第21話

初老の歯医者は治療室の中央に立ち、豪儀らしい渋っ面を真っ直ぐに向けている。午前中に豪儀な治療を行い、魚屋の女中の犬歯を豪儀に治したことを、、悪感に耐えず思い出している。 脱線法


若者は弁論を攻究する為に、毎日勉学に励んでいるが、彼にとって代償があまりにも大きかった。十代にして後頭部近くまで禿げ上がってしまった。。いくら自分の望むものを得るためとはいえ、頭髪を失っては格好のつかない生活になってしまう。 脱線法


でっぷりした課長は籐椅子に座り、壁にかかる身丈を越す姿見と対面している。損益分岐点について考究して、、材料集めもせずに悩ましく窓外のことを思い巡らす。 躊躇逡巡法


肯綮を貫かれて女性は体を寝かせる。短冊模様の影が赤裸の上に注がれ、雪白の肌理に憂鬱線を刻む。使穿。 躊躇逡巡法


巨大なアロエに身を任せようと思い、恐々近づいてみれば、昨年の百度参りは効験を残してくれていた。。 躊躇逡巡法


桃色のガウンを着た女性は膝の上で手を組み合わせ、江湖の魚の味を拙い外国語で滔々と語り続けていた。江湖は世知辛い、どちらにしても。瀬踏みして進むべきだ。 直喩


皓皓とした尻なんて言うと誤解されるかもしれないが、皓皓と光る月を思い返せば、あながち間違った形容ではないと自分では思う。皓皓とする砂漠に寝転がり、を湛えて尻は割れ目を見せている。 直喩


裸の女は下っ腹を眺める。膏肓を襲った老いが許せず、西日の射す部屋に呆然と佇立する。蒼古とした肉付きになろうが、浅ましく生きてやると誓うことになるだろう。 直喩


大山脈の山襞から囂囂たる自然の叫びが聞えるようで、とても見ておらずに目を閉じた。凄然とした荒涼の山肌から吹き降ろす風は、わたしに冷たい仕打ちをする。脊梁に染みる寒さだ。。 追加法


緑葉に透かされて差し込む光線は部屋を穏やかに輝かせるので、光彩に目を奪われた男たちは精悍な体躯を嫋々と動かし、たおやかに小首をかしげて甲高く笑い声をあげる。。 追加法


玄関の上がりかまちで話したのが嚆矢になったなんて僕は思いもしなかったから、彼女に当時の事件を聞かされてなんのことかわからなかった。色々と話を聞かせてくれたのは覚えていないけど、彼女の顎の線が綺麗でそればかり見ていた。とても明るい日だった。。 追加法


肉の弛んだ女はガスマスクを装着して、レンズの奥から不敵な斜眼で彼を見る。つい側めてしまい、傍らに置かれた棕櫚の葉に目を落した。女の好尚が理解できず、世上の好尚を把捉できないので、塑性の力が働いても彼は変化できない。。 訂正法


高唱する瞬間を捉えて驚倒した。粗放な印象受ける黒尽くめの男は、ピアノを演奏する玉葱形に髪をまとめた女を覗き込み、俗臭溢れる表情で笑っている。。 訂正法


男の肩に頭を凭せ掛けて、女性は静かに息を吐いた。子育てに困じた。家計をまわすのに困じた。。 訂正法


装飾的だから背景に混じって人格が混濁しており、彩色の華やかさに紛れて残虐性をぼかしている。虚実と実否を見分けるのは小難しく、を食べて気持ちを高進させれば、端緒を見顕すことができるだろう。 提喩


わたしは孝心を求めたりはしない。赤いタータンチェックのワンピースを着て笑うこの子がいるだけで、十二分に孝行されている。をたくさんくれるのだ。 提喩


女はハットを被ってこちらに目を寄せる。眩しいせいか眉間に幾ばくか皺を寄せているが、おそらく悪感情を抱いているのではなく、ほのかな親しみと諧謔を込めて、多情な性向を見せないようにしている。手紙のに幸甚を願うと書いた女の半面が思い出された。 提喩


紅染まる秋の木の下道を歩く修道女達が描かれ、現世から離れた霊的存在として筆致されており、巧緻な木立模様の影に卓抜な才幹を見てとれる。。 暗示的看過法

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