第2話
私が喫茶店に勤めだしたのは、二十六歳の時であった。
そのときにはコックの修行を終えていて、調理師免許も取っていた。
そのコックの時代は、私は華やかだった。そして、地方紙に横田海氏を売り込んだので、一時有名人になっていた。
それを知った市役所の職人が私の勤めるレストランの客になったり、絵画教室に通う生徒等も来た。
私は、己の文才を思うがままに駆使した。本も出た。たかが原稿用紙十枚分のエッセーだが、評判は良かった。
私の店で働く小松君や吉田君等は絶賛していた。その店は、昭和五十六年の一月十日に私が三十歳になるのを待って開店した。
長い長い苦労があった。
私は、最初の店(本当はその店を狙っていた)を、御徒町の六曜館という珈琲専門店に決めたのである。
そこで、毎日朝昼晩と現れる三浦鈴子さんという大和銀の営業ウーマンに恋をし、二十三枚もの手紙を渡すも、無しの礫になってしまった。
それを悔やんだ私は、一年でその店を辞めたのである。その時、長男の富田氏がやってきて、
「給料を十三万円まで引き上げるから店長になって下さい。」と要請されたのである。
しかし、私はその話を断った。
「自分で己の店を持つためにはるばる東京まで出てきたので、本望と納得するまでやらせて下さい。」と丁寧に断った。
「じゃあ、次の勤め先を教えてください。」という話から、富田社長との付き合いは始まったのである。
それから、四年後には経営者同志としての付き合いになるのだが、二人とも五里夢中だった。
当時の富田氏は五店舗の店を持っていた。その経営の馬鹿馬鹿しさに倦んでいたのであった。
何せ一橋大学出身のインテリ坊チャンが、二十代前後のアルバイターを三十人も使うのだから、私でさえ彼等の次元の低さに悩んでいたのだから、
高学歴で頭の良い社長では気に召さないのも仕方ない。
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