示された。


 「ウチのお兄ちゃんと同じ名前なのよね……」


 少女を送り届けた先は僕の自宅だった。

 

 山田家の表札。目の前の自宅。

 行ってきます! と約二年ぶりに飛び出した自宅。

 長い間引き籠っていた自宅。

 それがこの少女の自宅。


 「ちょっと、もう着いちゃったから降ろしてくれない?」


 中三でストーカーの男からくーたんと呼ばれて――


 「ねえってば!」


 慌てて少女を降ろし少女のステータスを確認する。

 名前の欄には山田くるみと書かれており、住居の欄には僕の家の住所が書かれている。


 ぬをををー! なんてこった!

 なんでもっと早くステータス確認をしなかったんだー!

 僕の美少女センサーが反応しなかったわけ。

 少女の胸が腕に密着しても全然反応しなかったわけ。

 普通の女性にはしないような接し方が出来たわけ。

 イケメンっぽい行動を最初から取る気になれなかったわけ。


 相手が妹のくるみだったからだ。

 よくよく見れば今のケバケバしい格好でも、何となーく昔の面影があるような、ないような。

 しかし兄妹で顔違い過ぎじゃね?


 「あ、あの、私の名前、山田くるみっていいます!」

 「シッテマス……」

 「え? それってどういう――」

 「ああ、い、いや、それよりも聞きたい事があるんだけど?」


 慌てて話題を変える。

 危ねー! 初対面で名前知ってるとかストーカーその二じゃねーか。

 まぁ初対面じゃないけどさ。

 くるみからすれば、顔は始めましてだけど。


 「社会人っぽい男が、関係を持っているみたいな言い方していた気がするんだけど?」

 「ああ、あれね、私も何言ってんのって思ったよ! アンタ達はプレゼントを押し付けて来るだけの関係でしょうが! って思ったもの」

 「ああ、そういう意味での関係って事ね」


 良かった。あんな奴等に妹が……とか、お兄ちゃんとしては一応心配するじゃないか、うん。


 「……気に、してくれてたの?」

 「まぁ、心配くらいはね」

 「そ、そっかー」


 なんかくるみが顔を赤くしながらモジモジし始めた。

 なんか空気がおかしくなって来た気がしなくもないが。


 「あと、ダーリンとか言いながら腕を絡めて来たのはなんだったんだ?」

 「えぇえ、ああ、あれは危機的状況を脱出するための手段よ、手段!」


 なんかくるみがバタバタ慌てて説明し始めた。

 くそ、上手い事言って僕の事を利用しようとしたんだな?

 そういや、あの時のセリフにもお母さんと同じ言い方があったような……。

 二人で玄関先で話していると、サポートチームに新品に直して貰った玄関のドアがバタンと開いた。


 「あ、お母さんただいまー!」


 くるみが玄関から出て来たお母さんに、何かを誤魔化すように駆け寄っていった。


 「あら、くーちゃんお帰りなさい、遅かったのね。ちょ、ちょっとどうしちゃったのよ、その恰好……ってあら? タッ君も一緒だったのね!」

 「……ただいま、お母さん」


 僕の言葉を聞いたくるみは、お母さんの方を向いたままフリーズしてしまい、動かなくなってしまった。


 「玄関で声がしたから、タッ君かなぁと思ってお母さん出て来たのよ、さぁ、もうご飯出来てるから二人とも手を洗ってらっしゃい。みんなで一緒にご飯にしましょう!」


 お母さんは家族で一緒にご飯が食べられるのが本当に嬉しいみたいで、玄関まで迎えに来てくれたようだ。


 「あら、くーちゃん顔を真っ赤にしてどうしたのよ、何かあったの?」

 「お、お、お、お、ぉ、お兄ちゃん?」


 くるみが身体はフリーズさせたまま、顔だけを気持ち悪くギギギっと機械音を出しながら振り向かせて来た。


 「……ただいま、くるみ」


 その瞬間、くるみの頭からブシュー! と大量の蒸気が発せられ、白目を向いたまま完全に動かなくなってしまった。


 オーバーヒートだな。


 仕方がないのでぶっ壊れてしまったくるみを先程と同様、人攫いみたいに肩に担ぎ上げるとくるみの部屋まで連れて行き、ベッドに寝かせてやった。

 まぁ、普通は顔が全く別人に変わったらこういう反応になるよなー。

 お母さんがちょっと変わっているだけで。


 手を洗ってからリビングへ向かい、お母さんにくるみがぶっ壊れたと伝えると、折角今日は三人でご飯が食べれると思ったのに残念ねーと返って来た。

 お母さんは何でもあっさりしてるよな。

 その後お母さんと二人で食事を済ませた。

 いつもの美味しいご飯だったけど、お母さんと会話しながら食べるご飯は、いつもより更に美味しかった。



 今日はたった一日で、凄い事が連続で起こった。

 ここ数年分の出来事が一度に起こったみたいだ。

 色んな人にも出会えたし、ずっと部屋に籠ったままの生活が劇的に変わった。

 でも明日から更に色んな事に挑戦していかないと。

 まずは雪乃さんのクエストを攻略するために、レベル上げ、スキル獲得、身体やスキルの使い方の練習、そして魔法の習得。

 やっぱり魔法が欲しい! 雪乃さんのクエスト攻略の為というより、ただ僕が使いたいだけの気がしなくもない。

 

 <魔法ってどうやったら覚えられるんすか?>


 さっそく雪乃さん直通携帯でメッセージを入れてみた。


 ……


 <色気がないのでやり直し!>


 ……なんじゃそりゃ? と思ったがここはグッと堪えて、文章に色気を出してみる事にする。

 そもそもメッセージに色気とか必要なくね?


 <ねぇねぇユキのん! 魔法ってどうやったら覚えられるのか、教えて欲しいなー! 僕も使ってみたいなー! はぁと>


 これでどうだ?


 <ぉおー! 魔法はゲーム内でしか覚えられないと思うぞ。よし、明日夕方から一緒にダイブして覚えに行こう!>


 最速で返信が来た。

 チョロいぜ、雪乃さん。

 『はぁと』はお母さんから学んだテクニックだぜ。


 雪乃さんが夕方からと言っているので、明日は怪しい三万円を軍資金にして、朝から人生初の服屋さんでも行ってみるか!

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