第3話
「雪乃さんの頭上に、緑の『!』マークのアイコンがうっすらと浮かんでるっす!」
そうハッキリと告げたにもかかわらず、雪乃さんは未だに大体タケルがーとかこんな事は初めてだとか何とかブツくさ呟いている。
ガスマスクの中の顔は真っ赤っかだ。
「ちょっと、雪乃さん聞いてるっすか?」
「ああぁ、な、な何だったか?」
まだ頭がこんがらがっているみたいだ。
「もう、しっかりしてくださいよ、雪乃さんの頭上に緑の『!』マークのアイコンが見えてるんですって!」
「はぁ? 何言っているのだ? しっかりしろよ。緑の『!』マークのアイコンはクエストを依頼している者の頭上に出るって、さっき説明しただろ?」
「だから、今雪乃さんの頭上に、そのクエスト依頼の緑の『!』マークが出てるんだってば!」
「いや、ゲームの中の話だから。何言っているんだ?」
くそっ、全然信じて貰えない。……そりゃそうか。
いきなりこんな事を言っても、何言ってるんだこいつ? ってなるよな。
さてどうすれば…… そうか!
「ちなみにゲームの中で、クエストの依頼内容を確認したい時はどうすればいいんすか?」
「ああ、そのクエスト依頼の緑『!』マークを注視すれば、視界にクエスト内容が表示され、依頼を受けるならば受諾のコマンドを注視すればいいのだが、注視の部分は指先でタッチして選択することも可能だ」
成程ね。『!』マークを注視、注視と……。
するとこんなものが視界に現れた。
クエスト内容
・上条雪乃 三十歳独身処女、彼氏イナイ歴=年齢 の強制お見合いを何とか阻止しろ!
クエストの依頼者
・上条雪乃
クエスト成功条件
・強制お見合いの阻止、上条雪乃の母親の説得
クエスト失敗条件
・強制お見合いの成立、上条雪乃の母親の説得失敗
クエスト報酬
・EXP
・OOLHG
・上条雪乃本人
クエスト難易度
・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
クエスト受諾条件
・OPEN OF LIFE 管理者権限を習得する事
何だか激しく突っ込みどころ満載のクエスト依頼が出て来た。
なんじゃーこりゃ!
こ、これは流石に……み、見なかった事にするか。
しかし空中を見ながら呆然としていた僕を、既に雪乃さんは不思議そうに首を傾げながら見ており、何があった? と聞かれてしまったので、仕方なく足もとに落ちていた紙とペンで依頼内容を包み隠さず書き写して雪乃さんに手渡した。
……
「な、何だ……これは?」
「い、今雪乃さんの頭上に浮かんでいる『!』マークを注視したら出て来たっす」
暫くの沈黙の後、僕は頬をポリポリと掻きながら少し気不味そうに答えた。
……
更に沈黙が続いた後、雪乃さんはようやく事態を理解してくれたのか、今までとはうって変わって静かに語り始めた。
「クエスト、か……。こんな事が現実に起こっているのか。非常に興味深いがこんな内容を見られてしまったのなら仕方がないな。もしタケルが私から出ているというこのクエストを受けてくれるのであれば、ゲーム内容の詳細もタケルが求めるものは全て話し、今後の対応も全面的にバックアップする事を約束しよう。ただし――」
「……ただし?」
「タケルがこのクエストを受けないというのであれば、今後恐らく私はタケルを助ける事が出来ないと思う」
「ど、どうしてっすか?」
雪乃さんは僕の椅子に座ったまま、自分が今置かれている状況を少し重苦しい口調で説明してくれた。
クエスト内容に書かれてあるお見合いが、来月には行われる事。
実は雪乃さんは名のある家の娘さんで、今回のお見合いは親同士のグループ会社を大きくさせる為の、所謂政略結婚というヤツで、お見合いという形は取ってはいるものの、事実上結婚する事は昔から決まってしまっているという事。
そして本来ならば随分と昔に二人は結婚している筈なのだが、雪乃さんがどうしてもVRMMOの開発を最後までやり遂げたいと無理を言い、今の今まで何とか引き延ばして来たという事。
そんな雪乃さんの我が儘が通っていたのも、雪乃さんの見合い相手や親御さんが雪乃さんの家名やグループ会社との協力関係が結べる事にしか興味がなかった為で、両家の繋がりがより深くなってしまっている今、雪乃さんが今の年齢になってしまっても何も言って来なかった事。
そしてOPEN OF LIFEを完成させた今、雪乃さんはエンテンドウ・サニー社を強制的に辞めさせられる事になっており、僕を今後助ける事が出来なくなると話してくれた。
「なんだか嫌な話しっすね」
「……済まない」
雪乃さんは椅子に座ったまま小さく呟き、深々と頭を下げた。
来月には会社を辞めさせられるので、僕を元の体に戻す事も出来ない、と。
ひと月弱では流石に雪乃さんでも難しいのだろう。
別に今のままの体でいいんじゃね? とも思ったのだが、ゲームのアップデートをする際に何かしらの弊害が出るかもしれないし、もしかすれば突然エンテンドウ・サニー社がサービスを終了させるかもしれない。
そんな事があれば恐らく僕は死んでしまうだろう。
しかもこの体は恐らく歳を取らないだろうし。
世間的にはやっぱりまずいよなぁー。
「因みに雪乃さんに聞きたいんですけど?」
「ん? なんだ?」
「クエストに書いてある、管理者権限ってなんすか?」
「ああ、管理者権限というのは、アイテムに付与しているスキルの事で、そのアイテムを装備しているだけで各種ステータスの大幅上昇、獲得EXP2倍、さらにスキル獲得スピード、熟練度上昇スピード、魔法熟練度上昇スピードを最速に上げられるという、チート級スキルの事だ」
「何でそんなもの作ってるんすか?」
「ムフフ、もしかしたらシステムの抜け道を探し出して、悪さをする奴が出てくるかもしれないじゃないか。そうなった時の為に、私自身で退治しに行けるようにと作っておいたのだ」
先程まで背中を丸めて椅子に座っていたのが一転し、椅子の背もたれに体を預けて踏ん反り返っている。
悪い顔で笑う雪乃さんは更に話を続けた。
「しかもこのアイテムには別のスキル、ステータス閲覧というものも付与している。このスキルのおかげで他のプレイヤーのステータスは勿論の事、所持スキルやスキルレベル、更には所持アイテムや装備品まで詳しく分かるのだ! ふはは、どうだ凄いだろ!」
雪乃さんは自身が製作した装備品を自慢しながらご満悦の様子。
くそ、ついさっきまで背中を丸めていた癖に!
しかし雪乃さんの話の中に少し気になった事があったぞ。
「ということは、そのステータス閲覧スキルのないプレイヤーは、他のプレイヤーのステータスとかが見られないって事すか?」
「当然だ。他のプレイヤーのステータスどころか自分のステータスもほとんど見られないぞ?」
「なんでだよ! そこは見られないとダメだろ!」
「は? 何を言っているのだ? 私はこのOPEN OF LIFEに出来る限りのリアリティーを追求したのだ!」
「いや、そこは分かるけど――」
「ではタケルに聞くが、今まで生きて来て自分の体力や他人のスタミナ等のステータス、料理の腕前等のスキルを数値化して見た事があるのか?」
「い、いや、ないけど……」
「精々、あ、こいつ女子力ゼロだわー! って思った事があるくらいだろ!」
そりゃあんたの事だろ? と思ったが口には出さないでおく。
「私だって研究一筋とは言え、こう見えてもひとりの女子だ。そんな事言われれば傷つくし、この年になっても出来れば可愛いと言われ――」
「ちょ、ちょっと雪乃さん! 話が全然違う方向に流れてるっす! ただの合コンでの失敗談みたいになってるっす!」
椅子から立ち上がりつつ握り拳を作り、熱く語り始めた雪乃さんを慌てて止め、まぁまぁ落ち着いてともう1度椅子に座る様に促すと、顔を赤く染めながらもコホンと咳を一つだけして着席してくれた。
「……ああ、すまない。で、何の話だったか? そうそうステータスだ。ステータス閲覧スキルを所持していないプレイヤー達が自分のステータスで確認出来るのは、自分のLV(レベル)と持っているスキル、所属パーティーとパーティーメンバーのみ。しかもスキルのLVは分からないぞ。それで他のプレイヤーのステータスで確認出来るのは名前と所属パーティー名、そしてモンスターは名前のみだ」
……大丈夫かこのゲーム? と思ったが、よくよく考えてみるとそれはそれで面白いのかもしれないと気が付いた。
相手が強いのか弱いのかわからないから警戒するし、注意深くもなる。
返り討ちに会うかもしれないので、闇雲に他のプレイヤーにちょっかいを出す者も減るだろう。
それこそ現実世界みたいに秩序が守られるのであればアリなのかもしれないな。
「でもダメージくらいは数値化しないと、自分が受けたダメージも分からないんじゃないっすか?」
「いや、ダメージを受ければ痛いからすぐにわかるぞ?」
「痛みも再現してるのかよ!」
一気に不安になった。
実際に痛いゲームとか、もうそれゲームじゃねーよ!
と青ざめた顔のまま雪乃さんを見ると、大丈夫大丈夫、色々考えて作ってあるから、と軽い返事が返って来た。
しかし、クエストを受けるのであれば色々と教えてくれると言っていたのに、結局受ける前からなんだかんだと聞いてしまった。
まぁ、雪乃さんからすれば、恐らく最初から僕が断るという可能性を考えていなかったのかもしれないな。
掌の上で転がされてる感じがするのはいただけないが、クエストを受けない場合もお先真っ暗な感じだし、しょーがねーな。
「で、その管理者権限ってのは何処で手に入れてくるんすか?」
「おお、クエストを受けてくれるか。そうかそうか」
若干芝居臭いセリフを吐きながら、パンダのステッカーが貼られたノートパソコンのキーボードをカタカタと叩いている。
「これで良し! っと。では今からタケルには新しいOOLHGでログインして貰う。ログインすれば最初の部屋にいるキャラクターがアイテムを渡してくるので、それを受け取りすぐさま装備し、用が済めばログアウトして帰って来い。分かったか?」
僕がこくりと頷くと、男性が部屋の入り口から新品のOOLHGを持って来た。
やっぱりカラーはショッキングピンクだった。
今度のOOLHGはLLサイズだったのだが、小顔過ぎてかなりブカブカだ。
LLサイズなのはやっぱり体が元に戻った時の事を考えてくれているのだと思うのだが、体が元に戻ればLLサイズでは入らないと思う。
いやー、しかし小顔とは実に素晴らしい! と何度もOOLHGのブカブカ具合を堪能していると、早く行ってこい! と雪乃さんに軽く蹴りを入れられてしまった。
いいじゃん別に! 前回はこのOOLHGを装着する、という作業をするだけでどれだけ大変だったか……。
モタモタとしていたら、何やら鋭い視線を雪乃さんから感じ始めたので、仕方なく電源を入れる。
すると前回とは全く違ったキュイーン! という爽快感漂う音が鳴った。
やっぱりあの疑問形の、キュ、キュイン? はおかしかったんだなと思いながら接続スタートのボタンを押した。
こうして僕は二度目のOPEN OF LIFEを体験する事になるのだが、今回はアイテムを装備してくるだけという冒険。
はぁ、一体いつになったら僕はゲームで遊べるのか……。
人間慣れるものなんだなぁと、ゲームの中にダイブする感覚にも、一度目のような大きな感動を得る事なく、気が付けば味のある山小屋っぽい狭い部屋にいた。
ここってもしかしてアバターを設定した場所なんじゃないか?
全面ブルースクリーンの場所ではなく、やっぱり普通ならこういう部屋だったのか。
今居る部屋にあるものは、窓と、恐らく外に繋がっているドア、そしてベッドが一つと……ノイズなど全く入っていない口もとがチャーミングなノイ子さん。
先程来たときはノイズのせいもあって、ある程度のデジタルっぽさを感じたのだけど、今回はそのデジタルっぽさが全くと言っていい程感じられない。
部屋の丸太の壁も、窓から見える雄大な景色も、ノイ子さんも、すげーリアル!
想像を超えてたとかなんとかβテストに参加した人が言っていたけど、マジでそれ!
もう現実じゃん、これ。
「お帰りなさいませ、タケル様」
ひとしきり感動を味わっていると、ノイ子さんが軽くお辞儀しながら話し掛けて来た。
おお、声もデジタルっぽさとノイズがなくなっているぞ。
とても爽やかで澄んだ声だ。
これはいよいよノイ子さんの名前を改名しなくては!
と考えたところで気付く。
あれ? 今僕の事を名前で呼ばなかった?
まだ登録してなかったと思うのだけど……。
「……あの、僕ってタケルっていう名前で登録されてるの?」
「はい。初期登録の際に決められたお名前で呼ばさせて頂いております」
普通こういったNPCは決まった内容しか会話出来ないので、ダメ元で話し掛けてみたのだが、意外にも普通に会話しているみたいに返って来た。
くそ、あの上の空で登録した時にそんな大事な事も決めていたのか。
そうと分かっていればもっとカッコイイ名前にしたのに、まさかの本名だ。
「今回はタケル様にアイテムの支給がございます。お受け取り下さい」
ノイ子さんの言葉の後、視界の隅にあるコマンド選択の欄に、アイテムが届きました! と表示された。
ええっと、確かコマンドを選ぶときは注視、注視と……。
支給されたアイテムコマンドをを開いていくと、ポン! という音と共に床にアイテムが転がった。
これが管理者権限スキルと、ステータス閲覧スキルの2つを得られるアイテムなんだろうけど……何処からどう見ても、プロレスラーが被る覆面、タイガー〇スクだ。
何故このマスク? めっちゃ恥ずかしいんだけど。
身体はブタで、顔はトラ? もう訳が分からん。
ネタ要素満載のキャラクターになってしまうじゃないか。
まぁ、素顔が隠せるからいいか、と気持ちを切り替えてマスクを装備してみる。
装備コマンドを選ぶと、デカい頭のサイズに広がったマスクをカブっていた。
今度は痛い思いをしなくて済んだみたいだ。
・管理者権限スキルを習得しました!
・ステータス閲覧スキルを習得しました!
すぐさま『ピコーン!』という脳内に響く音が流れると、視界の隅にあるコマンド選択欄の上に文字が表示された。
雪乃さんがゲームと現実がシンクロしていると言っていたので、これで現実でもスキルを獲得しているという事になるのだろう。
本当にそんな事になるのかと疑問に思ったけど、現実世界でゲームのようにクエストが見えてしまっている以上、有り得なくはない。
その話は置いといて、一丁このまま冒険に出かけるかと思ったけど、雪乃さんがさっさとログアウトして来いと言っていたので、怒られるの嫌だしさっさと帰ろう。
何だか嫌な予感もするからな。
そしてそのままコマンド選択からログアウトを選択して現実世界へと戻った。
自分の部屋へ意識が戻ると、自分の顔をすぐ目の前で覗き込んでいる雪乃さんがいた。
「「うわ、びっくりした!」」
お互いが同時に声を出して驚き、磁石が反発し合うようにのけ反った。
ピコーン!
・危険察知スキルを習得しました!
・危険察知スキルがLV10に上がりました!
再び脳内に響く音と共に、スキル習得の文字が浮かび上がる。
危機察知ということは、雪乃さんが何かしら悪戯でもしようとしたのだろう。
しかしスキル習得と同時にレベルが10まで上がったぞ?
これも管理者権限スキルを習得のおかげなのだろうか。
「雪乃さん?」
「ちちち、違うぞ! べ、別にタケルがダイブしている間にキ、キスをしようなどという事は、決してだなぁ――」
……いい歳して顔を真っ赤にしながら、何をしようとしてるんだこの人は。
あれ? そういや雪乃さん、ガスマスクはどうした? 装着していないけど?
そうだ、マスクで思い出した。もしかしてゲームで身に着けた装備って――と自分の顔を両手でペタペタと触ってみるも、どうやらマスクらしいものは装着していなかったので安心した。
しかし雪乃さんには油断も隙もあったもんじゃないな。
「ったく、何してんすか。それよりも今スキルを一つ習得したんすけど、LVってどこまで上がるんすか?」
「タ、タケルがダイブしている間にサポートチームに部屋を殺菌、消毒して貰ってだなぁ、ガ、ガスマスクを外したところに、ち、丁度上手い具合にタケルの顔があってだなぁ――」
何やらあたふたしながら全然聞いてない事を答えてくる。
「いや、そこは今はいいんで、スキルのLVってどこまで上がるか教えてもらっていいすか?」
「ふ、ふぇ? スキル? ああ、スキルな。管理者権限等の固有のスキルにはLVはないのだが、一般に習得出来るスキルはLV10、そこから上級スキルへと進化して更にLV10の合計20だな。ちなみに何のスキルを習得したのだ?」
「危機察知すよ。一気にLV10まで上がりました」
「……チッ! これからは不意打ちが難しくなるな」
雪乃さんは何やらブツブツと独り言を呟いている。
「スキルのLVはどのタイミングで上がるんすか?」
「危機察知等の常時発動するタイプのスキル、パッシブスキルと呼ばれるものは、スキルの効果が得られた時に熟練度が上がり、魔法系の熟練度はその魔法を発動させた時や受けた時に、物理攻撃系の熟練度はその攻撃を当てた時や受けた時にそれぞれ上がるのだ」
「成程、つまり危機察知スキルの熟練度を上げようと思うと、危険を感じないといけないということっすね?」
「ああ、その通りだ」
雪乃さんがそう答えた直後、何やら雪乃さんから不穏な空気が流れ出したのを感じ取り、僕は慌てて上半身を後ろへとのけ反らせた。
すると、今まで僕の整った顔があった空間を、雪乃さんのフルスイングの平手打ちが通過していく。
そのまま雪乃さんは勢い余って一回転し、ゴロリンとその場で転んでしまった。
「あぐっ……たたっ」
「だ、大丈夫っすか? 雪乃さん?」
ピコーン!
・危機察知スキルが進化して未来予知スキルとなりました!
・未来予知スキルがLV2に上がりました!
イタタと呟く雪乃さんを起こしている最中に、またもや文字が視界に浮かび上がった。
未来予知スキル。なんかまたチート級っぽいスキルの予感。
スキルの事を聞く前に、椅子を引いてもう一度雪乃さんを座らせた。
「雪乃さん、危機察知スキルが進化して未来予知スキルになったすよ!」
「ああ、今私から何かしら危機を察知したのだろう。危機察知スキルの熟練度が上昇して進化したわけだ」
「……わざわざこの説明の為に全力でビンタして来たんすか?」
「そ、そうだぞ、説明の為だ。決して当てるつもりなんかなかったのだからな!」
いやいや、当てる気はあったでしょう。完全にぶっ飛ばす空気感じてましたから。
「未来予知スキルになったという事で、先程までより更に詳細に先の出来事がわかるようになっている筈だ」
「LV2ってことはこの後レベルを上げていけば――」
「更に細かく、より遠くの未来まで見えるようになっていくはずだ。まぁ使い方は徐々に慣れていく方がいいだろうから、毎日使うのだぞ?」
「スキルって使用しても何も減らないんすか?」
「ああ、パッシブスキルはな。魔法系の連続詠唱スキルや、武器に付与されていたり、クエストで得られたりする連撃スキルなんかはSPを使用するから注意が必要だぞ」
「……でも普通のプレイヤーにはSPは確認出来ないんすよね?」
「連撃スキル等のユニークスキルは一度使用すると、クールタイムというのが発生する。SPを自然回復させるかアイテムで回復させるなどして、もう一度使用出来るようになるまでコマンドが消灯しているし、SPが多ければSPがなくなるまでスキルの連発も可能だ」
ヤバイ、そろそろ覚えられなくなって来たぞ……。
SPが足りなければ使用出来ない、とだけ覚えておくか。
「まぁ今のタケルには全てのステータスが見えているのだから、その辺はあまり細かく覚えておかなくて大丈夫だと思うぞ? 一度自分のステータスを確認してみたらどうだ?」
そりゃそうだ。
よかった、ステータス閲覧スキル貰えて。
普通にゲームしてたら速攻詰んでいたかも……。
取りあえず自分のステータスでも確認してみるか。
名前
・タケル
二つ名
・なし
職業
・救世主
LV
・1
住居
・自宅
所属パーティー
・なし
パーティーメンバー
・なし
ステータス
・管理者権限加護
・救世主加護
HP
・1545
MP
・1515
SP
・1530
攻撃力
・1515
防御力
・1515
素早さ
・1507
魔力
・1515
所持スキル
・救世主
・管理者権限
・ステータス閲覧
・未来予知 Lv2
装備品
・英雄のマスク
所持アイテム
・なし
所持金
・¥136
うーん。どうなんだ、これ。
数値自体は正直これが高いのか低いのかよく分からない。
装備品にある、英雄のマスクっていうのは恐らくタイガーマス○の事だろう。
しかしこのマスク、どんな理由があってこのデザインにしたのだろうか。
名前からして雪乃さんがただ憧れているだけなのか?
あと所持金¥136? 財布は空っぽだったはず。
部屋の中を漁れば出て来るってことかな?
他にもまた見慣れないものが出て来たなぁ……。
「雪乃さん、今自分のステータスを確認したんすけど、また見慣れないものが出て来たすよ。職業とスキルに救世主っていうのと、ステータスに救世主加護ってのが付いてるっす」
「は、何? タケルは救世主持ちだったのか! やるじゃないか!」
「え、これって凄いんすか?」
「凄いも何も救世主のスキルは初期登録の段階で抽選されるレアスキルで、その確率は千人に一人。つまり初回販売分で日本で一万台だから、日本だとたった十人しか所持していないぞ!」
雪乃さんのテンションが凄く上がっているのだが、全然実感が湧かないぞ。
「へー、そんな凄いんすか?」
「なんか感動が薄いなぁ、おい。もっと喜べよ!」
「いや、喜べって言われてもスキルの内容が分からないんで、喜びようがないすよ」
「救世主スキルを説明する前に、まず管理者権限スキルを説明すると、全ステータスに+1000の加護が付く。更に獲得EXPを二倍に、スキル獲得、熟練度上昇スピード、魔法熟練度上昇スピードを最速に上げれるのは説明した通りだ」
ステータスが大体1500くらいだったからその内の1000が管理者権限の加護とやらで上昇してたのか。
「更に管理者権限加護の効果はパーティーメンバーにも及ぶぞ。ステータス上昇はしないが、獲得EXP、スキル獲得、熟練度上昇スピード、魔法熟練度上昇スピードが100パーセント上乗せされる。つまり通常よりも二倍のスピードで上昇するのだ」
おお、管理者権限スキルはパーティーメンバーにも効果があるのか!
……ボッチの僕にもパーティーメンバー出来るかなぁ。
「次に救世主スキルの説明だがステータスの上昇が50パーセント上乗せされ、更に獲得EXPが100パーセント上乗せされる。救世主スキルは管理者権限スキルと重複OKだからステータスがかなり伸びているだろ!」
ん? ステータスの上昇がプラス50パーセント?
管理者権限の加護で1000上昇して、更に救世主の加護で50パーセント上乗せって……おい、通常LV1だとステータス一桁とか多くて30とかじゃないか!
僕のステータス高過ぎだって!
「救世主の加護もパーティーメンバーにも及ぶから、獲得EXP、スキル獲得、熟練度上昇スピード、魔法熟練度上昇スピードに50パーセント上乗せされる。まぁ本当だったらタケルにもスキル獲得スピード等の上乗せが付くのだが、タケルの場合既に最速だからな」
成程ね。つまり僕の場合、管理者権限加護と救世主加護は重複OKだから、僕は合わせて獲得EXPが3倍、パーティーメンバーには獲得EXP、スキル獲得、熟練度上昇スピード、魔法熟練度上昇スピードに2.5倍の上乗せが付くってことだな。
「ただし、救世主スキルは他のプレイヤーに殺された場合、その殺したプレイヤーに救世主スキルが移るので気を付けなといけないぞ」
「いや、僕の場合ゲームのアバターと一心同体なんでしょ? 死亡すれば即現実でも死亡濃厚だからスキルが移るとかどうでもいいすよ」
「だからこそタケルの場合、特に気を付けないといけないんだよ。もし他のプレイヤーにタケルが救世主スキル持ちだとばれてしまった場合、他のプレイヤーがタケルのスキル目当てに勝負を挑んでくる可能性が非常に高いぞ」
そうか……死んだら終わりなのに狙われてしまうのか。
「更に勝負ならまだしも、騙し討ちや暗殺なんて恐れもあるからな。なるべく他のプレイヤーに救世主スキル持ちだという事がばれないように行動しろよ」
うう、せっかく僕の仲間になったらエエ事あるでグヘへ、と救世主スキルの加護を餌にしてパーティーメンバーを集めれたら、脱ぼっちも可能だと思ったのに……。
こりゃゲームの中でも引き籠るしか――て、それじゃゲームする意味ないじゃん。今までの生活と一緒やん。
まぁ、取りあえずステータスは今のところ放っておいてもいいか。
二つ名とかよく分からん物もあったみたいだけど放置だ。
雪乃さんのクエストでどうしても引っ掛かる所が二か所あったんだよなぁ。
確か報酬のところと難易度のところ。
クエスト内容
・上条雪乃 三十歳独身処女、彼氏イナイ歴=年齢 の強制お見合いを何とか阻止しろ!
クエストの依頼者
・上条雪乃
クエスト成功条件
・強制お見合いの阻止、上条雪乃の母親の説得
クエスト失敗条件
・強制お見合いの成立、上条雪乃の母親の説得失敗
クエスト報酬
・EXP
・OOLHG
・上条雪乃本人
クエスト難易度
・☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
クエスト受諾条件
・OPEN OF LIFE 管理者権限を習得する事
……
「雪乃さんのクエスト依頼の難易度、星が十個付いてるんすけれど、これって――」
「……最高難易度だ」
あ、やっぱり?
というかLV1の僕の初見クエストが最高難易度ってどーよ?
「僕まだLV1っすけど……?」
「そこなんだが、私にいい考えがあるぞ!」
今まで椅子に座ったままおとなしく説明だけしてくれていたのに、いきなりグイッと顔を近付けて来て張り切り出した。
なんだか嫌な予感がする。
未来予知スキルが発動していないので気のせいか?
「私のクエスト依頼で報酬の欄にEXPと書いてあるだろ? つまりタケルはまだゲームの世界でレベルを上げるのは危険だから、現実世界で私のように報酬欄にEXPと書いてあるクエストを出している人を、街中で探しまくってクリアしていけばいいんじゃないか? そうすればレベルを上げている間にスキルもいっぱい習得出来るだろ? その間に私のクエスト依頼を攻略する方法を考えようじゃないか!」
あら、雪乃さんにしてはまともな意見。
どうした? 調子狂うじゃないか。
しかし他にいい方法も思いつかないので、問題は多そうだけど取りあえず雪乃さんの意見で行動してみるか……。
「分かったすよ。取りあえずそれで行動しようと思うんすけど、そのクエスト報酬で聞きたい事がまだあって、雪乃さんのクエストの報酬にOOLHGって書いてあるんすけど?」
「そうみたいだな。恐らくもう一台くるみさんの分を、という事なんだろう。いいぞ、クエストがクリア出来たなら私が自腹でもう一台買ってやろう」
よし! これでくるみに殺されずに済みそうだ。
なんとかくるみの誕生日までにクエストをクリアせねば!
「タ、タケル! クエスト報酬に私本人っていうのも、あ、あるのだぞ?」
「あ、それは結構っす」
「をい! バッサリだな! 傷付くぞゴルァ!」
華麗に雪乃さんのアピールを躱していると、少し真面目な顔をした雪乃さんが話をし始めた。
「……話は変わるが、タケルに少し言っておきたい事がある」
「な、なんすか急に?」
「タケルは今の姿がイ、イケメンだと理解しているよな?」
「……はぁ、まぁ自分で作っておいて言うのもなんですけど、超絶イケメンだと思ってるすよ?」
突然何の話だ? 真面目な顔をしてする話なのか?
「ふむ、しかし引き籠り歴が長いからかもしれないけど、姿勢や仕草が全然イケメンではないぞ?」
「えぇー、ま、まじすか?」
「ああ、だから今の自分の姿に似合いそうな仕草や行動を取るように心掛けてみろ。恐らくそれだけで周りの人の印象や対応が、劇的に良くなる筈だ!」
「な、なるほど! では具体的にはまずどうすればいいすか?」
師匠! この不出来な弟子にイケメン世渡り術をご伝授下さいまし!
「よし、まず姿勢を正して背筋をグッと伸ばしてみろ」
「こ、こうっすか?」
今まで生きてきた中で最高の力で、肩甲骨と肩甲骨の間を引き締めてみる。
なんかポキポキ音が鳴った……。
「そして常に会話する時は、相手の目を見て話す事!」
「はいっ!」
雪乃さんのメガネの奥の瞳をじっと見つめる。
「…… ……ぽっ」
目を合わせろとか言いながら、合わせたとたんに視線を逸らされた。
何なんだ一体。
「ご、ごほん! さ、最後に視線を合わせながら全力のスマイルだ!」
よし! 100パーセントのスマイルだぜ! ニ、ニコッ!
……
「……うん、まぁあ、あれだ、笑顔はもう少し練習したほうが……いいと思うぞ」
あ、あれ? なんか変だったのか?
後で鏡で見ながら練習してみよ。
しかし、イケメンっぽい仕草や行動ねぇー。
一応覚えておくか。
あれ? 今突然首筋がゾクってした。何か変な感じ。
玄関から誰か入ってくるぞ?
あ、これが未来予知のスキルか!
「雪乃さん! 玄関から誰か入ってきます。恐らく……お母さんです!」
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