第6話
渋谷店の再度の再建は、意外と容易かった。
社長に松本氏を切った時の弊害を聞いた。その案には、松本氏以外は全員賛成しているとのことだった。
私の方針は決まった。松本氏を首にすることにした。メニューも書き替えた。
他の従業員達も、「鴻巣さんがトップなら全員付いて行きます!」と言ってくれた。
私に向かって、風は吹き始めたのだ。私は意を強くした。
私が出店する際の従業員を二名、渋谷店に送り込んだ。
その二名は、「船団」の従業員だった。どちらも悪癖があった。頭が悪すぎるのである。
それに、使いようもない程に不器用だった。出前で使う以外に取り柄がなかった。
それでも、渋谷店には岩淵君と水野さんという優秀な大学卒業の二人が居た。
私は何も知らぬ二人に期待した。そして、私が登場するのであった。
社長が五百万円をかけて改装した厨房も見学させてもらった。私もしたり顔で見たその部屋は、誰もが高級レストランを思わせる厨房だった。
松本氏が、本格的にレストランメニューを出したがる訳も知った。それ程上等な作りだった。
私は社長に言った。
「あれだけの厨房なら誰でも本格的なレストランと錯覚しますよ。」と嗜めた。
社長はそれに答えず、「冷凍技術も進んでいるから、それで間に合わせようとした!」、それが答えだった。
バブル崩壊の三年前だった。元号も平成になろうとしていた。私はまた動いた。
彼女と松戸の二DKの部屋に引っ越したのである。
結婚のためではなかった。渋谷店には地下鉄を乗り換えて四十分と遠くなったが、テレビも電話も付いていた。
私は、そこがやっと人並みの生活が出来ることになった。千代田線から銀座線に乗り換える通勤だった。
そこで、バブルの崩壊を知ることになった。私は、松本氏に三十万円の退職金を払いクビにした。他の従業員は喜んだ。
皆が喉に刺さった小骨を抜いたような気分だった。
その後順調に売り上げを回復させて、二年度にはパーティーの開催も出来るまでになっていた。
社長は、その食材を紀ノ国屋デパートで調達してきた。
ロースロビーフ・エビフライ・ヒレステーキ・カナッペ・クリームコロッケ・エビチリソース煮・それ等は松本氏からすると、下の下の品に違いない。
コックの経験のある私も、どこかでそう思っていた。
その日の売り上げは、私が来て一番良く二十万円になった。
社長は私を好きなように使うのだった。
「鴻巣さん!申し訳ないけど、今度は御徒町店に行ってくれないかな!」と言ってきた。
「専務がメニエール病になって、売り上げが落ちてきているので困っているのだ!何とか売り上げを回復させて欲しいんだが!」。
私はそこで鋭気を養うことにした。
ついでに、上野近辺で店を探そうとした。
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