第22話
手で手を支え、その手が顔を支えているその顔は狡知以外の何物でもない。表情は全て偽りであり、端倪しているのも見せかけでしかなく、唾棄すべき底意は渦巻いている。短慮でしかない。そう言うと悪く批判しているように聞えるが、端然となるように窘めているのだ。 暗示的看過法
高い壁に仕切られた通りで画を描く男は、涼やかな目をしている。おそらく立ち消えることのない羨望を抱き、爽涼の気質を汚さず素志に従って生きているのだ。剛直な一面はもちろんあるだろう。筆を粗雑に扱い、モデルをぞんざいに描き、猛々しく怒鳴りつけるようなことは、とても考えられないことだ。 暗示的看過法
眼鏡から覗く疑念に染まった目から、業突張りな人物と推断しても構わないだろう。情けが馬鹿となって、痛い目に合うのは自分だから。 引喩
原色に拘泥するからそんな派手な作風になるんだよ。泣きっ面にばちんとくらう時がいつかくるぞ。 引喩
光波を丹念に調べたからこそ、地獄と南海の色調を遡源して、春は化け物、やうやう白くなり行くはげやまな調子が体現できたとわたしは思う。 引喩
鳥打帽を被り、マントを羽織って狩りへ行く出で立ちだ。向背とは無縁な純朴さと、壮麗な凛々しさを具えている。この先の向背を知りたく思うのは、遽走る自分の心に将来の展望を仮託して楽園を望むからだ。 隠喩
縦縞のニットの着る女は横たわっており、多恨な男が反身になって惰気を見せたから業腹になり、頑是無い虎のふてくされをしている。 隠喩
簾を通して差し込む横縞の影に部屋は区分され、広汎な地域の家々を暗鬱に染めて、円卓で手作業する女中も今に惑乱するか、舌を噛んで祭りに悩乱するだろう。 隠喩
荒蕪な平野に雪の花を散りばめ、蛙の卵を孕む蛇を大きくうねらせ、天の川の大木を根強く立てたから、曲がりなりにも見れるのだ。 隠喩連鎖法
剛腹なシルクハットの断想に誘発され、慎ましい鎖骨は立ち迷うことなく耐乏して、焦点の合わない眼球をぺろりと飲み込む。 隠喩連鎖法
疎林を抜ける光芒を毛嫌いし、牛の群れの女達は顔を隠して下草を走り、闌ける肢体を扇情的に姿態させ、蕩けるチーズに蒸れて淡如の慕情を哀れみ棄てる。 隠喩連鎖法
指に挟んだ煙管が鴻毛の軽さに見えて、サンデー毎日に載っていた、今すぐ止めるべき原発、という見出しを思い出し、達意を欲しいと笑ったのだ。 引用法
秋の森林浴か暁光のティータイムか知らないが、親父の入れ知恵からは断案できない。戸外での炭焼会は俗人によって興隆されており、ベストセラーになってほしい、という南さんの言葉を憎む自分は反吐が出そうになる。 引用法
少女はバケツを手に持って扉の傍に立ち、わたしはその孤影に慄然してしまい、ある本で見かけた、想像力なんだよ、という言葉が身に迫り、漆黒の直中で端麗な姿を曝け出す少女に、惻隠を以って頭を下げた。 引用法
雪の日、麦藁帽子を被る男は馬をひいて通りを歩いた。友人を転かすことばかり考えながら、馬をひく男は蒸気に煙通りを歩いた。友人に危害を加えようと企てる男は馬を転かすことで、友人は転倒すると思っていた。御者は知恵が脱漏しており、友人からの仕打ちに損耗して馬鹿になっていた。 迂言法
黒いローブに身を包んだ女達、毎日十字架に向かって祈りを捧げる女達、人の為に喜んで施しをする女達、それらの女達は丘に向かって歩き、交差する木の板に縛られた女の元へと集まる。丘のはずれに一人の女が狐疑しており、阻喪してしまい、尊信を振り捨てようと蹌踉としていた。 迂言法
スカーフを巻いて立つ女はがっしりした尻を人に見せ、濡れた水着に張りつく体を珍奇な見物にしている。昨晩犯した男との不快な関係を洗い流そうと、水に潜って散々に心を扱き混ぜたあとだった。 迂言法
極印を消そうと女達は金色に光り、段だらに登って男を抱きすくめたのだった。 詠嘆法
派手な縁飾りの帽子を被って顎をあげる人物に、良くも悪くも頽齢に差し掛かった国粋が見受けられる。なんて空々しいんだ。 詠嘆法
沽券を落そうなんて思わなかった、ああ、卒然な振る舞いだった、粗忽の極致だ、ああ、水死体のようだ、そぼ濡れた青い顔して。 詠嘆法
尻の反対側から生えた棒を見せられて、仄聞は必ずしも間違ってはいない、この人の股肱となって素地を確かなものにしようと思ってしまった。 婉曲法
女は綺麗な化粧して繁華街を歩くと、心覚えのメモを忘れていたことに気づき、心覚えのないのを痛恨に感じた。そのせいで我知らず股が緩んで湿り気を帯びた。 婉曲法
荘重な雰囲気は無く、森厳とした格式もなく、心柄がともかく良くない。天上に上る官能を思い起こさせるから、俗悪な作と称しても致し方ない。 婉曲法
車窓から顔を出して心組みを顔に表すと、気持ちが落ち着き体は弾性を強く鼓動する。 縁語
立ち木の元に座る女性の心馳せは木漏れ日の優しさ、花束を持って葉陰に立つ女性は心馳せある華やかな人、斜面に立って庭樹の手入れをする人は心馳せの利く心根の良い人。 縁語
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