第39話
法学の先達として、金髪の少女は白髪頭の老人を慕っていたが、実際は先達らしい風体はなく、少女を口説く文句ばかり口にしていた。なんと捌けていない少女だ、若やかな性情は萎んでしまうだろう。 詠嘆法
テーブルに重く両腕を置く男の先途は、黒い物に包み込まれることだろう。先途は利鎌、先途を見失わずに、また先途を抱き続けるのだ。男を見下ろすは白い犬は慙恚することなく、しおらしく男を慕い続けるだろう。 婉曲法
庭に突っ立ている鷺は、赤い突起物を顫動させながら動かない。獣では醜行と呼べない、傍にいる鳩が嫉視しているからおかしい。 婉曲法
無邪気に丸い便器の中に浮いていた塊を食べたのだから、蔑視したところで彼には詮無いことだ。臭気をものともしない、忸怩たる気振りがまるでない。 婉曲法
悲愴な面持ちの老人は胸に腕を交差させ、全幅の真意を込めて潔白を宣言した。白いブラウスにはうっすら染みがついている。孜孜と働いていた漁業はうまくいっていたのだ、参看した結果によっては重ねてきた物をすべて失いかねない。 縁語
池に飛び込んだ彼の先鞭を、湖底の冷たさで友人は嬲った。せせら笑いは林に残響して、草木も一緒に讒謗しているよう。 縁語
わたしばかり足蹴にしないで、部屋の中央に両足を並べて被写体を全面に写したわけを闡明してください。今回の作品を参酌して、資性を発揮した批評を打ち立てたいのです。 縁語
識閾に障害が起きているので思惟しているようで自失している。譫妄に陥ている。自恃することなどとてもじゃないが無理だろう。 音彩法
ここは痩躯の巣窟だから、忍び笑いが多く、しだらない輩ばかりだ。 音彩法
倉皇とした咆哮など聞いたことがない。倉皇してじぶくる奴ならいるが。 音彩法
倒れた男に片足を乗せて、奏功喜び女は腰に手を当てる。さもしい点もあるが、彼女に慙愧は見受けられない。 掛詞
下から上まで体を眺めても、相好は素晴らしい。仕着せを嫌がる素振りもなく、自恣に任せて事にあたることを楽しがっている。 掛詞
部屋の中で侍女二人が相克していると、手足が繋がり半身が癒着してしてしまった。嗜虐な女と執拗な女が。 掛詞
前額の剥げかかった老人は、造作の凝った写真集を胸に抱いて視線を落とす。彫像の造作に悩み疲れ、ソファにもたれる固太りの女性の腹に顔をうずめると、饐えた匂いが股間から漂い、柔い下っ腹の弾力と相俟って華美な造作を彼にもたらした。迫られていた造作を忘れ、至上の戯れにふける。思い出は華やかに過ぎ、醜怪な現在の身の上が思いやられる。 活写法
イタリアの美術館を訪れた彼は自省せずに話し、美術館の内部の造作は素晴らしくてさぁ、当時の人々の造作に胸を打たれて三嘆したけどさぁ、あれね、肥満このうえない裸の幼児が、生意気な造作をしかめて、小便しながらワインを飲み干しているから、頭にきたよ。自分の子どもを虐げてばかりいる彼に、醜行を示唆してやりたい。 活写法
彼は電車に乗っていて造次も忘れられなかった。チョコと間違えてレンガを食べた子供を、わあわあと造次に囲んで慰める大人達の顔はおかしい、衆愚め、射幸を望んでばかりいる罰だ。 活写法
絹布を抱える子供、弓を強く弾く唇の赤い少女、腕を上げて脇を見せる乳房の小さな女性、花飾りの冠を抱く青年、それらが騒擾して淫風を盛んに、自適の悪習を広める。 括約法
株価の下落、交通事故によって幼児八人が即死、海産物の放射能汚染、政治家の汚職、それら新聞の記事で、どうして彼女は喪心したのだろう、その話を聞いて喪心する友人も正気じゃない。面倒事が重囲していて、どれも始末に悪い。 括約法
蒼然とした石室、蒼然とした額、蒼然とした机、それらを見て兜を被る男は蒼然となり、耳底を貫く絶叫をして、部屋をしどろな状況へ変えた。 括約法
子供の将来は静静と語る、不逞な大衆な中で少年は錚錚たる賢哲となり、錚錚たる声音に篤実を載せて衆を導くだろう。讒言に曲がることなく、嶄然と歩き進む。 活喩
木立の下を小川は淙淙と流れており、岸辺では着飾った人々が肉を焼き、酒を飲んで騒いでいた。こら、ゴミを散らかすな。その場にいた者の頭に声が響いた。地面に散在していた酒瓶が踊りだして、寂のある声で歌い出した。 活喩
テーブルを挟んで座る夫婦の食事風景には、窓辺から陽が差し込んで穏やかに見えるが、長年連れ添って擦れきった二人には互いの心根が割りすぎており、口を開けば喧嘩をするのが見えているので、うつむいて食事をしている。それでも、相即しながら家族は暮らしてきたと住まいは言うだろう。繁々と思い返せば、至極夫婦らしい食卓ではないかと気づく。 活喩
荘重に架かる橋を前にして、そういえば玄関の鍵は閉めただろうか、粛々と立ち尽くしてしまった。夙夜こうして立っていなければならないのだろうか。 脱線法
欄干にもたれる二人の男は壮丁だろう。まて、足が痒い。いまだ愁傷を知らず、宿望を語り合う。 脱線法
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