第23話
そんな目遣いで睨んでいては、心安立ては得られない。視界が開けず、視野はいつまでも井戸の中から空を見上げて、いつか目は潰れてしまうだろう。 縁語
草を摘んで心遣り、種種の気病みに転がり、腐すことなく衣を変える。 音彩法
巨細一切委細に話す。達観したことを巨細漏らさず語ろうと意を決した顔つきだ。 音彩法
俺に腰折れを下され。たじれることはありませんので。 音彩法
腰高な人と長くはおれない。テントに蟄居している月日が長く、背の曲った自分は立ち交ることができず、堪らないのだ。 掛詞
岩に足を乗せている男は、ある婦人の腰元を汚した。見た目どおり多知で謀ることの好きな怪漢だ。 掛詞
小道を歩いていると弧身が一入身に染みて、同伴探しの端緒となればと多端な日々を羨望してしまう。 掛詞
ある瞬間に狡い自分を見出してぎくりとした。それは高く売れるんだぜ、間違いない、おれの知り合いにその道のプロがいて、そいつが断言したからはずれはないさ、これらの喋りが狡くないと言えるだろうか。まるでたかりだ。 活写法
部屋の中央に据えられた額縁に集まり、人々は各々の所見を鼓吹しあう。銀杏の色づいた黄色が秀逸だ、斜面にへばり付く緑のおぞましさが卓抜だ、山にかかる雲の形が傑出している、画家はそれらの意見に鼓吹されて、ついつい鼓吹の楽に浮かれてしまい、嘆賞されない不始末をしでかした。 活写法
道路を走る車の灯篭流れを幾何模様の窓枠に施された尖塔が見下ろし、偉大なる星々は中空の闇に瞬いて星雲を模る。そんな都会の一風景を観望、いや、遠望して、飽くまでも姑息な遣り口はしないと決めた。 活写法
村はずれの大木の下では、村人達が挙って同伴探しの踊りに参加して、淫らで稠密な擾乱を催している。 転位修飾法
蔓草模様を全身に彫り込まれた老婆は手を組み合わせ、御託は要らないと語るように目配せする。痒い手心は望まない、詳らかにしては跳梁されて、畢竟沈湎に陥るのだ。 転位修飾法
肥え太った老醜の男に、どうして御多分があるのか倹しい男にはわからなかった。つんのめる態度に男は蹣跚となり、鼎座していた者の手を踏みつけた。 転位修飾法
大食漢を愛してまともにいられるくらいだから、あの女は克己することなく重荷を背負っていけるだろう。 転喩
具に教えようと努めて刻苦したからこそ、点景となった者は随喜し、腕輪をした女は彼を労わるのだ。 転喩
黒縁眼鏡の男の頭に鶏が乗っているので、主人を忽諸にするなと沈勇な猫は諭告するが、主人の膝の上にいたので言葉は忽諸として出てこなかった。 転喩
忽然と男達が現れたので、女はなされるがままにさらわれた。膝に腕をまわされ、背中を抱えられて持ち上げられた。稚気な好奇心にも唆された。 同格法。
骨法が砕けるほど馳駆していた。村の骨法となっていた風儀を改める為。骨法を僅かに残しながら。革命の骨法を習う。戦いの方法を学ぶ。 同格法
先生への汚辱をあの子がいかに糊塗したかは、椅子に置いてきぼりにされた沈毅な野菜人形が陳弁していた。狭く見つめる目顔が強弁していた。 同格法
男は手に葡萄を持って女を睨んでいる。ついさっきまでは長広舌に言祝ぐ姿にあったが、今は不貞を働いていると睨んでいる。 同語異義復言法
少年が隔壁に頬をつけて立ち尽くしているのは、パンを捏ね返していたつもりが、仕事の役割を捏ね返す結果になり、手抜かりといえる手落ちに恬としていられないからだ。 同語異義復言法
つくねんと蹲ってしまったから、鼓舞するつもりで頭を小突いたのだ。面憎いわけじゃない。それが悩みを抱えていたらしく、直に母親に抱えられて帰ってしまった。 同語異義復言法
女の毀つことの出来ない姿勢に、展性の備わった神経のわたしは毀たれる。 倒装法
囁きの細やかな葉擦れ、細やかに点出された光景、濃やかに色付けされた布切れ、細やかな筆遣い、濃やかな人の表情、濃やかな女性の嬌姿、すばらしき絵だ。 倒装法
腓が好きなのに、尻を大きな突き上げた姿になってしまった。 倒装法
同室に居る自分に顧慮して、キーボードを静かに叩いて欲しい、彼に。 倒置法
おれは固陋か、いや、神経質なだけだ。気色ばんでもいいだろう、あいつがうるさいから。 倒置法
ごろたをつかんで放り投げたい、あの男に。ごろたをつかんで投げつけたい、あの男に。 倒置法
陽気な鬱と呼ばれるからこそ、彼女は蠱惑な雰囲気を纏い、艶気に溢れ、老人達から抵触されて矛盾を咎められるのだ。 撞着語法
すっきり禿げ上がった渾円な頭部から、諦観を知らない天恵の着想が滴々と落ちてくる、恰も晴れた雨雲のように。 撞着語法
言下を待たずに悪魔の天使が彼女を連れさり、我々の紐帯は散らされてしまった。 撞着語法
先生は先生だから芥子の花に囲まれていても、困却することなく、遅鈍と思えるほど低回していた。それでもわたしの衷心の敬慕は変わらない。 トートロジー
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