第32話
古ぼけた煙突の聳える石畳の道に、我が町の瀟洒と噂される女が立っていた。短い丈の白いワンピースから、紫色のストッキングを穿いた脚がでている。確かに瀟洒な面もあるが、少々おばさん臭いところもある。痛ましい姿と言ったら皮肉になるだろう。 提喩
男の顔に浅ましい情趣が表われている。嘲笑うことに生きがいを感じるような顔だ。 転位修飾法
蕭蕭と糠雨の降る更地を、逞しい力で壺を持ち上げる女が歩いている。辺りは蕭蕭として、傍にいる男に哀感を起こさせる。 転位修飾法
多分絵に描かれた風景は蕭条とした海岸なのだろうが、厭わしい配色のせいでマヨネーズをかけたように木立が輝いている。画家の心の暗面には、一体何が隠されているのだろう。 転位修飾法
二人の兄弟は憔悴して頬がこけていた。畑に食べるものはあったが、どれも彼らの家族へ流れていった。食べ物のことで諍いは起こしたくなかった。 転喩
その絵をプレゼントされたのは、彼にとっての祥瑞となった。その絵を見ようとする人が大勢現れ、彼の部屋の中に札が吹雪となって吹き込んできた。隣の老婆は一驚するどころではすまなかった。 転喩
子供は悄然として道の小石を蹴った。悄然たる荒地にあばら家は一軒あるのみだ。暗愁は大人になり切らない彼を包む。 転喩
ひもじい顔したピエロを、悲愁に沈む道化を、大人達は悚然としながら見守った。射竦められたように動けない。 同格法
銃を背負う少壮な彼女、少壮の女性兵士、数多の困窮に耐えてきた。 同格法
ソーセージをつなぎ合わせた人々に、単純な柔らかい体の部位で構成されている人々、その真ん中で貼り付けにされた男がおり、その光景にわたしの情操はかき乱された。それを認めようとせずに、意地ずくに抗い、暗闘するのだ。 同格法
町を一望できる丘の上で、少女達が手をつないで輪になり、伝統の踊りに興じている姿は、昔ながらの情緒を湛えている。わたしの情緒は喜びに満ち溢れてきて、荒肝も安らいでいる。 同語意義復言法
戯画化された裸の巨人の絵を見て、あまりの醜悪さに子供達は聳動して痙攣を起こした。慌てふためく親の挙動はとても見てられなかった。 同語意義復言法
男は腕を広げて奴隷解放を唱道する。ついで精神の解放も唱える。 同語意義復言法
額に寄せて生得の皺をこちらへ睨みつける男がいる。意表をつかれた。 倒装法
胸板の厚い男は頭を抱えて反り返り、焦眉のいなせに状況に居ることを示していた。意想外のことなのに。 倒装法
女性はけったいな眼鏡をかけた車の後部座席に座り、小さい犬を賞美しつつ戯れる。互いに慰藉しあっているようにも見える。 倒装法
森での狂乱を描き直していたが、背景に消しゴムを当てすぎて消摩してしまった、森の暗さが。消摩させるつもりはなく、薄暮れを表したかったのだ。 倒置法
砂浜で女性の飛び跳ねる瞬間、空気を含んで膨らむドレスの裾に注意がいきがちだが、正味三秒は浮いていた、体は。それがどれほどの跳躍力を示しているだろう。華やかに見えても女性は正味のアスリートなのだ。隠忍せずにはいられなかったようだ。 倒置法
鍔の広い帽子をかぶる男の杖をつく姿は、悠々たる貴族の情味が表れており、その隣にいる馬をあやす男は、これまた情味のある仕草をしている、特に顔つきなんか。馬と主人に悦服しきっている。 倒置法
白い黒人達は海へ走る。その事実は正銘であり、朧ながら美しさがある。 撞着語法
弟の耳元に顔を寄せて、誘拐すべきと慫慂するので、血のつながりのない兄の顔が見苦しく思えた。あとあと懊悩するのではないだろうか。 撞着語法
その女は慌ただしく従容していて、風にまかせてドレスの裾を広げている。淫欲を掻き立てられた男どもが集まることだろう。 撞着語法
馬上の男が芝生に転がる玉へ目がけてステッキを振りかぶるのを、上空を漂う筋雲は喚声して眺め、人馬一体となった雄々しい姿に、清涼な霧でもって試合後の休息をとってもらいたいと思った。天上の方々も彼らの英姿を照覧なさっていることだろう。馬の駆けたあとの煙塵は雲間を抜いて届くはずだ。 活喩
彼の画筆の用い方は絵画制作の条理から外れていない、裕福な親子の纏う衣類の襞に陰影の艶が表れて、彼ら自身に生気が溢れているのはそのせいだ。絵は大束な調子で語り、静かに鑑賞したいわたしを悩ます。 活喩
あの男は自分の顔の醜さに気づかないのかしら、弛んだ口元にぎょろっとした目なんか、節操のない欲望丸出しの性格を表しているわ、それだから彼女の気持ちを考えることなく、産毛の触れ合うほど相手の頬に顔を近づけて、平然と変わらないでにやついていられるのね、焦慮して今にも逃げしたくなるのを我慢する彼女が可哀想。鏡台は虚ろに男女を映す。 活喩
首を曲げて振り返る髭の顔ではなく、太い指に爪繰られる鎖でもなく、顔に噛み付いて飲んでしまいそうな巨大な向日葵に心を奪われた、そのところを回顧録から抄録したと狐目の男は奄奄とした部屋の奥で告白した。 換語法
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