第26話
そぼ濡れた少年は、笑顔を見せて通りを歩き、ぐしょ濡れになった中年は、得意げな顔してゆったり歩く。その先には二人の青年が鞘当てをしており、そのはるか先では豚同士が鞘当てしている。膚浅な行為だ。 平行法
ドレスの裾がベッドから垂れて、……さやさやと音を鳴らす。美装された後姿は悲泣していた。 黙説法
黒い山の稜線の真上を黒雲が多い被さる。さらぬだに暗い暮色に影を落とし、現世をさらに暗いものへと追いやるのではないか。美観はいずこへ……。 黙説法
高窓から部屋の中にいる大衆に向かって砂礫が投げられ、土煙が舞い上がり、……霏々として騒擾は取り静められない。 黙説法
ウエスタンハットをかぶり猟銃を持って後ろを振りかえる男を見て、わたしは本を地面に落した。どうしてかって言われれば、あまりにも変質者だったから、気づけば幾ばくの年月が過ぎて、その時落した本は散逸していた。そんな一年があった。 問答法
戦の惨禍に逢着しても、戦うことはやめないだろう。なぜ武器を持って戦場に赴くのだろうか、守るべきものがそれぞれにあるからだ。飄然とした奴にはわからないだろう。 問答法
二枚の写真を参看するとよくわかる、いかに色が違うだろうか、左は完全なモノクロであり、表面的であって空気感と奥行きがなくまるで絵のようだが、右の写真はセピア色の質量を感じられる。細かい肌理まで感じ取れて、たしかにその人間が存在していたという息吹を見ることができる。 問答法
なんであんな失態をしでかしたのだろう、慙愧を感じる前に後悔の念が浮かぶ。ああ、肉屋の主人を慙愧するつもりはないが、誣告されることは必定だったのだ。 呼びかけ法
おおい、素晴らしい柵だというのに、ここが欠けて、残欠しちまっているよ。こりゃ不承ですよ。 呼びかけ法
おい君、あの人を讒言したのか。そいつは不行跡だな。 呼びかけ法
二人は三五の日盛りに人生を終えた。たいした成果のない退屈な仕事につき、熱情のない伴侶を得て、毎日を淡々と繰り返して死んでいった。寥々とした平地に三五として家の建つ村を、彼らは一度たりとも離れることはなかった。 奇先法
戦いは人を狂れさせる。会戦後の散々な実景を見て彼は微笑み、散々になった兵士を一人捉まえて、散々に打ち据えながら復仇を誓った。本に風狂なさまだった。 奇先法
天は怒っている。大気は丘を駆け抜けて、丈の高い青草を吹きつけて腰を折る。雨がざんざんと吹き降ることだろう。不壊な豪気さえもたないだろう。 奇先法
日焼けするので暫時お待ちください。なんでこんな風霜の日になんで裸になるかって? 凛冽な日にするからこそ、性根が鍛えられるんです。そんな目で見ないでください。貧窶したように見えますか。 逆説法
質実な男は手紙を書きながら考える、通例にのっとって参酌しても変わらない、ここは強いて悪い点をとりあげ、反作用でもって喚起させるべきだ。 逆説法
砦には残燭が残り、しめやかな細雨に包まれている。士気をあげる為に宴でも催したいが、ここはあえて墓場の静けさを保ち、富源となる行動力を溜めておくべきだ。だから覆滅を祈ってあの親父に負託しようじゃないか。 逆説法
裸の少年がのたくりながら何とか進んでいるのは、讒訴され続けて憫笑されたことに稟質は汚され、薄汚れた心を取り戻そうと讒訴するためだ。もう戻れない、そんな気心になってしまっては謬想に取りつかれて、卑俗へ下るばかりだ。誹謗の手からはどうやったって逃げられない。 強意結尾法
口にペンを銜えた女性記者が尋ねたところ、喬木の根方に立っていた夫婦が急に抱き合ったので三嘆し、芝にいた犬が二本足で立って飛揚したから三嘆し、近くのテントにいた人々が驚きに合わせて三嘆したらしい。ようするに紊乱で、かつ大袈裟な連中なのだ。 強意結尾法
あばら骨の浮いた老人を磔にするので、手首と足首の腱を切り、錐でところどころ肉を刺し、日脚の射さない廂間に打ち付けた。ひどく酸鼻な場景に、卒倒する者が多く、敏活な少年に介抱をまかせた。こういう時の大人は如何にだらしないだろう。脆いと思われる子供のほうが辛抱強いのだ。 強意結尾法
一つの言葉を説明しよう。戦士は地合の優れないマントを羽織り、地合の低迷する果物市場へと足を運ぶ。もしくは囲碁の勝負で使われる地合など、一つの言葉にも別の意味が含まれている。 挙例法
ターバンを頭に巻いた男は、口髭を摩りながら思惟した。黒胡椒の輸送は船にするべきか、それとも駱駝を使うべきか、それは天候によって変わる、時化になれば全てを失うかもしれない、日照りにあえば駱駝は力尽きる、それとも別の香辛料を列車に乗せて運ぶか、いや、脱輪して横転しては困る、航空便は、墜落する可能性がある。取るに足りない物事かもしれないが、頻々と商品を損失しているので、彼は慎重になっているのだ。 挙例法
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