心に盤踞した不快感……、奇異な瘢痕、しかも煩瑣な菌にまみれている……。　黙説法

尻込みした友人の不甲斐なさが反照したというのか？　それは散歩していて、ついと水たまりに足をつっこんでしまったようなものだ。詳しく反証するまでもない、というのも生活をするうえの万障は誰にでもある。　問答法

彼の志の前には、それと同じ万丈の障害があるだろうか？　その問いを打ち消すことはできない、むしろ色彩豊かともいうべき繁縟の差し障りもあるだろう。平素から生半可でない意識でいないと、常に半醒しているのと同じことになる。　問答法

わたしは問う、この色紙は何かの半切だろうか？　ある範疇に関係したものである事はわかる。たしか役所の前で頒布されていたような。　問答法

自然よ、あいつはいつだって素直に叛服しない。自然の発露である人々に意図して合わせず、煩労を好物に、あらゆる汎論を反駁しようとする。　呼びかけ法

やるせない悲哀に満ちた話を生み出すには、わたしの創作力め！　ひと目につかぬ廂間を嗅ぎ出す鋭い感官を、延いては目端の利く鳥瞰的視点を！　呼びかけ法

さあさあ、今日はパン工場の火入れさ、アンパンマンよ！　空高く小麦粉を沖らせて、腹を空かせた鳥の眉宇をくすぐってくれ。　呼びかけ法

その果実の窪みといえば、前席の女子の膕に似ていて、新鮮で鮮やかな、強烈で衝撃的な、強く鋭く、眩しいほどに華々しく、さらに劇的に輝かしい鮮明な生々しさを持っていて、他の人に言わせれば僻事に違いないが、今まで他人の批評を僻耳することがなかったように、自分は注意力を持ち保ち、決して見間違えることはしない。　類語法

論理の構造に慣れないので、文章を精読しているうちに思考力が消耗してしまい、つい自分の知力を僻目に決めつけてしまう。というのも、学生時代ならもっと早く理解することが出来て、一つのことに長く時間を費やすこともなかっただろう。山間の村でもいいから、美観のある所へ行きたい。なぜなら、乏しくなった美感に刺激を与えて、生気、活気、生命力、気力、気迫、精力を取り戻したい。　類語法

彼の実情を自分に引き当ててみよう。つまり失恋の痛手を汲み取るのだ。だから腹に力を入れて引き絞った声で叫んだ。すると、力いっぱい声を出す行為に引き立てられて、壮烈、放胆、大胆、剛胆なる、雄々しい気持が蘇ってきた。　類語法

ああ、思考活動の憔悴か！　少しばかり引き繕った仕草や、称揚のために行った美挙、作為的で白々しい悲境の申し開きに、卑近を超過した坦々たるおためごかし、酒を飲んだわけでもないのに微醺した心地が、様々に透過する心象に磨り減ってしおれていく。　列挙法

キャンパスへ向う銀杏並木を歩いてみると、孔子にさえ引けを感じないだろうと見受けられる倨傲な顔つき、恋文を披見したことは決してなさそうな口元、みだらな品ばかりを鬻ぎそうな手の形、世間では久しいことのない人物が大勢いるではないか。　列挙法

彼女の人への振る舞いは美事に値する。その理由は、どんなつまらない事を一方的に話されても、微笑みを絶えず、話相手の興趣を拉ぐことはせず、微賤な社会地位にいる者にも蔑むことなく笑いかけ、たじろいだ真情に皮相にならない程度の労りを与え、鼻息を窺う様子なく誰とも仲良く接する。すなわち、綿々と続いてきた社会の美俗を凝集して、余すことなく具現化した希覯な存在なのだ。　列挙法

僕のことを臭いと思ったから顔を顰めたんだろう、なんて、そんなことは言いやしないけど、密やかにほくそ笑んだことは認めて欲しい。でなければ、僕も君同様に乾反ってしまいそうだ。　暗示的看過法

〔砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからなんだよ。を踏んで〕あの人は井戸を隠した砂漠じゃないんだから、媚態に惹かれて見損なっていただけだよ。つまり、下手ながらも直押しに押されたから、君は転んで目を回したのさ。直と見つめられても、構わないようにするんだな。　引喩

祭の最中に隣町の男がひたひたと情を尽くしていれば、この饑い気分は良い具合に満たされているはずで、ぞっとする男からの見せかけの筆意に転がされて、間違いをすることもなかっただろうに。　隠喩

畢竟、わたしにとって蒼穹はカレーの附属でしかなく、片足がない出立を引っ提げて、健常者の競技に揚々と参加する植物であり、必定つまはじきされるわかめなのだ。　隠喩連鎖法

シェイクスピアは、誰の言葉にも耳をかせ、自分のことはむやみに話すな、と語っているが、友人の絵画を見ると、溌剌した筆触から受ける感懐を述べずにはいられない。というのも、短い畢生のうち、毎日でも観に行くことになりそうで、考えようによっては、その絵の出会いがわたしを、世間から斯界に逼塞するようにしたようなものだ。　引用法