第28話
アルファベットで文句の綴られた白い十字架の前に立ち、ジャーナリストはわずかに俯いて瞑目する。清潔、清澄、清浄な心の持ち主であり、無垢、純潔、潔白な精神は眩しかった。清く、清らかな資性は善悪、清濁の混然する世の中で明滅して、衰弱死してしまったのだ。 類語法
今になっても自省することやまない酒場の光景が呼び起こされ、緑の軍服を着て端に立つ濫りに笑う唇の青い男や、壁に掛けられた銅版画に向かって独語をぶつぶつする老人、カウンター近くの椅子に腰掛けて猟銃を掲げる農夫、酒と埃の染みた板敷きの床、転がる折板、露の残る空の空き瓶、ワインの飛散、罵詈雑言、飛び交う批評に自慢が宙を埋め、赤い剥き出しの電球が小さな太陽となって場末の一角を赤暗く照らす。 列挙法
遠目からは新奇な形姿に見えたので、興味にそそられて咫尺すると、腰に幾重にも巻きつけた荒縄、尻からぶら下がる枯れたほた、頭の中央にだけ残る髪の毛、肌理の汚い裸、鼻をつく饐えた体臭、咫尺に見ると夢寐に現れるほどの印象を受けた。 列挙法
下心から発露された甘言に耳を貸さず、恰幅の良い男からの巧言も右から左に聞き流し、上手は信用せず、口先は掠めるだけで心を変えることはない。お世辞お愛想は適度に流し、贅言徒口与太話はきっとはねつけ、志操を保って仕事をこなしてきたと彼女は自得している。 列挙法
こんなことわざわざ言いたいないのだが、彼女達は男達に使嗾されているから、頭の天辺に荷物を載せて移動しているのだ。 暗示的看過法
青い顔した男の頭部は至大だと噂されているが、わたしにしてみれば磐石というほどではなく、おそらく他の人も思っていることだが、河原の小石ぐらいがいいところだろう。明察してくれるといいが。 暗示的看過法
玄関近くにいる犬は老いた主人に舌たるくじゃれる。自分の謬想かもしれないだろうが、主人は好色だった昔を偲んで、舌たるい女にしなだれかかられた方がどれだけましかと考えながら、それでも満更嫌な気はしないのだ。 暗示的看過法
女性は肘を立てて頭を抱える。難民の為にいかにテントを仕立てるべきだろうか。ほつれた箇所を仕立てる技術を子供達に仕立てるには、どのような教授方法を仕立てればいいのか。悶着しないで済むものか。 修辞疑問
山をはるかに超える上背の男は、睫毛のない巨大な目をこちらに向けて、口から涎を湑ませている。山腹に横たわる男の手には湑みきった麻布を枕に敷き、山岨に生える花に眼を向けて幽寂の境に陥ろうとしている。巨人がいかに阻もうとも覚ますことができるものか。 修辞疑問
テントの中で子供を抱える女は、したり、夕飯の献立を考え忘れていた。テントの前で籐椅子に凭れ掛かる女は、したり、野卑な男を撒いたことを喜んだ。これらが誘起した事を知ることができるだろうか。 修辞疑問
植木から生える黒人の黒い頭部には無数の針が突き刺さっており、したり顔をしている割に大変悲惨なように見える。憂色に染まって青黒くなっている。 冗語法
胸に荷物を抱えて歩く女性は、帽子がずれ落ちそうな頭を曲げてあちらに目を配る。実意の現れた顔つきだ。淀みなく実意が表われているのだろう。それか夕風の微風が誘因かもしれない。 冗語法
羽根のある骨の髑髏は悉皆食い尽くす。悉皆気味の悪いことに揚揚と羽ばたいている。 冗語法
桎梏から外れて車上の映写機、大空と送電線を背景に、清爽が吹き抜ける、憂憤の桎梏につかまらず、揺落しないように。 省略法
かけ離れている、質実な自分には、内部から腐食する、頭、老人の横顔のように残るだけ、落涙するだけのものはすでにない。 省略法
深い傘をさして、黒い傘、大空には疾雷の雄飛、読むものも読めない。指先から融解していく。 省略法
緑帆の船は自適に航海して、ゆうゆうゆらゆら海の怖さにあうことなく、冒険心の湧出のまにまに、ゆうゆうゆらゆら。 声喩
茄子畑に囲まれ、少年は鉄柵に手をかける。陽の光に眩しそうに顔をしかめるも、うれしそうにこちらを眺めるのは、子供心の残る彼の年頃を思えば至当だろう。土の余薫にすくすくと、いつか磊落に育つだろう。 声喩
三つ網の女性は目を瞑って顔の筋を引き締めた。しどけないと何度言われるようと、女は自分をそうは思わない。しどけない年頃でも善悪と美醜を是非し、寝しなにほとほと木戸を叩かれても、一度たりとも相手にしなかった。容喙する奴こそ身持ちが悪いのだから、どうしてそんな奴らの言葉を真にうけるのだ。 声喩
蔓草模様のワンピースを着た少女が頭を垂れて格子鉄線に寄り掛かろうとするのを、離れたところにいた女は腰に手をあてて見ていた。しとどに濡れたその少女が血にまみれるのを、どうやってその女は防ぐことができただろうか。 設疑法
一幅の絵から科を探してみよう、右上方から伸びる触手のようなもの、左上方に垂れる人顔が浮かんだ木の実、どれも薄気味悪い科だ。黒い背景にぽつんと佇むドレスの女性に科を探そうとしても、このような絵では見つけ出すことができるだろうか。 設疑法
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