前のエピソード――第26話

近所の牛飼い女を誑かして金品を貢がせ、水車小屋の女中を誑し込んで土地の権利を手に入れ、隣村の百姓女をかどわかして赤子を孕ませ、あげくの果ては家の貯蓄を持って逃げる。あんたの恣意なままの所業がどれだけ女達を苦しめたか、すこしは分かっているのかい。　挙例法

不羈、もしくは放漫に生きてきたことを示威するため、卵と影を踏みつけた。　くびぎ語法

過去と現実を誣いることは許されない。　くびぎ語法

彼女と失敗は歯牙にかけて標榜できない。　くびぎ語法

しかして彼の威勢の良さは備忘されて、いざの事態に効果を発揮した。　形容語名詞化

彼の勇姿を一目見て、そのしかつめらしさに人心地を感じなかった。今にも顔が引き攣りそうだ。　形容語名詞化

俳優の強情さが、病的な彼の今をしからしめた。眉宇は歪みきって鼻息を窺ってばかりいる。　形容語名詞化

その光景にぶつかって頭がこんがらかった。泉と思われる場所に女性が座り込み、何かにもたれてうたた寝している。土手の芝には細波が立ち、牙の鋭い赤い魚が不気味な眼を光らせて覗いている。背景のビルと針葉樹林に鹿が紛れ込み、蔓草に覆われてしまいそうだ。然り。それがわたしの家の庭だったとさっき気づいた。　懸延法

怪物としか思えない体格だ。呆然としてしまった。放漫な人の体つきではなく、朴訥な男の努力によって磨かれたものにみえる。だが生まれつきのものだろう。わたしに頬返しできない。仕儀によってはぽつねんとするか、没趣味になるかもしれない。勃々たる筋肉の犇き、それが嬰児の本然の体だから放擲したくなる。　懸延法

不細工な面輪の女は裸になり、不恰好な体を座らせる。肥溜めを髣髴させる無様な姿だ。識閾が閉塞しそうだ。その隣にいる顔の大きな婆さんがこれまた蔑視に値する、偏頗な仕打ちを存分得心できるほどの面構えをしている。箆棒に醜い。それらがわたしの妹達だ。　懸延法

そこに絨毯とわたしを如くことはできない。そんな真似してまで彼らに如くことになっても、わたしは嫌なだけだ。　兼用法

彼の生き方と自分の失態を鑑みて忸怩たる本心に気づく。　兼用法

今さら仏が示現しても実生活も精神もうれしくない。違った示現、たとえば彼女ができたり宝くじがあたるようなことがいい。　兼用法

女中は中庭に出てきて、指呼の間まで支配人に近づき、面貌を窺って指呼すると、休みが欲しいから仕事を怠けたまでだ。仕事を怠けたいから休んでいたわけではない。猛勢に言い訳する。　交差配語法

激浪に浮かぶ二人は色鮮やかな空想に絡まりながら、風波の猛威を夢幻に楽しがる。干からびかかった男の胸に体を預け、絹を腰に巻く女は顔をあげて男に耳語すると、青い絨毯に揺れる磯巾着、磯巾着は絨毯に揺られて青ざめる、しわがれた声で囁いた。　交差配語法

丘の麓にいる裸の戦士達に声をかけたら、しこたまやって来て、黒い裸は奇異に感じ、裸の黒さは逞しく汗を掻いていた。　交差配語法

稜線に斜め線が入っていて、緑茶をこぼした色と茶羽ごきぶりが走り回る色使いに面は彩色され、縫い目の荒い雑巾を重ねた煉獄の絵画にしか見えなかった。いくら自恣に任せたといって、並みの感性では滅多な絵は描けない、おそらく目端の利かない奴なのだろう。　誇張法

彼は常に自恃を誇りにしているので、槍を振り投げる直前の尻が太陽を二つ重ねたように見えるのだろう。　誇張法

噎せ返る臭いが充満している部屋の中で、僧侶の彼は黙を保っているが、部屋は静寂から逃れようと渦状の埃を舞い上げて、魔魅が無尽に蠢いているようだ。　誇張法

ライオンの鬣に似た髪の男は、万事において自若しており、股のいちもつと合わせて百獣の王と仲間から呼ばれている。　言葉遊び

波打ち際に寝そべっている痴呆な男を見て、至純な心の持ち主だと感心することはなく、スイマーに襲われて寝そべる小便小僧にしか思えなかった。　言葉遊び

三角コーンを食べているようだろ？　嗤笑してくれよ。漫然とこんなことをしているんだ、ほら、見ろよ、腹が出ているだろ？　ひまんじんなんだよ。蹣跚としちまう、おれを殺してくれ。身悶えそうだ。　言葉遊び

馬に乗るアラブの戦士達はサーベルを頭上に振りかざし、熾盛なる雄叫びをあげて砂漠を走る。向こう見ずな中年の目は血走り、命知らずの若者は声を猛らせ、無謀な集団に見える戦士達は猛然とオアシスを目指し、獅子奮迅に敵と戦うことだろう。　類語法

仕事から戻ると古い友人から私信が届いており、最近見かけた老婆についての所見が書かれており、肩に垂れる髪の毛は一見すると若い女のものと勘違いするが、面長な顔に目を滑らせると、皺の弛んだ老婆の顔は醜く、醜悪な目の窪みから尖った鼻まであくどい感じをうけ、小さく噤んだ口から猛悪な言葉がぽつぽつと漏れてきそうで、周囲は毒霧に満ち、見苦しい老婆は直ちに哄笑しそうに見えた。　類語法