修辞技法と単語学習の為の例文集

第41話

湖に浮かぶ小舟に乗る男は、大木のそばに浮かぶもの──なんだか形容しにくいものを信仰の対象と措定して崇めている。一緒に船に乗る幼なじみも哲学的な見地から措定している。純化されて、純美な一風景か。　同格法

たまたま通りかかった寺院、荘厳な古めかしい寺院を覗くと、上半身裸の男達が杖を振って宗教儀式をしており、わたしは側杖の言葉通り杖で体中を叩かれた。喧嘩の側杖ではなく、陽気な祭りに巻き込まれるとは、宿業だろうか、事が終わる頃には憔悴してそうだ。　同格法

町筋ともいえる目抜き通りのベンチに座り、粗放にギターを弾く酔っぱらいがいる。その外見通り粗放な暮らしをしており、情動に引きずられて行動しては、冗漫な愚痴をこぼしてばかりいた。　同語異義復言法

茂みの裏に一羽の飛べない鳥が立っている。細雨にそぼたれた体を震わせながら、しっかと地上に立っている。順境な生まれではないが、潤沢に輝く羽を持ち備えている。　同語異義復言法

男は女の手をひいて粗笨に切り開かれた道を歩く。素行の悪い男に連いて歩く女の道は険しいだろう。子供を寵愛して慰みにするだろう。家庭に潤色を添えられるだろうか。　同語異義復言法

兵士が拷問な粗慢をしたので反っ歯は追いかけられている。通常のやり方が辛気だったので、徹底して呻吟させたかったらしい。　倒装法

亜麻の腕を布に身に纏う女は前方に上げて、彼が戻ってくるのを空頼みにしている。大臣の話は参差で信じられず、心耳には届かない。　倒装法

揺らぐ部屋の中の白いカーテンで、白いドレスの少女は輪投げをしている。誰かが空音を口にしたので、残る二人は空音を口ずさみ、板敷が共鳴して空音を響かせる。心象に速やかに浸透していく。　倒装法

湖の畔で諳んじた詩歌を口ずさみ、二人はぱらぱら餌を落とす、黒い鴨に。随順に餌を口にして、随喜してがなる。　倒置法

疎林の一隅に植われた一本松の樹幹に近寄り、女性は振り返る、深慮のために。深碧の苔がそろりと近づいてくる。　倒置法

脊髄を伴った生首は中空をそろそろ漂い、広間に立って指を向けている女性へ近づく。そろそろ荒びの時だ、水声に怯えるだろう。　倒置法

存外なことに、模糊とした鮮明さがベールに包まれた彼女の横顔にあった。脆弱な顎の線と清麗に閉じられた瞼、存外ではない。　撞着語法

淫らで清澄な仕打ちに損耗してしまい、彼の石化した首を残してその他は溶けてしまった。すずろなあの人も、凄絶な彼の姿を哀れんで抱き抱える。　撞着語法

ローブを羽織るうら若い女性は水晶を眼前に持ち、軽侮しながら尊信する熟女を想った。彼女の行動規範の清濁が心緒をかき乱す。　撞着語法

不恰好な巨人は白白した女性の心情を忖度するも、巨人は巨人、推知するには繊細さが足りず、精緻な機微を汲み取ることはできない。　トートロジー

損亡は損亡だが、人生は陽気だ。世相をせせら笑って過ごすさ。　トートロジー

崖近くの岩根に腰掛け、赤い絹の損料を計算すると女は素面を強ばらせた。衰残は衰残でしかない、目を逸らしても代償は払われるべきだ。　トートロジー

彼でもない、あなたでもない、彼女から頽運が発せられている。親昵な人であるが、生々とした顔つきを長いこと見ていない。　換語法

彼女は退嬰な性向ではなく、決断に迫られて逡巡しているわけではない、心に描いていたとおりに事が進み北叟笑んでいるのだ。好意的な接遇から一転して首を切られるのだから、自分の人生について静思することもできないだろう。　換語法

ファーのついたコートを着る女性は大廈の建築物を目にして、感激するのではなく、陶酔するのでもなく、せぐりあげて祈った。昔日の労働の痛みに感応してしまい、意気が窄んでしまった。　換語法

裸身に褌のみという一見は近寄り難い風貌だが、彼は地球の歩き方だから旅行に関しての情報は詳しい。彷徨う魂をこれ以上なく体現していて、危険地域にもずんずんと足を踏み入れ、節節痛い目に遭うのだ。　換称

寛厚な妹とは対蹠なことに、姉は本当の雪女だ。涼風の吹く山間で人々が休んでいれば、凍てついた罵声をあびせ須く凍りつかせてしまう。　換称

あそこに立っている人は極楽鳥だから、退色した衣服は身にまとわないよ。精妙な手織物を精選しているらしいね。　換称

華やかで名をはしたマダムの退勢はまったく見窄らしくない。辛労にやすりがけられた心棒は衰微してしまい、余臭に胸がむかつくようだ。　緩徐法

台座に寄りかかって大息をつく姿は割に妖美なものだ。後に何遍も思い出されてじんわり浸潤し、気づけば心酔しきっているのだ。　緩徐法

戦に巻き込まれて退転してきた娘は悲惨ではない。すっかり退転してしまい、新味な衣装は着ず、健やかさの影もない。　緩徐法

家事に傷んだ手が独り者の耐乏を実証していた。生色は失われて、末枯れを迎える年頃だ。　換喩

その時の情況の大要を伝えると、丸裸の男は静かに息をついた。どこからか黒いコートに包まれた者が現れて、腕をだらっと垂らした男の両脇に手を入れて抱え上げた。筋張った体は重たそうに運ばれて、深甚な痛ましさを揺曳させて行った。　換喩