第51話
掴んだの葉の突端から清新な芳香を感じられ、生硬な彼の表現は墨染めから光を失い彩りを取り戻したものの、澄み渡る純然はどう取り戻したらよいものだろうか。 躊躇逡巡法
顔面を極彩色に塗りたくった蛸顔の男に途轍を求めたところで、相手方の枢要な点を得ることは叶わず、心力から怒りの苦みばしった心痛に襲われ、手立てをわたしはどうするのだろう。 躊躇逡巡法
都鄙において単細胞生物のようにたくましい彼は環境にうまく適応して生きていける。蠕動する蛆虫のごとく腐肉を貪り、糟糠のやからをごちそうと相手するように、潺潺と流れる汚れた小川を物ともしない。 直喩
仕立て直したばかりの服に黒を塗布したように、胸をさらした女の篤心はあらゆる衝撃を受動して外部に暗色を放つ。日々の些々は樋を流れることなく積鬱して、截然とした崖を生み、錚錚とした鐘の音を響かせる。 直喩
金糸に飾られた衝立の前に立ち、頓に襲いかかってきた速成のからくり人形の吐き出した唾を袖に受け止め、造次も考えることをやめなかった殺陣をいざ実行に移し、眉目の楚々な女性は奴隷を苛むように奴を懲らしめた。 直喩
板敷きの酒場の中で手作業は行われ、床几に座っている男はともすると悵然となって内職を罵倒するか、重畳とした鬱憤を破裂させて縫い針を投げるだろう。とはいえ、何事にも淡如でいる彼にその可能性はない。 追加法
テラス席の大きな植木の傍に座り、首を傾げて本に夢中になっている男も肚裏には滞留する大きな荷物のわだかまりのようなものがあり、率然として荷を引き上げようとかかるかもしれない。交渉に疎漏があったとしても。 追加法
右肩の下がった眉毛の濃い女は取り上せることを知らず、損耗した熱りの感情、対蹠する無気力な白眼は強い。なにせ赤子と一緒に情趣を堕胎したのだから。 追加法
髑髏の眼窩に指を突っ込み、男は過去に取り拉いできた過小な部下達を思い出していた。暢達に字を書いていた鋭気な部下の腕に包丁を突き刺して、八つ当たりな懲膺を与えた。いや、ただ思い出しているのではなく、追悔しているのだ。 訂正法
菌糸にまみれた灰褐色の幹が林立していて、墨と泥とコールタールに塗りたくられたように、黄金に紛う展性の悪辣を端緒から通観すると、と書いたが、あちらの事物とこちらの意見には通底を見られなかった。 訂正法
腕を後ろに回して歩く彼は鈍根の人だ。悪罵を受けても痛痒を感じず、痛罵を助言として受け止める。とはいえ、珍妙な人なりに痛嘆することもある。 訂正法
闘牛祭りのポスターを貼られた壁に手をつけ、少女は中庭に寝そべっている飼い犬を見下ろした。あの人も犬だ、頓才ありげに誰に対しても熱誠極まった気遣いの行動を見せるが、わたしが数時間睨め続けると、見透かされたことにどぎまぎして、猜疑の念念に襲われて感情の乱れたことをまざまざと見せつけてくれる。 提喩
顔を繕うがために出された遁辞がうまくいったのか、狡知を働かせて機に乗じた商売人のごとく彼女の表情に皺は刻まれ、人を陥れる為の念慮は空気歪ませて錯覚を生み出す。年増の女の粘力は凄まじい。 提喩
燻る煙、揺蕩う馥郁たる芳香、呑噬しているのは酒か土地か、夢見心地に濃霧は舞い、眼下に沛然と赤雨の落ちるのを、肌に心地よさを覚える。 提喩
物憂い手つきで新聞をめくり、服膺していた家言をとんと思い出さず、広場に輻輳した大衆の大騒ぎしたという記事を膚浅な言葉で吐き捨てた。 転位修飾法
ナットを締めていくごとに彼は鋭敏な感覚が鈍麻していくのを確かに見つめ、いつか河辺で叔父に諷諫された憎たらしい時の場景を不壊の言葉と共に思い出され、仕事の作業過程の一つ一つを水に流れた繁縟の油に思われた。 転位修飾法
禿頭に袈裟姿であっても貪婪な性格を隠すにはならず、一度糜爛してしまった冗漫な口調の都市は、専門家を呼んで品隲するまでもなく、復興の手立てを記した計画書の備忘を失い、価値を下げるに任せるのであった。 転位修飾法
彼は若い男の燻製を見ると、わたしに向かってもう一体欲しいと告げた。これ以上密殺したくないわたしの心情を知りながら、蹣跚とした状態でそんな言葉を吐くとは……、何たる蔑ろを。満目暗澹たる荒野を脳裏に浮かびあがった。 転喩
我らの団体における内訌をその絵は表わしていた。本態とはいえないまでも、乱雑な色と筆の運びは、滂沱なる雨の激しさと通じる煩わしさを示している。 転喩
ちょっと、明日の天気は晴れかな……、晴れと雨を旁魄した天気がいいな、瞬ぐことのできない景観、おっと、耳立つこと口に挟むなよ、猶々に叩くからな。 転喩
ところどころ空白に隠されているが、中高な面は観てとれる。屡次に観察を間違える自分としては、蘭麝の香りに騙されてはいけない──それは鈍磨へ至らせる懶惰への誘いである。 同格法
高層ビルの屋上の突端に座り、彼女は三脚を構える──同時に脚も固定させる。遼遠を写し取ろうとする者の中でも、就中凛乎な姿勢だ。 同格法
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