第37話
面長の女が子供を慰めようと(おそらく自分の子どもだろう)傍に近づくと、ターバンをまいた皺の多い男が掣肘して女性に抱きつく。硬骨の士として名を馳せているが、恍惚とした表情を浮かべている。 挿入法
頭の側面を刈上げている男は、以前まで成徳を求めてバーの仕事に励んでいたが、アイスピックで眼球を繰り抜かれて以来(それが巧みな早業だった)、目玉と一緒に徳を失い、眼帯した顔に沈鬱を浮かべて慳貪な真似ばかりするようになった。 挿入法
王冠を被るマントの男は槍を振りあげて、逃げる女に向かって投げつける。儕輩を裏切るものは許さない(そのくせ彼も裏切った経験がある)。仲間を大切にする気風がここの村に最近激発したのだ。 挿入法
静謐は我を動かし、大乱は他を静める。契機は人によって様々だ。 対照法
彼は友人の清福を願い、彼女は情人の厄災を欲する。慶福はどちらへ降りるだろう。 対照法
生面を望み、彼は国を出て野垂れ死にした。陋習を盲信し、彼は村にこもって餓死した。村の小料理屋で生面した健啖な少年から教えてもらったことだ。 対照法
ビル群の聳える都会の公園の中心に、剣を膝と膝の間に立てて座る貴公子の彫像がある。近傍の裏路地のアパートに住む少年は、彼に憧れて手紙を書いたことがあった。台座に座る姿は清遊しているように見えて、台座から上方を見据える風体には威風が備わっています。少年にしてみれば、光背に輝く彫像に見えただろうから、幸甚を得ていると手紙に書くのだ。 平行法
ツボを抱える小姓は身分に似合わず清麗な姿態をしており、女に道を尋ねている托鉢者は汚れた身なりとは違って高潔な人格を示す言葉遣いをしている。軽佻な口吻はまったくない。 平行法
波紋を描く清冽な泉の水面と、渦状を昇る香ばしい紫煙の中空に、巧緻で巧智な自然の知恵が見え隠れしていた。 平行法
鉄球を持ち上げる彼は清廉な人格者だと誰もが知っている……、それにしてもなんて大きな球だ、領主の豪儀な処罰とはいえ、こんな剛腹な姿を目にすることになるとは……。 黙説法
曲線を引き立たせたショートヘアと真紅の口紅に塗られた唇は、皮相的な飾りを好む人物と見せる……、ところが彼は歴史学において碩学の徒として名を知られており、軽挙に思える虚栄の身なりの内に、攻究し尽くした冷厳な目が潜んでいる。 黙説法
……赤心を行動に表したら……、茨の冠を被ることになった。……公徳はどこへ、巷間に拘引されるとは……。 黙説法
ベッドに眠る鶏冠頭の男はなぜ人形と添い寝するのか、若い頃の赤貧の時代に、人形と添い寝して貧苦に耐えていたことを忘れないためだ。素直な慷慨を保ち続け、社会の建前を軽信しないように。 問答法
どうして座椅子にもたれて女はせぐりあげるのか、食べ物をつかえて咳き上げているわけではない、食べ物が美味しくてしゃくりあげているのではない、食べ物に彼との記憶を思い返したからだ。懸想していた時の至純な心は減衰してしまい、気づけば狷介な熟女に成り下がっていたのだ。 問答法
台車を牽いて栗を売る老人のほうが、芸術家として名の高い彼女よりも世故に長けているだろうか。言うまでもない。衒気知らずの彼は客に栗を売って生きる為に、栗を売るための場所を得るために、どれだけ自己を顕示せずに付き合ってきただろう。 問答法
ああ、鳩よ、彼女をせしめようとする自分に罰を、気取られぬ前に立ち去り、謙抑を強く自分の身を締めるのだ。 呼びかけ法
ほら、見てみよ、世上は炬火に燃えている、あれをどう観るか、世上はそろそろ闇に飲まれる。高風を守って生き抜くか、厚情を捨て去ることはしないか。 呼びかけ法
聞け、おまえの性分を是正する為にヴァイオリンを弾きに来たんだ。傲岸と厚顔はやめろ、心身深い人を幻妖する瞞着はやめろ。 呼びかけ法
ドレスをめかした女は椅子に座る犬の足を握り、彼に顔をむけてせせら笑う。嘖々と話される名声、襤褸糞に罵られる評価、糞味噌に言われる名声、舌長な農婦、口幅ったい家庭教師、口荒くいななく馬、どんなおしゃべりな生き物よりも、彼にとっては小癪な存在だ。 類語法
杖をつく脊梁の太い男は通りがかりの二人に話しかけ、近頃の世相を尋ねると、酷薄な人々に溢れていて、過酷な労働を強いる人や惨たらしい仕事に従事させる人、無残な殺人事件、暴戻な強盗事件、酷で残虐な暴行事件、挙って悪い噂しか出てこない。 類語法
肉置きの丸い女は裸のまま頭に手を掛けて項垂れ、切歯して過去の幻影に耐える。困惑した周りの仲間達、当惑した彼、迷惑そうに顔をしかめる先生、閉口しきって歪んだ顔の妹、どの人も差し出がましい、彼女の手落ちが差し響いてどの人間も苦渋しきった面持ちだ。 類語法
役員からの使者は袋に手を入れて、刀剣、器、鏡、玉、重機、薬品、瓶詰め、果物、蜥蜴、花びら、髪の毛、苔むした石……、それらを取り出して編み物をする女に阿諛する。細腰は動かず、些々な喜びも顔に浮かべない。 列挙法
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます