第55話
速く泳げるようにならない理由を述べるとすれば、偏に彼の資質によるだろう。まったく、ある者は一方ならぬ練習をしても一向に上達しないのに、もう一方は触れるだけで一角の存在になってしまう。 詠嘆法
君、だいじょうぶだよ、どんけつからミートソースをこぼした(下痢をもらした)ことは、私が秘匿できるようにするさ。ただし、ある種の水を握らせてくれる(賄賂を握る)ならね。あいつはわからないだろうね、次の選挙の内幕を一齣こぼせば、たちどころに君は人心地を取り戻すだろう。 婉曲法
あいつの血潮に一入渦巻く怨嗟の念は、先生に一頻り向けられていた。だが、それもほどなくして生徒会長へ向う。一所にとどまることの出来ない浮気性だからだ。 縁語
店先に置かれているタンスはいかにも陳ねこびていて、まるで媚びることを知らない風貌は見る者を疲憊させる。峻険な山のうちの飛瀑に放り込んでやりたいくらいだ。 音彩法
蝋を脾腹(バラ)に散らさないで。外では雪が霏々(火)として、私の心を赤々と炙る。民情に合わず、非分に被覆されていた悪感情が元通りになるよう。 掛詞
お客の状態を正しく伝えるために、備忘しておいたメモを取り出すと、風雨に傷めつけられた箇所に、多量の虫が叢がって貪り尽くし、微生物によって綺麗に分解されている空き地のようだと彼は言ったので、弥縫するのはとても無理なほど禿げ上がってしまったように思えた。もちろんかつらを試すことはできるが、すぐに露見してしまい、被膜が反射して眩しい地肌を社会に晒すことに陥るだろう。 活写法
仕事の暇暇に募金活動をする、瀰漫した人々の無関心にもめげない、微妙な感情の変化も漏らさずに汲み取る、これが私たちの指導者だ。 括約法
あの人の行動意志が示すところは、地道な活動こそ秘鑰を得る最も確かな方法であり、謬想を避けて真実を手繰り寄せるのである。それは時間がかかるし煩わしいが、最高責任者へ飛揚するための一番の信頼となる。 活喩
腰が痛いように思うのは微恙ではない、仕事の量が渺とした海原に見えるのは錯覚ではない、自信が持てず剽悍な男になりきれないだけの気の弱さだ。 換語法
彼は職場の者から葛飾男と思われている。ただし、病褥についている社長だけはそう思っていない。気分で仕事をこなす飄然とした男で、ダメ社員の表徴のようであるが、実は誰よりも会社の為に時間を費やしているのだ。 換称
地方の風物はなかなかだと言う者がまあまあいた。ただ、剽盗が多いのは惜しまれるとも言っていた。人生の指針を見失った若者が、心休めに漂蕩するには誂え向きな土地だろうに、折り悪く命そのものを奪われるかもしれない。そうなれば、せっかくの得難い青春の苦悩を表白することもできなくなる。 緩徐法
海風が飄々と吹き、笹の小舟の私は波間に揺れる。もう、疲れたまま都庁の下で働くこともない。縹渺としたコンクリート群に惑うこともない。渺渺たる原野を地道に耕すのみだ。 換喩
みんな、国を倒すと標榜しよう。渺茫とした大海原に船出した気持で。勇気と忍耐を比翼にして、我らの意志は決然と歩み出す。 擬人法
日和を気にすることが世渡りの最もな方法だ。たしかに諂いは人に蔑まれるが、平たく言えば争いは起こらない。浅はかにひらひらと怒りの火を燃やさないことだ。 奇先法
他人に迷惑をかけずに生きたいのなら、まず人を殺すことだ。自分という人を黙らせば、妄りに能力を閃かすこともなくなり、他人から嫉みや誹りを受けることもなく、余計な中傷を黙らせることができる。自ら糜爛することがないなら、まわりもただれくずれることはない。まずは比倫する者のない謙譲者になれ。 逆説法
姉が心中を披瀝してくれました。もう、拾い歩きするように話題をあちこちに変えませんでした。すなわち、身内に恥をかかせるような尾籠な真似は、二度と行なわないと誓ったことを意味していました。 強意結尾法
その鉄道の走る様と云ったら、貧寒な者が不躾に走るようであり、天から受けた優れた稟質をドブ川で洗い尽くした老婆のようであり、鑑識眼を持たない切羽詰まった散財者が、すべてを取り戻そうと一世一代の大博打として株を品隲するようすでもある。 挙例法
あれをしてきた人が家に来ると、その人に対して彼女は必ず顰蹙を隠すことができない。そこにはどんな物事に対しても簡単に顰笑を表したくない思いが反作用していて、それを擯斥するつもりが、俗悪と亢進とをつい取り込んでしまうのだ。 くびき語法
そのことについて手助けしてあげようとするも、それに却って追い打ちをかけてしまう者の憫然さには、頑迷に黽勉するその人通有のどうしようもなさ、社会の紊乱に慷慨する退屈極まる直情的な善意がそこにはおおいに表れている。 形容語名詞化
大変な貧窶状態に陥っているので、助けになるようなものを同郷の男に頼み、ある物を送ってもらった。それにどことなく風韻を求めたわけではないが、なにかしら生活の足しになるような物を欲しかったので、苦味のある風懐を抱かせるようなそれをまったく予見していなかった。なぜ婚姻届だけを? 懸延法
先生にいただいたそれについての烈々たる諷諫は、わたしにとって炎以外の何物でもなかった。富貴な生まれでないからとそれを恥じているのなら、そこを目指す原動力とすればいい。家の、世間の、自分の風儀がどうしたというのだ、そんなものは捨てて、気づいた時に拾っていけばいい。 兼用法
伯父はおそらく風狂だろう。もしくは風姿がひどく劣っているだけなのかもしれない。諷誦された詩の姿は素晴らしくとも、見苦しいのは詩を諷誦する彼にちがいない。 交差配語法
あの老人は俗世の風霜にさらされたせいで、あのような枯淡になったようだ。風光明媚な処が都市開発によって風致を失うのではなく、むしろより美観を強めて特有の風物を発揮するようになった。まるで天国に近づいたみたいに。 誇張法
彼にとってこの蛇は不易の愛らしい。その内容を敷衍して君に説明することもないだろう、虚飾に蠱惑されない、浮華に陥らないヘビィなあいだから。 言葉遊び
ハサミとおまえを無理に附会するな! 切っても切れない不可分な関係なものだと思うか。不羈なおまえは世界に生きているが、血のないあれは生きていない。 修辞疑問
おしゃべりな拡声器は漏れ聞いたことを広言して吹き散らしては、あたりに吹き捲るから、腐朽した家屋に「崩れてくれませんか」と言っているようなもので、先輩政治家に不興を買ってしまう。 冗語法
世界をいろいろな角度で俯仰したか、不行跡は、 もう、葺くこと能わざる。 省略法
修辞技法と単語学習の為の例文集 酒井小言 @moopy3000
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