第44話
西側諸国の紛争を探訪をするというので、友人を空港へ見送りに行くと、槍と盾を持ち馬に乗ってきた。得々とした破顔に刺々しい言葉を吐きたくなった。 諷喩
短慮な主人は悪知恵を吹き込まれる。短慮な妻はバーゲンに慌てふためく。二人は互いを低声で罵り合い、手奇麗に染め布を仕上げる。 平行法
足でふんばり開いた大傘を支える兄は堂々たる姿で立ち、破けた小傘を肩に掛けて妹は足を揃えて可愛らしく立つ。伝写されたイラストを手にしながら、わたしは上司に諂諛することを忘れた。 平行法
王冠を被る稚気な猿は右手に剣を、左手にかがり火を持って広間に立つ。分別を持った大人たちは両膝を地に、額を地面につけて猿を崇めて蹲踞する。獰悪な犯罪者も頭を下げており、その映像を観た同級生は瞠目していた。 平行法
その仏像の顔つきに馳駆する喜びが溢れていて、……馳駆ではなく、透徹した人間性と自分の行いに得心する頓着のない心持ちが見える。 黙説法
二人の中年男性はそれぞれが新聞の片端を持って、一緒になって内容を逐語的に読んでいる。ひどい……、徒爾な行為ではないだろうか、読過するのを待っていたら月が欠けてしまう。 黙説法
逐次に雑誌を読んでいく……、文章が続かない、動静を見つめ、口を噤んで韜晦する。 黙説法
坊主頭の二人の少年が逐電と駅のホームを駆けたのはなぜか、ほころんだ顔を見れば、単に犯罪を犯して逐電するのではなく、追いかけられること自体を目的に楽しがっているのだとわかる。沛然と降る夕立の中、破顔する少年達に心は洗われた。 問答法
低階級の有様を知見するにはどの方法が良いだろうか、夕方の三等列車に乗ればすぐにわかる。彼らに寧日が訪れることはなく、あらゆるものに忍従しているのだ。 問答法
写真について知悉するにはどうしたらよいかと、恰幅のよい二人の男はどのように述べただろうか。とにかく外を歩き写真を撮ることだ。才能のある人の言葉は妬ましい、図らずも凡人との差を痛感させるのだから。 問答法
おお、家柄よ、痴情の穴を埋めてくれるな、無理に排斥されれば、こちらも排撃に出るぞ。 呼びかけ法
お上よ、そんなに誅求しないでくれ、あまりに伸し掛られては、退っ引きらずに潰れてしまう。 呼びかけ法
路地に集まった人々の中で、痩せぎすの中年男性が腕を上げて呼びかけた。こら、王よ、衷情を忘れたのか、捻じくれた若者ばかりで、すぐにこの国は廃滅してしまうぞ。 呼びかけ法
二人の男の取っ組み合いは、醜く、醜悪で、見っともなく、とても見苦しいものだと、仲間の青年は警察官に注進した。霏々と振り続く雪の中、鼻息から湯気が漂った。 類語法
カメラを肩から提げる男の顔には、厳かで、厳として、厳めしく、厳然な気配が伺えるも、衷心がまったくないわけではなく、裏表としてむしろ同じ強さがある。同僚が声を引き絞って叫ぼうとすると、口に手をあてて制止すると、胸を梳く美々しい声で呼びかけた。 類語法
その一枚のスケッチには、気強く、強かで、利かん気な、逞しい労働者の姿が描かれており、紙の余白には当時の状況が注疏されている。直走りに画業に専修してきた若者の熱意が見事に表白されている。 類語法
大きな置き時計を中心に一人がけソファに座り合う夫婦にとって、マスカラの赤、虫かごのカブトムシ、縁のほつれた麦わら帽子、だしの抽出された昆布、マカロンの甘さ、蚊の嘴、どうでもよさそうなそれらは結婚生活の紐帯となっている。血縁、地縁、利害などの紐帯ではない、文色の判別できない種々の物によって、晏如とした毎日が保たれている。 列挙法
砦へ続く中道にして、絡みつく汗の戯れ、毛穴の噴火、額のしわ寄せ地震、脇の下の汚臭から清廉の輝き、蒸れた靴の中、右目の失明など、行程の最中に考えられる問題が予期したとおりに起こった。中道を保つのはいつだって難儀なことだから、悪し様に人に文句をつけることは日頃からあり、荒肝を抑えきれずに人を傷つけてしまうのだ。 列挙法
公園の一角にある濁ったプールには、肋骨の浮いた少年が両腕を挙げたり、胸の小さな女が控えめに水に浸かったり、プールサイドに立膝をする目の鋭い少年がいたり、肩車する兄弟がいたり、乳輪の大きく黒ずんだ少年がはにかんだり、腕まくりしたシャツで手を降る少女がいたり、小さな長方形に若い人間が稠密している。夜になると喧騒のプールは静まり、あだし。安気は昼の日差しのみに揺曳し、夜には悪念がはびこる。 列挙法
嵐の中に難破して、彼は超克したわけでなく、布団の中で日々寝て暮らしていたのだ。安危を気にかけることなく、安直な生活習慣に耽けているのだ。 暗示的看過法
必死に仕事している彼女だからこんなこと言いたくないが、すでに能力は凋残しているだろう。あたら色々な分野に手を出しては、余り有る才能も枯渇してしまう。 暗示的看過法
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます