第31話
恰幅の良い中年の男は、若者の転がるのを冷笑していた。峻酷というほど厳然としているわけでなく、いくらか劣等なところも多い。腰周りに狸の肉を肥やして重い身をゆらして腹から嘲笑う、猥雑で醜悪な男だ。 迂言法
葡萄作りに惑溺していると紹介されると、ワインに溺れた赤鼻の男を思い浮かべるかもしれないが、大学では法学の俊才と名高く、雪白な肌の端正な青年だから驚いてしまう。なんと真面目で好感の持てる男だろう。 詠嘆法
白亜の塔の聳える教会の傍を、自転車に乗った胡麻塩頭の男が通った。にこやかな口元に人好きする目鼻立ちが庶民的だが、生物学の俊秀として斯界の面面に親しまれている。まあ、なんて気さくな人だこと。 詠嘆法
露悪な面に関しては率先して身をさらけ出すくせに、善行に関すると芋虫よりも縮こまってしまう、まったく、逡巡ところを間違えた変物だよ。 詠嘆法
友人は子供に用の足し方を諄々としつけるが、すこしばかりおつむが弱いせいか、諄々に世話する女中に頼ってばかりいる。 婉曲法
浚渫という言葉を使用する例が見つからず、混ざったものを腹から戻しそうだ。 婉曲法
服を脱がせたその下には、皮膚に覆われない潤沢な部分が隠されていた。これを手に入れるために潤沢を費やし、林立する人々を分けてここまでこぎつけたのだ。新たな潤沢を授かること間違いなしだ。 婉曲法
峠にやって来て一週間になり、標高の空気に薄さに体も馴致できたようで、高山病の山も乗り越えたようだ。あとは高い矜持の登山家に薫染され、崇高な志に馴致するだろう。それにしても麗々しい山容だな。 縁語
彼女は腕を組んでおかっぱ頭の少女から離れ、互いの立場を峻別してみせた。令色を繕い、麗質を憚ることなく、麗姿を見せつけて子供との違いをはっきりさせた。 縁語
星空の下を巡邏し始めると、目のある矩形の箱が飛んでおり、睫毛のない一面がわたしを睨め付けた。虹彩の開いていた自分はよくわからないでいたが、周囲の闇に慣れると、埃が入っていたらしく涙を流していた。 縁語
自余の事象は事実、じっとしていられない。 音彩法
卑猥にならないように鍾愛すると、他愛もない掛け構いは生まれてこない。 音彩法
蝋で固めた表情をして、情合のない状態と誰かがつぶやいたので、わたしはその人と情合できるだろうと思えた。 音彩法
路傍の人から役人の腐敗を聞かされて、情意を強く持った。 掛詞
あの人、頭を抱えているだけじゃなくて、わたし達に消閑させてくれればいいのに、類焼しちゃうわ。 掛詞
こんな顔色の男を描くなんて、上気じゃないか、なんだか顔が上気してきて、今にも上気を超えた挙措をしてしまいそうだ。劣情をそそられるだけでなく、陵辱されたい気になる。 掛詞
他人との関わり合いにも一風変わったものがあり、わたしが以前教会の隅で見た二人の情誼は印象に残り、深海色のローブを纏った二人の女性が、生首を足元にひどく穏やかに微笑み、眉目は修道女らしい慈愛に溢れていた。凄惨な生首ではなく、血の気の通わない理知的なやさしさ、なんだか混乱してきた。霖雨のせいで陋劣な頭になってしまったようだ。 活写法
仁愛を含む慎み深い微笑みと、下手に世話をせずに見守ろうとする愛護の眼差しは、斜光の射しこまれた横顔にあたり、黒髪の女性は慈しみの心を自分に思い出させた。わたしは今でもその時の敬虔な心持に薫陶されたことを、何物にも代えて感謝します。どんな困難も障碍とせず、立場を弁えて行動することを知りました。 活写法
村へ通じる捷径だと言われ、信じて足を踏み入れてみれば、茎の醜い黒い花々、人のうめき声のような樹皮、転がる骨の蔦、眼球のような木の実、どれも奇怪な物ばかりで、捷径を選ぶと、それだけの困難が身に降りかかるとわたしは知った。速やかに碌々な道を選んだことが、わたしの凡下な人間を証しているみたいだ。 活写法
広い庭、温かい両親、不足ない食事、かわいいペット、それらありきたりのものが、収容所に送られる子供達にとって憧憬するなによりのものだ。悪びれる子だって、侘びしくてしかたないのだ。 括約法
風に煽られる黄色い帆布、紺青の船端は波風に揺れ、暗澹とした密雲の下をちっぽけに進み、紺碧の海は光に失われて身を引ずりにかかってくる、それらの情景が脳裏に焼きつき、海という言葉に触れるたびに情景は襲い掛かってくる。 括約法
強盗、強姦、窃盗、詐欺、欺瞞に搾取、それらは村々に猖獗して、収拾することがない。平穏は猖獗した。廉直は通じない。 括約法
教室の真ん中で机に顔をつけている少年は、クラスの腫れ物として扱われ、静かにしている今は小康状態にある。数年前に内戦が収まり、国は今、小康にあり、安気に生活する人が前よりも多い。 提喩
情実に基づいて評価させてもらえるなら、一言どぎつい、情実を混ぜるなら、朴訥な顔をしている、情実にとらわれて述べるなら、これは神だ。などと言っているが、要するに彼は回りくどく阿諛しているのだ。 提喩
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