第24話
見ろ、あの男、あんな数のライオンに囲まれているぞ、獣神の権化か、それとも獣性の権化か、獣の獣だろうか。 トートロジー
モデルは板敷きの床に横臥し、滾々と流れた過去の色恋を思い出す。兆候はあった、凋落するのを嫌忌せす、遅疑せず、情事は情事として有りの儘受け入れた。濡れ事は滾々としていたのだし。 トートロジー
貧しい身なりの人でしたが、懇志がありました。沈静することもありましたが、沈痛な顔付きはではありませんでした。だから喋喋と嘲罵してやったわ。 破調法
森で裸体の男を二人見たが、互いに懇切な愛撫をしていのだろう、薄暗かったがそれだけは瞭然と見て取れた。うえぇ、気持わりい。 破調法
戦場は渾然となり、裸の男と赤子の肉体は見分けがつかない。その中にただ一人だけ渾然とした女性が騒乱を収めようと、知悉している内情を陳弁して沈淪しないよう訴えていたんだぜ。 破調法
子曰く、父母在せば、遠くに遊びます。だってほんと怖い両親だから、近くで遊んでいるだけで昏倒しますよ。珍談だなんて思わないでください。 パロディー
嘆きつつひとりぬるぬる、すべすべぺたん。ああ、裁かないで、淫猥な行為だと知らずにやっていたんだ、懇篤にしてやったじゃないか、そんなに痛憤したり憤激しないでくれ。 パロディー
あれほどの距離を歩いてきたのだから、困憊していても不思議ではないのに、痛痒感じず、疲れをものとも脊柱を真っ直ぐに座る。そりゃそうだ、電池で動いているんだから。 パロディー
二人の男は混迷の果てに行き倒れ、その傍に座る女性は額を手に、膝で腕を支えて混迷に陥っている。役人から痛罵を食らい、痛嘆に耐えられなかったのだ。今は幸せな夢にいることだろう。 反語法
親戚同士の角突き合いが渾和したので、丸眼鏡の女性は息を吐いて顎に手を添えた。大人らしい争いだったこと。 反語法
徹宵の創作品を突っ返されたのに、さあらぬ顔して戻ってきた。相手の言い分が悪いことは定かなのに、言い訳しないのだから賢い人だ。 反語法
二人とも似た顔しているから差異を探しても、瞳の色、眉毛の生え方、鼻筋、唇の膨らみ具合、頬骨の張り、どれもほとんど違いがないから、見切りをつけて後ろに下がってみると、やっと見つけた。顔の大きさが甚だしく開いている。 反漸層法
古文書の細字に読み疲れて、腕をだらりと男は赤い麻布の敷かれた脚に倒れこんだ。勇敢な意志、勇猛な野心、堂々とした胸板、凛呼たる剣さばき、男は偉大な将軍と仰がれているが、文字を読むと逆上せてしまう。 反漸層法
罪障である背中の腫れを癒そうと、鬱蒼とする森の中を歩き、裸足は小枝を踏む痛みに耐えて血を流し、虫に刺された柔肌は艶やかさを失い、綴れた実の棘に刺されて額から血潮が滴るのも、すべて電車待ちの構内で考えた照れ隠しの妄想だった。 反漸層法
藁の敷かれた石室の中で、矍鑠な白髪頭の男は後ろに手を縛られたまま、幾日にも渡って苛められた拷問の内容を詳らかに訴えると、下着を身につけない女は訴えに対して苛む。おまえが悪い。おまえが悪い。 反復法
聊か眉毛が太い気もするが、悠揚と座る姿に才走る何かを感じられる。聊か眉毛が太い気もするが、照り返す光に目を細めない典雅で閑雅、なにより優艶な面輪に見とれてしまう。 反復法
槍を片手に高く持ち上げて、犀利男は金髪の女を抱える。珍妙な場景ではなく、まさしく豪放な男の勇ましい姿であり、神話を現実のものと首肯させる神々しい場景なのだ。 反復法
膝を伸ばしレンガ通りを競歩する初老の男、赤子を抱えて若い兵隊に話しかけながら歩く婦人、スカートを掴み裾をあげて走る老婆、にこやかに顔を横に向けて駆ける少年、それらの人達がフィルムに採録されている。 括約法
田舎道を歩きながら遠くに聳える山脈を望見すると、乾燥してるせいか光は冴え返り、峨峨とした威容に身は震えた。目当てのない旅、長い旅程、疲れた脚、空いた腹、それらが冴え返る荒野の風に砥がれ、感応を強く身は忍従に泣きしきる。 括約法
丈のある日傘、車上に高く伸びる釣竿、牛のごとき重量のある二輪車、巻き上がる砂埃、それらが図らずも反照し合い目を逆しまにする。花盛りの花曇がこの世の時候を逆しまに驀進し、寧日を突き破って背馳していると錯覚する。 括約法
墓石に凭れ掛かって顔を伏せると、賢しらに能弁をふるって駁論した報いだよ、そんなに悲しまないでくれ、賢しらに煩労を好んで反駁した結果だよ、そう言われたように錯覚したが、女は幻聴に対して腹立たしく思うだけだった。 活喩
どこからか大勇が語り掛けてきた。逸る気持ちを抑えるべきではなく、破調を恐れずに鼓吹して逆寄せすべきだ。待ち受けている間に疲弊して、破砕されてしまうぞ。彼は憚りなく喊声をあげて、敵陣を罵詈しながら馳駆した。 活喩
いつでも先潜りして武功あげるべきだ。それが戦場で命を得る方法だ。敵だけでなく、仲間に対しても先潜りして、歯噛みすることのないようこなすのだ。彼の経験はそうつぶやくと、遠くから歯切れの良い号令がかかった。 活喩
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