修辞技法と単語学習の為の例文集

第53話

〔人は苦悩することによってのみ、苦悩を忘れるを。踏まえて〕空か地上かを見たのか、それとも光や影などを見たのか、いや、雪と花とを見て、坂道を歩いているとあいつがのめりそうになり、言っていたよ、「人は苦悩することによってのみ、知能を忘れる」。何を媒介してその観念を得たのか、ときに、路端に転がったお守りに拝跪していたなぁ。　パロディ

〔人間の善が最高の法である。を踏まえて〕人間の便が最高の法である。あるスカトロジストが公明正大な意見を排撃して言ったものだ。その人の知性に対して、薬剤師によるのではなく、神の配剤がないものだろうか、とても拝察できる言葉ではなかった。　パロディ

外では沛然とした大雨が降り続いている。優しい天気なものだ。廃頽しつつある木造の工場に、我執の胚胎した権利欲はより膨らむだろう。　反語法

干潟には魚たちがいます。ただ道路事業に反対したのではなく、スローガンに背馳した活動をしたので、公団は団体に対して肺腑を痛めつける呵責をしました。廃滅するほどはやらないから、親切な人達なのです。　反語法

募金した時にもらった赤い羽根を胸に佩用して、道の奥まった処にあるみすぼらしい破屋に入った。屋内の内装には破格の豪壮さがあった。　反語法

庭の隅に植わる樫の葉隠れに入ると、不意に空翔ぶ生き物の羽風を受けて、安楽で、気散じで、快い、心地良い、快然たる良い気になり、捗捗しく見えていた心象風景が何とも萎えてしまった。　反漸層法

錚々たる人物だと感服していたが、同じ部屋に寝ていて、こうも歯噛みの音が煩く、厭わしく、忌まわしく、嫌らしげで、耳障りで、むかっ腹にさせられると、気持ち良さにますます嬉しくなってしまう。これほど音律の整わない破調に対して、何も計らうべきことはない。図らずも傍にはペンチが置いてある。　反漸層法

小川を歩いていると風向きがにわかに変わり、あたりは白雨に掩われた。揚々とした気分が害されたと、白眼を青みの空に向けることはない。気に入らない上司を定規で散々に搏撃している夢想に耽りながら、無念、残念、歯がゆい、心残り、無力感などに包まれつつ、傘を振り回して狂喜した。　反漸層法

それは心も軽く薄くなる薄紗の花びら、花びらは薄志の半端者に纏われて、纏われたそれは白日の下に照り輝く。それは心も軽く薄くなる。　反復法

レールの上を驀進する旧車両には白皙の旧友が乗っている。レールの上を驀進する白頭の鉄機械は彼に似ている。はつらつたる搏動を戛々と響かせて。　反復法

薄命な半生を振り返ると胆力が湧き上がる。希求する物からのはぐらかしを振り返ると胆力が湧き上がる。いかに節目節目をはぐってきたかを振り返ると胆力が湧き上がる。　反復法

君がその仕事に逸れたのは、莫連どもにとって痛かっただろうね、なにせ跛行しながら事を進めていかなければならなかったかもしれないからね。　皮肉法

もっと端居していて良いでしょうか？　ええ、もちろん、そんなに綺麗な縁側ではないですが、そうしたいなら構いませんよ（マア、端近ナ人ダケアッテ、室内ノ華麗ナ装飾ガ気ニナラナインダナァ、ドウリデ、三年間モ場末ニ住ンデイルハズダ）。　皮肉法

事の弾みにやってしまった。この人はとても綺麗な顔をしているから、内からのうずきに弾んでしまったのだ。相手に責任があるだろう、将謝らなくてはいけない。　皮肉法

いくらその衣服の肌合いが良くても、物が臭ければ皆身につけたいとは思わない。とはいえ、はたと気がつけばいいが、僅かと感じるぐらいで、本性をなかなか看取できないのだ。　諷喩

薄幸な女だったなどと言わないでくれ。なぜなら、かげろうにも空を翔ぶ喜びはあるだろう。わたしにも……、だから、もう発問しないで。撥乱される前の荒れた時代に聞いたことだった。　諷喩

尊敬している教授の講義を聴いて鼻白んでしまった。というのも、いくら上手な歌手でも風邪を引いていてはうまく歌えない。そして、とある家の戸にかかっていた花綵は、その家の花時を教えてくれる。　諷喩

彼のホームパーティーは花やいだ雰囲気に包まれている。大きな形の埴には種々の釉薬が塗られている。浮かれ騒ぐ気持ちは部屋一杯に憚っている。　平行法

庭園の端に伸びている樹木の葉叢に近づくと、庭師に声をかけられて落ち葉拾いを手伝わされる羽目になる。早く手伝いを終わらせたいと逸る気色に急かされると、食べたばかりの昼食の腹熟しになる。　平行法

はらはらとこぼれる涙でした。はらりと身を隠す人でした。波瀾とした感情の起伏でした。　平行法

名画のコピーを張り交ぜただけの作品と評価してしまった。その理由は……、多くの人に環視されてしまい、晴れがましさについ口が動いたとも……、つまり、喜びのあまり弔いの挽歌を結婚式で歌ってしまったのだ。　黙説法

半開の門扉に遠く視認できるものは……、たとえば事態の繁簡を識別できないことがある。すなわち心底から湧き上がる万感に翻弄されるからだ。　黙説法