第25話
野道ですれ違った老人に行き方を尋ねると、狭霧に惑わされずに言われたとおり進みなさい、いつか濃霧に包まれるだろうが、右手に見える野辺ではなく、左に広がる長閑やかな野面でもなく、緑草の繁茂する野路を半道すすむのだ、とくどく教えられた。 換語法
その親子が若盛りの母親と若やかな息子に見えるのは、部屋が薄暗がりに、まるで鈍色に染まっているからだろう。わたしは目をこすり、錯視の影響を取り払おうとしたが、驟雨ではなく、日照り雨でもなく、糠雨が降ったように背景は曇ってしまった。 換語法
大地から噴き登る白煙に体は総毛立ち、月でもなく、太陽でもなく、手榴弾の閃光に索然とした。蔓延る死の手に生の守りは剥落した。 換語法
顎の長い貴族は仲間から鳩山元首相と呼ばれており、彼が議論に加わると論旨は錯綜してしまい、発問する人はいなくなってしまう。 換称
彼女が人怖じしながらも上機嫌に笑うのは、唇の青いふじきがまた索漠として頭を垂れたからだ。 換称
ええ、さしあたり自分の想念を言わせてもらえれば、さしあたりのことですから、地蔵の頭のわたしは彼の説に反証することなどできず、女性のスカートの襞にぬたくりたいだけです。薄志だなんて思わないでください。 換称
殺戮兵器を前にしながらたんぽぽの花を見てさしぐむとは、いささか頭が弱いようだ。兵士に波及しなければいいが。 緩叙法
麦を抱えて歩く少年に余所余所しい表情、もしくは白々しい顔色つきが見えるのは、鈍臭な差し障りを孕んでいるからだ。なかなか浅知恵があるではないか。 緩叙法
さしずめがいつか訪れるから、老人はこの子に銃の使い方を教えている。さしずめ必要なくても、さしずめ銃を持って立つことになる。それは簡単な生き方にならない。 緩叙法
常緑樹の根方に座り彼は飄々としている。飄逸な男だと村中で噂されており、さしたる執着を持たずに生活していた。さしたる貧窮もなく生活に憂患することもないが、指輪を通したい女性に出会い感情の色が日常に表われるようになった。 換喩
プラカードを持ち街頭で演説していた男は、鼻の潰れた女に差し出がましい反駁をくらったので、すっかり拗ねてしまい、そっぽを向いて口を閉じてしまった。 換喩
スーツにネクタイ姿の男は、友人から差し出口され、考えていたことを忘れて破顔した。のっぴきらない状況を打開する捗捗しい良案は浮かばない。 換喩
少女の泣き叫ぶ姿を目の当たりして、これは多くの人に差し響くと予覚した。戦慄はのっけから衆愚を殴り飛ばすだろう。 擬人法
蝶に差し招かれて栗毛の少女は腕を伸ばすが、手を繋いでいた赤毛の少女に止められて届かなかった。はるか後方では金髪の男が村人を差し招いて、抜け抜けと逃げ出した商人を排撃していた。 擬人法
痛々しいなんて、さしも感じなかった。倒れているあの子を大地は大人しく受け入れる。さしも酷い場景なのに、心はさざめかない。 擬人法
彼は手紙を読んでいる最中に殺されたらしく、左手の把持する手紙と、右手の持つ羽根ペンに寸時前の動きを思い浮かべることができる。喚起された小景に些少の手を加えれば、つまらない事件の真因を探すことができるだろう。 皮肉法
きっと真っ直ぐ見据える目が強く、定めし気強い性格だろう。筋の取った鼻梁は定めし悲哀な鼻翼を供えているだろう。定めし悲愁の憤りが弱いことだろう。 皮肉法
女性は手をあげて嗟嘆した。この子供のしでかしたことをひたに嗟嘆するのはやさしすぎる。 皮肉法
誇大妄想にとりつかれた矯激な男に左端したのには、彼らなりの事由があったのだ。糞虫の扱いを受けていて、非分なあしらいに逼塞していたのだ。 比喩
おい、ここを見ろよ、おまえのせいで削られたように擦過したんだぜ。 比喩
神父さん、ちょっと聞いてくれよ、微視的な研究に蹉跌しちまった。この手、こいつが泡水のように蹉跌させちまった。皮相しか見ていなかったんだ。 比喩
ベッドに腰掛けて語る男は聡いのだが、少々鼻にかけるきらいもある。心の聡い彼はやり切れず、背を向けて話を聞いていた。 諷喩
あんたが言うほどさのみ悪い生活じゃないさ、批点を探さないでくれ、そんなに悲傷な顔をしているか、蔑視しながらさのみ敷衍されると、無様な気がしてくる。言葉は要らないよ。 諷喩
さばかり気持良いわけじゃないさ、義務みたいなものだよ、不躾なものさ、さばかり仲良さそうに見えても、顰笑しながら懐をつつきあってばかりさ。 諷喩
白いスープ皿は輝かしい光沢を放って、テーブルの隅にぽつんと置かれていた。黄緑色の洋ナシはくすんだ色に沈んで、テーブルの中央に重々しく置かれていた。瑣末なことかもしれないが、彼にとって食事会の先行きを読むのに十分だった。 平行法
さもしい身なりの老人は大理石に座り、背を丸めて顔を俯かせる。さもしい性向の男は階段に座り、顔をあげて前方のあげ頭を眺める。 平行法
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